第一話 これでも世界は平和だった
ギャグ、シリアス、恋愛と色々つめようとした作品です。
時々改良していくような、つたない文章なのでどうかご容赦を…。
夜の住宅街を駆け抜ける者たちがいる
前方を行くのは火のついた輪、後方を行くは高校生ぐらいの男
はたから見れば一体何をしているのかと首を傾げる人がいただろう
もしかしたら男が火のついたタイヤを転がして遊んでいるアブナイ奴に見えるかもしれないが
当の男が聞いたら顔を引きつらせて心外だと言うだろう
(くそっ、車輪だけあってはえーな!)
何とか離されないように全力で追いかける
住宅街の角を曲がり続けて既に1km以上走っているかもしれない
男は、片手に持った黒い箱に声を掛ける
「っし!目標、予定のポイントに向けて移動中、あと5秒ほどで着く」
「――ザッ、了解」
黒い箱からは女性の声が聞こえた。
火のついた車輪が十字路に差し掛かった瞬間、角から人影が飛び出し手に持った木刀を叩きつけた!
ガッ―――
その衝突で両者、程度の差はあれ体勢を崩したところに男が追いつく
『目覚めろ、鬼ノ血!』
瞬く間に男の体が膨れ上がり、頭から2本の角が生える
鬼と化した男は走ってきた勢いのまま豪腕を振り下ろした。
「ふ~、あー疲れた~」
鬼の姿から人の姿へと戻った俺は住宅街の壁に背中をつけ呼吸を整える
俺の名前は武宮亮平、中肉中背で若干目つきは悪いが、はっきり言ってどこにで
もいるような高校生男子…だったはずだ、約1週間前までは…
「追い込み役ご苦労様」
木刀を持った女は、ねぎらいの言葉と共にスポーツドリンクを差し出してくれた
「おっ、サンキュー助かるわ~」
目の前の女は山城綾乃、1ヶ月ほど前に再開した幼馴染だ
まぁ、幼馴染といっても10年近く会っていなかったが、この1ヶ月で大分打ち解けることができた。
黒髪、黒目、髪はロングで前に流した毛先がほんの少し内側にカーブを描く
実家が古武術の道場ゆえか、背筋はぴんっとのび凛とした雰囲気を持ちスタイルもよく、胸もそこそこ
再会したときは余りの美少女っぷりに開いた口が塞がらなかったが
一ヶ月もコンビ組んでればさすがに慣れる
(そう、慣れた。だから今鼓動が早いのは走った後だからだ)
誰に聞かせるでもないが、いいわけじみた言葉を心の内でつぶやきながら気持ちを切り替え
薄れ消えゆく火のついた車輪へ視線を移す
火のついた車輪――火車、妖怪である。
ほんの少し前までは妖怪が実在するなんて俺は思ってもみなかったし
自分が鬼の血を引いているなんてことも知らなかった。
それとなく両親に尋ねてみたが、芳しい反応は返ってこなかったので多分知らないのだろう
まぁ、とぼけている可能性もないではないが…
この街では3週間ほど前から、原因不明の怪異が発生している
とりあえず今回倒した火車で放火事件は終わりをつげる筈だが怪異自体が終わるとは思えない
俺は肩を並べて帰路につきつつ、綾乃にそのことを尋ねてみた
「…なんともいえないな、噂で聞いた光る地面の話、あれも火車の仕業なら今聞く限りの噂話はほぼ片付けたはず…やはり原因を見つけないことには解決しないのかもしれん」
「はぁ~、高校生ライフがこんなに破天荒なものになるなんて想像もしてなかったぜ」
「それはお互い様だ、キミと再会してからずっと私だって思いもよらない事だらけだよ」
「うっそだ~、最初の頃の不良をぶっ飛ばしてたのは日常茶飯事だろ」
「…私は文武両道を志し、日々鍛錬に励んでいるので暴力事件を起こしている暇などとてもありません」
俺はすまし顔をして歩く綾乃の横顔を、半眼で睨みつけていたが数秒後二人そろって吹きだした
「綾乃、お前が強いのは分かっているけどアッチコッチで恨みを買うのはやめてくれ、さすがにあんな思いは何度もしたくない」
「校舎裏に呼び出されて十八人に囲まれたときのことか?本来五十三人に囲まれてやつらの溜まり場に連れて行かれるところだったんだ、一度に戦う数を十八人にまで減らした頭脳プレーを褒めてくれ」
「褒めれるか!その前に恨みを買うんじゃねぇよ!」
「ま、まぁ確かに、日々の積み重ねがあそこまで大事に成るなんて私も予想外だったが…あ~、継続は力なりという言葉のいい例だと思わない?」
「ポジティブすぎるわ!しかも絶対いい例ではない!」
さすがに綾乃も自分の口にした事を本気で言っている訳ではないらしく、気まずげに視線を明後日の方へと向けている
(まったく、あの頃はまだ鬼の力も使えんかったのに、よくもまあ二人だけで切り抜けられたもんだ)
まあ、鬼の力など本気で振るえば一撃で重症間違いないと思うが
再会してからというもの、綾乃に振り回されっぱなしだ
が、鬼の血など引いている時点で妖怪関連は無縁とはいかないのかもしれない
(ほんと、何でこんな事になったんだか…)
夜空に月を探しながら、そんなことを考えつつ歩いていると綾乃の声が聞こえた
「そう、だね。キミにはとてもお世話になってる」
「あん?別に恩に着せるために思い出させたわけじゃねぇよ」
「そうだろうけど、一度お礼を言っておいたほうが良いかと思って」
「ん、あー気にすんなよ。友人だろ俺ら」
改まって言われるとなんとも居心地の悪い、背骨を走る感覚に従うとおかしな踊りを披露してしまいそうだ
「いや、考えてみたらいつの間にか有耶無耶になってしまって、いつの間にか昔のようにキミが隣にいるのが当たり前だと思っていた」
「だ~、気にスンナ」
感覚急上昇、コイツは俺を躍らせたいのか!しかめっ面になるのが抑えられん
しかし、綾乃は立ち止まって手を後で組み、更に追い討ちをかける
「この一ヶ月色々と助けてくれてありがとう、キミと再会して、またこんなに仲良くなれたことが私はとても嬉しい」
(ちょっと待てその顔は反則だ)
本当に嬉しそうに微笑むその姿に鼓動が早くなるのを抑えられない
照れくさくてまともに見返すことが出来ず再び夜空に視線を向ける
(これで後ろ手に持っているのが木刀でなければ一発ノックアウトだったかもしれない)
幼少期ボッコボコにされた記憶があるだけに、今の姿にときめくなど不覚としか言いようがない
そんな時、それが視界に入った
「紅い?」
夜空にある月が見たこともないほど鮮やかに紅く輝いていた
驚きに動きを止める俺に向かって綾乃が叫ぶ
「亮平!足元!」
戦闘中のような警告じみたアヤメの声に足元を見ると地面が輝いている
「これは、魔方陣!?」
西洋の魔術の知識などないが、足元に広がるモノはそうとしか言いようがなかった
あっという間に光度が上がり、強烈な光の本流の中に俺たちは飲み込まれた。
とりあえず始まりました
温かい眼差しで見守ってやってください
(^_^>