24. サッカーやろうぜ!
【前書き】
世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫 恋。
タカシの失踪。仲間との衝突。
さまざまな思いが重なり、戦いの傷は深まるばかり。
そこで出会ったかつての旧友。
彼との出会いが恋の物語を一気に加速させる。
「久しぶりだな、恋。何年振りだ?
確か小学校以来だったよな。元気にしてたか?」
青斗は俺に笑いかける。
「……あぁ。四年ぶりくらい?
青斗の方こそ、
怪我したと聞いていたが元気そうで良かったよ」
榊原 青斗。
小学校時代の旧友。
当時の俺は体が小さく、泣き虫で、よくいじめられていた。
そんな俺を助けたのが青斗だった。
俺はそんな青斗に密かな憧れを抱いていた。
強くて、優しくて、誰よりも速く走れる少年に。
だが――
中学に上がる前、青斗は突然転校した。
その後、耳に入ってきたのは
「怪我でサッカーを辞め、不良に転落した元天才」という噂だけ。
同じ学園にいることも風の噂では知っていたが、
実際に再会するのは本当に久しぶりだった。
青斗は少し沈んだ表情をしたが、
すぐに笑いながら俺の肩を軽く叩く。
「にしても、恋は……随分変わったな。
今は別人みたいだ。
ぱっと見お前だって気が付かなかった」
「青斗は…全然変わってないな。相変わらずだ」
「本当か?
周りからはかなり変わったと言われるけどな…」
「いや、あの頃のままだ」
胸の奥が少しだけ熱くなる。
“憧れ”が、また目の前に戻ってきたようで。
「ほら、青斗!!サボってないで、練習!練習!」
女子マネージャーが青斗の方に近づいてくる。
「あぁ、すぐに行く、葵」
そう言うと青斗は振り返る。
「悪い、呼ばれたから戻らないと。
もうすぐ練習終わるから、
その後久しぶりに少し話さないか?」
「あぁ。分かった。待ってる」
青斗は笑ってグラウンドへ戻っていった。
すると、青斗を呼んでいたマネージャー
ーー葵が近づいて来る。
「ねぇねぇ、そこの君。鳴紫くんでしょ!」
「ーー?」
「青斗と知り合いだったの?
あいつがサッカー部以外の人と話してるの
初めて見たんだけど」
「そうなのか?あいつとは小学校が一緒だったんだ。
その時は結構色んな人と話していたと思うけど?」
「えー!驚き!全然想像つかないや。
青斗今じゃ仏頂面だよ。頑固って言うかさ。
さっき楽しそうに話してるの見て、
びっくりしちゃった」
「変に大人びちゃってるのよねー、あいつ。
中学の時代色々あったから…」
「色々…?」
「あ、やばっ、私も練習戻らないと…
私の名前は小鳥遊 葵。
鳴紫くんまた青斗の話聞かせてね!」
彼女は一方的に話した後、
急いでグラウンドへ戻っていった。
サッカー部のマネージャーだけあって、
かなりエネルギッシュだ。
時間を潰すため、フェンスの近くにあるベンチに座り、サッカー部の練習を眺めることにした。
青斗は仲間と軽くパス交換を始める。
その動きは――
昔と同じ“天才”のそれだった。
トラップ、ターン、加速。
どれも滑らかで、無駄がない。
(……まるで怪我の噂なんて、嘘みたいだ…)
そう思った瞬間。
「青斗、いけー!」
仲間のスルーパスに反応し、青斗が一気に前へ抜け出す。
スピードが桁違いだ。
キーパーとの一対一。
青斗は一瞬だけ足を止め、相手の動きに合わせる。
シュッ。
軽く触れただけのインサイドキック。
だが、ボールは綺麗な弧を描き、
キーパーの指先をかすめ、
ゴールネットへ吸い込まれた。
「ナイス青斗ー!!」
部員たちの歓声が上がる。
俺は思わず呟く。
「……やっぱり、すげぇな」
その声には、懐かしさと羨望と、
ほんの少しの安心が混ざっていた。
だが胸の奥には、微かな罪悪感も残っている。
――青斗に走り方を教わって、文字通り、
虐めから逃げられるようになった。
青斗のおかげで俺の日々は変わった。
しかし、何も返せなかった。
逃げることに必死で、
気づけば青斗は転校し、互いにそれっきり。
その後に「青斗が怪我をしてサッカーを辞めた」
という噂が耳に入った。
(……その時、俺は何もしてやれなかった)
青斗のゴールを見つめながら、胸の奥が少しだけ痛むのを感じる。
(こんなタイミングで青斗に会うなんて……
過去の自分に向き合えと言われているみたいだ…)
その時。
「ちっ……一年のくせに調子乗りやがって……」
すぐ近くで舌打ちが響いた。
見ると、サッカー部の二年生が腕を組んで立っていた。
青斗のゴールに沸く一年とは対照的に、
その先輩の顔は露骨に不機嫌だ。
「おい一年!玉拾いしとけって言ったよなぁ?」
わざとらしい大声。
一年たちがビクッと肩をすくめる。
青斗も振り返った。
「すみません、剛田先輩。
今すぐ――」
「は?言い訳すんなよ。
お前、最近ちょっと調子乗ってねぇか?」
先輩――剛田は青斗の胸を指で突く。
その態度は、どう見ても“嫉妬”だった。
「いえ、そんなつもりはありません」
「聞いたぞ?
