表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/26

11. それが俺のナルシズム

世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫恋なるしれん


倉庫の闇を切り裂きながら、

ただ一人を救うために走り続ける。


その先に立ちはだかるのは、

これまでとは明らかに違う“二つの影”…


恋の進む道は、ここからさらに険しくなる。


それが、俺の"ナルシズム"だ!



「おい、そこの二人、悪りぃけど急いでんだ!

 そこ、俺の通り道だから道あけとけよー」


恋は大声で軽口を叩きながら、

爆速で直線を駆け抜ける。


足元の瓦礫を踏み砕き、壁にめり込ませながら進む。

その勢いは、“止まる”という概念を知らない。


奥の扉はもう目の前だ。


だが、その“かなり手前”に

二つの影が立ち尽くしていた。


「返事なし、じゃあ強行突破かな?」


恋は肩をすくめ、さらに加速する。

呼びかけても二人は微動だにしない。


「俺からの忠告は、素直に聞くものだぜっ!」


恋は拳を握り、そのまま殴りかかる――


ドンッ。


いつもなら、これで道は開く。

壁だろうが鉄扉だろうが、恋の拳は止まらない。


が、今回は違った。


拳が何かにぶつかった。


(何だこの違和感…?)


拳を押し当てたまま力を込めても、

それは微動だにしない。


まるで“壊れない壁”に殴りかかったような感覚。


「…まじかよ……」


恋は顔を上げる。


最初に見えたのは、

通路いっぱいに広がる灰色だった。


(……壁?)


いや、違う。

よく見ると、その“灰色”はわずかに呼吸している。


(……灰色の服か?)


視線を上げる。まだ胸板。さらに上げる。

ようやく――

天井近くで、巨大な“顔”が恋を見下ろしていた。


壁ではなく人間だった。


丸太みたいな腕。岩みたいな胴体。

通路を完全に塞ぐ、人間離れした巨体。


「いきなり仕掛けてくるとか……おまえ、卑怯だぞ!」


そのサイズには似つかわしくない、

おっとりした声が落ちてきた。


「何だこいつ……!」


恋は反射的に後ろへ下がる。


目の前の“壁”だと思っていたものは、

通路を塞ぐほどの巨体を持つ男――ガンマだった。


ガンマは自分の腹をさすりながら、

しょんぼりした声を漏らす。


「酷いよなぁ。

 オデ、まだ何もしてないのに……」


恋は拳を握り直し、眉をひそめる。


「お前……何て硬さだ。

 結構本気で殴ったつもりなんだが……

 動く気がしなかった。

 やはり、さっきまでの奴らとは違うようだな」


ガンマは胸を張り、誇らしげに言う。


「当たり前だろ。オデたちはプロの傭兵だぞ。

 あのゴミどもと一緒にするな!」


「俺たち……?」


恋はそこで気づく。影は二つあったはずだ。

だが、もう一人の姿が見えない。


(どこだ……?)


その瞬間、背後から声が落ちた。


「その通りだ。俺たちの名は双牙そうが

 見くびってもらっては困る」


「……!!」


恋の心臓が跳ねる。


(背後を取られた!? いつの間に……?

 気配が……全くなかった……!)


体が危険を察知し、

脊髄反射でドグマから距離を取る。


ドグマは静かに手を上げた。


「驚かせてしまったか。すまない」


恋が来た道は一本道。

つまり――

恋がここに到達してから、

ドグマは背後へ回ったということになる。


恋は背後を取られることなど滅多にない。


敵に背中を見せるのは

“ダサい行為”だと考えているため、

常に警戒している。


ましてや、

取られたことにすら気づかないなどありえない。


だが今、まさにその“ありえない”が起きた。


恋は口角を上げた。


「面白れぇ……まさかこの俺が、

 背後を取られるとはな。

 コイツは倒し甲斐がありそうだ」


ドグマは微動だにせず、淡々と告げる。


「随分と自信があるようだが……

 まさか、この双牙に勝てると思っているのか。

 お前は今、何を見ていた?

 この数秒で実力差は明白になっただろう」


冷たい声が続く。


「お前の攻撃は効かず、背後を取られた。

 それが答えだ」


ガンマが首を傾げる。


「ドグマァ、こいつバカなのかぁ?」


「このアジトに奇襲ではなく

 正面から派手に乗り込んできている時点で、

 限りなくその可能性は高い。

 だが初対面の人間に“バカ”はよくないぞ、ガンマ」


二人は当然のように恋を貶す。


「失敬な!俺は意外と頭がいい方だぞ!

 勉強はできる方がかっこいいからな。

 文武両道で生きていきたい!」


ガンマが即答する。


「何言ってんだコイツ?やっぱりバカなのか?」


ドグマも淡々と重ねる。


「どうやらそのようだ。知能指数に少々問題がある」


恋は眉をひそめた。


「お前ら、散々な言い草だなぁ。

 ……まあいい。

 ならその予想が外れてることを教えてやるよ」


一歩前に出る。


「どく気はないんだろ?

