朝の恒例行事。
もう一度。
※ ネタ的なものですが、「男性同士の恋とか愛(所謂、BL)」や「血縁者同士のんふふ(つまりは、近親相姦)」なものが出てきます。例えネタでもNGだという方は、回れ右!
俺の通う学校には〝制服〟というものがない。こういう表現をすると誤解が生まれそうだが、式典などの時を除いて制服を着る必要がないという意味では大差ないだろう。
だからいつもは思い思いの格好をした生徒たちを見ることが出来る。
とはいえ、学生であるからあまりにも不適切な格好をしてくることは禁止されている。そして高校生という一種の特異な存在もあってか、どことなく制服といった雰囲気の格好をしてくる生徒は少なくない。
男子生徒であるなら黒色などのスラックスにシャツを合わせ、女子生徒ならプリーツスカートにシャツに思い思いのリボンを合わせるといった具合に。
中には全く関係のない格好をしてくる者も稀にいるが、大半はそんなもの。仲良しグループごとに格好に共通点があったりと、見ている分には面白かったりする。
前置きが長くなったが、つまりそんな訳でどんな格好をしても普段は問題ない。
だから姿見に映る、グレーを基調にしたチェック地のスラックスに淡いグレーのシャツ、そして濃紺のタイを締め薄手のニットを着た俺は、全く問題ないのだということだ。
だから余計に反論できない。むしろあつらえたかの様に似合ってるというのも反論出来ない理由のひとつ。
毎朝のことながら、違和感がなさ過ぎて涙が出そうだ。むしろ出ればいいのに。というか、出ろ。
だけど悲しいことに、この程度じゃ涙は出ない。慣れって怖い。
「ゆぅちゃん、かっこいぃ~」
無表情に鏡の中の自分を見つめる俺の隣で、毎朝の恒例となった語尾を延ばした甘ったる賞賛の声があがる。
これが俺が好きでもない格好をしている元凶。
良く聞かれるが、正真正銘、俺の血の繋がった実兄、栄貴。ついでに、本名。これもなぜか良く聞かれる。
「そのアンニュイな憂い顔も素敵だけどぉ、幼さを残した絶妙な雰囲気がもうっ最高っ。惚れ直しちゃう。
なのに、ゆぅちゃんってば……」
そして恒例とばかりによくわからない賞賛をしたかと思えば、盛大なため息をついてくれた。
俺とこのアホ兄は似ていない。
童顔で女顔な、母に似た雰囲気のアホ兄。
そのぽやっとして見える雰囲気も、どこかなよっとして思える身体つきも、更に言えば表に出ているその乙女全開な思考や感覚も。
その全てが母に瓜二つ。
対する俺はというと、父似。それも若い頃の父に瓜二つだそうだ。
貴公子然としているといわれる雰囲気や、合気道をやっているためにか同年代に比べると肉のない精悍と称される身体つきも、ついでに言えばさばさばしていると言われるこの思考も。
両親を良く知り俺らを良く知る人に言わせると、中身は逆だと言うが。
それはともかく、いつもの如く乙女思考で悲劇のヒロインのようになったアホ兄が目尻に涙を浮かべて悲しむ様を呆れたように眺める。
思春期の乙女のようにアホ兄は些細なことで落ち込む……かと思えば、ひとりでに浮上する。
放っておくのが一番だ。
「どうしてゆぅちゃんは男の子じゃないんだろね。僕の理想のタイプなのに」
案の定勝手に浮上したアホ兄は、俺を見つめて悩ましげにため息をついた。
ああ、そうだ。
こんなナリで俺などという一人称を使ってはいるが、俺は紛れもなく女だ。
かろうじて中性的と呼ばれる部類にはいるから、女装しても目も当てられないというほどじゃない。自然と女装という表現になってしまうほど、男装が身についちゃいるが。
それも全部、このアホ兄のせいだ。
「ゆぅちゃんが男の子だったら僕、絶対にものにするのになぁ」
このアホ兄には、俺には到底理解出来ない嗜好――いや、性癖がある。
この、色々間違ってるだろと思わずツッコミたくなる発言もその一端で、ここで間違っても「いや、兄妹だから」とか「いやいや、そもそもお前も男だろ」と言ったツッコミをいれちゃいけない。精神的ダメージが大きすぎる。
過去、俺は言って後悔した。
言わなきゃよかったと、今でもその時のことを夢に見てはうなされる。
当時の俺は自分で言うのもアレだが、純粋で無垢だった。
二次成長が始まる以前の小学六年生当時の俺は、男子とサッカーやらバスケやら野球やらをやるのが楽しくて、明るい内は外にいることが多かった。
対照的にアホ兄はインドア派だったらしく、母が集めた漫画やら小説やらに熱中していた。容姿の件もあって、性別間違えて生まれてきたんじゃないかって言われるほどに。