お前、怪我で二年間サッカー辞めてたんだってな。
天才様は余裕があっていいよなぁ?」
ベンチから黙って様子を見ていた。
(……二年間も!?……青斗……)
青斗が何か言おうとした瞬間、
剛田はニヤリと笑った。
「まぁいいわ。
そんなに上手いなら――証明してみろよ」
剛田は後ろの同学年を呼ぶ。
「おい、二対二やるぞ。
俺と佐伯 (さえき)vs お前と……そこの一年」
「お、いいねぇ〜」
佐伯が嬉しそうに反応する。
(二対二か……どうせ青斗たちの方が…)
俺は呑気にそう思った。
剛田は青斗と、もう一人の一年を指名する
ーーはずだった。
だが、剛田の指はなぜか真っ直ぐこっちを指していた。
「……え?」
俺は固まる。
「いや、恋はサッカー部じゃ――」
青斗が止めようとするが、剛田は鼻で笑って遮った。
「関係ねぇよ。“誰とでも勝てる”んだろ?
一年の天才くんよ」
周囲がざわつく。
剛田は、さっき俺が青斗が話していたのを見ていたようだ。
だから、わざと素人の俺を指名した。
完全に巻き込まれた形だった。
しかし、胸の奥で葛藤が渦を巻く。
いつもなら――
「俺に任せろ!」
「いや、俺以外に誰がいる!」
と真っ先に飛び込む場面だ。
だが今は違う。
(青斗を助けたい……
でも、今の俺はそんなことしてる場合じゃない。
タカシが……消されてるんだぞ……
暗部をどうにかしなきゃ……
剛たちにも危険が及ぶかもしれない……)
思考がぐちゃぐちゃに絡まり、動けない。
そうしている間にも、青斗は先輩へ頭を下げる。
「申し訳ございません先輩。
部外のやつに迷惑はかけられません。
メンバーを変えていただけないでしょうか?」
剛田は鼻で笑った。
「へぇ〜?先輩に楯突くんだ。
それとも“素人”が味方だと負けるのが怖いのか?
とんだ腑抜けだな。――見損なったよ、天才くん」
その言葉に、俺は肩がピクリと揺らした。
「ちょっと先輩!いくら何でも酷くないですか?
そもそも、今は一年のボール拾いの時間じゃ――」
見かねたマネージャーの葵が割って入る。
だが剛田は睨みつける。
「あぁ?マネージャーが口出すなよ。
サッカーもできねぇ素人が偉そうに。
それにお前一年だろ?
もっと先輩を敬え。……敬い方を教えてやろうか?」
「と……とにかく……青斗たちは……」
葵は圧に押されて後ずさる。
青斗のこめかみがわずかにピリつき、
すぐに葵の前へ立った。
「先輩。俺が調子に乗っていたのなら謝ります。
本当に申し訳ありませんでした」
深く頭を下げる。
「ですが――
葵は何も間違ったことは言っていません。
先輩にそこまで言われる筋合いはない。
無礼を承知で申し上げます。
葵に謝罪してください」
剛田の表情が歪む。
「あ?謝れだぁ?
誰に向かって口きいてんだこのタコ。
本当に調子乗ってんな。もう一回、
お前の大事な足を使えなくしてやろうか?」
それでも青斗は頭を下げたまま動かない。
「申し訳ございません。
それでも……葵にだけは謝ってやってください」
「青斗、もういいよ私は……」
葵が青斗の肩に触れようとした、その瞬間。
俺は勢いよく立ち上がった。
「あぁ〜〜本当に見損なったよ。
何やってんだ俺!
ダサい、ダサい、ダサい、ダサい……
ダサすぎて死にたくなる!」
突然の叫びに、全員が振り向く。
脳裏に、剛の言葉がよぎった。
『お前にはガッカリだ』
俺は自嘲気味に笑う。
「……ふん、本当、その通りだよな」
(俺の憧れがピンチだってのに……
暗部がどうだとか、タカシがこうだとか。
結局、暗部に怖気付いてただけだろ?
きっと、その心の弱さでさえも
あいつらのせいにして言い訳してた)
(――だから、もう逃げねぇ)
「あ?何言ってんだ、お前」
剛田が眉をひそめる。
ゆっくりと歩き出しながら言い返した。
「何言ってんのはこっちのセリフだよ、先輩くん。
そんなに偉そうに言うなら――
見せてくださいよ。“先輩の威厳”ってやつを」
青斗が目を見開く。
(……これが、あの恋?)
剛田が鼻で笑う。
「おお?何だお前。
二対二やる気なのか?
ド素人が?サッカー部相手に?」
「そうだよ。
敬わせてくれるんでしょ?
“お前みたいな先輩くん”を」
後ろで佐伯が怒鳴る。
「おい一年!後悔してもしらねぇぞ!
逃げるなら今のうちだ!」
俺は青斗の元へ歩み寄り、その肩に手を置いた。
「…もう逃げねぇよ」
青斗が息を呑む。
そして、剛田たちに向き直り、胸を張って啖呵を切る。
「御託はいい!本気で来い!
サッカーやろうぜ!その方が燃えんだろ!」
そして、剛田を指差し、こう叫ぶ。
「ーー天才 × ナルシスト!夢のタッグの共演さ!」
こうして、
急遽“ニ対ニのサッカー対決”が始まる――。
【後書き】
今年、ワールドカップだね!
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