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第十二話 危険域脱出

そろそろ、魔法と魔術という言葉が出てきていますが

この世界では語感により使い分けているだけで、違いなどはありません

それでは改めて本編をどうぞ

ステラの町の路地裏を右へ左へ駆け抜けると

すぐに追っ手の声は聞こえなくなった。

ある一軒の家へ入り、家の中を通り抜け裏口から出るとそこには四頭の馬と木製の箱馬車があった

馬車の点検をしていた女性が振り返りフィーリアへと一礼、一人の男へと向きを変えると


「副長、いつでも出られます」


と敬礼と共に報告した。


「ご苦労、皆手はずどおりだ」

「「「はっ!」」」


余計な口を叩くことなく、ロコトともう一人の男が周囲の確認へ向かい

二人の男が馬車を更に点検していく


この場に残っているのは副長と呼ばれた男と、馬車の点検をしていた女性、フードを被った傭兵風の男…ではなく女性だったようだ、の3人と亮平と綾乃の計五人

俺たちのほうへ視線が集まると、副長が口を開いた


「さて、君達だが…」

「ラインハルト様、彼らは私の恩人です。どうか…」

「ご安心下さいフィーリア様、彼らに危害を加えるようなまねは致しません」


フィーリアの願いに恭しく頭を垂れるラインハルト副長

ここまでくれば、予想も何もあったものではないが、亮平は気付いてないように言う


「んで?貴族のお嬢様を迎えに来た騎士様は俺らをどうするんだ?」

「ふむ?まぁ君達がそう言ってくれるならこちらも面倒がなくていいが…。それはそうとして、君達の容姿はこの国では酷く目立つ。目撃した兵士は殺しておいたが民が脅されて口を割るかもしれない、そうなると一番に目をつけられるのは目立つ容姿の君達だということになる。そこで、このまま私達と一緒に行方を眩ませた方が無難だと思うのだが、それでいいかな?」


その言葉に亮平と綾乃は視線を交わす


「すまないが、悠長にしている時間は無いんだ。すぐに決めてもらいたい」

「なら、お世話んなるよ。軍に追われて自力で逃げ切れるとは思えねぇからな」

「そうか、遅くなってしまったがフィーリア様を助けていただいたこと皆を代表して礼を言う」

「フィー…リアさんの運が良かっただけだよ」


言い直したことにフィーリアが若干拗ねるような視線を向けてきたが無視


「ではそろそろ行こうか」


辺りの様子を見に行っていた二人が戻りロコトが馬車の屋根の上へ、もう片方が業者台へ

点検していた二人組みもそれぞれ屋根の上と業者台へ分かれて乗り込んだ

俺たちは馬車の中へ右のドアから入り先頭側である右奥にラインハルト副長、右中央に亮平、右手前に綾乃

後方側である左奥に傭兵風の女性、左中央にフィーリア、左手前に点検していた女性が乗り込んだ


「よし、出発!」


副長の号令と共に馬車は動き出し、ステラの町の南門から無事に脱出

急いだ甲斐があってか、未だ手配はされていなかったようだ。




馬車に揺られること3時間

ここまで来る間、馬車の中では簡単に自己紹介が行なわれた。

傭兵風の女性がセネア、馬車を最初に点検していた女性がサラ

フィーリアは亮平たちが如何に自分を助けてくれたのか語っていた

とっさに鬼化のことを言わないようにしてもらおうかと思ったが、屋根の上にはこちらの正体を知っているロコトもいるので時間の問題かと思って、話をさえぎる様なまねはしなかった。

