第七話 いざ隣町ステラへ
結局無料で手に入れた道具を持って昨夜泊まった家に一度戻り
井戸水を釜戸で沸かして煮沸消毒をしている時に、気まずげに亮平が口を開いた
「あ~、その、すまん綾乃、ちょっと手段を選らばなすぎた。金を残すことしか頭になくて、あ、でもお前をおだてて利用しようと考えていた訳でもなくて…」
「…分かっている。収入がゼロの間お金を節約したい気持ちはわかるし、値段交渉も慣れておいて損の無いことだし!銅貨で支払って身を軽くしようとしていたことも!私をか――」
そこまで言うと、綾乃は顔をしかめて一度口を閉じ、胸に手を当ててから話を続けた
「――私に言ったことは全て本心で、嘘をついている気配が無かったのは分かっている。戦闘中のみとはいえアイコンタクトで会話できるのだ、そのくらいのことは理解しているつもりだ。キミなりに今後のためを思ってとった行動だという事も、他意など無かったことも」
「あ、おう…」
「――で、冷笑とは何だ?私がいつそんなものを浮かべた」
「あ、いや同じクラスのヤツが言ってたんだよ《氷の女王》の二つ名はいつも冷たい笑みを浮かべながら不良をなぎ倒すことからついた名前だとか」
「私がそんなことをするはず無いだろ!そんなことはキミが一番よく知っているはずだ!」
「そりゃ、そうだけどよ…最近の綾乃のことはこの一ヶ月しか知らないし…」
自分でも信じていないような弱い口調でいいわけじみたことを喋る亮平
おそらく「噂っておもしれーな~」とか思って覚えていたことをふと思い出しポロっと口にしただけなのだろう。
(でも、いっしょに不良を蹴散らしたとき笑っていたと思うんだがなー、まぁ噂に聞く冷たい笑みではなかったとは思うけど)
「誰――」
「情報元は公開できない、まぁ噂としてはそんなのもあったというだけだよ」
肩をすくめるように答える亮平を、一度睨むと綾乃は無言で作業を進めた。
おそらく綾乃の頭にはその候補者の顔が浮かんでいるだろう、引っ越してきて一ヶ月の亮平の友人はまだ少ないのだ。彼の冥福を祈りながら亮平は作業を手伝う。
話しながらも作業を進めていたため、お湯を冷ましてから革袋に注いで水筒が完成し、
ついでに持ち運びによさそうな大きさの鍋を失敬して衣服と共にバッグに詰めた。
(うわ~自業自得とはいえ無言は気まずい)
――トンッ
「……はぁ、もう気にしないから。こっちに来て、私も少し冷静じゃなかったようだし」
「すまん」
「いいって言ってるんだ。私はそんなに引きずるような性格じゃない」
亮平の胸を叩き、そう言うと拳の形にした片手を頭の高さにまで上げた。
「あらためて背中は任せるゾ、相棒!」
片目を瞑って少し冗談めかした調子で言う綾乃に内心頭を下げながら、亮平も拳で答える
「おう!」
(とはいえ、さすがにこの借りはいつか返さんとな)
予定より出発が遅れたため、二人は心持足早にデュゴスの街を発った。
デュゴスの街から街道を歩き四時間、澄み渡るような青空の下どこまでも広がるような草原の中をつっきる街道を何事も無く歩く
「モンスターがいる世界だから、町の外は危険地帯かと思っていたけど何もいねーな?」
「コシヌケーの最後のセリフ、覚えているか?」
「ん~、森の中はモンスターや亜人が怖い?」
「その前だ」
「戦争中で――あ、騒がしかったから今あの街の近くにモンスターがいないのか!」
「全てのモンスターがそうである訳ではないらしいが、無関係ではないのだろう」
「んじゃ、そろそろ出てくるかもしれねえな、まってろよスライム!」
「なにか思い入れのあるモンスターなのか?」
「ゲームの序盤と言ったら定番のモンスターだぜ、たぶん道具を使えない分、城で見かけたゴブリンよりは弱いはずだ」
「そのくらいなら数が出てこなければ何とかなるな」
