29. そんなもの、何もないだろ?
【前書き】
世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫恋。
二年生とのサッカーバトルに巻き込まれた恋。
勝敗は決し、恋の心の靄が軽くなる。
しかし、着々と暗闇の霧は増していく…
歓声は未だ止まない。
グラウンドの空気は、まだ火がついたままだった。
その声を背に、俺はゆっくりと二年の方へ歩き出す。
剛田は逃げた。
残っているのは佐伯と、取り巻きの二年数名。
残った二年生を挑発する。
「で?先輩くんたち、
負けたんだから――謝りなよ、青斗と小鳥遊に」
その一言で、空気が一瞬止まる。
佐伯の顔がみるみる赤くなる。
「……は?誰が――」
「約束したよな?
“負けたら謝る”って」
俺は一歩、佐伯に近づく。
佐伯は歯を食いしばり、
悔しさと恥ずかしさで顔を歪めた。
「……チッ……うるせぇ……」
それだけ吐き捨てると、
佐伯は取り巻きの二年を引き連れ、
そのままグラウンドの外へ逃げていった。
背中は完全に敗者。
俺は思わずため息をつく。
「それが先輩の背中なのかよ…」
その瞬間。
「すごかった!!」
ぱぁっと光が差すように、葵が前に飛び込んできた。
目がキラッキラしている。
「鳴紫くん、本当に初心者なの!?
あの走り、どう見ても経験者だったよ!!」
俺は胸を張って答える。
「もちろん初心者!
体育では多少やったことあるけどな!」
「体育だけであれは無理だよ!!
すごい才能!!是非、うちに入ってみない?」
「誘いは嬉しいが、辞めておくよ。
俺にはやるべき事がある」
「やるべき事?」
「あぁ。この学園の平和を守るんだ。
そのために、悪党をぶっ飛ばす。
俺はもう現実から逃げない」
葵はぽかんとした顔になる。
そこへ青斗が歩いてきた。
「……部内の問題に巻き込んでしまってすまなかった。
改めて礼を言う。ありがとう、恋」
俺は微笑む。
「何言ってんだ。俺とお前は友達だろ?
友達を助けるのは当たり前だ。
それが俺の美学だからな。
それに……」
少しだけ言葉を呑み込む。
青斗が不思議そうに見つめてきた。
(今回はお前の助けになれてよかったよ)
「いや、何でもない」
それ以上は言わなかった。
これは恩返しじゃなく、ただの友情にしたかったから。
青斗はふっと笑う。
「本当に変わったな、恋」
「そうか?俺は元々こんなだ。
元からかなりカッコよかったと思うぞ!」
「本当変わってる…」
葵が少しだけ苦い表情で言った。
俺は空を見上げた。
「サッカーって、こんなに楽しいんだな。
おかげでなんか色々吹っ切れたよ」
葵が嬉しそうに笑う。
「二人とも、すごく楽しそうだったよ!」
青斗も微笑む。
「そういえば、気になってたんだけど……
三年生はどこ行ったんだ?
五月だし、まだ引退してないよな?
部員がここまで揉めてるのに放置ってあるか?」
その疑問に、葵は一瞬だけ目をそらした。
「それは……」
言いづらそうにしている葵の代わりに、青斗が口を開く。
「三年生は練習に来ない。
小鳥遊監督と揉めたからな」
「小鳥遊……監督?」
眉が動いた。
葵が小さく手を挙げた。
「うん。小鳥遊 一。私のおじいちゃん。
この学園のサッカー部の顧問兼監督なんだ」
「へぇ、すげぇな。
でも……揉めたって何だ?」
俺の問いに青斗が淡々と続ける。
「練習方針で意見が割れた。
どっちも引かなかった結果、三年はボイコット状態」
葵は苦笑いする。
「あはは……おじいちゃん、頑固だからね」
俺は腕を組み、少し考えるように言った。
「なるほどな。
で、その監督は今どこに?」
青斗が短く答える。
「揉めた直後に体調を崩して入院してな。
だから今は実質、二年がトップというわけだ」
「……で、見ての通りのザマってわけか」
葵が肩を落とす。
「もともと二年は三年ほどやる気があったわけじゃないし……
ずっと穏便に済ませようとしてたんだけどね」
俺は小さく息を吐いた。
「そりゃ、限界も来るわな…」
青斗が頷く。
「あぁ」
「まぁ、何つーか……監督と三年が仲直りして戻ってきてもらうしかないな」
そう言うと、葵は苦笑いした。
「おじいちゃんが素直に謝るかなぁ……」
「このままだとまともに練習できないだろ?
