表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/26

18. 暗部

世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫恋なるしれん


ついにタカシとの決戦が幕を開ける!!


舞台は倉庫からグラウンドへ。

彼が抱えてきた“空っぽの過去”が、

今まさに姿を現そうとしている――。


果たして、

彼を倒してほのかを助け出すことができるのか!?



グチャッ


「ぐはっ!」


恋の拳がタカシの腹に重い衝撃を放つ。


タカシは膝が沈み、息が漏れる。


もがき苦しむ声と共に痛々しい肉を抉る音が

グランドに響く。


そこには先ほどまでの暖かい恋の面影はなく、

ただただ無機質で冷たい。


まるで空気そのものが張り詰めるような気配。


タカシはその変化に気づきながらも、

腹を手で押さえ、余裕を装って笑う。


「こ…これは効くねぇ…中々やるじゃないか?鳴紫」


恋は答えない。


ただ、ゆっくりと歩み寄る。


タカシは小手を構え、

挑発するように言葉を続ける。


「ほのかさんはお前じゃ助けられない!

 無駄だよ。僕が勝つ!

 全部僕のものだぁ!」


恋は無言のままタカシを見つめて立っている。


タカシは焦りをごまかすように笑う。


「どうした? 何か言ったらどうだ?

 黙ってたら……何もわからないだろ?」


タカシは腕とお腹の痛みを我慢しながら

左手で右腕を支え、恋に向けて波動を飛ばす。


その瞬間、恋の姿がふっと消えた。


「――っ!?」


タカシの頬に衝撃が走る。

視界が揺れ、身体が横に弾き飛ばされる。


「うぐぅっーー!!」


地面に転がりながら、タカシは必死に立ち上がる。


「……は、速……っ……!」


恋はもう目の前に立っていた。

無言のまま、ただタカシを見下ろしている。


「く、くそが……!」


タカシは震える腕で小手を目の前で構え、

必死に強がる。


「僕は……負けない……!

 百二十ギガニュートン!!」


タカシが波動を放つ。自分の身を削りながら。


恋は軽く身をずらし、

タカシの波動は恋を通り過ぎ、後ろで爆発音がする。


次の瞬間、恋の膝がタカシの腹にめり込む。


「――ッッ!!」


タカシの身体が折れ、

膝をつく。


「はぁ……はぁ……っ……くそ…………!」


恋は無言のまま、

膝をついたタカシの顎を思いっきり蹴る。


ただ“倒すべき相手”を処理しているだけに見えた。


声にならない痛みがタカシを襲う。


「げほっ…げほっ…」


タカシは必死に何かにすがる。


「僕の方が強い……!

 僕には金がある……!

 僕には力がある……!

 僕は……僕は……!」


「……」


ほのかは二人の闘いを遠くから見ている。


タカシは歯を食いしばり、

血を吐きながら立ち上がる。


「僕は……負けない……!僕は……!」


グワァンッ!!


「……っ!」


立ち上がろうとした瞬間、

恋の拳が横から叩きつけられた。

視界が大きく揺れる。


(ふっ……本当……散々だな……僕の人生……)


ーー


幼い頃から、両親はいつも忙しかった。


「お父様! 今度の休みの日……」


「あぁ、その日な。父さん仕事入っちゃったんだ。

 悪いけど、また今度な」


「それは残念ですね! 分かりました!」


僕はいつものように答える。


「ごめんな、せっかく約束してたのにな」


両親が忙しくて遊びに行けないなんてよくある話だ。

特別なことじゃない。

誰にでもある、普通のこと。


「お母様! 今日のご飯は何ですか?」


「あぁ、ごめんねタカシ。

 お母さんこれから出かけなきゃいけないの。

 夜遅くなるから、

 これで好きなもの買って食べてね」


母はいつものように僕にクレジットカードを渡す。


「ありがとうございます! 嬉しいです!

 これで美味しいものを買いますね!」


「食べ過ぎちゃダメよ?」


「もちろんです!

