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04. 恋とタカシと、嫌な予感

世界一のかっこよさを目指す一年・鳴紫恋。

今日も彼は、友人の恋路に首を突っ込みつつ、勝手に人生を輝かせている。

ホームルームが終わり、教室がざわつき始める。

タカシは椅子を揺らしながら、ふと決心したように俺へ声をかけてきた。


「なぁ鳴紫、ちょっといいか?」


「ん?」


タカシは真面目な顔をしていた。

さっきまでの軽いノリとは違う、少しだけ慎重な空気。


「いやさ……正直、鳴紫に相談するつもりなんてなかったんだけどさ」


「相談?俺にか?」


タカシは苦笑しながら続けた。


「お前ってさ、なんかこう……近寄りがたいっていうか。

 目立つし、俺みたいな普通のやつが頼っていいのか迷ってたんだよ」


確かに、俺は“世界一のかっこいい男”を目指している。

そのせいで、周りから見れば近寄りづらいのかもしれない。


タカシは続ける。


「でもさ、今朝のお前見て、考え変わったわ。

 三人相手にあれだけやれるやつ、そうそういねぇよ。

 あれ見たら……頼りたくもなるだろ?」


「ありがとう。そんなに褒められると素直に嬉しい。で、頼りたいって、一体なんだよ?」


「じ、実はさ……俺、好きな子がいるんだよ」


「お、おう、めちゃくちゃ急だな」


タカシは照れたように頭をかいた。


「実は、その子もさ、“今朝みたいな変な連中に声かけられた”って言っててさ。

 怖かったって……」


「なるほどな」


「俺、あんま強くねぇし……

 鳴紫みたいにサッと助けられるタイプじゃないからさ。

 もし見かけたらでいいんだけど……ちょっと気にしてやってくれねぇかな?」


俺は軽く笑った。


「もちろんだ。

 困ってる人がいたら動くのは、かっこいい男の務めだからな」


タカシは心底安心したように笑う。


「ありがとな、鳴紫。

 ほんと頼りになるわ。

 じゃあ、頼ん……」


タカシが安心しきった笑顔を見せたその瞬間――

俺は軽く息を吸い、静かに言った。


「――だが、断る」


「……え?」


タカシの笑顔が固まる。

教室のざわめきの中で、その一言だけが妙に鮮明に響いた。


俺は前髪を整えながら、落ち着いた声で続ける。


「好きな子なんだろ?

 なら――守るのは、お前自身であるべきだ」


「お、俺が……?」


タカシは目を瞬かせる。

驚きと戸惑いが混ざった表情だ。


俺はゆっくりと頷いた。


「俺が全部やっちまったら、お前の“かっこよさ”が育たないだろ。

 好きな子を守るってのは、男にとって大事な経験だ」


タカシは口を開きかけて、閉じた。


「で、でもよ……俺、強くねぇし……」


「強さは関係ないさ」


俺は軽く笑う。


「大事なのは“守りたい”って気持ちだ。

 その気持ちがあるなら、誰だってかっこよくなれる」


タカシは俯き、拳を握った。


「……俺に、できるかな」


「できるさ。

 お前はもう“守りたい”って言えた時点で、半分はできてる」


タカシはゆっくり顔を上げた。

その目には、さっきまでなかった決意の色が宿っていた。


「……鳴紫。

 お前、なんか……すげぇな」


「だろ?知ってる」


俺は胸を張る。


「ただし――」


タカシが顔を上げる。


「お前が本気で守る気にがあるなら、協力くらいはしてやれる。

 世界一のかっこいい男は、助けを求める人を見捨てたりしないからな」


タカシは目を丸くし、そして――

照れくさそうに笑った。


「……ありがとな。

 なんか、勇気出たわ」


「よし、その調子だ。

 まずは姿勢を正せ。背筋が曲がってると、かっこよさが逃げるぞ」


「え、そこから!?」


「当たり前だろ。かっこよさは日々の積み重ねだ」


タカシは苦笑しながらも、背筋を伸ばした。



放課後の廊下は夕陽に染まり、

帰り支度をする生徒たちの声が響いていた。


俺とタカシは、その廊下の端に立っていた。


視線の先には――

タカシの意中の相手、"白石ほのか"が友達と談笑しながら帰り支度をしている姿。


タカシは緊張でガチガチになりながら、

俺の袖をつまんで小声で言った。


「な、鳴紫……今日も見守るぞ……!

 護衛は……お、俺がやるからな……!」


「おう、中々カッコよくなったじゃないか。

 その震えてる足さえなければ完璧だな」


「う、うるせぇ!

 好きな子は……自分で守るって決めたんだよ!」


タカシは胸を張るが、足は震えている。


(……まぁ、気持ちは立派だ)


俺はそう思いながら、白石の後ろ姿を見つめた。


白石が友達と別れ、ひとりで廊下を歩き出す。


タカシは息を呑んだ。


「ほ、ほのかさん……帰る……!」


「よし、鳴紫、じゃあ行くぞ。

 ほのかさんに気づかれない距離を保ちながらな」


タカシは壁に張り付きながら、

こそこそと白石の後ろをついていく。


(……いや、バレるだろそれ。

 むしろ“ついてきてます”って自己紹介してるような動きだぞ)


俺が心の中でツッコんだその瞬間――


白石がふいに振り返った。


「……あれ?」


タカシの動きが止まる。


白石の視線は、

タカシの“方向”を向いている。


タカシは青ざめた。


「や、やべぇ……!

