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第十五話 捜索

綾乃さん視点が主です

亮平と離れて一夜明け、太陽は高く既に時刻は昼を過ぎている。

すぐに探しに出ようと思っていたのだが、フィーリアの執務室を辞した後サラさんに


「朝食…いえ、もう昼食の時間になりますか。…とにかく食事を御召し上がりになってから、この辺りがどういう場所なのか御説明をさせて頂きます。御守りなどは、全て終わり次第お渡しします」

「そ―――ッ、…いや、すまない声を荒げそうになった。まだ冷静さが足りないようだ、…食事をお願いする」

「はい、畏まりました」


という流れで予定より出発時刻が遅くなってしまった。

もちろん事前情報は大切だし理解できぬ訳ではない、多少冷静になったつもりだったが

咄嗟とっさに出そうになった言葉で、改めて自分が本調子でないことを自覚させられた。

食事をしながら話を聞いたのだが、捜索に出られたのは結局昼過ぎになってからだった。






隠れ家を出てからトランシーバーの電源を入れた。

私は今、どこまでも続くような白くひび割れた大地を歩いている。

この付近で草がほぼ育たないのは、どうやら炎狼達がリーダーの座を巡って衝突するため焼き払われるのが原因らしい。

そんな中でも、まばらに育つ草の生命力に驚くべきだろうか?



とりあえず、一番亮平が居る可能性の高い炎狼の巣があるという方向へと向かっていると、突然前方にあった岩が小さく動いた

驚き注視すると、それは地面と同じ色の牛だった

形が少し不恰好なのは、座っているときに岩に擬態するためだろうか?

いつでも動けるようにしながら、岩のような牛を観察していたが、

それ以上動く様子がないため、刺激しないよう迂回して進むことにした。






しばらく進むと複数の足音が聞こえてきた。

音から方向を探り、意識を左前方に向けるが何も見えない

いぶかしく思いながらも、周囲には隠れられそうな場所がないためそちらを注視していると、地面から何かが複数跳び出して来た。

大きさは小柄で、人間の子供並み

肌は黒に近い深い緑

革の軽鎧を身につけて、手に棍棒や小剣を握っている

頭には一本の角


(あれは、確か城にも居た…ゴブリンというやつか)


亮平の知識によれば、道具を使うが強さそのものはさほどではないという話だ

現に城で亮平は、正面から踏み潰していた。



とはいえ私は、亮平のような鬼の体とは違う

刃物や鈍器は十分に脅威となるだろう



跳び出して来たゴブリンは4匹

先頭のゴブリンがすぐに私を見つけ「キー、キー!」と奇声を上げた

彼らなりの言葉なのかもしれないが、私には何を言っているのか解らない


(魔法による翻訳効果も万能ではないということか、それとも前提から違っているのか…)


4匹のゴブリンはなにやら色々な物を持っていたようだが、それらを捨てると武器を構えて躍りかかってきた。



右側が多いV字型で駆けて来るゴブリンを見据え

私は緩やかに前進して近づくと、先頭のゴブリンの剣の間合いの外側から一息に懐へと跳び込む

ゴブリンが慌てて剣を振ろうとするが、私はその持ち手を捕って捻ると右側のゴブリンにぶつける


(体重は見た目どおり軽いようだ)


左のゴブリンが振るう棍棒を半歩動いて時計回りに回転しながら避けると、その勢いのまま左手で必殺の掌打をがら空きの頭部へと打ち下ろす


(まずは、1匹―――ッ!?)


3匹のゴブリンの方へ視線を向けたとき、視界の左端にこちらに飛んでくる火の玉が見えた

慌てて体を地面へと投げ出し、転がりながら距離をとって飛んできた方を見ると

先ほどゴブリンが飛び出してきた辺りに、4匹とは別の格好をしたゴブリンがいた

頭に羽飾りをつけ

たすきのように肩から提げた革にも羽飾り

腰には腰ミノ

片手に杖を持つという、4匹とはあまりにかけ離れた姿だ。


(今のは魔法?だとしたら一番注意するべきはヤツということか、奇襲を行なう頭の良さもあるようだし…)


4匹は問題なく倒せるという手ごたえを感じていただけに、新たに出てきた5匹目は完全にジョーカーだ

先ほどの『火炎』は大きさもスピードもドッジボール並みだった。

避けられないことはないが、奇襲として使ってきたということは、威力が高いか最速の一手なのだろう

遠距離は完全にこちらが不利だが、刃物に背を向けてヤツに向かうのはリスクが高すぎる

とりあえず私は前衛のゴブリンを盾に立ち回ることにした。



もう一度撃ってきた遠距離からの『火炎』をかわすと、私は前衛のゴブリンABCに突撃した。

今度こそV字型で駆けて来るゴブリンに対し、同じ手で跳び込むと

接近を嫌ったゴブリンAが後ろに跳び、左右のゴブリンが跳びかかってきた

左のBが棍棒、右のCが小剣

私は右側へと再び跳び、ゴブリンCから一瞬で武器を奪うと、後ろに逃げていたゴブリンAに投げつける

こちらに跳びかかろうとしていたゴブリンAは、反応できずに顔面を斬られ怯む

近づいてゴブリンAから剣を奪い、右手で掌打を打ち込み行動不能にすると、左手の小剣でゴブリンBの追撃をいなして喉を斬り裂く

ゴブリンの盾がほぼ無くなったにもかかわらず、攻撃をしてこない羽付きゴブリンに対し違和感を感じ

破れかぶれに跳びかかってきたゴブリンCを、その勢いを利用して羽付きの方向へと投げ飛ばした瞬間、閃光が空を裂いた


(『電撃』!?あれは不味い!)


