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これでいいのだ  作者: こたつぬま


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2/2

ラブデス

若葉が亡くなったと聞いてボクは半日ほどイスから立ち上がれなかった。

大好きだった。

人妻でなければまちがいなくアタックしていた。

彼女はボクのマンガをいつも最高だとほめてくれた。

葬儀で薄汚い金の亡者どもが彼女の愛娘を金儲けに利用しようと企んでいたのでボクが引き取ることにする。

彩葉もボクといっしょに暮らしたいと言った。

彩葉との共同生活がはじまる。

門扉の前で彩葉を振り返る。

「きょうからここがきみの家だよ」

彩葉は目を輝かせた。

「すご〜い!お城みたい!」

お気に召してくれたようでよかった。

ピカピカに掃除した玄関を上る。

リビングにはリボンを首に巻いたウサギのぬいぐるみやマイセンの天使を置いてる。

あまり物を置かないようにしてる。

モデルルームみたいな部屋が理想だ。

気に入ったら購入してしばらくしたら売り払う。

スケッチしたり写真に撮ってデータ化したりして物を少なくする生活をしていた。

いくら家が広くてもものが増えれば狭くなるし風通しが悪くなる。

病弱なボクにはホコリやダニは天敵だ。

目を輝かせた彩葉は大階段の上に飾られた美女の絵に注目する。

「ママの絵だ!好きだったの?」

「うん」

「わたしといっしょ♩」

彩葉の笑顔は若葉に似ていた。

胸がキュンとなる。

彩葉は両親を亡くした悲しみをまぎらせるためにずっとボクにくっついてまわり面白い話をして!とせがみつづけた。

他人としゃべるのは取材以外では好きじゃないけど好きな女の子に似てる美少女だからけっこう楽しい。だれでもそうだろうけど好きな女の子としゃべるのは好きだ。

彩葉は無類のおしゃべり好きで疲れることなく何時間でもおしゃべりを続けた。

おしゃべりすればするほど脳が活性化するのだろう。

もともと女性の脳はおしゃべりが好きなようにできてる。

彩葉は女性のなかでもとくにおしゃべり好きな個体だと思うがね。

おかげで話がつきないように新しい知識を毎日仕入れなきゃいけなくなった。

それはそれで知識欲が満たされるしちょうどいい。

マンガにも使える。

彼女が学校に行ってる間に知識を仕入れ帰ってきたらおしゃべりしながらマンガを描いた。

料理を含めた家事一切は料理人とメイドを雇って行ってもらう。

おしゃべりに夢中になった彼女はたまに学校を休むこともあったけど学校の授業よりボクの話のほうが1億倍おもしろいんだから仕方ない。

彩葉は見ていて飽きなかった。

彼女はギャグマンガの主人公のようにテンションが高い。

よく笑う。あちこち動き回る。おてんばだ。

運動させるために公園によく行くけど、まさかこのボクに子供と手をつなぐ未来があったなんて想像だにしなかった。ボクは子ども嫌いだ。

でもブッダの教えに従いだれの子でも可愛がるようにはしてる。

そういう意味では自分の子供だけは市役所に入れたいと願ってる母親たちよりは立派だ。

博愛であり平等だからね。

敬虔な仏教徒であるボクは戒律に縛られていた。

この苦しみは信仰心の強い者でないとわからないだろう。

現世は魂の修行の場というから魂の修行だと考えている。

子どもは疲れることを知らないので公園でいっしょに遊んでいると貧血のボクはフラフラになる。

夕食後、彩葉といつものようにおしゃべりをしていてふと閃いた。

この子にボクの持つ知識の全てを与えたらどうだ?

おしゃべりが大好きで一晩中だってしゃべり続ける。

おまけに記憶力が抜群にいい。

陰キャのクラスの5軍だったボクにはできない何かができるんじゃないか?