 ほのかさん、こっち見た……!」


「いや、まだ顔までは――」


「無理無理無理無理!!

 俺、まだ心の準備できてねぇ!!」


タカシはパニックになり、

そのまま反対方向へ全力ダッシュした。


「おいタカシ!?

 お前が護衛するんじゃなかったのか!」


「む、無理だぁぁぁ!!

 今日は……今日は心臓が死ぬ!!」


タカシは夕陽の中へ消えていった。


残されたのは――俺だけ。


白石はタカシの顔を見ていない。

ただ「誰かがいた気がする」という程度だ。


そして、

白石の視線が――俺に向いた。


「あっ……鳴紫くん?」


(ったく……あいつは……完全に俺がつけてたみたいになってるじゃねぇか。

 世界一のかっこいい男がストーカー扱いはさすがに困るぞ)


俺は前髪を整えながら、

できるだけ自然な笑顔を作った。


「偶然だな、白石。

 こんなところで何してるの?」


「何って?鳴紫くんこそ。」


白石は不思議そうに俺に問いかけた。


「俺は日課の廊下の見回りだよ。

治安維持は俺の趣味みたいなものだからな。

裏で人助けってかっこいいだろ?

それに、良い運動にもなるし。」


「ふふっ、そうなんですか?」


白石は疑う様子もなく微笑む。


(……助かった……。

 それにしても……タカシ、お前の逃走スピードだけは世界レベルだな)


俺はため息をつきながら、

白石の方向へ視線を戻した。


「……仕方ない。

 今日の護衛は、俺が引き継ぐか。

 あいつの心臓が死ぬ前にな」


白石がこちらを見ているのに気づき、

俺は歩み寄った。


「白石、俺と一緒に帰らないか。

 少し話したいことがある」


「えっ、わたしと……?」


白石は一瞬だけ目を丸くし、

頬がほんのり赤くなる。


(……告白でもされると思ったか?

 まぁ、そう見えても仕方ないか)


そんな空気が漂った瞬間――


さっきまで白石と談笑していたクラスメイトが、

ニタニタしながら白石の背中を押した。


「ほのか、行ってきなよ〜!

 鳴紫くん、イケメンなんだからさ!」


「ちょ、ちょっと……!」


押された勢いで、白石は俺の隣に並んだ。


「……じゃ、じゃあ……一緒に帰ります?」


「助かる。

 話したいことは大した内容じゃないけど……

 準備ができたら言ってくれ」


「……っ、は…はいっ!」


白石は照れたように笑い、歩き出した。

俺もその横に並ぶ。


しばらく歩いたあと、白石がふと口を開いた。


「鳴紫くんって……モテそうですよね」


「いや、全然。

 告られたことなんて一度もない」


「えっ、ほんとに?」


「本当。

 俺を好きになるには、まず俺のかっこよさに耐えられる強靭な精神が必要だからな」


「そんな条件あるんですか……?」


白石は吹き出しそうになりながら笑った。

その笑顔の奥に、ほんの少しだけ“何かを探るような”色が見えた。


「でも、好きになった人なら過去に一人だけいる」


その言葉に、白石の足が一瞬だけ止まりかける。

声も、さっきよりわずかに慎重だった。


「へぇ……どんな方だったんですか?」


俺は答えた。


「そうだな……

 俺には手が届かないような、言葉では言い表せない……

 なんかこう……儚い……そんな人だった」


白石の表情が、ふっと緩む。

けれどその目の奥に、

“あ、違うんだ”と理解したような、

ほんの少しの落ち着きが宿った。


そして、白石は自分に言い聞かせるように笑った。

「……ふふっ、なんか鳴紫くんらしいね」


恋はその言葉に、

ほんのわずかに胸がざわついた。


(……悪いな。

 気づかないふりをするのも、簡単じゃない)


だが、タカシの顔が脳裏をよぎる。


(あいつの気持ちを踏みにじるわけにもいかないしな)


恋は前髪を整え、

少しだけ距離を取るように歩幅を調整した。


白石は気を取り直すように、

少し笑って問いかけてきた。


「そういえば……どうして今日、一緒に帰ろうって言ってくれたんですか?」


恋は一瞬だけ言葉を選び、

柔らかく答えた。


「ある人に頼まれたんだ。

 白石のこと、気にしてやってくれってな」


「……わたしのことを?」


白石は驚いたように目を瞬かせる。


恋は白石の横顔を見ながら、

さりげなく問いかけた。


「それで確認したかったんだ。

 最近、変なこと……なかったか?」


白石は歩みを止め、

スマホの画面をじっと見つめたまま動かない。


その眉が、わずかにひそめられる。


俺は前髪を整え、

小さく息を吐いた。


「……どうやら、ただごとじゃないらしいな。

 白石――何があった?」


白石は唇を噛み、

スマホを胸元でそっと握りしめた。


そして、

まるで言うべきか迷うように、

ゆっくりと俺の方へ顔を向ける。


「……鳴紫くん。

 これ……見てもらってもいいですか?」


その声は、

さっきまでの柔らかさとは違っていた。


不安と、

どこか“恐れ”の混じった響き。


白石が差し出したスマホの画面には――

俺の想像より、ずっと“嫌な予感”が漂っていた。

読んでいただきありがとうございます。

読んでくれたあなたはヒーローです。

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