36. 昨日と違う今日
【前書き】
世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫 恋。
榊原 青斗との再会で恋の物語を加速させる。
自分らしさを取り戻した恋は部活動「明部」を設立させることに!
一体部員は集められるのか!?
「おはよう、白石!」
翌朝、教室に入ると、彼女はすでに友達と談笑していた。
俺が声をかけると一瞬だけ驚いた顔を見せ、それから柔らかく笑った。
どうやら、最後に屋上で話した俺とはどこか違う雰囲気を感じたようだった。
俺は彼女の前に立ち、真剣な眼差しを向ける。
「昨日の今日で悪いが……
授業後、話がある。いや、違うな。
頼みたいことがある。時間はあるか?」
白石は目を見開いたが、すぐに何かを察したように表情を落ち着かせた。
その頬が、ほんの少し緩んで見えた。
「うん。いいよ。きっと赤羽くんも喜ぶと思う」
まるで頼み事の内容を見透かしたように、彼女は微笑む。
「……あぁ、そうだな。
後で剛にもちゃんと説明しないとな」
今日はまだ会っていない。
朝の治安維持にも来ていない。
昨日、屋上で散々失望されたわけだし……
まあ、当然といえば当然だった。
少しの沈黙のあと、白石は何も言わず嬉しそうに俺を見つめてる。
「……なんだ?」
「ううん。何でもない。じゃあ、また放課後ね」
「……あぁ」
それだけ言い残し、俺は自分の席へ戻った。
***
授業が終わり、放課後になる。
俺は白石と一緒に、剛のいる二年の教室が連なる三階を歩いていた。
「驚いた!まさか赤羽君が二年生だったなんて……」
初対面があんなんだからつい忘れそうになるが、剛は俺たちより一つ上の二年生。
俺が散々呼び捨てにしているので、ほとんどの人が多分気づいてないだろう。
「パッと見、年上には見えないよな?
まぁ、友達の間に年齢なんて関係ないがな」
「私先輩に君付けしてたんだ……」
そんな会話をしながら、二年一組の教室の前に辿り着いた。
(確か、剛は二年一組だったよな……)
入り口のドアの扉を叩く。
「すみませーん。一年の鳴紫恋です。
こちらに赤羽先輩はおられますでしょうか?」
俺は世界一かっこいい男を目指してる。
そのため、こういう時はもちろん敬語で振る舞う。
こういう事がちゃんとできて初めてかっこいいが証明される。
それが俺の美学。
常識破りと、常識知らずは似てるようで違う。
知った上で破るからかっこいいのだ。
「え?赤羽?おい、赤羽って今日は来てる?」
入り口付近の短髪の先輩が他の先輩に問いかける。
「赤羽?今日居ないと思うよ。いつもみたいにサボりじゃね?あいついる方が珍しいだろ」
「だって。今日は来てないみたい」
「そうですか。ありがとうございます」
俺は戸惑いながらも、頭を下げる。
そして、白石と目配せをした。
何やら嫌な予感がする。
「剛、今日は休みらしい」
「うん。みたいだね」
「ただの休みだといいんだけどな……」
「どういうこと?」
彼女は不思議がる。
同級生の口ぶりから、剛が学校をサボるのはそれほど珍しくはないらしい。
ただ、昨日の屋上で言い合いになったことが少し気がかりだった。
「まさか……あいつ……一人で……!!」
「一人で?……って。
でも……確かに、赤羽君なら……」
剛のことだ。
昨日の一件もあるし、あいつならやりかねないと彼女も考えたらしい。
「剛の行きそうな場所。白石は心当たりあるか?」
彼女は首を振った。
「だよな……」
俺も同じだった。
いざ探そうとしても暗部がいそうな場所も、剛が行きそうな場所も心辺りが全くない。
胸の奥がざわつく。
(……どこだよ、剛。どこ行ったんだよ)
行き詰まった空気が、廊下に重く沈む。
そのときだった。
「――鳴紫くんっ!!」
後ろから誰かが全力で駆けてくる足音が響いた。
振り返ると、血相を変えてこちらに向かってくる小鳥遊葵の姿があった。
「小鳥遊……?」
そして、俺の前に着くと、彼女は必死に頭を下げる。
「鳴紫君!お願い!助けて!!
青斗が……青斗たちがぁ……」
彼女の目が潤んでいる。
その様子からただ事じゃない何かが起こったことが分かった。
「落ち着け、小鳥遊!一体何があった!?」
そう言うと彼女は泣きながら語り始めた。
***
「青斗、お疲れ!はい、これお水」
授業が終わり、私はいつも通りサッカー部に顔を出していた。
「あぁ。ありがとう」
「それにしても、
今日はみんな、やけにやる気に満ち溢れてるねー」
「まぁ、そりゃあそうだろ。
昨日、あんなプレーを目の当たりにしたんだ。
サッカーが好きなら体が疼かないはずがない」
「確かに、昨日は凄かった」
昨日の試合。
青斗と鳴紫君の連携はサッカー部の雰囲気を完全に変えていた。
やる気のなかった一部の二年生も今日は本気で取り組んでいる。
それほど、彼らのプレーには人の心を動かす力があった。
「三年生や剛田先輩たちにもそれが伝われば良いんだがな……
あの人たちだってちゃんとやれば十分上手いのに……」
水を飲みながら青斗は少し悲しそうな表情を浮かべる。
「きっと伝わるよ。みんなサッカー好きだと思うし」
「そうだな。そうだといいな……
監督の思いも……ちゃんと伝われば……」
「……うん」
「気にしていても仕方ない。まずは練習あるのみ!」
「うん!」
「水、ありがとな」
青斗はそう言って、グラウンドへ戻っていった。
そのとき――
「おーい、お前ら。
何シュート練習なんかしちゃってるの?」
遠くから、聞き覚えのある声が響いた。
視線を向けると、五、六人の先輩がこちらへ歩いてくる。
先頭には昨日青斗たちに負けた剛田先輩と佐伯先輩がいた。
「昨日言ったよな? 一年は球拾いだって!」
「そうそう!
