37. 今の私にできること
【前書き】
世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫 恋。
榊原 青斗との再会で恋の物語を加速させる。
自分らしさを取り戻した恋は部活動「明部」を設立させることに!
しかし、剛の不在により不吉な影が増していく。
サッカー部にも脅威が迫り、一体どうなってしまうのか!?
「嫌だよ。こんなの……」
それからはただ防戦一方だった。
もはや剛田先輩の独壇場。
先輩がハーフラインからシュートを放つと、目の前の土が抉れ、ミサイルのようにボールが前進する。
ボールとゴールを結ぶ直線にいる選手は誰もが弾け飛び、空に舞って地面に叩きつけられる。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
巻き込まれた一年生たちはもはや、悲痛な叫び声を上げることしか出来なかった。
ただただ、サンドバッグ状態。
先輩がシュートを蹴るだけの時間。
こんなものサッカーの試合と呼べるのだろうか。
サッカーというより一方的なタコ殴りに近かった。
「これ、やばいんじゃね」
「そろそろ止めた方が」
「誰か先生呼んでこいよ!!」
観客たちも慌て始め、青ざめる。
スコアボードは先輩の特典だけで二十を超えていた。
キーパーである川島先輩はもう立ち上がる事すらできない。
「そんなもんかよ。弱すぎて反吐が出る」
先輩は息一つ乱れていなかった。
しかし、試合は再開される。
なぜならー
「おい、榊原!良い加減やめろよ!お前死ぬぞ?
お前以外の奴らはみんなお利口に地面に這いつくばってるのによぉ。
お前がリスタートするせいで、この試合終わらねぇぞ」
青斗は血だらけになりながら、先輩を睨みつけ、コート上でたった一人、先輩の目の前に立っている。
そして、青斗がリスタート。
何故か先輩にパスを出す。
「何考えてんだお前?イカれてんのか?
お前のせいで仲間も死ぬぞ!」
青斗は無言で睨みつけ、打ってこいと言わんばかりに突っ立っている。
「あっそう?本当に先輩を舐めてんだなお前は。
いいぜ、そんなに死にたきゃ殺してやるよ。
これでテメェは終わりだぁ!!」
先輩はもはや、善悪の判断も付かないようだった。
「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
先輩も足の痛みに耐えているのだろうか。
悲痛な叫びを発しながら、あの禍々しいスパイクで魔球が放つ。
その威力は今までよりもずっと比べものにならないほど大きい。そして、軌道は青斗に向かって一直線。
「青斗!逃げてーーーー!!」
喉が引き裂かれるくらい、懸命に叫んだ。
しかし、青斗は逃げない。避ける気も見えない。
その場でただ待っている。
「もう、やめて……」
そして魔球が辿り着く。
途端、青斗は利き足ーー左足で喰らいつく。
「……う……ぐぅ……ぁぁ……」
青斗が歯を食いしばる。
「もう辞めて!青斗!また足が壊れちゃう。
ここで壊したらまたサッカー出来なくなっちゃうんだよ!
何で……そんなに……」
私の視界が涙で霞む。
「……あ……お…い……」
「……え?」
青斗は耐えながら続ける。
「……俺は、サッカーを失いたく無いんだ!
