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第二話 黒き石の部屋

強烈な光により視界を奪われ、再び見えるようになったのは十秒後か三十秒後か

過ぎた時間に確証を持てないまま辺りを見てみると、そこは壁も床も天井も黒い石で出来た部屋だった。


部屋の中にはフード付きの黒いローブの男達、顔の作りからして日本人ではなさそうだ

四角い部屋の中、角に四人の黒ずくめが立ち、目の前には金の刺繍入りの黒いローブを羽織った老人が扉を背にして立っている。

部屋の中にいる俺達の以外の五人が会話し始めた。


「人間か?」

「いや、陣から出てきたのだ、おそらく化けているのだろう」

「しかも二人…いや二匹?とは、また珍しい」

「召喚の陣が暴走しかけたときにはどうなるかと思ったが、これは良いアクシデントだ」

「…時間が無い、急ぎ《首輪》の詠唱に入る」


(なんだこりゃ、場所が、移動している?)


彼らの言葉を信じるなら今起こったことは召喚

ゲームならば良く見かけるが現実に体験するのは初めてだ

最近は妖怪を狩ってきたが、俺達は手から火が出たりするようなビックリ人間ではない

今までは、あくまで日常に妖怪が紛れ込んで来ただけだった。


(いよいよ日常ってヤツがイカレて来たか?)


皮肉げな笑みをうかべて隣を見ると、綾乃も驚きから警戒へと意識をチェンジしていた

綾乃と視線を交わし背中合わせに警戒態勢へ移行する

老人が一人喋り続けているが…これは、ひょっとして呪文だろうか?


『―――の力の片鱗を用い我はそなたと契約を交わす、そなたは我の僕なり!』


グワン――

(なっ!?)

「ガ、ギィイイア゛ア゛ア゛ア゛アアアアアアアーーーーーーーー!」


手首に熱を感じたと思った瞬間

視界が回転するかのような感覚と共に頭部を凄まじい激痛が襲った

化け物じみた悲鳴を上げる俺を驚いた顔で見た綾乃は、声を掛ける間も惜しんで即座に一番怪しい老人へと飛び掛った。

一足飛びで近づき、木刀ではなく・・・・

彼女の持つ最高の攻撃《防御力無効》の掌打を鳩尾へと叩き込む!


「はっ!」

「がっ!」


日常生活ふりょうせいばいから妖怪退治まで、彼女を支えてきた力は今回も存分に威力を発揮した

崩れ落ちる老人を見た黒ずくめ達は慌て始める


「な、なぜそいつは動ける!?」

「…まさか、暴走の影響か!」

「っく、召喚対象者は飽くまでその男ということなのか?」

「まずい!疑問は後回しだ、時間が無い、早く取り押さえろ!」


右手を向けてきた黒ずくめ達に対し、綾乃は右側にいる男に向かった

姿勢を低く一足飛びに間合いをつめ、相手の右手を左手で逸らし右肘を敵の肋骨へと叩き込む!

骨にヒビでも入ったのか、痛みに怯んだ男の左腕を掴み

捻りあげながら左右の角の男達への盾とする






一方、綾乃が老人を倒した後亮平は苦痛が薄れていくのが分かった。


(治りきっちゃいないが時間がねぇ)

『目覚めろ、鬼ノ血!』


鬼への変化と共に左右の男達が叫ぶ


『炎よ!』

『雷よ!』


最小限のスペルで最速の魔術を放つものの

亮平が突き出した両手はそれぞれの魔術を受け止めた。


(左手はちと痺れただけ、右手も軽い火傷か、なら問題ねぇな!)

『ガアアアァァァ!』


お返しとばかりの、咆哮は物理的な衝撃波を伴い男達を石壁へと叩きつける。


(まぁ咆哮これの衝撃波はオマケみたいなモンで威力なんざほぼ無いが、挨拶代わりにゃなるだろ)


「クソッ、やっぱり化けていやがったか。」

「ぐ…なんだ?あの姿は、トロールか?デーモンか?」

「つー、クソッ、やっと土壇場で儀式が成功したと思ったのに」


苦々しげに睨むもの、痛みに顔をしかめる者とさまざまだが、

部屋の中は奇妙な膠着状態へとおちいった。


(今なら会話が可能か?)


視線で綾乃に話をしてくれと頼む

俺のの意を汲んでくれた綾乃は四人の黒ずくめに声を掛けた


「すみません、今は自衛のため攻撃を行いましたが、私達はあなた方を好んで攻撃する意思はありません。私達を元の場所へ戻してくれませんか?」


綾乃の言葉に、四人は視線を交わす


「悪いが譲ちゃんはまだしも、その怪物を帰す訳にはいかない、我らには力が必要なのだ。」

「戦力は少しでも欲しい、そういう意味ではその娘も帰す訳には…それに――」

「――いや、今私達・・と言ったな?そこの怪物は…、お前は会話が可能なのか?」


仲間のセリフをぶった切った黒ずくめの一人のセリフで全員の視線が亮平へと集中する

刺激をしないように交渉を綾乃に任せていたが、喋るしかないようだ

喋れないふりをする利点も思いつかないしな


「…なんだ、俺が喋れるのがそんな不思議か?」


あからさまに、ホッとした様な顔をして話しかけてくる黒ずくめ


「いや、話せるならちょうどいい。どうだ?お前が力を貸してくれるならそっちのお譲さんは帰してやる」

「…力を貸すってのは、どういうことだ?」

「文字通りの意味だ、最近隣国に仕官した召喚術士が強力でな、下級とは言え魔物を一人で数十体も操るのだという、やつを倒すのを手伝って欲しい」


テメエらで勝手にやってろ!と叫びたくなる気分を抑えて別の事を尋ねることにする

黒ずくめ達はチラチラと倒れた老人へ視線を向けているようだ


「隣国ってのは?」

「我がデュゴス王国の隣国シェルトリー共和国だ」


念のため聞き覚えがあるかと綾乃の方を見てみるが彼女は首を振った。

さっきから嫌な予感しかしない、もしそうなら自分達には打つ手が無いことになるが

聞かないわけにはいかないだろう


(まあ、見た目が外人のこいつ等が仲間内の会話まで日本語・・・で話してくれるいわれは無いよな)

「んじゃ俺からは最後の質問だ、ここは異界か異世界・・・なのか?」

「あ、あぁそうだ、お前達が元いた世界とは別の世界・・だ」


(はぁ~、会話が通じるのは良いが、これはマズイな…従うしかないか?)