彼女は学校でも人気者で毎日ラブレターでカバンがパンパンだ。

間違いなく一軍である。

本来、ボクと無縁の人種だ。

ボクは自分の知ってるあらゆる知識を彼女に詰め込みはじめる。

正義とはなにか?についても叩き込む。

外国語もマナーも完璧に仕込んだ。

ジョークも教えた。もともとユーモアのセンスはあるから飲み込みが早い。

すぐに自分でオリジナルジョークも考えられるようになった。

これで将来、総理大臣になった時、各国の首脳会談で笑いが絶えないだろう。

彩葉が11才の時にアイドル活動をしたいというので芸能事務所を設立しマネージャーとボディーガードをつけた。

彼女の魅力なら既存のアイドルグループを受験させるよりソロデビューさせたほうが良いと判断する。

思惑通りグループ全盛時代にソロアイドルは珍しいという差別化ができてあっという間にトップアイドルに登り詰めた。

さすがボクの天使だ。

キラキラ輝く彼女の成長を1番間近で見ることができて最高に幸せな毎日だった。

いつだったか恋について彩葉と話したことがある。

年頃の女の子は恋バナで盛り上がるというから振ってみた。

「好きな人の前に立つと体温が上がるんだ。早口になって変な言葉を口走る。身だしなみにも気を使うようになる」

彩葉は首を傾げる。

「そういう気持ちになったことはないなぁ。学校の先生のほうが緊張しない?」

恋をまだ知らない少女らしいかわいい答えだ。

「好きな人に喜んで欲しくてプレゼントを用意したり笑って欲しくておもしろい話をたくさん用意するようになる」

「じゃあ、ヤミーはわたしに恋してるんだね!」

彩葉の言葉におどろく。

言われてみればよくプレゼントしたりおもしろい話を仕入れている。

ずっと愛だと思っていた。

ボクは笑みをこぼす。

「そうだよ」

「うれしい♩」

彩葉の太陽のように輝く笑顔に心を奪われてはじめてときめきを覚えた。

彩葉が14才の時、ボクの体は病魔に冒されてしまう。

うちは短命の家系でボクは生まれつき免疫力が弱い。

ただの流行病が不治の病に悪化してしまったのだ。

自分の余命があとわずかだとわかっていたが、地を這ってでもボクにはやらなければならないことがあった。

秘密の研究を完成させないといけない。

ボクの代表作は科学を題材にした少年マンガだ。

科学について世界中の優れた科学者に取材して熱心に勉強した。

マンガに登場させる科学アイテムが実際に作れるかどうか試すための実験室を地下に持っている。

ここ3年ほどマンガ制作の合間を縫って秘密の研究に没頭していた。

彩葉には課題を与えてほかの実験をさせていたので彼女もなんの実験か知らない。

もう階段を登り降りする体力さえなくなってきたので実験室にベッドを持ち込んで研究を続ける。

いよいよ寿命が尽きるという段になってついに研究が完成した。

執念が実ったんだ。

ボクはナースコールで彩葉を呼び寄せベッドに仰向けのまま声をかける。

「・・・え・・・栄養ドリンク・・・薬も」

「あい」

彩葉はコップに栄養ドリンクを移して粉薬をマドラーで混ぜて飲ませてくれる。

ぷはっ。

全身の熱と痛みが軽減した。

これで3分は元気でいられる。

「顕微鏡をのぞいてごらん」

彩葉は実験台の顕微鏡を覗き込んだ。

「わぁハート型の結晶だ♩」

「寄生虫だよ。寄生虫の特徴は覚えてる?」

「うん。覚えてる。寄生虫はマインドコントロールの達人なんだよね。

トキソプラズマはネズミに神経毒を注入して猫に対する恐怖心をなくさせて猫に食べられるように行動をハイジャックする。

猫に寄生するために。繁殖地である猫の腸内に移動することが目的なんだ」

さすがの記憶力だ。すばらしい。

「そのハートの結晶みたいなのはボクが開発した寄生虫だ。名前はラブデス。

宿主の脳に侵入して悪人を善人に変える。

どんな凶悪犯でも少年マンガの主人公のような善人になるよ」

「しゅごい!天才じゃん!」

「知ってる」

「ヤミーは謙虚さ足らん!」

「へこたれない美少女で陽キャでこんなどうしようもない世界に絶望することもなく人間を愛することをけしてあきらめないきみなら有効活用できるはずだ」

彩葉の頭上で豆電球が光る。

「握手を利用して悪人に寄生虫を感染させればいいんだね?」

勘がいい。大正解だ。

「法改正されたから選挙に出馬するといい。

総理になり各国の最高指導者を善人に染め上げてやれ。

接触感染で広がるから最高指導者が人気者になって握手を求められるようになれば国民にも感染する」

「これって科学兵器だよね?洗脳って悪いことじゃないの?」

「世直しだよ。ぜんぜん悪いことじゃない」

「ヤミーがそういうなら信じる!」

疑うことを知らない子どもの瞳はボクの描いたマンガの主人公の瞳とまったく同じだ。

ほんとうにうまく育ってくれた。

もっと詳しく説明してあげたい。

たのむ!寿命よもってくれ!

