第十話 ステラ到着
圧力が消えた後もしばらくの間街道を走り続けたがどうやら追いかけてくる気はないようだ
「ぜーはー、昨日から走る機会が多すぎやしねえか?」
まだ昼食をとっていなかったので一度休憩することにした
話を聞くとフィーリアも同じ町を目指していたらしいので一緒に行くことに
最初フィーリアは気がかりなことでもあるのか、もと来た道を眺めていたが
声を掛けると寂しげに笑って首を横に振り、以降振り返ることはなかった。
表情にこそ出さなかったが何かあったのだろう
どことなく暗い雰囲気を変えるため治癒術について尋ねてみると、彼女は柔らかい笑みを浮かべて答えてくれた
①治癒術を使うには神の僕とならなくてはならない
②『神よ、彼の者に癒しの光を…』等の言葉により始まり、それは術者が祈り続ける限り癒しの効果は持続する
③浅い傷や、止血をするだけならかなり早く治せるが、酷い傷を一瞬にして治すことはできない
④死者の復活は不可能
という事がわかった。
魔法があることから期待してなかったと言えば嘘になるかもしれないが、やはり死者の復活は無理らしい
神官は神によって不可能だと云われているし、魔法使いも成し遂げたものはおらず、試行錯誤により多くの悲劇を繰り返してきたことから研究そのものを禁止しているという話だ
「禁止って誰がしてるんだ?やっぱり神様?」
「いえ、神は禁じてなどいません。ただ、「一つ一つの命の重みを、忘れないで下さい」とだけ仰ったそうです。…研究の禁止をしているのは魔術師ギルドです」
「魔術師ギルドというのは《三大ギルド》の一つの?」
「はい、冒険者ギルド、傭兵ギルド、魔術師ギルドからなる《三大ギルド》のうちの一つです。ですが…今はこの三大ギルドという名前に違和感を覚える人が多いそうです」
「ん、どゆこと?」
「冒険者ギルドなどといっても皆亜人やモンスターを恐れて街道から遠くへなど行きませんし、魔術師ギルドはいつの頃からか神秘を扱うものだからといって、貴族の紹介状がなければ入ることもできなくなってしまって…。傭兵ギルドは昨今どこでも戦の準備に明け暮れているため、一儲けできると希望者が殺到。実質傭兵ギルド以外は閑古鳥が鳴いているのが現状という話です。」
「なるほど、一極集中しているのに何が三大かってか?」
「はい、お二人はお強いようですし、お金を稼ぎたいのなら傭兵ギルドが一番いいらしいですよ?」
「うん、まあお金は稼げるに越したことはないけど…話は変わるが、ちょっと前からフィーリアは俺を恐れているようには見えないがどうしてなんだ?」
「つーん、ちゃんと呼んでください」
「は?」
「フィーリアではなくフィーと呼んでくださいと言いました」
そんなことを言いながらフィーリアは頬を膨らませる。容姿といい穏やかな雰囲気といい一見年上の女性に見えるのだが、時折むきになると途端に幼げな言動をし始める
彼女を見ていると年上なのか年下なのか迷ってしまう、まぁ容姿からして年下なんてことはありえないとは思うが…
「えっと、フィー?」
「はい♪」
まるで大輪の花のような笑顔を向けてくるフィーリア
「えっと、そ、それで俺を恐がらない理由は?」
「助けていただきましたし、お顔もしっかりと拝見いたしました。恐がる理由なんて私にはありません」
幼いかと思えば世論に流される事のない自己の基準を持っている
亮平にとって今まで周囲にいなかったタイプだけに少々戸惑いを覚える相手だ
なんとなく助けを求めるような気分で綾乃の方を向くと、乾燥肉を鍋で煮てもどしている最中だった
「ん、そろそろいいだろ。…しかしこの乾燥肉というのは石のように硬いな、あまりに硬いから表面にナイフで傷をつけて煮てみたのだが…どうかな?っと」
ちなみにナイフや火打石などは泊まった家にあったものを持ってく中で一番大きな鍋の中につっこんで来た。あの家の人には悪いことをしたな~とちょっと罪悪感にかられる亮平
「よし、完成だ。今日はゲストがいるから亮平が大鍋を使ってくれ」
三つの大きさの違う金属の器の内、煮汁に戻し乾燥肉が浮かぶ
「…なあ、綾乃。俺今初めて心の底から帰りたいって思ったよ…」
「…言うな、涙がこぼれそうになるじゃないか」
あまりにわびしい食事風景にテンションだだ下がりの二人
その様子を見て慌てたのはフィーリアだ
