第6話 その後の顛末と新たな展開
あれからメイドのエイミーとカミラは警察に引き渡した。
多額の示談金も支払うことができず、順当にいけば今後囚人として捕らえられるだろう。
ちなみに風の噂によると、エイミーとカミラも自身の家から縁を切られたそうだ。どちらも平民でありながら貴族の者に手を出したのだ。
今後まともな職にありつけるわけなどなく、身内にも影響が出る可能性もあるのだから、家を追い出されるに決まっている。
そして私はというと、あの物置部屋のような質素な部屋から屋敷の中でも上等な部屋に移動した。隙間風が吹くような造りでもなく、暖炉と簡易のキッチン、そして風呂の備え付けられた広い部屋だ。
そういえばフェリクスと結婚した当初、この部屋を見せられたことがあった。
最初はここが自分の私室になるのかと思ったが「この部屋は本来プリシラが住むはずだった部屋なんだよ」と言って、私を故意に落ち込ませたのを覚えている。
(今思い出しても腹立つわね………)
あの騒動から数日後、屋敷の使用人達の態度は明らかに変わった。
私が問答無用で警察にメイドのエイミーとカミラを引き渡したのが衝撃だったのか。怯えた顔をしながらも、使用人達は私の言うことを聞いてくれる。
部屋の掃除や食事の配膳は勿論のこと。私のいる前で陰口を叩くことや不機嫌そうに舌打ちをしたりすることもない。
今更私を「奥様」と呼び始めた彼らの手のひら返しに、内心苦笑してしまう。
それからフェリクスとプリシラは仲睦まじくやっているようだった。これに関して私は自室にほぼ引き篭もっているため、彼らの関係がどうなっているかは分からない。
ただ小説の中では、プリシラが彼女の面倒をみるアルテシアに無理難題を吹っ掛けて我儘を言ったり、アルテシアに酷い扱いを受けたと言ってフェリクスや使用人に泣きつくといった嫌がらせをしてくるのだが………。
プリシラが大人しくしてくれるのであれば私は特に何もしないが、何かしてくるようであれば受けて立つ所存である。
そしてそんな折に、私はフェリクスから応接間に呼びだされた。
「───舞踏会ですか?」
「ああ、カリオストロ伯爵夫人の開くパーティーに妻である君も招待されている」
気まずそうな顔をして話す彼に「そういえば小説にそんな展開あったなあ」と思い出す。
カリオストロ伯爵夫人による夏の舞踏会。
潔癖なカリオストロ夫人の開く舞踏会であるため、プリシラではなく妻であるアルテシアをエスコートさせなくてはならず、フェリクスとアルテシアが初めて二人で出かけるエピソードだ。
(ええと、確かプリシラが嫌がらせでメイドを使って私の舞踏会用のドレスをボロボロにするのよね? それで素知らぬ顔で「私のドレスを貸します」とか言って、アルテシアには似合わない派手なドレスを押し付けてくるんだっけ?)
しかし先日使用人を刑務所送りにしたため、そこまでのことはされないだろう。
(───で、似合わないドレスを着させて恥をかかせようとするんだけど、アルテシアの完璧な淑女としての振る舞いに招待客も………そしてフェリクスも惹かれ始めるんだっけ)
趣味の悪いドレスを着させられても尚、ルーヴェン子爵家で厳しい教育を受けてきたアルテシアは淑女として堂々と振る舞い、フェリクスに見直されるのだ。
このことがきっかけでアルテシアに対するフェリクスの態度は軟化し、少しずつ彼女に惹かれていく。
病弱な幼馴染のプリシラと妻であるアルテシアの間で、フェリクスが葛藤するエピソードなのだが………
(フェリクスに対して「もう愛していない」って言っちゃったし、そういったことにはならないか)
あれだけはっきりと言ってやったのだ。
それでも尚、私に惹かれるのであればとんだ嗜虐趣味者である。
「構いませんよ。ただし舞踏会用のドレスは先日エイミーに駄目にされてしまいました。今から新しいものを一から作るのは難しいので、セミオーダーか既製品を用意するしかないでしょう。早急にメゾン・ルミエールを呼んでくださる?」
「ああ、分かった」
「それからもし何らかの原因で舞踏会直前にドレスが駄目になりましたら、絶対に行きませんから。プリシラ様にそう伝えておいてください」
「プリシラが君のドレスに何かするわけないだろう!」
(するんだよなあ。これが)
あらかじめ釘を刺したことだし、これで何かされても問題はないだろう。
ドレスが駄目になったら絶対に行かないと約束もしたのだ。
私は苛立つフェリクスを前に素知らぬ顔で息を吐いた。
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