 気をつけて行ってらっしゃいませ!」


――子供ながらに思っていた。


これが“正しい家族の在るべき形”なのだと。

これ以上を望んではいけない。

他所よそと比べても恵まれているのだから、と。


でも胸の奥に、小さな引っかかりは確かにあった。


「今日……僕の誕生日なんだけどなぁ……」


広い部屋の中にぽつんと取り残され、

自分だけが息をしていないような感覚に陥った。


ーー


中学に上がる頃には、

両親の関係は日に日に悪くなっていった。


「昨日の帰り遅かったけど、

 あなたどこ行ってたの?」


母が父を問い詰める。


「え? 昨日? あぁ、仕事だよ。

 トラブル対応で遅くなっただけだって」


「違うでしょ?また女と飲んでたんでしょ?」


「何を根拠に?」


「あなた、嘘つく時だけ目を合わせないじゃない」


「ちっ、うるさいな。別にいいだろ?

 俺が稼がなくても、お前だって稼いでるんだから。

 俺がいなくても困らないだろ?」


「あなた!タカシの前でそんなこと言わないでよ!

 タカシはまだ小さいんだから!」


「タカシは十分大人だ。

 お前はいつも男を見下しやがって」


「そんな言い方ないでしょ!

 見下してなんてないわよ!」


「そうかよ。分かりましたよ。

 どうせ俺は金だけ稼げれば文句ないんだろ?」


父の声は投げやりで、母の方を見ることすらしない。


「そんなこと言ってないでしょ!

 私は……私はただ……タカシの前でくらい……!」


「タカシの前で?お前こそ、

 タカシを言い訳にしてるだけじゃないか」


「はぁ!? 何それ……!」


二人の声はどんどん大きくなり、僕もまた、

自分の存在がその場から消えていくような

輪郭がぼやけていく感覚に襲われた。


僕はじっと食卓の端で静かに座っていた。

大人しくしていたら、いずれ終わるから。


(…またか)


母も父も、僕の方を一度も見ない。


「タカシは十分大人だ」と父は言う。

「タカシはまだ小さい」と母は言う。


どちらも、僕の気持ちを見てなどいなかった。


僕は、思っていた。

“どちらの言葉の僕も、僕のことではない”と。


二人が言っているのは、僕ではなく、

“自分たちの中で作られた都合の良い僕”

でしかなかった。


「僕はここにいるのに……」


さらに日を追うごとに、

両親の喧嘩は過激になっていった。


皿が割れる音。

怒鳴り声。

泣き声。

ドアが乱暴に閉まる音。


僕はいつも、自分の部屋で耳を塞いでいた。


「……僕は……ここにいるのに…」


そしてある日、突然だった。


「タカシ……ごめんね。

 お父さんとは……もう一緒に暮らせないの」


母はそう言った。

泣き腫らした目で、僕の頭を撫でようとしたが――

その手は途中で止まった。


触れ方を忘れた人のように。


「……そうですか。分かりました。

 とても残念ですが…仕方ありませんね!」


僕は笑った。

笑うしかなかった。


母はそれ以上何も言わなかったが、

何か怪訝な顔を僕に向けた。


(じゃあ、どうしろっていうんだよ…)


父は荷物をまとめ、

僕の方を一度も見ずに家を出ていった。


「じゃあな」


その一言だけ。


僕は玄関で立ち尽くした。


(……なんだ……僕は……いらなかったんだ)


それから、家は静かになった。

思っていた結果とは少し違うけれど、

望んでいた静けさが訪れた。

静かになりすぎるほどに。


母は仕事に没頭し、帰りはさらに遅くなった。


机にはいつものように

クレジットカードが置かれている。


僕はそれを手に取る。


「ありがとうございます。

 大丈夫です。僕は平気ですから!」


無感情に誰もいなくなった部屋で呟く。


平気じゃなかった。


広い家。

静まり返ったリビング。

冷めた空気。


金だけが残った家は、以前よりもずっと寒かった。


「本当…これ……美味しいなぁ」


僕は何を食べても満たされなかった。


その感覚は、両親が離婚してからさらに強くなった。


母はさらに仕事に没頭し、父の教育費も相まって

家には金だけが増え続ける。


僕は満たされるためにその金を使い始めた。


最初はゲームの課金だった。


「うおっ……!SSRだ!