俺の……サッカー……は……みんなで強くなること……だから……」
その言葉を聞いて、私は声が出せなかった。
青斗の思いが全身に伝わってくる。
私は勝手に、青斗が今必死に先輩に食らいついているのはムキになっているからだと思っていた。
自分が好きなサッカーを侮辱するような先輩たちに。
一生懸命練習している仲間を見下している先輩たちに。
だけど違った。
昔おじいちゃんが言ってたっけ。
***
「私、もうサッカー辞める!!」
「何を言い出すんじゃ、葵」
「だって、みんなみたいに上手く出来ないんだもん……
こんなのちっとも面白くない!」
小さい頃、私はよくおじいちゃんにサッカーを教えてもらっていた。
でも周りより全然上手くできなくて、悔しくて泣いてばかりだった。
そんな私に、おじいちゃんは静かに言った。
「いいか、葵」
「……?」
「上手く出来んと、つまらん。
そう思うのは悪いことじゃない。
もっと出来るようになりたいと思っとる証拠じゃ」
「でも……出来ないと嫌だよ……」
「嫌になるのは、真剣にやっとるからじゃ。
真剣にやっとるからこそ、失敗が悔しいんじゃ」
おじいちゃんは優しく笑った。
「けどな、葵。
サッカーは一人でやるもんじゃない。
出来んところは仲間に助けてもらい、仲間の出来んところは葵が助けてやればええ」
「……助ける?」
「そうじゃ。
互いに助け合い、失敗しながら強くなる。
それがチームというもんじゃ」
そして、おじいちゃんは少しだけ誇らしげに言った。
「ワシの求めるチームとはな、
失敗しながら互いに成長し、
尊敬も見下しもせず、
互いを信頼しきれるチームじゃ」
***
(そうか……青斗は先輩たちを諦めてないんだ……)
私は涙を拭う。
そして、駆け出した。
(それが青斗の答えなら、今の私にできることは……)
「すみません!!そこ、退いてください!」
野次馬を押し除け、懸命に走った。
***
小鳥遊の口から事件の全容を聞いた。
しばらくの沈黙の後、俺は口を開く。
「白石。悪い。
俺はサッカー部を助けに行く。
だから今日は解散だ」
「うん、でも……」
「分かってる。剛のことも探さないといけない」
白石は不安そうな表情を浮かべこちらを見ている。
「なぁ、白石。
今の話から、何か感じないか?」
「……何かって?」
「そっくりだとは思わないか?タカシと剛田の力が」
彼女は息を呑んだ。
「確かに……言われてみれば……」
「この事件。おそらく奴らも絡んでる。
剛田に事情を聞けば、自ずと俺たちの探し物に出会えるかもしれない」
剛田の急激な強化。攻撃方法。
それらから、明らかに俺らの探してる奴ら
ーー暗部の気配がした。
「それに、剛ならきっと大丈夫だ。
なんか、そんな感じがする」
白石を安心させるためでもなく、強がりでもなく、何故か心の底から自然にそう思えた。
「よし、小鳥遊、今すぐ向かおう!
白井は危ないからここで待っ……」
「ううん。私も行く」
白石は遮るようにそう言った。
「え?…」
「私もついて行く」
「だけど……」
「私、佐藤君のこと許せないけど……
理解できちゃったの……
誰にも頼れなかったんだろうなって……
それは、すごく辛かったんだろうなって……」
その言葉はまるで誰かと重ねているように感じた。
「やっと、鳴紫君に頼れるようになって……
だけど……佐藤君はもう……」
「私、多分それが許せないんだ。
嫌だなって思う。だから、私も行く。
自分の身は自分で守るから」
そんな彼女の真剣な眼差しを見て、俺は意地悪な質問をする。
まるで覚悟を試すかのように。
「死ぬかもしれないんだぞ」
途端、彼女は下を向いて悲しい表情を見せる。
「……うん。知ってるよ」
それから、彼女は真っ直ぐと俺の目見た。
「私、鳴紫君の頼み事、
ちゃんとまだ聞いてないけど……
良いよって言うつもりだったから!」
「そのためにここに居るの!」
つくづく思う。
白石は人の心を読み取る共感力が異常だと。
俺はそれに甘えそうになる。
だけど、違う。
これは彼女が自分で出した答えだ。
だから俺は承諾する。
「分かった。行こう」
「一体……死ぬって……何の話をしているの?」
俺たちの会話を聞いていた小鳥遊の表情からは困惑の色が見えた。
「話は後だ。今は青斗の元へ向かわないと」
小鳥遊は何か言いたげだったが、すぐに表情が変わった。
「……うん、向かおう」
俺たちはグラウンドを目指して駆け出した。
*
「待っててね、青斗」
小鳥遊の心の声が漏れる。
下駄箱を出て、人気のない通路に出た。
ここを左に曲がれば、まもなくグラウンドに辿り着く。
(……よしっ、あと少し)
そう思ったその時。
「あれあれ〜?
君、昨日すっごいプレーをしていた子だよね!」
突然上から声がする。
俺たちは走りながら見上げる。
すると、明らかに校則違反だろと思うような、凄い派手な格好をしている女子生徒が、二階の窓からこちらを見ていた。
「おう!悪いな!