俺たちが使うから、お前らはその後な!」
昨日あれだけのことがあったのに、懲りもせず横暴な態度で練習を妨害してくる。
すかさず青斗が前に出た。
「剛田さん。お疲れ様です。
あと少しでみんな蹴り終わるので、その後すぐ片付けます」
「はぁ? 今すぐ片せよ!
ロスタイムなんてねぇんだよ、馬鹿」
先輩は全く聞く耳を持たない。
青斗が鋭い目で睨むと、先輩たちは一瞬たじろいだ。
「な、なんだその目は!」
「いや、別に……」
「いい加減にしろよ、お前ら!!」
そこへ、別の二年生が割って入った。
「榊原。すまない。
昨日はびびって何も言えなかった。
が、お前らのプレーを見て、俺にも勇気が湧いた」
「川島さん……」
「はぁ? 何お前。
川島ぁ、そっち側につくのか?」
「そっちもこっちもないだろ?俺たちはチームだ」
「おう、確かにそうだな! 俺たちは仲間だ!!
だから仲間の言うことは聞けって言ってんだよ!」
「そんな横暴な……」
川島先輩が言い返せずにいると、剛田先輩はニヤリと笑った。
「まあ、納得できないって言うなら仕方ない。
十一対十一の本当の試合で決めようじゃないか!」
「は? 試合……?昨日負けて、まだ懲りてねぇのか?
それにお前たち、負けたのに約束も守ってねぇだろ?」
「昨日はわけわからん奴がいたからな!
今日はサッカー部だけの問題だ!
負けたら土下座でも靴舐めでもしてやるよ!」
剛田先輩の声には、妙な自信があった。
まるで――何か策があるような。
「分かりました。受けて立ちますよ」
「榊原……」
「大丈夫ですよ。俺たちはサッカー部なんです。
サッカー部の揉め事は、サッカーで蹴りをつけましょう」
「……お、おお。そうだな。やろう!」
「あぁ……」
周りの一年生も呼応した。
その瞬間――
「きゃーっ! みんなー!
サッカー部がまた面白いこと始めるみたいだぞー!
見ないとぉ、一生の損なんだぞー!」
本校舎の二階付近から甲高い声がグラウンドに響き渡った。
先輩の怒鳴り声がそちらまで届いていたのだろう。
様子を見ていた校舎の生徒が面白がって叫んだようだった。
「……あいつか」
剛田先輩の口角が上げる。
(あいつ?)
「何だ何だ!」
「一生の損? 見るしかねぇだろ!」
周りの生徒は一斉にざわつき始める。
気づけば、周囲にぞろぞろと人が集まり始めていた。
まるで見世物が始まるとでも言わんばかりに。
***
試合が始まった。
まずは青斗たちの攻撃。
剛田先輩を中心にした六人と、さっきまで青斗たちと一緒に練習していた二年生五人。
対するのは、青斗率いる一年生と、キーパーの川島先輩。
二年対一年。
数字だけ見れば圧倒的に不利だ。
けど――青斗と川島先輩がいれば、何とかなるはず。
私はそう思っていた。
青斗は巧みなドリブルで、意図も簡単に剛田先輩を置き去りにする。
そしてそのまま、サイドへパスを出し、味方のパスコースに入る。
どんどんボールを繋げていく。
残りディフェンス二枚。
その手前には味方もいる。
青斗はすかさずパスモーションに入った。
針に糸を通すようにディフェンスの間から裏へパスを通すつもりらしい。
絶妙のタイミング。
そして判断。
青斗のゲームメイクが光る。
(やっぱり凄い)
今日も勝てる。
私はそう思っていた。
……だが、すぐに気づく。
昨日と何かが違う。
「……え?」
最初に違和感を覚えたのは、剛田先輩の動きだった。
青斗の足からボールが離れた瞬間、
先輩は――消えた。
いや、正確には、
人間の速度じゃなかった。
「は……?」
視界の端を、黒い影が弾丸みたいに駆け抜ける。
そして、次の瞬間には、もうボールを奪っていた。
「嘘……でしょ……?」
思わず声が漏れる。
昨日の先輩とは、まるで別人。
いや、別物。
「何で……」
観戦していた野次馬たちも一瞬、動きを止めた。
青斗でさえ、目を見開いている。
先輩は、笑っていた。
余裕の笑み。彼の足元が鋭く光る。
(どうして……?昨日と何が違う?
何が起きてる……?)
胸の奥がざわつく。
嫌な予感が、形を持ち始めた。
剛田先輩、いい加減更生しておくれ……
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