合流できて安心したのかフィーリアは後半舟を漕ぎはじめたのだが、馬車の揺れで熟睡はままならぬ様子だった。

馬車の中はさり気なく俺たちを警戒する視線が半分、フィーリアの身を案じる視線が半分となっていた

それと言うのも、馬車がそれなりの速さで走っているためそこそこ揺れるからだ。

ほぼ全て木でできているため速度が出ると揺れを抑えきれない

本人は大丈夫と言っているが、亮平も少し尻が痛くなってきていた。


窓の外はもはや真っ暗で馬車の明かりが唯一の光源になっていた

そんな中、業者台との仕切り窓が開く音がするとラインハルト副長がサラを向き頷いた


「フィーリア様、お休みのところ失礼します」

「え、なに!?寝てないよ?」

「フィーリアさま・・・」


居眠りしたところを注意され、起こされた学生のような反応にサラさんが脱力するがすぐに意識を切り替えると


「皆様、申し訳ありませんがもう少しすると揺れが激しくなります」

「え?もうこの辺りは道が整っていないの?先生はディゴス王国は比較的道の整備に力を入れてるって…」

「それは、その通りなのですが…とにかく注意してください」

「?」


何かあるのかと思い綾乃が窓の外に注意を向けるが、暗くてよく見えない

目を凝らすと、先程まで続いていた草原の草がまばらになってきたようには見える

それからも馬車は街道を南下し続けていたが、突然進路を東側へと変えた


「きゃっ!?」

「なんだ!?」

「っ!?」


フィーリアを筆頭に驚く俺たちの感情を置き去りに、馬車は街道をそれて草のない平原をひた走る

『風よ、足跡を消せ!ワールウィンド!』

後方では砂埃が舞い、車輪の跡と馬の足跡を消していく

突然揺れの激しくなった車内でラインハルトが頭を下げる


「君達を善意の旅人と見込んで頼む、ここから先のことは誰にも言わないでほしい」

「なるほど、こっからは街道もない地図にも載らない秘密の場所に行くって訳か」

「しかし、私達が話さなくてもいつかは誰か気付くのでは?」


確かに綾乃の言うとおりだ、亮平は顔を上げたラインハルトの表情に注目した


(緊張…?いや、これは)

「…オイ、この辺りってヤバイ所なんじゃねぇか?」

「…気付いたか、そのとおり。この辺りは炎狼の寝床の近くだ」


初耳だったのかラインハルトを除く馬車の中にいる者たち全員が息を呑んだ


「なっ!副長!?」

「姫様をそんなところに連れて行くなど聞いておりません!」


サラさんが禁句を言ってしまったため「あっ・・・」という視線がサラさんに集中した。


「あああっ!?」


遅れて自分の失言に気付いたサラさんが慌て始めるが、皆溜息をついてスルーすることにした。

秘密がばれてしまったせいかラインハルト副長が多少フランクな感じで言う


「はぁ、気が抜けてしまったが。どうだい亮平君、上手い隠れ場所だとは思わないかい?」

「居場所を知られても、おいそれとは探しにこれないってか?上手いにゃ上手いが、イカレてるだろ」

「はっはっは確かに、ウチの隊長でもなければなかなかこんなことは実行しないだろうね」

「んで、大丈夫なのか?そんなところ走って」

「馬車自体を強固にする魔法と、街道に設置されているモンスター除けの結界を強力にしたものをこの馬車に張ってはいるが…」

「が…、かよ」

「安全に通行する手段などあっては、こんなところに逃げ込む意味があるまい?」


その時再び業者台との仕切りが開いた

ラインハルトが表情を引き締め問いかける


「どうした!」

「アッシュウルフの群れです、迎撃は可能かと思われますが念のため報告を」

「ご苦労」


知らないモンスター名が出てきたので亮平はフィーリアに問いかけてみた


「アッシュウルフって?」

「昼間私を襲っていた小さい狼です。外にいる4人は全員魔術師なのでおそらく心配は要りません」


フィーリアがですよね?という顔でラインハルトを見ると


「そうですね。彼らなら大丈夫でしょう、ロコトは少し力不足ですが彼には他の役割がありますから」

「役割?」


俺が疑問の声を上げると同時に天井が2回ノックされ窓に人影が映る


「どうした!」


再びラインハルトが問いかけると、緊張を押し殺した声が返ってきた


「7時の方向、炎狼です!成りかけが3頭。おそらく魔術の光に誘われたのだと思います!」

「ご苦労、炎狼が近づく前に急ぎアッシュウルフの撃退を終えろ!」

「はっ!」


馬車の中に緊張が走る

亮平はラインハルトに問いかけた


「副長さん、成りかけってのは?」

「成りかけというのは成体未満のものだ、既に体格は同程度だが毛色の違いで成体でないことが判別できる」

「倒せるのか?」

「殺すのはマズイ、炎狼が怒り狂えばせっかくの隠れ家が孤立してしまう」

「じゃあ、どうするんだよ」

「落ち着け、ロコトが上手くやってくれることを祈ろう」


そう言って厳しい表情のまま腕を組み座るラインハルト


(手は有るが、成功するかは分からないってトコか?)

