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第四話 内と外、静寂と怒号

木造で出来た家々が建ち並ぶ路地裏の道をひた走る影達

場所によっては火事も起きている街中を刃物を持った男達が怒号を上げながら駆け回る


「城の方は正騎士様・・・・に任せて俺たちゃ残党狩りだ、家の隅々まで探しまわれ!ただし!教会には手ぇだすな、後々面倒だからな!」

「「「オォーーー!」」」


「なんかやってる事といい見た目といい、兵士というよりは野盗っぽいやつらが居るな?」

「歴史の教科書に、兵に十分な見返りを与えられない場合、従軍の報酬として敵から奪ったものはそのまま各々の物として良い、という略奪行為を推奨する場合もあったとか…」

「う~ん、金属色そのままの鈍色の軍より、オリーブ色の軍の方が鎧に金をかけているのかと思ったんだが…城の外で暴れてるやつらは皮鎧を着けていれば上等で、鎧など着てないやつもかなりいるみたいだな、民兵とかってやつかね?」


城壁破壊の後集まってきた兵士達の目から、ギリギリで路地にとび込んで逃れた俺達は、区画整理など何の話?とでも言うような迷路じみた住宅街の真っ只中で息を整えながら聞こえてくる声に耳を済ませていた。

『鬼ノ血の覚醒』を行なっても、角さえ隠せば体格の良すぎる男で通用しそうだが、今は帽子も無いため一時的に変化を解除している。部分変化は戦闘中に切り替えられるほど早くは行なえないが、覚醒するだけならそれほど時間はかからない。奇襲を受けた場合綾乃より行動がワンテンポ遅れるだろうが、それを差し引いても休憩したかった。


「ったく、本物の刃物で斬りつけてきやがって…綾乃は良くあんなの相手に冷静に立ち回れるな?」

「私の場合は、稽古でお爺様が真剣で斬りかかって来る事もあったからな」

「あ、あれだけ溺愛してても、稽古にゃ容赦ねぇな爺さん…」


俺が問題無く敵を蹴散らせたのは、間違いなく『鬼ノ血』のおかげだろう

覚醒時の高揚感と、剣を通さぬ肉体。殴られれば痛いが殺そうとして斬りかかって来る相手の攻撃が痛い程度ですむなら良い方だろう


「…亮平、おそらくだが鬼の力を過信しない方がいい。城で出会った隊長らしき男の投げてきた剣、剣の腹に木刀を叩きつけたにもかかわらず木刀が数箇所切れていた…あれも魔法の一種だとすれば剣でキミの体を斬れる場合があるかもしれない」

「魔法と剣か…ゲームで言えば付加魔法エンチャントってやつかね。ゲームならさっさと回復魔法を覚えたいところだけど、俺らの場合はまず着替えだよな…この服じゃ目立ちすぎる」

「むぅ、私にはゲーム知識は無いが着替えというのは賛成だ、今は少しでも注目を浴びたくない。この世界の一般的な服が欲しいが…どうやって手に入れる?サイフはあるがこの世界の通貨は持ってないぞ?何より戦時中だ」

「…気は進まないが、奴ら・・と同じようにそこらの家から盗むか、死体から失敬するしかねぇかな?」

「………仕方ないか。今すぐにとなると私も他の案は浮かばない」

「傷害罪に窃盗罪、俺らも今日からフダ付きかー」

「・・・」


「おめえら、見慣れない服着てんな?」

「!?」


気の滅入る話をしていたせいか周囲への警戒が疎かになっていた

舌打ちしたい気分を抑え立ち上がると、左側に五人の野盗にしか見えない男達

そいつらの視線は自然と綾乃に集まった。


「お!妙ななりをしちゃいるが、この女高く売れそうですぜ親分」

「おぉー!すげぇスカートが短けぇな!譲ちゃん、そんな格好じゃ襲ってくれって言ってるようなもんだぜ?それとも隣の兄ちゃんを誘ってたとこか?」

「親分、若すぎやしませんか?アッシはもっと熟れた女の方が好みなんすが…」

「手前ぇの熟女好きな趣味なんざどうだっていいんだよボケ!よく見てみろ、顔の作りは異国風だが美形にゃ違ぇねえし、そこらのガリガリな村娘よりよっぽど胸がある!貴族の隠し子とでも言って売り出しゃ箔も付いて間違いなく今日の収穫の中で一番の高値になるぜ!」