 やった……!やっと出た……!」


画面が虹色に光り、レアキャラが派手に登場する。


「ふふ……これで僕も最強だ……!」


その瞬間、心の底から嬉しかった。


次は高い服。


「これください。あ、こっちも。それとそれも」


紙袋を両手いっぱいに提げて帰る。


鏡の前に立ち、新しい服に袖を通す。


「……おぉ……!似合ってる……!

 僕、案外イケてるじゃないか」


そう思えて、嬉しかった。


最新のガジェットも買った。


「新作のスマホ? 二十一万!!

 パソコンも。タブレットも。

 どうせなら全部最新で」


箱を開ける瞬間、胸が高鳴る。


「うわ……すごい……!カッコいい……!」


新品の匂いも光沢の手触りもとても興奮した。


ゲームも、ブランドも、ガジェットも――


その一つ一つが、確かに僕をワクワクさせた。


それでも、僕の胸の奥の空洞は何一つ埋まらない。


(……もっと……もっと満たされたい……)


やがて僕は、金で人を動かすことを覚えた。


最初は偶然だった。


「なぁ佐藤。

 この前のテストのプリント、

 コピーして持ってきてくれよ。千円やるから」


前の席のやつが僕にそう言ってきた。


「千円?

 ……まぁ、いいけど」


僕にとってはたかだか千円だったが、

渋々その提案を受け入れた。

金が貰えるから。


その瞬間、胸の奥がざわりとした。


(……あぁ、そうか。金を払えば、人は動くんだ)


それからは早かった。


放課後、校舎裏。

数人の不良がたむろしている。


僕はためらわず近づいた。


「君たち、暇だろ?

 ちょっとした“仕事”を頼みたい。

 報酬は……これくらいでどう?」


財布から数枚の札を出す。


不良たちの目が変わった。


「……マジかよ。こんなにくれんの?

 危ないことじゃねぇだろうな?」


「もちろん。その代わり、

 僕の言うことはちゃんと聞いてもらう」


「……へっ、いいぜ。お前、面白ぇな」


その瞬間、タカシの胸に小さな快感が走った。


(命令すれば動く。金を払えば従う)


その日から、

不良たちはタカシの後ろを歩くようになった。


「佐藤さん、今日どうします?」


「何か指示あります?」


僕は笑う。


「君たちは今日から僕の“部下”だ。

 僕が望むことを、僕の代わりにやってもらう」


部下たちは顔を見合わせ、そして笑った。


「了解っす、"ボス”!」


その呼び方が、僕の胸を妙に満たした。


(……これが“僕の価値”なんだ……)


そう思い込むようになった。


しかし、それでも何かが欠けていた。


ある日の放課後。

僕は部下たちに囲まれながら歩いていた。


「ボス、今日どうします?」

「次の指示、あります?」


彼らはニタニタ笑っている。

だが、その笑顔はどうにも嘘くさい。


(……分かってる。

 こいつらが見てるのは僕じゃない。“金”だ)


「そうだな……次の指示は――」


言いかけた時、

前を歩くクラスメイトの女子が目に入った。


友達と肩を寄せ合い、楽しそうに笑っている。


「ねぇ聞いてよ〜、今日さ、あの子がさ……」

「えー!それめっちゃ嬉しいじゃん!」


その自然な笑い声に、僕は思わず足を止めた。


(……あれは……僕には、ないものだ)


部下たちの「了解っす!」という声は、

その笑い声とはまるで違う。


命令すれば動く。金を払えば従う。


でも――


そんなものが欲しいんじゃない。


(……満たされたいだけじゃ足りない……

 僕は……“愛されたい”んだ……)


僕は“満たされたい”という思いを、いつしか

“愛されたい”という願望にすり替えていった。


「よし。次の指示を命令する」


それから僕は、

少しでも気になった女子に片っ端から告白した。


「僕と付き合ってください。君を幸せにできます」


だが、誰も僕を選ばなかった。


優しくしても、笑顔を作っても――

誰も僕を受け入れなかった。


(……なんでだよ……

 僕は……こんなに頑張ってるのに……)


