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【第一章完結】ナルシズム!!  作者: おしるこ星人
第二章 蹴っ飛ばせ!青く輝くその足で!!
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31. 青空はまだ泣いている

【前書き】


世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫なるし れん


それは二年前。

まだ中学生だった頃の榊原さかきばら 青斗あおと


サッカーを失った元天才ストライカー。

その先に待つものとは一体!?



──ガンッ。


今は誰も使わない廃墟。

静寂の中、転がった金属バットが地面を叩く音だけが、やけに大きく響いていた。


「ひっ……や、やめ……!」


目の前の相手は涙を浮かべ、

怯えた目で俺を見上げていた。


俺は胸ぐらを掴んだまま、冷めた視線を落とす。


そして拳を振り下ろす。

鈍い音が、廃墟に乾いたように響いた。


誰も止めない。

止められるやつなんて、最初からいない。


だから――無心で殴り続けた。


「青斗さん、もう十分っすよ……!

 流石に死んじゃいますって!」


声をかけられて、ようやく手が止まる。


気づけば相手はとっくに気絶していた。


「マジでイカれてるわ、青斗……」


「ネジ外れてんな、ほんと……」


周りの声は、まるで遠くの雑音みたいに聞こえた。


俺はただ、吐き捨てる。


「……つまんねぇな」


サッカーを失ってからの日常は、

ずっとこんな“空白”の繰り返しだった。


気づけば俺は、中学二年。

そして――不良になっていた。


理由なんて、ほんとはどうでもよかった。


ただ、夢中になれるものが欲しかった。

何かに溺れていないと、自分が空っぽだと気づいてしまうから。


だから殴られても痛くなかった。

殴っても、何も感じなかった。


痛みがないんじゃない。

痛みより、空虚の方がずっと重かっただけだ。


手を払って立ち上がる。

膝はまだ動く。

サッカーはできないが、喧嘩には困らない程度には動いた。


だから喧嘩して、喧嘩して、喧嘩しまくって――

気づけば俺は、二年でこの学校の頂点に立っていた。


望んだわけじゃない。

ただ、流されて、沈んで、

底に着いたらそこが“頂点”だっただけだ。


「青斗さん、次どうします?」


「……そうだな。何しようか」


俺は当てもなく空を見上げた。

濁った雲が、ゆっくりと流れていく。


あの日見上げた空とは、まるで別物だった。


ーー


「ねぇ!君!!サッカーやってたんでしょ?」


月曜日、気が向いたのでその日はサボらずに出席していた。

教室でぼんやり座っていた俺に、

突然、女子が目を輝かせて話しかけてきた。


俺は黙って睨みつける。


「辞めなよ、葵!!」


隣の女子が慌てて葵の腕を引っ張る。


「何で止めるの?」


「何でって……わかんないの!?

 榊原君は、その……」


“怖い人”とは言えず、言葉を濁す。


だがその女子ーー葵は気にしない。


「でもさ、中学のときサッカー上手かったって聞いたよ!

 天才ストライカーだったって!」


そして俺に向き直り、真正面から聞いてきた。


「ねぇ、榊原君。どうしてサッカー辞めちゃったの?」


「……うるせぇ。失せろ」


胸の奥がざわついて、思わず睨みつける。


「ほら葵!やめなって!

 ごめんね榊原君、この子昔から変だから気にしないで」


「変じゃないよ!!」


葵は振り払うように前へ出てきた。


「ねぇ榊原君!今度の土曜日暇?

 地域のサッカーイベントがあるんだけど、人数足りないの。

 もしよかったら手伝ってくれない?」


葵の距離感はバグっていた。


「何言ってんだ。俺がやるわけねぇだろ。

 サッカー部にでも頼め」


「サッカー部、その日大会なんだって。

 他に経験者いないし……ダメかな?」


「俺はもうサッカーは辞めた。

 あんなもの二度とやらねぇ」


「どうして?

 サッカー、嫌いになっちゃった?」


その一言が、

胸の奥の“触れられたくない場所”に刺さった。


反射的に睨みつける。


「ほら葵、いい加減にしなよ!