「…フトモモが俺を魅惑する」


野盗ども(もはや決定!)の視線が露骨に綾乃の体を這い回る

綾乃のスカートは学園の規定に沿ったもので短すぎるようなことは無いのだが、おそらく時代が違うせいだろう野盗どもの獣欲を煽っているようだ

俺達は一度視線を交わし互いの表情を見る

野盗どもは相変わらず綾乃ばかりを見ている。


「今回、勝ち戦なのは良いが敵国が貧乏すぎてロクなもんが盗れなかったんだ、譲ちゃんをどうするか・・・・・については後で決めるとして。おう、譲ちゃん痛い目にあいたくなけりゃ――」

「――『目覚めろ!鬼ノ血』みぐるみ置いてけや!!」

「「「ぎゃーーー!化けもんだー!!!」」」


綾乃の前に一歩踏み出し、鬼化と共に恫喝すると悲鳴を上げて逃げ出すもの、腰を抜かすもの、親分を盾にしようと後に隠れるもの…唯一マシな反応をした親分も一歩あとずさって子分達にしがみつかれている


「おおおおおお、おまえら!なな、さけねぇ姿見せてないで――」


跳び上がった亮平が家の屋根を蹴り、逃げようとした一人を空から強襲

無防備な後頭部を優しく・・・はたいて気絶させる。

今の跳躍力を見て逃げられないことを悟ったのだろう

青い顔をした野盗たちは自分達を跳び越えた亮平へと視線が集中する。

親分が次の声を上げる間もなく、後ろから近づいた綾乃に意識を刈り取られた。


「いや~♪ちょうど良い時に良心が痛まないで済むやつが出てきて助かったぜ」

「私もコイツ等から奪うことに反対する気は無いが、女物が無い上に臭うな」

「あー、んじゃとりあえず全員脱がして、今着ないやつは近くの川にでも行って洗うか」

「ん?コイツ等硬貨を持っているようだ。全員分集めれば少しの額にはなるか?」


さっきまでの暗い表情など幻であったかのように身包みを剥ぐ亮平と綾乃

互いに負けず劣らず逞しい精神の持ち主のようだ。

出てきた硬貨は、銀貨18枚に銅貨378枚

二人はとりあえず、五人の中でまだしも清潔そうな服を選び、目の前にある家の中で背中合わせに着替えを始めた。


「貨幣基準が分からんからなんとも言えないが親分は結構持ってたな~」

「どうする?この世界の基本的なことを聞くために一人連れて行くか?」

「おお!?あの真面目な綾乃が誘拐発言!はやくもこの世界に毒されてる!?」

「…キミは、いくら魔法がある世界とはいえ、「異世界から来たので、ちょっとこの世界の常識教えてもらえます?」なんて頭の痛い発言をしろと言うのか?」

「まぁ、一般人に嘘をついて聞くのも気がとがめるか~。そうなるとあの中の誰が良いかね?俺としては…コシヌケーかな?」

「…誰だそれは?」

「親分は一番物知りかもしれないけど捕縛されて話をするとなるとプライドが邪魔しそう、親分を盾にしていたやつらは弱腰だけどしたたか、逃亡したやつは俺が気絶させたからいつ目覚めるか分からない、となると腰を抜かして綾乃に《防御力無効》を受けたやつが精神面と持ち運びのしやすさで一番かな?と思ったんだけど、どうだ?あの一撃なら意識が戻っても半日は動けないだろ?」

「なるほど…気になるのはこの世界の住人にも同じだけの効果時間を得られるか?ということと、さっきキミが言っていた回復魔法だな、私の攻撃を癒せるかもしれん」

「あ~確かに」

「・・・」

「・・・」

(あ~も~、いくら非常時だからといって背後で女の子が着替えてると思うと落ち着かねぇー!なんか喋ってないと間が持たん!)

「あ~とりあえず、俺は着替え終わったぞ」

「そ、そうか、もう少し待ってくれ」

(衣擦れの音が心臓に悪いぜ…)


幸い綾乃の着替えもそれほど間を空けずに終わったが、二人とも少々血行がよくなった顔を落ち着けるのに少し時間が必要だった。


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