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第3話 全部貴方の自業自得です




 フェリクスの待つ応接間に向かえば、そこには彼は一人ソファに座り込んでいた。流石にこの場にプリシラを同席させることはしなかったのだろう。

 

 私の姿に気付くと彼はハッと顔を上げて、対面のソファに座るよう促してくる。大人しく座ると、フェリクスは怪訝そうな表情で口を開いた。

 

「……………まず君の真意を聞きたくてね。離縁すると言ったが、それは本当かい?」

 

 そんな彼に何を今更と内心溜め息を吐く。

 そもそもフェリクスから提案してきたことだろう。

 

「ええ、もちろんですわ。貴方は私では満足されないのでしょう? プリシラ様がいらっしゃるのなら私はお役目御免かと。それに一夫多妻制を採用していないこの国において、愛人の面倒をみたがる妻なんてどこにいます?」

「か、彼女は愛人なんかじゃない! 失礼に程があるぞ!」

「あら? 社交パーティーでは妻である私ではなく常に彼女を連れていらっしゃったので、てっきりそのような関係だと思っておりましたわ」


 そうはっきり答えてやればフェリクスはぐっと口籠る。

 前世の記憶を思い出す前の私はフェリクスにどんなことを言われても何も言い返すことはなかった。

 けれどここに来て私がこんな態度を取るものだから、彼も戸惑っているのだろう。

 

 しかしフェリクスが何かに気付いた様子で口元に笑みを浮かべる。

 

「そうか、分かったぞ! 君はプリシラと俺の仲に嫉妬しているんだろう? 俺の寵愛が受けられないからと、わざとそういった態度を取って気を惹こうとしているのか!」


 そんなフェリクスに思わずきょとんとしてしまう。

 私がプリシラに対して嫉妬しているという事実に、面倒くさがりながらも悦に入っているようだった。


(き、気持ち悪…………)


 もちろんそれはただの勘違いである。

 フェリクスに対して言い様のない不快感を感じながら、こんなこともわざわざ言わなくてはならないのかと頭が痛くなった。

 

「いえ、貴方の器の小ささにほとほと呆れて愛想が尽きたんです」


 こめかみを押さえながら、フェリクスが都合の良い勘違いをしないよう丁寧に教えてやる。

 

「プリシラ様と結婚できなかったからと言って、政略結婚で迎え入れた妻の私に対して当て付けのように蔑ろにする。貴方がどこの誰を愛していても構いませんが、八つ当たりで私に苛立ちをぶつけるのは流石に止めてほしいですわ」

「八つ当たりなんて………!」

「八つ当たりじゃない? ああ、もしかして私に嫌がらせをすることによって、プリシラ様に『本当に愛しているのは君だけだよ』とか言って彼女の気持ちを満足させてあげてるんですか? もしかしてその特殊な嗜好に私は巻き込まれていたんですか?」

 

 最悪である。

 するとフェリクスは顔をカッと赤くして席を立った。口を戦慄かせ、あまりの怒りに肩を震わせる。

 しかししばらくして、彼は乱暴にソファに腰を下ろした。

 

「…………だが、君は俺のことを愛していただろう。いつも言っていたじゃないか。俺がどんなにプリシラを想っていても、私はフェリクス様を愛している、と」

「ああ…………」

 

 うん、確かに言っていた。

 前世の記憶を思い出す前の私はフェリクス様からどんな酷い扱いを受けても(馬鹿の一つ覚えみたいに)そう言って彼に愛を向けていた。


 今思えば一種の強迫観念からそう言っていただけに思えるが、あの頃の私と今の私じゃ流石に違い過ぎるだろう。

 でも………


「申し訳ありません。そういった気持ちはすでにありません」

「……………もう俺のことを愛していないのか?」

「ええ、これぽっちも」


 はっきりそう言ってやれば、フェリクスはそのまま固まってしまった。笑みを取り繕うこともできないようで、茫然と私を見つめている。

 

(いや、普通に考えたら分かるでしょ。幼馴染と常習的に浮気されてそれでも愛しているだなんてありえないんだって)

 

 小説のアルテシアが異常なだけである。

 けれど前世の記憶を思い出した今、フェリクスのしてきた数々の所業は到底許せなかった。とりあえず固まったまま動かないフェリクスに声をかける。

 

「だから貴方から離縁を提案してくださって、とても助かりました。これで円満に別れられますね! 今までどうもありがとうございました!」

 

 まあ、貴族同士の政略結婚でよくあるように名ばかりの妻としてこのまま離縁しないでいるのも良い。

 けれどその場合は別居をさせてもらいたい。あんな物置部屋みたいなところでこれからも過ごすなんて絶対に嫌だ。そしてその際には新しく私付きのメイドを雇おう。


 するとその時、フェリクスが苦しそうに言い放った。

 

「……………………離縁はできない」

「…………………はい?」

「我がオズモンド家は君の生家から援助を受けている。君と離縁をすればそれも打ち切られ、我が領地の領民達は飢えに苦しみ、オズモンド家の管理する魔道具事業も傾くだろう。…………そのせいで、多くの人間が路頭に迷う羽目になる。それでも良いのかい?」

 

 彼の言葉に「そういえば」と思い出す。

 私の生家であるルーヴェン子爵家は領地面積は小さいものの、水源の豊富な安定した領地を持っている。そのためそれなり稼いでいるのだ。

 しかしその家格の低さ故に苦労することもあり、それを補うために金策に苦しむオズモンド伯爵家に私が嫁いだという背景があった。


 オズモンド家の統治する領地は数十年前に大規模な魔物による襲撃があり、未だ魔物の死骸から出る瘴気によって一部の土地が汚れている。

 そしてその浄化費用を賄うため、先代から魔導具の商売を始めたらしいが、その業績もいまいちパッとしなかった。


 そんな私の良心を試すかのように尋ねるフェリクスに「確かに私と離縁すれば、オズモンド家に関わっている人は路頭に迷うだろうな」と思う。

 

 しかしその上で言いたい。

 

「それって私のせいではありませんよね?」

 

 (アルテシア)が何も言わず、何もやり返さないことを良いことに、冷遇してきたフェリクスや屋敷の使用人達が悪いに決まっているだろう。

 

 それに何をしたって私がフェリクスを愛し続けるだなんて大間違いだ。

 

「どんなことをしたって愛してくれる都合の良い人間なんて、この世に存在しないんですよ」

 

 そして目を丸くするフェリクスに私は淡々と告げた。


「全部貴方の自業自得です。私はもうフェリクス様のことを愛していないので、貴方がどうなろうと、どんな風に落ちぶれようと、どうだって良いんですから」





 

読んでいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
ある意味では(ヒロインの)愛を一番信じている人かもしれない。(自分を嫌いになることはないという)
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