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第九話 炎狼

空は青く澄み渡り、太陽は頂点を過ぎて少し傾いている

30分ほど前まで静かだった草原には、今は戦いの音が響く


「はあぁぁぁーーーーーーー!」

「グルゥゥウアァーーーーー!」


鬼化した亮平が繰り出す青黒い炎を纏う拳と、炎を纏う狼の体当たりがぶつかり合い爆音が響く


「おぉおおおおおおお!?」


ゴロゴロゴロゴロッ


狼の脳天めがけて拳を繰り出したが、当たると同時に爆発し双方共にぶっ飛ばされた。


「ちょ、綾乃アレ無理そう。その子連れて街道まで戻ってくれ」


地面を転がってる最中に肌色が見えた気がしたがそれが何なのかまでは分からなかった

くそっ、俺にもっと動体視力があれば!とか普段なら思うところだが、今はマジで不味い

双方共に吹っ飛ばされたはずが、綾乃に話しかけながら体勢を戻すと、さっき受けた《風を伴う炎弾》が一つ二つと作られていく最中だった。


(体勢の立て直しも早い!遠距離攻撃の無い俺にこの距離は不利だ)


かといって前に出た時、回りこむようにカーブを描いて彼女達を狙われたら下手をすれば致命傷を受けかねない


「クソッ、今は我慢の一手かよ!」


荒々しくなる心を静めるため、大きく息を吐き改めて意識を切り替える。子供ガキの頃、山背道場で学び日課として繰り返してきた呼吸法を繰り意識を体の隅々まで広げる。

その状態で呼吸の流れに同期する様な力の流れをイメージ、両手に意識を集中すると青黒い炎が灯った。


(やっぱり、基本はこれでいいんだ)


ただ、この炎を外に出すと思うと上手くいかない

試しに一度掌の上に浮く火の玉をイメージしてみたが成功しなかった。

綾乃たちと一定の距離をあけたまま亮平たちはじりじりと後退して行く。




亮平が試行錯誤しながら狼と退治している時、その後方では手当てを終えた綾乃が狼を警戒しながら少女を抱き上げて後方へと進んでいた。


「う…わたしは――なに…」


不明瞭な言葉と共に白銀の髪の少女の目が開き、ぼんやりとした視線を空へと向けた。


「気がついたか?私の名前は綾乃、あなたの名前は?」

「わたし?わたしは――ふぃーりあ」

「わかった。ふぃーりあ、あなたの怪我で一番深いのは右腕を噛まれた傷だ。正直手持ちの薬では心もとない、後で必ず近くの町まで送るからひとまずこの丘の先にある街道へ避難していてくれないか?」


街道には特殊な石が等間隔に配置されていて、その効果によりモンスターが寄り付きにくいようになっている。

もっともこれは万能ではないらしいのだが、現状では一番の安全地帯だろう。


「ひなん?なにが――痛っ!?」


不用意に体を動かしてしまい全身の傷がいっせいに悲鳴を上げた

それがぼんやりしていたフィーリアの意識を覚醒させる事になった。


「ここは?――あ、あなたは!?は、離してください!」


先程まで警戒し睨み合っていた人物が至近距離にいることを認め、暴れるフィーリア

だが今はそんな感情の動きにまで構ってはいられない

本当は街道まで付き添っていくつもりだったが、今の彼女の感情を考えると逆効果になりかねない。フィーリアを下ろすと有無を言わせぬ口調で言う


「行って!そこを越えれば街道があるから、早く!」


怪我の痛みを感じながらも、暴れる力があるのならばひとまずは大丈夫だろうと判断した綾乃は、逃げるように指示した後亮平の許へ向かった。




先程の2発の《風を伴う炎弾》は青黒き炎を纏う拳により破壊され

改めて亮平と狼のにらみ合いが続く中、《炎弾》の数は新たに5つにまで増えていた。

壁役としてこの場を動くことの出来ない亮平は、静かに敵を観察する


(若干だが一回目より作り出す速度が遅い気がする。頭への攻撃が効果があったと思いてぇが、複数作ったことによる弊害かもしれねーし)