金をちらつかせれば選ばれるかもしれない。

だけど、それでは意味がない。

部下たちと同じだから。


だから今回は金には頼らない。


しかし、断られるたびに、

胸の空洞は広がっていった。


僕は焦り、苛立ち、そして――歪んでいった。


「……僕の価値を分からせないと……」


そう呟いた瞬間、胸の奥で何かが軋んだ。


僕は部下たちに、

気になる女子へ“圧力”をかけるよう命じ始めた。


「ちょっと話してこい。

 強く言えば、考えも変わるだろ」


直接殴らせるわけじゃない。

直接金を渡して買収するわけでもない。


僕はそう自分に言い聞かせた。


「これは暴力じゃない。ただの説得だ。

 ……そうだろ?」


お題目を立てて、自分を納得させようとした。


だが実際には――


部下たちが目の前に立つだけで、

彼女たちは怯えた顔を見せた。


その一線を、

僕は静かに踏み越えてしまったようだった。


---


そんな時だった。


僕の前に、“暗部”を名乗る男が現れた。


「お前? 金持ちなんだって?

 いいなぁ〜、俺にも少し分けてくれよ♪」


チャラい金髪。うちの学校の制服。

そして、異様に赤い目。


「ボスに近づくな!」


僕の部下の一人がそいつに襲いかかる。


しかし、そいつは一歩も動かず回し蹴りで

部下を沈め、その上に平然と座り込んだ。


(……何だこいつ)


「一体何の用だ?

  僕の部下になりたいようには見えないが…」


「お前の部下? あはは、死んでもごめんだね!

 俺は束縛とか無理。自由が一番っしょ♪」


軽い口調なのに、妙に底が見えない。


「だけどさ〜、お前、

 面白いことしてるらしいじゃん?

 告白しまくって、振られたら部下に襲わせるって?

 好きな相手にそんなことするなんて……

 まじウケるんだけどww

 そんなんだから振られんじゃんww」


そいつは腹を抱えて笑った。


「バカにしに来たのか?」


「バカにする? 逆だよ〜。

 そんな面白い奴、放っとけるわけないっしょ!

 だから“協力”しに来たの♪」


「協力? どうやって?」


「これ、やるよ♪」


そいつは赤い何かを僕に放り投げた。

両手で受け止めると、

それは“武器のような小手ガントレッド”だった。


「そいつは、この世に十二個しかない武器の一つ。

 超レア。超危険。超最新。

 お前の欲望を、

 極限まで引き出してくれるはずだよ♪」


確かにこの小手から、禍々しい気配が滲み出ていた。


「……何で僕にこれを?

 あぁ、金で買えってことか?

 悪いけど、こんな得体の知れない物はいらない。

 返品――」


「金? そんなのいらねぇよ」


そいつは僕の言葉を遮った。


「俺が見たいのは“可能性”だ!

 "俺たち"はただのスポンサー。

 さぁ、その武器で……

 楽しいショーを見せてくれよ!!」


赤い目が妖しく光る。

僕は思わず圧倒され、息を呑んだ。


「じゃ、それ渡したかっただけだから帰るわ。

 またね〜。

 暗部はいつでも“可能性”の味方だから」


そう言って背を向けた男は、

ふと立ち止まり、振り返る。


「あ、そうそう、言い忘れてた。

 もしお前に可能性を見出せなくなったら……

 その時は“閉望性へいぼうせい”として消えてもらう」


それだけ告げると、

本当に消えるように姿を消した。


暗部――噂でしか聞いたことのない存在。

この学園に潜む影の部活動。

活動目的も、活動場所も、メンバー構成も

全てが不明。

実在しないと思っていた。


だが、手にした小手からは

確かに“何か”が流れ込んでくる。


僕はすぐには使わなかった。

疑っていたからだ。


でも――


(……もし、あいつの言ってることが本当なら……

 これがあれば……

 僕は……愛される……)


その考えが、静かに胸の奥に宿った。



余談ですが、倉庫はタカシが自力で

学園と賃貸借契約を結ぶ&改造!

親の財力恐るべし…それを許す学園恐るべし…


お読みいただきありがとうございます!


読んで下さったあなたはヒーローです!


ブクマされたら泣いて喜びます!


気軽に感想、コメントよろしくお願いします♪


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