 だったらそこどかすけど、大丈夫?」


ガンマが即座に叫ぶ。


「コイツ、バカ確定だぞ!」


ドグマもため息をつく。


「そのようだ。実力差も理解できんとはな。

 ……教えてやれ、ガンマ」


「おう、オデにまかせろ!」


ガンマが拳を振り上げた瞬間、空気が震えた。


次の瞬間――


ドゴォォンッ!!


爆音とともに、巨大な拳が恋へと叩き込まれる。


速さは大したことはない。

避けようと思えば余裕で避けられる。

しかし恋は、その場で腕をクロスさせ、

真正面から受け止めた。


天井が砕け、後方の床が粉々に吹き飛ぶ。

だが、恋の影になっている部分だけが

綺麗に残っていた。


「……あれ? おかしいな? 動かない?」


ガンマが目を丸くする。

本来なら、拳を受けた相手は

後ろに一キロ吹き飛んでもおかしくない。


それほどの威力だ。


だが恋は、微動だにしない。

まるで先ほどのガンマのように。


恋は腕を下ろし、肩を回す。


「どうした?教えてくれんじゃなかったのか?

 その程度の拳の威力なら、とっくに履修済みだ」


ガンマの眉が吊り上がる。


「お前……オデを怒らすなよ」


「やはり馬鹿だな、コイツ」


怒るガンマの横で、ドグマが静かにため息をつく。


恋はニヤリと笑った。


「さぁ、始めるか?」


その一言が、開戦の合図になった。


「舐めるなよ?」


ガンマが吠え、拳を連打する。

一発一発が地響きのように重い。


恋を気絶させたタカシの小手ガントレッドの威力が

五十フィフティギガニュートンだとするならば、

ガンマの拳は体感で二十トゥエンティギガニュートンはある。


人類最大級の乗り物である空母を二十隻まとめ、

軽々と空へ放り投げられるほどの力。


武器もなしに、この威力。

ガンマは明らかに“異常”だった。


だが恋は――避けようと思えば避けられるのに、

あえて全てを受け止めていた。


ガンマの猛攻を受けながら、

恋も隙を見て拳を打ち込む。

ガンマほどの威力はないが、

それでも恋の拳は10(テン)ギガニュートン。


空母を十隻まとめて持ち上げられるほどの力。


人間の領域ではない。


だが――効かない。


ガンマは大振りで隙は多い。

恋の拳は確かに当たっている。

それでも、ガンマの肉体が衝撃を吸収してしまい、

ダメージが通らない。


一方、

ドグマは後方で腕を組んだまま、ただ見ている。


「一対一で十分ってか?舐めやがって!

 おい、お前も掛かってこいよ!」


恋が叫ぶと、ドグマはため息をついた。


「まったく……これだから馬鹿は。

 自分の状況を不利にしてどうする気だ。

 安心しろ。

 俺が出る必要があると感じたら、

 望み通りそうしてやる。

 だが――今のところ、その必要はないみたいだな」


「舐めプかよ。甘い見積もりだな。

 後で後悔するぜ?

 確かにコイツの威力はすげぇが、

 ただそれだけだ。全部受け止めきれる」


その言葉に、ガンマの顔が真っ赤に燃え上がる。


「お前……嫌いだ!!オデは怒ったぞ!!」


怒りとともに、ガンマの攻撃が一段階跳ね上がる。

速く、重く、荒々しく。


「オデの方が強い!お前はオデが叩きのめす!

 お前嫌いだ!お前嫌い!」


バゴバゴゴゴゴンッ!!


「……くっ……!」


猛烈なラッシュが恋を襲う。

恋は全てを受け止め続けるが、

反撃の手数は明らかに減っていた。


息つく暇もないほどの暴風のような攻撃。


「……!!」


その時、後方で見ていたドグマの表情が変わる。


ガンマは叫び続ける。


「嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!

 嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!

 嫌いだーー!!」


もはや一方的なサンドバッグ。

このままでは恋が押し潰される――

そう思われた、その瞬間。


「ガンマ、もういい!攻撃を止めろ!

 このままだと、お前が負ける」


ドグマが鋭く叫んだ。


「……どうしてだ?オデは負けない!

 コイツはオデが倒――」


言いかけたところで、ガンマの動きが止まる。


「……なんだ……痛み……?」


ガンマの左脇腹が、不自然に腫れ上がっていた。


恋が口角を上げる。


「やっときずいたか?」


「うぉぉぉ……痛い!痛い!なんだこの痛みはぁ!」


ガンマはその場で転げ回るようにもがく。


ドグマが静かに言った。


「攻撃に夢中になりすぎたな、ガンマ。

 やつはお前の攻撃を受け止めることで油断させ、

 同じ箇所を寸分違わず殴り続けていた。

 その蓄積が、

 お前の強靭な肉体にようやく傷をつけたようだ」


恋がすかさず口を挟む。


「おいおい、俺の説明パート奪うなよ。

 まあ、その通りだ。

 わざわざ全部受け止めてやったんだ、感謝しろ」


「痛ーい! 痛ーい! 痛ーい!」


ガンマは子どものように叫び続ける。


恋は肩をすくめた。


「で? まだ舐めプ続けるつもりか?