今は急いでるんだ。
サインなら後にしてくれ」
どうやら昨日のプレーでファンが増えたらしい。
だけど、今は急がないといけなかった。
彼女を無視し、小鳥遊たちのペースに合わせながらグラウンドで急ぐ。
「別にみぃは君のサインなんていらないし。
転売してもたかだか10円くらいでしょ。
そうじゃなくてぇ〜そっち行かれたら困るな〜
って言うかぁ」
瞬間、その女子生徒は二階の窓から俺を目掛けて降ってくる。
「だからぁ、邪魔をしちゃうにゃん!」
俺は即座に彼女が転落したのかと思い、咄嗟に受け止めよと手を伸ばす。
が、彼女に触れようとしたその時、彼女の足の甲が俺の顔面目掛け飛んでくる。
「………って……」
。
その小柄な女の子から繰り出さたとは到底思えないような威力。
その衝撃で俺は思わずよろめいた。
そのまま彼女は後方へバク宙を決める。
白石と小鳥遊も一瞬の出来事で何が起こったのか、理解できていない様子だった。
「一体何のつもりだよ、お前?」
「別に。昨日、君がものすっごい良いプレーをするもんだからみぃはファンになっちゃった♡」
「なら、推しに向かってその仕打ちはねぇんじゃねぇのか?」
「推しにちょっかいをかけるのもぉ、オタクの習性なんだにゃん!
それに……そこの女が動くのが見えてぇ、君を呼ばれると、ちょお〜とめんどくさいなぁと思ってぇ〜」
彼女は小鳥遊を指差してそう話す。
「要するに、あれか?嫉妬ってやつか」
「そうそう、そんな感じ!」
今の話を聞いた感じ、彼女は俺が青斗の元に行くのを阻止したがっていた。
つまり、それが物語っていることはただ一つ。
「さては、お前。暗部か?」
彼女の表情が変わる。
さっきまでの余裕な面影とは裏腹に、目を見開いているこっちを睨む。
「へぇ〜。君知っているんだ?
それとも、都市伝説を信じてる系?
まぁ、どっちでもいいや。
疑われたのなら、消すだけだから」
彼女はそういうと、その場で高く飛び上がる。
異常なまでの飛距離。
やはり、暗部ってのはやばい力を持ってるらしい。
そして、そのまま俺を目掛けて飛び蹴りに移行する。
「鳴紫君!!」
白石たちが青ざめ、叫ぶ。
「離れてろ、お前ら!」
俺は咄嗟に彼女の攻撃を避ける。
そしてそのまま彼女は地面に突っ込んだ。
バゴォーン!!
コンクリートが爆ぜた。
その様子を見て、思わず声を失う。
「何ちゅう威力だ……」
「みぃの攻撃、避けちゃ嫌!」
躊躇ない攻撃。彼女から伝わる殺気。
そして、確信。
「どうやら、本当、暗部ってのは早く潰さねぇといけないらしい……」
「潰す?君が、みぃたちを?
そんなこと、絶対に無理なんですけどぉ〜」
「可愛い見た目で、可愛くないことすんじゃねぇよ。 やってることはクズだろ」
「ひっど〜い!
女の子に向かってクズとか言うの、今すっごい問題になるんだからね!みぃが訴えてやる!」
「裁判までして、そんなに俺と話し合いたいのか?
まぁ、俺もお前には聞きたいことが山ほどある。
時間さえあれば、いくらでも付き合ってやるんだが……
今は時間がない。
お前を殴って、知りてぇことを全部吐かせ、グラウンドに行く!」
「……君やばすぎ……コンプライアンスって知ってる?今の発言全部引っかかるよ?
みぃは精神的に傷ついたのです……シクシク。
女の子は殴っちゃダメなんだぞ?」
「男も女も関係ねぇ、俺が殴るのはクズだけだ!」
「だからぁ、みぃは、クズじゃないもん!!」
「暗部相手に舐めプは無しだ。
初めから本気でいく」
「本気?」
「あぁ、お前、こんな言葉を知ってるか?
目には目を……歯には歯を……
そして」
俺は忍ばせていたものを取り出した。
「暗部には、暗部の力を……」
俺が取り出したその武器は、赤く光輝いた。
第二章もいよいよ大詰め!
ここからもノリと勢いで書いてまいります!!
お読みいただきありがとうございます!
読んで下さったあなたはヒーローです!
ブクマされたら泣いて喜びます!
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