「ラブデスは宿主の脳に化学物質であるオキトシンを注入する。

オキトシンは別名・幸せホルモン・愛情ホルモン・信頼ホルモンと呼ばれ人との絆や親密さを深める働きをする脳内物質だ。

愛情深い人や人づきあいが温かい人の脳内ではこのオキシトシンが深く関わっていることが分かっている。

オキシトシンが宿主の脳に届くと宿主は善人に生まれ変わる。

ラブデスが宿主の脳の機能を変えるんだ。

悪人はすすんで善行するようになる。

さらに善行すると脳内でドーパミンも大量に分泌されるようになる。

ドーパミンは脳の報酬系を刺激して快楽、意欲、達成感をもたらす。

目標を達成したときや楽しいことをしているときに放出される幸福物質だ。

今まで人をいじめたり他人の不幸な話を聞いていた時に出ていたドーパミンが善行した時や他人が幸福になった話を聞いた時に放出されるようになる。

きみに面白い話をするためにいろんな本を読み漁っているうちに気づいたよ。

寄生して宿主を操る生物は地球上にかなり多い。

たとえば狂犬病のウイルスは宿主の脳に達すると目の前の動くものや他の動物に対して激しく噛みつく行動(狂騒型の症状)を誘発する。

これは感染した動物の唾液には大量のウイルスが含まれてるから噛みつくことで他の動物や人へウイルスを効率よく広めるためのウイルス側の生存戦略(メカニズム)といわれてる。

ほかにも魚の脳や神経に寄生する吸虫がいて魚にわざと異常な泳ぎをさせて鳥に狙われやすくする。

飛び跳ねたり旋回させたり死のダンスを踊らせるんだ。

動きが激しくなったり目立つ行動をとったりするから天敵である水鳥などの目に留まりやすくなる。

鳥に食べられることで吸虫は鳥の体内で成虫になり繁殖して卵を外へ排出しまた次の世代へとつながっていく。

アリの脳を操って葉っぱに登らせてじっと待機させて牛や羊に食べられるようにする吸虫もいるよ。草ごと牛や羊に食べられることで吸虫は無事に動物の体内にたどり着き成虫へと成長する。

成虫が産んだ卵は糞として宿主から排出されてカタツムリに食べられる。

体内で卵が孵化するとカタツムリは寄生虫のまわりに保護嚢を作り粘液とともに吐き出す。

この吸虫入りのスライムはアリのエサになる。

アリの脳を操るっていうサイクルを繰り返す。

昆虫だとクモヒメバチはクモの体内に化学物質を注入して幼虫のサナギのためのベッドを作らせる。

風雨に強くて頑丈な休息網(ゾンビ網)だ。

ベッドを作らせたあとで幼虫は用済みとなったクモを食べる。

ハリガネムシという寄生虫は宿主のカマキリを水に飛び込ませて溺死させる。

自分たちの繁殖場所である水辺へ移動するためにね。

いろんな寄生生物のデータを調べているうちに寄生虫の宿主を操る習性を利用して悪人を善人に生まれ変わらせることができればこのドブみたいな世界を弱者が嫌な思いをしない美しい世界に作り変えることができるんじゃないかって思ったんだ。

どうやってラブデスを作ったのか?

寄生虫のDNAを書き換えたのさ。

生存戦略として宿主が善人になる化学物質を脳に注入するようにね。

デザイナーベイビーみたいなもんだよ。ゲホッゲホッ!」

一気に疲労の波が押し寄せてきた。

もう限界だ。

「わかったよ。あとはまかせて」

「きみが好きだ。若葉と同じくらいに」

「ママより好きって言って」

「若葉より好きだ」

「ありがとう。わたしの大好きなヤミー。わたしもあなたの数多くの作品のひとつだよ」

彩葉が手をギュッと握ってくれる。

笑顔で泣いている。

今度、主人公のこういう表情を描きたいな。

まあ無理なんだけどね。

ボクが自分の野望のために千本ノックのごとくきみの頭脳を鍛えていたことに気づいてたか。

さすがボクの最高傑作だ。

彩葉は誠実だしかならず約束を守る。

大胆で行動力があるし正義感の強い人間だから信じられる。

彩葉は両親にたっぷり愛されて育った。

いまもみんなから愛されてる。

悪人は愛に飢えているから他人にわけあたえることができない。

生まれた時から愛の海にどっぷり浸かっている彼女ならいくらでも世界に愛をわけあたえられるはずだ。ボクは平和な世界の到来を確信して眠りについた。

参考文献・引用 宿主をゾンビ化して操る 戦慄の寄生虫5選


暗闇男は岸辺露伴先生を参考にしてます。

外見はデスノートのLのイメージ。

タモリさんが赤塚不二夫先生の葬儀で読んだ弔辞も参考にさせて頂きました。

白紙だったというのが泣けますよね。

赤塚不二夫先生は麻雀で相手が不機嫌になるのが嫌でツモ上がりしかしなかったそうですね。

シャイでやさしい人。麻雀で勝ってるところを見たことがない。

ひとにだまされても後悔やその人を恨む言葉を聞いたことがない。

そうタモリさんが言ってました。

赤塚不二夫先生のような人が増えればこの世界は間違いなく平和になるでしょう。

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