「い、いい加減は、離してくれないか?」


綾乃に腕を捻りあげられた男が青い顔で言う、どうやら肋骨が痛むらしい

綾乃が手を離し、俺がそいつを仲間達の方へ押してやる

また肋骨が痛んだらしく、すごい目で睨まれた

綾乃と小声で会話をしてみる


「どうする?さすがにこれは手に余りそうだぞ」

「そう、だね。でも私はまだ気になることがある」

「ん?」


綾乃が一歩前に出て黒ずくめ達に質問を投げかけた


「今度は私から質問があります」

「いいぞ、なんでも聞いてくれお嬢さん」


綾乃に対しては警戒心が低い、どうも綾乃が怪物ではないという事が判っているような様子だ


「最近、私達が住んでいた町で路面が発光する現象が目撃されています、あれはあなた方の仕業ですか?」

「路面が発光?そんなの魔方陣を起動すればいつだって光るだろ?全て我々の仕業かと言われてもな…」

「私達の世界では路面があのように光るなんて事はまず無いことなんです」

「ん、そうなのか?じゃあ何度か失敗したし、その時のものかな?一応道だけは繋がってたのかもしれないな」


その言葉を聞いて綾乃の表情が険しくなる


「その発光は複数回目撃されてます、私達のようにこの世界へと連れて来た人たちが他にもいるのですか?」

「へ?いや、俺らの召喚は今日が初の成功だけど…」


思わず、という感じで答える男はこれが嘘ならばなかなかに腕の立つ役者だろう


(別口か失敗の数だけ光ったのか、こちらも正確な数を把握しているわけではないからなんとも言えないか…)

「ふぅ…それで、どうやって送還するんですか?」

「ああ、それはベルドルフ老師が起きればいつでも」

「ちょっと待て、綾乃の本気の《防御力無効》を受けたやつは意識が戻っても半日は起きれないぞ?」


それを聞いたとたん、黒ずくめの男達の顔に狼狽が浮かんだ

慌てた黒ずくめの一人が何か言おうとしたときそれは起こった


ドン!!!


右側にあった唯一の出入り口の扉が吹っ飛び、緑色の何かが部屋に転がり込んできた


「トッ、トロール!?まさか、もう―――!」


黒ずくめの男の一人が裏返った声で叫んだ

飛び込んできたトロールは目の前に倒れている老人を見つけると笑みを浮かべ、ベルドルフ老師を抱えて部屋を飛び出していった。

部屋にいた他の者達には見向きもしない、肥満体型であるにもかかわらず、意外なほどの素早い動きだった。

呆気にとられた黒ずくめ達が我に返り、慌てて後を追おうと一歩踏み出した瞬間

狙ったかのように再び何かが飛び込んできて先頭の黒ずくめに食らい付いた


「ア、アースリザード!?何でこんなところにっ!」


それを見た黒ずくめ達全員が悲鳴を上げた。

頭の高さは人の腰辺りまでだが、長さは7mを超えるゴツゴツした巨大なワニだ

体が長すぎるため、部屋に体が入りきれていない

これには俺らも悲鳴を上げかけたが、注意を引いてはまずいと思いとっさに悲鳴を飲み込む


「てめえ!ジョットを離せ!」

「無理だ!やつに噛み付かれて生きてるはずが無い!最下級とは言え竜種だぞ!」


現にジョットと呼ばれた青年はアースリザードの口を境にありえない方向に人体を曲げており

その口からは赤黒い液体が流れ落ちている。


仲間の吹き出した血を浴び、喚き散らす黒ずくめ二人の後方

肋骨を痛め後に下がっていた男が、顔にかかった仲間の血をぬぐいもせずこちらを睨んでいた

いつからかは分からないが、おそらく視線の先にいるのは綾乃だろう

どうやら先の一戦が彼のプライドを傷つけたようだ。

仲間の死すら眼中に無いらしく、何事か口を動かすと姿を消した。瞬間移動か不可視化か…

それを見た俺は我に返り、小声で綾乃に声を掛けた


「とりあえず俺らも脱出するぞ、背中に乗って俺の靴を持っていてくれ」

「わ、わかった」


さすがに普段冷静な綾乃も目の前の光景には動揺を隠せないようだ

視界の端に黒ずくめの二人が部屋を遮断する障壁を張り、アースリザードの体当たりを防いでいるのが見えるが顔が真っ青だ、長くは持たないのかもしれない。

靴を脱ぎ腕部の鬼化を解いて下半身のみ完全変化させる

俺のこの鬼化は普段服が破れないように調節して変化へんげしているが、

今はそんなことを言ってられそうに無い。

綾乃を背負った俺は壁を蹴り、アースリザードの背を飛び越えて、再び壁を蹴る

この建物の作りなどわかるはずも無いが、通路をうろつくゴブリンどもの上をましらの如く跳びはね、出口を目指し突き進む。


ギャグを挿もうとしたのですが

思いついたネタが初見以降、笑えなかったんでボツにしました。

(^_^;


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