「亮平!彼女の方はひとまず大丈夫そうだ。倒すにせよ逃げるにせよ私が一撃をいれた方がいいだろ?」

「そうだな。はぁ~~~、こっちは丸焼きになるまで待たされるのかと冷や冷やしてたぜ」

「すまない、だがこれで…」

「あぁ!反撃開始だ!」


そう言うとアイコンタクトを交わした二人は6つ目の《風を伴う炎弾》の作製に入っている狼に向かって走り出す。

狼は作りかけの魔法を中断すると5つの炎弾を二人に向かって時間差をつけて撃ちだしてきた

それに対してこちらのやることは単純だ、両拳に青黒い炎を灯した亮平を先頭にして駆け抜ける。

"缶蹴り"のちょっと卑怯な必勝法と同じ、前のヤツを犠牲に後に続くものが敵の懐までたどり着くという力技。ひょっとしたら数は力ということを最初に知る遊びかもしれない。

飛んで来た《風を伴う炎弾》に対し、3つまでは両の拳で打ち砕いたが4つ目以降は間に合わなかった

全身で2発の直撃を受けた亮平に、炎を纏った狼の体当たりが迫る。

それに対し亮平は、姿勢を崩されないよう踏ん張り、腕によるガードさえ捨てて用意していた一撃を繰り出す

突撃してきた狼に対し、青黒い炎を灯した両手を組み合わせ、大上段から振り下ろす!


「真正面からが互角なら、ずらした角度からの一撃ならどうだ!」


再びの爆発に大きく体勢を崩されながらも、勝利を確信した亮平は笑みを浮かべる


(後は頼んだぜ!)


亮平の後ろを影の如く付いて来た綾乃は、地面に叩きつけられ炎を霧散させる狼に必殺の一撃を叩き込んだ。





「大丈夫か!?亮平!」

「お~、何とかな。っ痛てててて、はぁ、ま、これ位で済んで良かったよ。さすがこの体は丈夫に出来てる」


顔をしかめながら身を起こす亮平の服は切り裂かれ、もはやボロ布と言うのが相応しい有り様だ

綾乃は起き上がるのを手伝おうと手を差し伸べながら状態を確認する


「傷そのものは浅い様だが、火傷といい服の裂かれ具合といい見た目は酷いな――!?」

「あぁ、ま、しばらく鬼のままでいれば傷は治るだロ!?」


綾乃が差し出してくれた手を掴み、立ち上がろうとしたところで手を振り払われた

全くの想定外だった亮平は目を丸くしながら尻餅をつく


「え?ど、どうした?」

「はぇ?ナ、ナンデモナイデス」


顔を真っ赤にしながら腰の引けた状態で再び手を差し伸べてくる綾乃


(いや、行動が不審すぎるだろ)