『電撃』を受けたゴブリンは生きているようだ

おそらく、仲間もろとも撃って動けなくしてから止めを刺す心算だったのだろう

いくらなんでも小規模とはいえ、雷なんてかわしようがない

私は急いでその場から逃げ出した。






日が傾き始めた頃、隠れ里に戻った私は己の無力さを噛み締めていた。

今日の捜索で手に入れた物と言えば小剣1本

亮平の手がかりは何もつかめていない

これでは、何のために出かけたのか分からないではないか

行きがけに捜索隊を編制して探してくれると言っていたため、フィーリアの許へ成果を聞きに向かった


「まだ帰ってきていない者もいますが、今のところは何も…」

「そうか…」


仕方ない、この辺りは移動手段に馬車が必要な程広いのだ

落ち込む気分を振り払い、フィーリアに話しかけた


「少し話したいことがある」

「…私もお話したいことがあります」


少し暗い調子のフィーリアの言葉に嫌な予感が首をもたげるものの


「寝室でお話します。こちらを片付けたら私も向かうので先に行っていて下さい」


という言葉に従い部屋を出る。


(彼女も落ち延びたばかりなのだ、もしこれ以上手助けは出来ないと言われたら―――)


手元にあるのは、1日分の携帯食

頼るものもなく、住む所もなくなるかもしれない

あまりの何もなさに笑いそうになった


(はぁ…、だめだな、すっかり思考がネガティブになってる)


呼吸を整え心を空にしてから、フィーリアの私室兼寝室に向かった。






フィーリアが寝室に入ると、綾乃は石の床で正座をして背筋を伸ばし、目をつむっていた。

雰囲気的に声を掛けていいものかどうか迷っていると、綾乃が目を開いた。


「そんな所で立っていないで入ってくればいい、ここの主はあなたなのだから」

「い、いえ。精神統一をしていらっしゃるようでしたので、邪魔しては悪いかと…」


言葉尻を濁すフィーリアを綾乃は優しげな目で見ていた。

その視線に気付いたフィーリアは


「昨日より落ち着かれたようですね。その顔、亮平様を見ているときの顔みたいですよ?もっと温かい視線かもしれませんが♪」

「!?」


と、そんなことを言い出した。

言葉に詰まり、何て言えば良いのか迷う様子の綾乃に笑顔を向け


「先に私の方から先に話をしますね」


と言って目をつむるとフィーリアは笑みを消した


「綾乃様申し訳ございません!」


突然頭を下げたフィーリアを前に絶句する綾乃


「ロコトから聞きました!この世界とは何の関係もないあなた方を、わが国の滅びに巻き込んでしまったこと…本当に申し訳ございません!」


フィーリアは頭を下げ続けたが、一向に綾乃の動きがないことを不審に思い顔を上げると

綾乃は仰向けに倒れていた


「あ、綾乃様!?大丈夫ですか!?」

「い、いや…。今その話題なのか!?と、…最悪ここを追い出されるかと覚悟していたので…」

「え?なぜです?」

貴女あなたも落ち延びたばかりで大変な時だろうから、いつまでも他人の世話など出来ないのではないかと…」

「まさか!命の恩人への恩を一宿一飯だけで返せるなどと思ってはおりません!」

「…」(そうだね…フィーの性格を考えればこの反応が正解だよね…)


なにか一気に疲れたかのようにぐったりとする綾乃だったが


「えっと、誤解も解けたようですので…綾乃様のお話と言うのは?」


と言う言葉で意識を切り替えた。


「話…というか、お願いがあるんだ」

「お願い、ですか?もちろん善処させては頂きますが、なにぶんお金や物は都合できない場合も…」

「いや、そうじゃない。…私に魔法を教えてもらいたい」

「…魔法、ですか?」

「あぁ、フィーが魔法を使えないのはわかっている。だけど亮平を治癒できない『祈り』では意味がないんだ。戦う力と癒す力、その可能性が有るのは魔法の分野なのだろう?なら、私は一刻も早く魔法を覚えたい」


そう言って、綾乃は今日あったことを語り始めた。




「そうですか。ゴブリンシャーマンに…」

「賭けに出れば倒せないことはないかもしれないが、そんな綱渡りで歩くには外は危険すぎる」

「たしかに、この辺りは我が国で最高の危険地帯といっても過言ではありませんからね」

「…貴女あなたへの恩で、貴女の権力を頼りにするのは筋違いかもしれないが、どうか頼む。私に魔法を教えてくれる師を紹介してほしい!」


そう言って頭を下げる綾乃に慌てたフィーリアは


「あ、頭を上げてください。ここにいる騎士は選りすぐりの実力者ばかりですから魔法を使えるもは沢山います。任務との兼ね合いで必ず時間が取れるとは限りませんが何とか探してみます」

「――ありがとう」


綾乃はそう言って再び頭を下げ、フィーリアを困らせた。






翌日から、セネアが時間を見て魔法を教えてくれることとなり

綾乃は毎朝セネアに一日の予定を聞き、予定が詰まっている時間にトランシーバーの電源を入れて捜索をすすめた。

魔法の特訓は思いのほか順調に進み、師であるセネアを驚愕させた。


「あなた…ホントに初心者ですか?」

「どうやら、実家の道場でやっていた基礎錬の一部が同じもののようだ」

「…これなら数日で私の教えることはなくなりそうですね」


そんなやり取りがかわされ、綾乃は幾つかの魔法を覚えた。

しかし、亮平は手がかりすら見つからないまま―――

5日後、彼から借りていたトランシーバーのバッテリーが切れた。


シリアスが長すぎる…

ラブコメどこ行った!


あ~、魔法の黒い箱が活躍しないまま退場してしまった…

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