「お、お二人ともどうしたんですか?ご馳走になる私が言うのはおかしいのかもしれませんが、元気を出してください。暗い顔で食べると消化にもよくありませんよ?」
ちなみにフィーリアは着の身着のまま杖だけもって街道の外れをさ迷っていたらしい、よく死ななかったものだ。
亮平と綾乃は当たり前のように帰還を目指してはいたが、心のどこかではこの未知の世界を見てみたいという思いも少しはあったのだ
初日からいいイメージを持てない状況ではあったが、先程の炎狼が見せた魔法は攻撃でありながら一つの芸術のように目に焼きついていた
とはいえ、人間美味しい物を食べたいというのはなかなか捨てきれない欲求だ
しかも次にいつ食べられるかわからず、しばらくは味も素っ気もないものを食べることが多くなりそうだと思うと、さすがに暗くもなる
昨夜と今朝は質素ながらも、それなりに種類のある珍しい異世界の料理を食べたが
しかし今はコレである
しかもコレが旅人が日常的に食べる保存食なのだ。もとよりこの世界に長居する気はなかったが、危ない橋を渡るとしても限度があるため、多少遠回りでも安全策をとって帰る方法を探すつもりだった亮平としては何かしらの改善案を考えたくなるのは仕方ないことだと思う。
「綾乃、さすがにコレばかりじゃ気分が暗くなる。肉はコレでしばらく我慢するとしても他になんか作れねぇかな?」
「保存食か…日本では缶詰、干物、固いパンやビスケット、後はレトルトとかも含まれるか?」
「現状との差が大きすぎてレトルトが含まれることに違和感を覚えるな…それが有りならカップ麺もか、だけど作る手間を考えるとな~。実現可能なやつだけを考えようぜ」
ついついいつもの調子で話していた二人にフィーリアが声を掛けた
「お二人の故郷にはそんなにたくさんの保存食があるのですか?…きっと、とても寒い地方なのでしょうね」
「え?あ、うん」
「では、この辺りのことでわからないことがあったらなんでも聞いてくださいね。お力になれるかと思います」
「あ、ありがとう助かるよ」
(元の世界と繋がるような不用意な発言はしないほうがいいかな。保存食の事は後で考えればいいだろ)
「それじゃあお言葉に甘えて、教えてもらおうかな。まずは…」
気温や天気の話に始まり当たり障りのなさそうなことを話しながら、穏やかに昼食の時間は過ぎていった。
そして夕暮れ時
「ついたぞーーー!ステラの町!」
あの後は適度に休憩を挟みながら歩き、ほぼ予定どおりの時刻に到着することが出来たし
ステラの町が見えてきた頃には亮平の怪我も軽傷というくらいに自然回復していた。
ステラの町は領主の館を中心に広がる町で平原の真っ只中にあった
大きさは当然デュゴスの街に劣るが、むこうの街では見なかったこの世界の日常風景を見ることができる
ただし今は、町中を歩くオリーブ色の鎧を着ている兵士が現れると恐れるように早足に通り過ぎていくようだが…
(城で見かけた騎士より随分と軽装だな)
おそらくデュゴスの姫捜索のために身軽な兵士を派遣したのだろう
「おい、そこの銀髪の女。ちょっと止まれ」
門をくぐるとすぐにオリーブ色の鎧――シェルトリー軍の兵士3人組に呼び止められた
「我々は今、とある銀髪の女を探している。貴様はどこから来た?」
観察するような視線の兵士に対し、フィーリアは落ち着いた声で返答する
「昨日この町から出て南方の農村へ向かったのですが、途中でモンスターに襲われ必死に逃げ回っていると西の街道に出まして、そこを通りかかったこの方々に救われたのです」
フィーリアの言葉を吟味していた兵士の目が亮平と綾乃に向けられるが、格好といい顔立ちといい今は無関係だと判断したのだろう、すぐに視線を戻した。
「そうか、それは大変だったな。よし、我らが教会まで送り届けよう、戦争が終わったばかりで治安が悪化しているからな」
「え?」
係わり合いになりたくなかったのだろう、腕をつかまれたフィーリアは小さく動揺した。
この世界の教会は一国並みに力を持つ組織で各国に支部が存在する。
戦時中とはいえ信者に無体なまねをすれば教会を敵に回すも等しい行為であるため、上官に慎重すぎるほどの対応を言い渡されているはずなのだ。
「基本的に教会のものには関わるな」と
教会と敵対してでも王女を探す方針なのか、この兵士の独断専行なのかは知らないがフィーリアにとって愉快な現状ではないようだ。
視線を亮平に向けて兵士が口を開く
