28. その名は勇気
【前書き】
世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫恋。
恋を探すため、心当たりのある場所を探す赤羽剛。
そんな中、倉庫から突如聞こえてくる悲鳴!
恐る恐る倉庫を覗くと、
そこには、想像を絶する光景が繰り広げられていた。
剛は無事にこのピンチを乗り越えることができるのか!?
「――最後に言い残すことは?」
体育館裏の倉庫。
初めて人の死を実感し、未だ呼吸すらできず、俺は床に手をついてただただ項垂れていた。
「……っ、は……っ……っ……」
喉が焼ける。
胸が締め付けられる。
視界が揺れる。
目の前の金髪のこの男はそんな俺の前にしゃがみ込み、不敵に笑う。
「マジで大丈夫?お前?
最後がこれって可哀想すぎて泣けてくる!
だからさ、ほら。
“遺言”ってやつだけ聞いてやるよ♪」
「……っ……あ……」
声にならない。
喉が震えるだけ。
そいつが首を傾げる。
「ん?何?
もっとはっきり言わないと。
どうせもうすぐ死ぬんだしさ♪」
必死に唇を動かす。
「……あ……ん……ぶ……!」
その瞬間、奴の目が細くなった。
「は? あんぶ?
お前今、“暗部”って言ったのか?」
空気が変わる。
こいつの表情は、笑っているのに笑っていない。
「どうしてそう思った?
ひょっとしてお前……」
それから、周囲をゆっくり見回す。
(片手に鉄パイプ……?
ただの通りすがりかと思ってたが……
当たりか♪)
「なるほど。
お前も“あいつ”に雇われてた部下の一人か」
楽しそうに続ける。
「佐藤タカシの仇討ちに来たのか?
初めてだなぁ、あいつの部下が復讐に来るの♪
あの傭兵以外にも慕われてたんだ」
「………!!」
その言葉が、俺の胸を一気に締め付ける。
今まではただの憶測でしかなかった。
妄想の域を出ない“都市伝説”だった。
だが――
たった今、確定した。
ーー暗部は実在した。
(……は?
それに……今、こいつ……何て言った?)
「仇討ち……」
思わず声に出る。
震えた、掠れた声で。
(仇討ち……?
仇討ちって……死んだやつの仕返し……)
暗部の男は軽く笑った。
「あぁ。
あいつは幸せそうに死んでいったよ。
最後に笑ってたなぁ。
不気味だよな? 死ぬ時に笑うなんて♪」
その言い方があまりに軽くて、
胃がまたひっくり返りそうになる。
「ところでさ?
あいつの持ってた“小手”、知らない?」
そして、肩をすくめ、真顔で問いかけてくる。
「佐藤君タカシに関わってた奴ら、
片っ端から聞いて回ってんだよ、俺。
しょーじき偉いと思わない?
あずあずの頼みじゃなかったら
こんな面倒いこと絶対にやらない」
俺は黙って淡々と聞いている。
「でさ、みんな“知らない”って言うんだ。
あいつが持ってた“小手”のこと。
だけどーー」
突然、指を一本立てた。
「一つだけ、気になる情報があった」
「………!!」
「昨日、一年生がここに乗り込んできたって話。
倉庫にね。
それがあら不思議♪
上の連中が“あいつに可能性がなくなった”と騒ぎ出したタイミングと、ピッタリ重なるんのよ」
呼吸が止まる。
こいつはわざとらしく思い出すように言った。
「確か……名前は……」
世界が遅くなったように感じる。
「鳴紫恋」
その名を聞いた瞬間、俺の中で何かが弾けた。
死の恐怖も、吐き気も、震えも――
全部、一瞬で吹き飛んだ。
(……恋……?
恋が……狙われてる……?)
目の前の男は無邪気に笑う。
「でさ、小手のこと知ってる?
もしくは鳴紫恋の居場所でもいいや。
言ってくれたら、
なるべく苦しまないように殺してやるよ♪」
「……くっ」
「ん?どーした?」
「くっ、ははは……」
「くっははは、はははは、ははははは!」
俺は腕で口元を拭い、大笑いを始めた。
目の前の男は目を丸くする。
「何々!?勘弁してよ、お前も恐怖で壊れたか?」
(あっぶねぇ……
このままだと立ち直れずに殺されるところだった……)
笑い終えると、俺はゆっくり立ち上がる。
さっきまでの震えは、自然と治っていた。
「タカシは……死んだのか?」
ようやく、普通の声が出た。
「え?あぁ、そうだけど……
急にどーした?
さっきまで吐いてたのに……
お前怖いよ……」
なぜかドン引きしている。
「俺はあんたが怖ぇよ。
人を殺して平然としてるあんたが…
人の死が、こんなに身近にあるなんて思いもしなかった…」
「平然じゃねぇーよ?
俺だってちゃーんと心は痛んでる。
でも仕方ねぇんだよ、“可能性”のためなら」
「可能性……?」
「そんなのどうでもいいでもいいっしょ。
で、知ってるの?知らないの?
早く答えてくれよ」
「知らねぇよ。
小手のことも……鳴紫恋のことも」
「なーんだ、残念。
じゃあ目撃者には退散してもらわないと♪」
俺は目を瞑る。
(なぁ、恋…
俺は多分ここで死ぬ。
敵う相手じゃねぇのは分かってる。
だけど……お前ならきっとこういう時……)
そして、目を見開いた。
その目には確かな覚悟が表れていた。
「ただまぁ――」
「……?」
「その名を聞くと、勇気が出る!」
自然と口角が上がり、笑いが込み上げてくる。
「そーか?」
暗部の男は首を傾け、一拍置いてから言った。
「まぁいいや」
手が淡く光り始める。
「死ね♪」
「死んでもやだね!」
俺は鉄パイプを構え、嫌な汗が額から首すじにつたう。
しかし、迷いは一切なかった。
(あぁ、翔……今度は逃げなかったぞ…
今ならみんな、俺を頼ってくれるかな)
ズバババババーン!!
白い閃光が倉庫内を包み
――やがて光は静かに消える。
グラウンドでは恋たちの勝利でまもなく試合は決着する。
それは、太陽が沈み始める、夕暮れ時の出来事だった。
【後書き】
倉庫を覗いただけなのに、、
お読みいただきありがとうございます!
読んで下さったあなたはヒーローです!
ブクマされたら泣いて喜びます!
気軽に感想、コメントお待ちしてます♪