俺もアホ兄も気にしちゃいなかったが。
そんなある日のこと。アホ兄が「ゆぅちゃんが男の子だったら~」発言をしてくれたわけだ。当然俺は意味が理解出来なくて、「兄妹だ」「そもそもお前も男だろ」と言ったわけだ。
そこでウチのアホ兄は極上スマイルを浮べ、俺の首に腕を回して抱きつきながら、こうのたまってくれたのだ。
――「ゆぅちゃん、世の中には男の人しか愛せないっていう性癖の人もいるんだよ。」
兄妹とはいえ似ていない俺ら。
その上、当時はズボンを穿いていても間違えられるほどの美少女だったアホ兄。思わずどきまぎしながらアホ兄の主張を聞く。
今思えば、突き飛ばして殴り飛ばして蹴り付ければ良かったと心底思う。
が、この時の俺は前述通り純真で無垢でそんなことは到底無理で、更に言うならアホ兄の嗜好はまともだと思っていた。
――「それにね、血縁くらいなんだっていうの? どうせヤったところで子供も出来やしないんだから、平気平気。むしろ、血の繋がった兄弟でとか……燃えるよね。」
しかし、俺の耳元で囁くようにのたまってくれた後半のそれ。
金縛りにあったように身体の動かない俺にくすくすと笑ったかと思うと、身体を離し俺の頬に手をあて、そして俺の眼を覗き込むようにこう言った。
――「ゆぅちゃん、自分の性癖に疑問を持ったりしてない? 自分は男の子なのにって、思ったことない?」
笑顔なのに、なのに俺には……熊とかライオンとか、その手の肉食獣に追い詰められている気になった。
背筋に冷たい汗が伝って、命の危機を覚えたことはしっかり覚えてる。
必死に首を横に振った俺に、アホ兄は何でもなかったかのような表情をけろりと浮かべた。
そしてそれまでの妖しい雰囲気など微塵も感じさせずに俺から離れ、いつもするように女の子のように小首を傾げた。
――「じゃあ、予約。もしゆぅちゃんが男の子になった時は、ハジメテを僕に頂戴ね。」
なんでもないことのように言われたそれ。
真意を尋ねるより先に母に呼ばれ問うことは出来なかったが、怖くて聞こうという気には今でもなってない。
あれからアホ兄があんな風になることはなかったから夢なんじゃないかって思うこともあるが、それでも夢と信じきれるはずもなく。
でもって、少しでも俺が女であると主張するように気を使うようにしてる。それが実になってるかはあやしいが。
「あ、ゆぅちゃん、タイが曲がってるよ」
俺と同じ格好をしたアホ兄が俺に手を伸ばしタイを整える。
俺を〝理想の殿方〟だと言い切るアホ兄は、俺の外見を保つために恐ろしく気を使っている。衣服は当然のこと、言動や仕草、果てはコロンやシャンプーまで。
その通りにしなかったからどうなるわけでもないが、しないと鬱陶しいからその通りにしてあげているのが現状。
それが俺が女らしくなっていない原因でもある気がするが、深く考えないようにしている。気にしたら負けな気がしている。
「うふふっ、今日も僕のゆぅちゃんは完璧だね」
満足がいったらしいアホ兄は、いつものように甘ったるい笑みを浮かべて笑った。
女にしては高い俺と、成長前のアホ兄の身長はほぼ同じ。
似てないこともあってか、学校でも俺らが兄妹だと知らない人は多い。俺が女だと知ってる人はもっと少ないに違いない。
そんなわけだから、とても「兄妹」に見えない俺らを「恋人」だと見る。
親しくなって俺が女だと知るとまず驚き、そして血の繋がった兄妹だと知ると――兄の過剰な愛情表現にドン引きする。一部の人は微笑ましいと、なぜか生暖かい視線を向けてくれるが。
兎にも角にも、俺の一日は迷惑極まりないアホ兄との濃い時間から始まるのだ。
えっと、ごめんなさい。すみません。申し訳ありません。
一応の補足というか、いいわけですが、
兄は本気でゆぅちゃんとそういう関係になりたいわけではありません。
真性のドがつくサドなだけです。母親の蔵書に薔薇とか耽美とかのソレがありまして、それでからかったら楽しいかなぁ、なんて思ったらその怯えっぷりがツボにはまったという。
ついでに、悪い虫がつかないようにべったりくっついているという。
中篇程度の作品のプロローグ用に書いたものを微修正したので、ぶつ切り感満載ですね。
が、続きません。
奇人変人変態阿呆馬鹿に疲れました。私のキャパシティを超えてました。
これに更に、男嫌いの女装男子や頭花畑の妖精乙女を絡ませるのは無理でした。