「貴様らも教会のものを保護してくれたこと、私からも礼を言おう。少ないがその善行に対する褒賞を与える」
そう言うと左側にいた兵士に革で出来た小さな巾着袋のようなものを用意させる、小さいがあれも財布なのだろう
(はぁ~、マジでメンドウな事になったな。育ちが良さそうだったから貴族の出かもとは思ってたけど、お姫様が銀髪となると彼女である可能性がでてくる)
遠巻きにこちらを見る人々から、「またか…」という呟きが聞こえる
(片っ端から銀髪の娘を集めてんのか?だとしたら捕らえる根拠は薄そうだが…って助ける気かよ俺、いくらなんでもリスクが高すぎるだろう)
懊悩する亮平の頭に数時間前草原で思った事がよみがえる
(せっかく助けた人間を見殺しには――か)
その事を思い出したとき、亮平は兵士が差し出してきた革の袋を横にどけていた
「…何の真似だ?」
「悪いが、褒賞なら他のものを貰うつもりなんでね」
「他のもの、だと?」
「あぁ、そのお嬢さんにこの町を案内してもらう約束なんだ。その手を離してくれないかな?」
「貴様、現状を理解してないのか?今我々に逆らうことがどういう事になるかもわからぬ阿呆なのか?」
平和な日本に住んでいたとはいえ、戦勝直後に国の兵士に逆らうのがどれだけ危険か想像できぬ訳ではないが、男が一度決めた事を自分に負けてひるがえす事ほどカッコ悪いこともないと思うのだ。
一瞬綾乃を見ると小さく笑みを返してきやがった、危ない橋渡るってのに笑うんじゃねえよ
ちなみに案内うんぬんはでまかせだ
「あんたらこそ戦後のどさくさとはいえ、無理矢理教会の人間を連れてくってのは不味かぁねーか?」
「彼女は我々が送り届けると言っているんだ」
「だったら、約束をした俺らが送り届けたって良いよな?」
言葉と共にフィーリアに顔を向けると、驚いた表情だったが頷いてくれた
「ほら、同意も取れた。今無理矢理事を運ぼうとしてるのはあんたらの方だぜ」
亮平の言葉に感情を殺して受け答えしていた兵士の視線が鋭くなる
「貴様らのような身なりの者を信用などできるわけがなかろう」
「あいたー、そりゃ今の俺らはボロボロの服だしな。だけど今信用されてんのはモンスターから助けた俺らのほうだぜ?」
正規兵が野盗のようなものより信用ならないという挑発
さすがにこの言葉は相手の怒りを買ったようだ。
「いいだろう。そんなに死にたいなら殺してやる」
腰に下げた剣を抜き放つ兵士
「おー怖っ、こんな身なりの人間に口で負けたからって、相手は武器も持ってないってのに剣を抜くってぇのは教養ある城の兵士様としてどうなんですかねぇ」
普段使わないような口調も用いてことさら挑発するように言葉を並べる
余裕ぶってはいるが鬼化してない亮平は単なる高校生の不良とそう変わらない実力しかない
人のままで剣で斬られれば死ぬだろう
(むざむざ殺られる気はねぇが鬼の状態は手加減が難しいからな、人間相手に、しかもこんな場所で使いたかねぇんだが…)
最悪の場合はためらう気はないが、使えば今後にかなりの悪影響が出る
リスクばかりでかくて嫌になる、そのうえフィーリアが姫でさえなければ彼女自身に危険は低いはずなのだ
もっとも普通に人身売買が行なわれていることを知ってしまったため確証は持てない、そうなるとフィーリアが嫌がっている限り庇う他ない
兵士二人が抜剣すると、俺たちを遠巻きにしていた輪は距離をとって大きくなった
もう一人の兵士は仲間を止めようか自分も参加するべきかと迷っているようだったため仲間にフィーリアを押し付けられていた。
2対2の状況だが決して互角ではない、緊張を表に出さないよう注意しながら対峙していると目の前の兵士が急にニタニタ笑いながら口を開いた
「では治安を乱しそうな不穏分子を発見したため処罰した、という方向で行こうか」
まるで自分が法だとでも言わんばかりのセリフに周囲の人垣が息を呑む
(うわー、なんだかコイツの独断専行のような気がしてきた)
昨日の戦と、その勝利による高揚が未だに去っていないのか、元々こんな性格なのかは知らないが嫌な相手に当たったようだ。
稚拙な文章ですみません
と、即行で謝罪したくなる気分に陥ってますw
私自身がLvUPしたあかつきには、力不足で書ききれなかった部分を足してリニューアルしたいですね
特にタイトルの異世界冒険鬼(仮)
やっと到着したもののトラブルは絶えません
そろそろバトルは一度置いておきたいですが、どうなるかな?