あらためて自身の全身を見てみると、切り裂かれた隙間から見えていた。

それそのものは無事だったが、周囲まで無事などという漫画的奇跡は起こらなかったようだ

切られなかった事に安堵しつつも、今安堵するような状況ではないことを思い出し顔が引きつる


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「…見なかった方向でお願いシマス」


そんな亮平の言葉に赤い顔の綾乃は顔を伏せるように頷いた

午前中とはまた違った気まずさを感じながらも、ボロボロになった上の服を使いひとまずの体裁を整える。

そんなこんなでギクシャクとしながら立ち上がったとき、丘の上にいる少女の声が聞こえてきた


「急いで~そこを離れてくださーい、早くしないとその子の親が来てしまいます!」


「…子?」

「…親」

「…なあ綾乃、俺は今とても嫌な予感がしているんだが」

「…奇遇だな、私もだ」


引きつった顔の亮平と、こわばった顔の綾乃は視線を合わせると、どちらとも無く丘へ向かって走り始めた

気絶している狼がすぐに目覚めないことを祈りながら。




丘の上で待っていたフィーリアと合流後も走り続け、街道をステラへと突き進む

途中で気がついたのだがボロボロだったフィーリアの傷は、この短時間でかなり治っているようだった

フィーリアがペースについていけなくなるまで走り続けてから、戦いの場を遠くに見ながらひとまずの休憩になった。


「えーと、とりあえず生きてて良かった。俺の名前は武宮亮平、亮平と呼んでくれ」

「私も改めて名乗っておこうか、山城綾乃だ綾乃でいい」

「あ、はいリョウヘイ様とアヤノ様ですね。危ないところを助けていただいてありがとうございます。私はフィーリアと申します、フィーとおよび下さい」

「早速で悪いけど傷は大丈夫なのか?」

「はい、右腕はまだ途中ですが。私は治癒術が使えるので…あ、あの、リョウヘイ様の傷の方が酷いようですし癒して差し上げたいのですが…」


どうやら誤解も解けたようで、彼女から見れば亜人であるはずの亮平の身も案じてくれた。


「お、そりゃ助かる。回復魔法か~どんな感じなんだろうな」

「えっと、私は神官であって魔法使いではないのですが…」

「どう違うのだ?」

「魔法使いは大気に満ちるマナというものを使い術を行使するらしいのですが、神官は神の僕となり神より与えられた力で奇跡を成すのです」

「分かったような、分からないような…」

「すみません。私は神官なので魔法使いの事には詳しくないのです、神に与えられた力に関してならもう少し説明も出来るのですが…」

「あ~、片方だけじゃ違いなんか分からんか。まぁいいやとにかくやってみてくれ、回復――じゃなくて治癒術は初体験なんだ、どんなもんか見てみたい」

「わかりました。『神よ、彼の者に癒しの光を…』」


フィーリアは亮平の隣に立つと手を傷に向けながら祈るように言葉を紡ぐ

手から出た暖かな光が傷へと伸びる


「お~暖かい光が…ん?なんかパチパチする…いたっ!痛い!?いたたたた」

「え?え?そ、そんなはずは…」


フィーリアは狼狽して術を中止した


「な、なんで?痛みなんて起こるはず無いのに…」


試しに自分の腕に再び治癒術をかけるフィーリア


「痛くない…治癒術の失敗じゃ…ない?」


フィーリアの目が鬼化したままの亮平の額に生えた角を見つめる

フィーリアは先程まで亜人に対する特別な感情を見せなかったが、世間一般が見せる亜人への感情を知らぬわけではないだろう

ひそかに表情を硬くする綾乃には気付かず、呆然とした面持ちで言葉を紡ぐ


「神の癒しが効かない?――いえ、効かないどころか痛みを伴う…神の力が相手を傷つける――神の…敵?」


フィーリアは呆然とした表情のまま戸惑う亮平の両頬に手を添えて更に近づきじっと見つめる


「…あなたが敵?――そんなはずない、こんな優しい目をした人がそんなはずない!」

「え?いや、最近目つきが悪いとか言われてんだけど…」


なんとなく反論してしまう亮平の言葉を無視して続ける


「リョウヘイ様、私と共に総本山へ行ってください!」

「え、ええっ!?」

「神に直接尋ねてみましょう、こんなのおかしいです!」

「え、ちょっ、俺が言うのもなんだけど信仰とかそういう系統の人がそんな簡単に疑問もって良いの?ってか大丈夫なのか!?」

「良いんです!ウチの神様は女の子に甘いんです!」

「別の意味で大丈夫か!?」


なんだかよくわからなくなりつつある問答をしていると遠くから遠吠えが聞こえてきた。

その声に3人ともはっとなり先程までいた方向をうかがう


「成体の大きさを見れば一目であなた方が戦っていたのが炎狼の子供だとわかると思いますが、今の子を傷つけられた親に近づくのは自殺行為でしょう。個体のクラスは|中級とはいえ群れで活動するため、その脅威は上級のモンスターに匹敵するといいます…」

「あ、アレより強いやつが群れでって…」

「はい…商隊などが空腹の炎狼に遭遇すれば護衛ごと壊滅は免れない、そのことから付いた名前が《平原の悪夢》――」


ゾッ――


その言葉を聞くと同時に亮平の背筋が凍りついたかのように強い冷気を感じた


(変だ…)


語られる内容は確かに恐ろしげだが、商隊の壊滅など経験したことのない自分がこんなにも恐怖を感じるのはおかしい・・・・

見れば綾乃も顔を青ざめさせている

なんとなく・・・・・もと来た方に視線を向ける


「――視られてる!?」


何らかの力によるものなのか、純粋に狼の嗅覚の成せる技か、こちらを窺がう強大な気配を感じた

敵の姿さえ見えないのに、感じる強烈な圧力によりはっきりと理解させられる

勝てない・・・・


「冗談じゃねぇ!!」


男として敵の姿さえ見ないまま逃げ出すことに抵抗感を覚えないわけではないが

そんなもののために彼女達を危険にさらす気など亮平にはひとかけらもない

すぐさま両脇に彼女達を抱えると、鬼の力を使い全力を振り絞ってステラの町に向かい駆け出した。


走ってばかりですね主人公

平和な日本にちょっとした非日常が加わった程度の

ぬるい世界から来たので仕方ないのです。


基本的な強さを書いておきますか

一対一なら

ザコモンスター=村人<一般兵=傭兵<騎士=強者=下級モンスター<国で10指に入る達人=中級モンスター<上級モンスター

多少の差異はあるものの基本はこんな感じです。


やっとステラへ到着します。

え?ステラって何かって?隣町ですよ隣町


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