「綾乃、俺は念のため上にあがってみる」

「なら、」

「いや、お前はフィーリアを護っていてくれ。どのみちアイツの魔法は綾乃じゃ防げない」

「・・・無理はするなよ」


馬車の揺れと外で起こった爆発音が大きくなり、馬車が左右に蛇行する、

俺らのやり取りを見ていたラインハルトが声を掛けてくる


「亮平君なにか手があるのかい?」

「いや、んなもんは無いが時間稼ぎぐらいならできるかもと思ってさ」

「…すまない、よろしく頼む」


その声を背中で聞き、若干硬い表情の綾乃に


「ちょっと行って来るわ」


と言って笑いかけると鬼化してドアを開け、馬車の上へ登った。




「うをっ!?」


鬼化した亮平が上ってきたため驚いた屋根の上の二人が慌てるが


「いや敵じゃないから」


とだけ言ってガタガタと揺れる屋根の上に居座る。

周りを見渡してみるがラインハルトの命令どおりアッシュウルフの殲滅は終盤のようだ

遠くに見える3頭の炎狼を眺めながら亮平が問いかける


「んで、ロコトだっけ?なんか手があんのか?」

「ふんっ、貴様に呼び捨てにされるいわれはない」

「ロコト様ど ん な 手がご ざ い ま す でしょ~うか?」

「…気持ちが悪い、やっぱり呼び捨てでいい…」

「贅沢なヤツだなぁ~、そんなんだからお姫様の胸に見とれんだよ」

「ブフーーーーーーーーーーーーーーーーーー!み、みみみみみ見とれてなんかない!不敬罪だぞ!燃やすぞオマエ!」

「あ、やっぱ見てんだ」

「みみみみみみ見てなどいないと言ってるだろーーーーーーーーーーーー」

「うんうん、仕方ないよあの大きさじゃ、俺も視線が向かいそうになるの抑えるの大変だったし。FかGぐらいありそうだもんな」

「…なんだその、FとかGって」

「胸の大きさの単位?」

「だから不敬罪だと!」

「んで、殺さずに撃退するんだろ?」

「・・・・・・・・・はぁ、それなりに近づいたところでやつらに攻撃判定の無い幻惑の魔法を掛けて追い払うつもりだ」


なんか、既に疲労した様子のロコトが答える


「幻惑魔法?そういうのって大抵格下じゃないと効き難くないか?」

「…異世界から来たくせによく知っているな」

「あ、やっぱそうなんだ」

「炎狼に関しては、未だ有効な手段がないんだ仕方ないだろう!」


「・・・お前ってさ、俺や綾乃にもっと激しい感情を向けているもんだと思ってたんだが?」

「…ふん!オマエ達を呼び出したのは姫を護ってもらうためだ、結果的に姫が護られたのなら問題無いし、姫の恩人に私怨を向けるほど子供ではない」

「…ロコトって姫様至上主義?」

「当たり前だ、俺は姫様に全てを捧げているのだからな」

「だから胸が気になる?」

「そう・・・じゃないだろーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


ロコトを疲労させていると、徐々に炎狼が近づいてきた


「ロコト、はぁはぁ言ってないでやつらが来たぞ」

「だれのっ、はぁ、せいだと…」


ロコトは目を瞑り、心と呼吸を落ち着けると、手を炎狼の方に向けて詠唱を開始した


『光よ、泉の上を舞う蝶の如く舞い踊れ』


ロコトが目を開き敵を見据えると、炎狼の前に光り瞬く小さなものが現れた瞬間


パァン――


という破裂音と共にロコトが崩れ落ちる


「お、おい大丈夫か!」

「ぐぁ!くそっ!!ア゛――はぁはぁ、力ずくで破られた。くそっ!ここには姫様がいるのにっ!」


一瞬にして汗だくになりながら馬車の屋根に爪を立てるロコト

沸点がかなり低いが、姫を思う心に嘘はないらしい

亮平も意識を切り替え、今ロコトがやろうとしたことを思い浮かべる

オリジナルの魔術はイメージを重要視するため、術者の思い浮かべやすい言葉を呪文とする


(確かにたまにいるよな、蝶を追いかけるバカ犬って…犬?)


犬ならアレの方が有効ではないだろうか?