少なくとも何かしらの対策は講じないと……」
俺は葵を見ながら続けた。
「……いや、別に悪く言うつもりはないが、
でも、こうもバラバラだと……
“監督、勝たせる気なかったのか?”って
思われても仕方ない状況じゃねぇか?」
ほんの少しだけ柔らかく、でも核心は外さない言い方。
葵は一瞬だけ目を丸くしたが、何も言えずに口を閉じた。
その空気を切り裂くように、青斗が低い声で言う。
「――違う」
俺も葵も、思わず青斗を見る。
青斗の目は真っ直ぐだった。
「監督はそんな人じゃない。
あの人は……俺の恩師だ。
どうしようもなかった俺を、救ってくれた」
その言葉には、
俺も葵も口を挟めない“重さ”があった。
「……悪い。
お前らの前で言うことじゃなかったな。
ただ、何かしら動かないとって思っただけだ」
青斗は深く息を吐き、少しだけ表情を緩めた。
「……わかってる。
俺も、どうにかしたいと思ってる」
葵は静かに微笑んだ。
ーー
「クソッ!!一年の分際で……!」
夕方の光は消え、路地裏はすっかり暗くなっていた。
人の気配はない。
剛田の荒い息だけが響く。
さっきの青斗の冷たい目が脳裏に焼き付いて離れない。
(……なんだよあの目……)
思い出しただけで背筋が震え、剛田は頭を振って振り払う。
「クソッ……イライラする……!
絶対イカサマだ。そうに決まってる……!」
そのとき。
「あれれ〜?見た感じ、かなり荒れてるようだけどぉ。
君、大丈夫?」
「……あ?」
前を見ると、さっきまで誰もいなかったはずの路地に、
同じ学園の制服を着た女子生徒が立っていた。
小柄で、ツインテール。
俗に言う地雷系の雰囲気をまとった少女。
剛田は眉をひそめる。
「何だお前?」
少女は逆に胸を張った。
「君こそ何だい!
あんな間抜けな負け方しちゃって。
恥ずかしくないの?」
「はぁ!?いきなり何だテメェ!
喧嘩売ってんのか!?」
煽り耐性ゼロの剛田は即反応する。
少女は大げさに肩をすくめた。
「喧嘩ぁ?やだ怖い!
みぃはそんなの無理無理、シクシク〜」
「は?何言ってんだ……?」
「いや、そこはさぁ、
『そうだね、みぃたんにそんなことはさせられないね』
って返すところでしょ?」
「……本当に何なんだよお前!!何しに来た!?」
少女はぱっと表情を明るくした。
「よくぞ聞いた!
どうやら君、お困りのようだからね〜。
みぃが助けてあげようかなって♡
あいつらに勝ちたいんでしょ?
みぃなら勝たせてあげられるゾ!」
剛田は鼻で笑う。
「はんっ。どうやってだよ?
お前が俺にサッカー教えるってのか?」
少女は鞄から何かを取り出し、
勢いよく掲げた。
「ジャジャーン!!これな〜んだ?」
「……スパイク?」
「正解っ!
この世で十二個しかない“武器”のひとつ!
これを君にあげよう♡」
そう言って、スパイクを剛田に放り投げる。
「受け取れい!」
剛田は反射的にキャッチした。
そのスパイクからは禍々しい何かを感じる。
少女はにやりと笑う。
「それを履けば、君の“欲望”は全部叶うよ。
思いのまま。
君は“可能性”になるんだ」
「そんなもん信じるかよ!!
第一、なんで俺に――」
その瞬間。
少女の雰囲気が変わった。
さっきまでのふざけた態度が完全に消え、
声の温度も、目の色も、別人のように冷たくなる。
少女の声が、路地裏の空気を一変させた。
「君の憎悪はそんなものだと言うのか?
君の名誉はそんなものなのか?
君という人間の限界はそんなちっぽけなもので終わるというのか?」
その目に吸い込まれそうになる。
剛田は思わず息を呑んだ。
少女は一歩近づき、淡々と続ける。
「あの後輩に敗北したまま、何の価値も見出せず、
このまま一生敗北感を背負い続ける覚悟が君にはあるのかい?」
「……っ」
「打開する機会を棒に振ってまで、
君が成し得たいこととは一体何だい?
人生を手放してまで、君が求めるものとは何だい?」
少女は首をかしげ、冷たく笑った。
「――そんなもの、何もないだろ?」
剛田の喉がひゅっと鳴る。
「だから君は今、
命懸けでその敗北感を取り除かなければならない。
さぁ、使え!君の可能性を見せてよ!」
剛田は圧倒される。
剛田は圧倒され、取り憑かれたように手の中のスパイクから目が離せなくなる。
「これで……俺はあいつらに……
俺の人生が……」
完全に釘付けだった。
少女はくすりと笑い、最後に一言だけ告げる。
「ただね。
“可能性”を見出せなくなったら――
君は閉望性になって、消えてもらうゾ?」
次の瞬間、少女の姿は暗闇に溶けるように消えた。
剛田はスパイクを握りしめたまま、
その場に立ち尽くしていた。
【後書き】
やっと武器二個目!!十万字超えて二個目…
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