 榊原君困ってるから!」


クラスメイトが慌てて葵の手を掴む。


だが葵は動じない。まっすぐ俺を見る。


「……もしかして榊原君、

 サッカーが“怖い”の?」


心臓が跳ねた。

呼吸が一瞬止まる。


「は?何言ってんだ…お前…?」


「違うなら別にいい。

 私には、ただそう見えただけ」


葵はポケットから紙を取り出し、俺の机にしっかりと置いた。


「これ、時間と場所。

 今度の土曜日、待ってるから」


言い切ると、

葵は何事もなかったように笑って教室を出ていった。


気づけば、クラス中の視線がこちらに向いていた。

不良の俺に、誰かが真正面から話しかけたのが

珍しかったのだろう。


「……ちっ」


俺は紙を握りつぶし、後ろへ放り投げた。


頬杖をついて窓の外を見る。

相変わらず、重たい曇り空。


なのに――


『サッカーが怖いの?』


その言葉だけが、何度も何度も頭の中で反響した。


「……むかつくな」


胸の奥が、久しぶりにざわついていた。


次の日。

俺は授業をサボって屋上で寝転がっていた。


曇り空。

風の音だけが、やけに大きい。


「――あ、いた!」


聞き慣れない声に、まぶたが勝手に開いた。


そこにいたのは葵だった。

息を切らしながら、まっすぐこっちへ走ってくる。


「やっと見つけた!」


「………」


俺は無言で睨むでもなく、ただ見返した。


葵は俺の隣に立ち、柵の向こうを覗き込む。


「わぁ……ここ、すごく眺めいいんだね!」


本気で感動している顔だった。

思わず鼻で笑う。


「はんっ。何言ってんだよ。どう見ても曇ってんだろうが」


「うん。でもいい眺めだよ。

 晴れてたら、もっと綺麗なんだろうなぁ」


その言い方があまりにも自然で、

俺は一瞬だけ言葉を失った。


「……で?何しに来た。

 サッカーの誘いなら断ったろ。

 さっさと帰れよ」


「うん、断られたね。でも――」


葵は俺の目をまっすぐ見た。


「私、まだ納得してないから」


「は?」


「お願い。人数が足りないの。

 どうしても榊原君に出てほしい」


その言葉が、小学校時代の記憶と重なって胸がざわつく。


「ふざけんな。俺を頼んじゃねえ!

 やらねぇって言っただろ」


「どうして?」


その一言が、また心の奥をかき乱す。


答えようとした瞬間――


キーンコーンカーンコーン。


チャイムが鳴った。


「あっ、やば。戻らないと!」


葵は慌ててドアへ走り出す。


「また来る!」


(……また来る?)


あまりに当然のように言われて、思考が止まる。


「は?おい、ちょ、待てって!」


バタン。


言い終わる頃には、葵の姿はもうなかった。


屋上に取り残され、俺は額に手を当てる。


「……何なんだ、あいつ」


曇り空は相変わらず重たいままだったのに、

胸の奥だけが、妙に落ち着かなかった。


次の放課も、その次の放課も、

さらにその次の日も。


時間さえあれば、葵は必ず俺のところへ来た。


俺は無視し続け、返事もしない。

目も合わせない。


それでも葵はやって来る。


海外サッカーの話。

おじいちゃんが教えている学園のサッカー部の話。

昔の名選手の話。

今度の大会の話。


延々と、サッカーの話ばかりを楽しそうに話す


俺はその葵の話に耐えていた。

ただ黙って聞き流していた。


だが――

胸の奥では、ずっと何かが軋んでいく。


サッカーから逃げた自分を、

葵に責められているような気がしたから。


そして金曜日。

葵はいつも通り、俺の前に現れる。

いつも通り、楽しそうにサッカーの話をしていた。


「それでね、その時スペイン代表の――」


その瞬間、

俺の中で何かがぷつんと切れた。


「……うるせぇな」


葵が言葉を止める。


「だからサッカーなんかやらねぇって言ってんだろ!!」


屋上に俺の怒鳴り声が響いた。

自分でも驚くほど大きな声だった。


葵はびくっと肩を震わせ、

目を丸くした。


「……あはは、びっくりしたぁ……

 榊原君ってそんな大きな声出せるんだ……

 まるで大砲みたいだったよ……

 あはは……意味わかんないか……」


笑おうとしている。

でも、声が震えていた。


そして――

目に涙が浮かんでくる。


必死にこらえているのが分かる。

唇を噛んで、笑顔を保とうとしている。


「……そうだよね。嫌だったよね……

 駄目だね、私……

 昔からこういう加減わかんなくて……

 それで、いつも……」


言葉が途中で途切れた。


ぽたり、と涙が落ちる。


葵は慌てて袖で拭おうとするが、

次の涙が追いかけるように頬を伝う。


「……ごめん」


それだけ言い残し、葵は屋上のドアへ向かった。


バタン。


閉まる音が、やけに重く響いた。


その直後――

ぽつ、ぽつ、と冷たいものが頬に落ちる。


雨だった。


曇り空が、ついに泣き出した。


葵が持っていた紙が、

地面でじんわりと濡れていく。


俺はそれを拾い上げ、

空を見上げた。


「…冷てぇな」


雨粒が顔を濡らしていく。

それが雨なのか、別の何かなのか、

自分でもよく分からなかった。



【後書き】


不良が更生するスポーツってサッカーじゃなくてバスケだよね!


お読みいただきありがとうございます!


読んで下さったあなたはヒーローです!


ブクマされたら泣いて喜びます!


気軽に感想、コメントお待ちしております♪


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