「数が出てきたら厄介だぜ、場合によっては10匹が融合して大きくなって強くもなるってパターンもあるからな」
「…それは、生き物なのか?」
そんな話をしながら歩いていると街道から外れた右手側、緩やかな丘の向こう側から何か音が聞こえる事に気がついた。
「お、噂をすれば早速出たか?」
「ん…まて、今何か聞こえなかったか?」
「え?」
「……悲鳴だ!」
「!?」
視線を交わすと意識を戦闘用に切り替え、二人は街道を外れ丘の上へと急いだ
「先に言っとくが、無理そうなら首根っこ引っ掴んででも逃げるからな」
それを聞いた綾乃の表情は葛藤で歪んでいたが否定の声は聞こえなかった。
二人で丘の上へとたどり着くと、一気に視界が開けた。
「野犬か!」
「…多い」
丘の下の方では白い少女一人が、20匹を超える野犬の群れの中で必死に杖を振るっている姿が見えた。
(いや、野犬に似ているだけであれもモンスターかもしれない)
「どうする?」
「助けたいッ」
綾乃は今すぐにでもとび出して行きそうな様子で即答する。
「全員無事で切り抜けるには、俺が彼らの言う亜人で有る事を隠せないぞ、それでもか」
話す間にも確実に手傷を負っていく少女を見ながら綾乃は葛藤に揺れる声を絞り出した
「頼む…!」
「はぁ、いいぜ。俺だって助けたくないわけじゃない」
綾乃はいいと言った瞬間に跳び出していった。
一歩遅れて亮平も走る。
『目覚めろ、鬼の血!』
丘の途中に荷物を置き捨て、二人は駆け下りる勢いのまま殴りこむ。
「悪いが殺さずなんて獣相手にゃ言ってらんねえ!全力で行くぞ!――スゥーー」
『ガアァァァ!』
叫ぶとすぐに咆哮を上げ、威圧感を伴った突風を叩きつける。
亮平の咆哮は距離があったため、野犬や少女に届く頃には風になってしまったが
雄叫びに驚き、身を固くする少女と野犬の元へ衝撃波で吹き飛び加速した綾乃が一足先に飛び込む
「はっ!」
一息に駆け抜け、少女の近くの野犬に掌打を叩きつけてから、白い少女と背中合わせになる
「助太刀します、彼も味方なので身を護ることに集中してください!」
「あ、ありがとうございます?」
白い少女が反射的に向けた視線の先には亜人の少年がいるのだろう。
それでも了解は得られたと判断して、綾乃は目の前の野犬から身を護ることに集中する。
一方群れの輪の外、突然背後から咆哮を叩きつけられ包囲が乱れる中、鬼と化した亮平が拳を振るう
「オラァ!」
ゴッ―――
骨の砕けるような嫌な手ごたえと共に、他を巻き込んで吹き飛ぶ野犬
「くそっ!犬も猫も好きな方なのによッ!」
眉をしかめながらも最低一撃で二匹巻き込むように殴りつける亮平
「可哀想だが、人に手を出したことを恨め!」
元の世界でも、基本人の肉の味を覚えた獣は殺さなくては不味い
そこで手を打たなければまた人を食らう可能性は高いし、最悪他のものにまで広まってしまう可能性もあるからだ。
亮平が一撃で二匹を戦闘不能にし、綾乃は殺せないまでも確実に行動不能にする、戦いは瞬く間に決着がついた。
「さて、面倒なことにならなきゃいいが」
そう言う亮平の視線の先には未だ警戒の表情を浮かべる白い少女がいた。
さて、前回のあとがきのとおりそれっぽい人を出せました。
試行錯誤している間はやっぱり出せないかも?とか
ローパーになるかも?とか
えらく変化しそうでしたが何とか宣言どおりになりました。
前回フラグブレイカーを使ったのは、始まってまだ一日しかたってないのにあの状況!数日カットする予定もあるし、移動時間も含めれば数ヶ月は冒険してもらう予定なのに、一日目からあんだけとばしまくるとか!あの調子で一ヶ月も書いたら作者が精神的に吐血するわ!
さて次回は多分隣町ステラに着く…と思います。