「ロコト、炎狼の主食ってわかるか?」

「はぁはぁ、あ゛?わかるか、そんなもの!この辺りの最強生物だぞ、食えるものには事欠かないだろうよ!」

「んじゃさ、お前は魔法の威力より器用さに優れている、ってのは合ってる?」

「ぐっ、ああ!そうだ」

「んじゃ、だいたいこん位の丸い弾む玉って魔法で作れる?」

「は?丸い玉?」

「そう、できれば~、姫様にプレゼントするような気持ちで」

「こんなときに何言ってるんだオマエ?」

「それで切り抜けられるかもしれないんだよ」

「・・・ちっ、俺の手は破れたんだ、一か八か乗ってやるよ!」

「こん位の大きさの丸い弾む玉だ、攻撃力は無くていい姫様に渡すつもりで」


ジェスチャーで人間に近いくらいの大きさのボールのイメージをロコトに伝える。

もう一人の屋根に乗っていた男は馬車の側面に降りラインハルトへ報告しているようだ

もう炎狼との距離は10mもない


『光よ、丸く飛び跳ねる玉よ、現れよ』


ロコトが抱えるように光る玉を呼び出した


「よし、それを振りかぶってワンバウンドさせて炎狼の頭上を越えるようにぶっ飛ばせ!あと、見えなくなってみ魔法は解くなよ」

「だーーー食らえ!」

「いや、当てんなよ?」


ロコトの投げた(飛ばした?)玉は注文どおりの軌道で飛んでいく

その動きに興味を引かれた炎狼が玉を追いかけて離れていった


「あ゛?ホントに上手くいったよ…」

「喜びたいが、1頭残ったなぁ…」


ボールに反応しなかった1頭だけは、相変わらずこちらを見据えていた

馬車を一口で半壊させそうな大きさの巨大狼がすぐ近くまで迫ってきた


「どうする?もう一度今のを…」

「いや、同じのは通じないだろう。やるんならお前の蝶を姫様に見せるつもりでやってみてくれ」

「さっきから、姫様姫様となんなんだ?」

「おそらくやつらはお前の敵意に反応して攻撃判定の無い術まで迎撃してきたんだ。全くそのつもりが無いものなら気をそらせるかもっ!?」


亮平が喋り終えるかどうかというタイミングで、最後の距離を加速してきた炎狼が右足を振り上げる


「くそっ!」


はるか昔、小学校低学年の時道場で習った受け流しを必死に思い出し、綾乃がやっていた姿を記憶から引きずり出して真似る


バキッ!


流せなかった力が一瞬亮平の腕の上からかかり、あまりの重圧に押しつぶされるような錯覚を受けて背筋が凍るものの、馬車の天井にヒビが入っただけで何とか流す事ができた


「はぁ、はぁ、あぶねぇ!」


攻撃を流された炎狼は一瞬動きを止めたが、再び一足飛びに近づくと今度は左足を上げた


「っく!」


今度は馬車にダメージはいかなかったが、左腕を少し爪で切られた

全神経を集中して2度3度と同じ攻防を続ける

背後から「だめだ、蝶には見向きもしない!」という声が聞こえた気がしたが、ほとんど耳に入らなかった


(次は、右か左かどっちだ?)


なにか冷たい手で心臓をつかまれるような感覚を覚えながら、次の攻撃に備えていた亮平に炎狼の口が襲い掛かる


「は?!」


思考が凍結し、体が勝手に殴り飛ばそうとするが攻撃はマズイと制動をかけ――動きを止めた亮平は体に牙が食い込む激痛と共に視界が回転した。





「報告します!最後の1体の炎狼が離れていきます、が…」


そこで綾乃の方に視線を向けた魔術師が続きを言う前に、屋根の上から乗り出し逆さまになったロコトが声を上げる


「申し訳ありません姫様、あの男が炎狼に食われました!」


綾乃とフィーリアの表情が凍りついた。


・・・あれ?

えーと、今日の予定は・・・

ステラでフィーリアと別れてしばらく町で生活、ラブコメをやりつつ今後の予定を話し合う?


・・・話が当初の予定と離れ独自のものにw



あわれ炎狼に消化された亮平は自らがスライムと化し脱出!

平原をさ迷っていると、運命の相手、スラ子とめぐり合う

次回からゲル状ファンタジー~ぽよんぽよん~が始まります


ここに書いたことってほとんど実現しないんだぜ

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