 言ったろ、後悔するって。

 急いでんだ、二人まとめて来いよ」


ドグマは目を細める。


「少々、見くびっていたのは認めよう。

 だが、お前は俺たちには勝てない。

 立て、ガンマ。仕事の続きだ」


ガンマは涙目で立ち上がる。


「ドグマァ……オデ、あいつが憎い。

 ボコボコにしたい」


恋が笑う。


「第二ラウンド開始ってわけだな」


緊張が走る。

三人が同時に構えた、その時――


遠くの方から、低いエンジン音が響いてきた。


「……何の音だ?」


ガンマが眉をひそめる。


一定のリズムで、

低いエンジン音がこちらへ近づいてくる。


ブゥゥゥゥゥン……!


音はどんどん大きくなり、恋も思わず横目を向けた。


(バイク……? こんな場所に?)


通路の奥の闇が揺れ、ライトが差し込む。

誰が乗っているのかは見えない。

だが、確実にこちらへ向かってくる。


恋が双牙に問いかける。


「あんたらのお仲間かい?随分と派手な登場だな」


ドグマは即座に返す。


「あんなやつは知らん。

 逆に聞くが、お前の仲間ではないのか?」


バイクはさらに加速し、

エンジン音が通路全体を震わせた。


ブオオオオオオッ!!


だが次の瞬間――


ギャリッ!!


床の塗装が先ほどの戦闘で剥げて

ツルツルになっていたせいで、

バイクの後輪が派手にスリップした。


「うおおおおおっ!?曲がらねぇぇぇ!!」


バイクは左右に蛇行しながら暴れ回り、

壁スレスレをかすめ、

天井の配管をギリギリで避け、

最後は――


ズザザザザァァッ!!


盛大に横滑りしながら恋たちの目の前で止まった。


タイヤが火花を散らし、白煙が上がる。


「……何だありゃ?」


恋たちは困惑する。


すると、そのバイクの上から、声が飛んだ。


「おいナルシスト!俺も力を貸すぜ!!」


恋の目が見開かれる。


「……あ?お前まさか……!」


バイクが完全に止まると、

片手に金属バットを持ちながら、

その男がよろめきつつ降り立った。


剛だった。


「助けに来た!俺も力を貸すぜ!

 頼む、手伝わせてくれ!」


息を切らしながら、興奮した様子で駆け寄ってくる。


恋は――物凄く嬉しそうではなく、

迷惑そうな顔をした。


「……えぇ……。別に大丈夫なんですけど……」


「ほら、そう言わずに遠慮すんなって!

 力になるぜ!」


「気持ちはありがたい。

 けど、遠慮とかじゃなくてな?

 別に今ピンチじゃないし。

 こういうのは

 ピンチの時に来るから助かるのであって、

 俺はピンチにならないから大丈夫!」


「え? でも……」


恋はキッパリと断った。

空気が一瞬、気まずくなる。


剛は下を向いた。

肩がわずかに震えている。


ガンマが大笑いする。


「バカが増えたぞ!」


ドグマは呆れたように言い放つ。


「まったくだ。類は友を呼ぶとはこのことだな。

 着いて早々悪いが、引き返してもらえるか?

 そいつはお前のことが必要じゃないらしい」


その言葉が、剛の胸に深く刺さる。


(……やっぱり俺なんか……)


いつもの剛なら、ここで折れていた。

“どうせ俺は弱い”“足手まといだ” "負け犬だ"

そんな言葉が頭の中で渦を巻く。


一瞬、剛の拳が緩む。

視界が滲む。

喉の奥が熱くなる。


だが――今回は違った。


剛は唇を噛みしめ、顔を上げた。

その目には、迷いを押し潰した強い光が宿っていた。変わりたい。


「それでも、俺はお前の力になりたい。

 白石ほのかを助けたい。

 俺はお前みたいに強くない。

 足手まといだってのは分かってる。

 だけど……俺は、お前みたいになりたい!」


声が震えているのに、言葉は一つも揺れていない。


「だから俺を弟子にしてくれ!

 共に戦わせてくれ!!」


恋は剛の覚悟に息を呑む。

その目は、本気だった。


そして気づく。

剛の手には"新品"の金属バット。

覚悟の象徴。


ガンマが馬鹿にしたようなに笑う。


「コイツになりたいって? 正気か?」


ドグマはため息を漏らす。


「理解に苦しむな……」


恋はゆっくりと前に出た。


「あぁ、その通りだ。

 俺の生き方は、あまり理解されない荊の道だ。

 笑われて、馬鹿にされ、侮辱され、否定される……

 世間一般からしたら良いことなんてほとんどない。

 むしろ悪いことの方が多い。

 だから、お前の師匠にはなってやれない…」


剛は落胆したように目を伏せる。


だが恋は続けた。


「それでも、俺は、この道を選ぶ。

 あの人みたいになりたくて、

 かっこいいやつになりたくて、

 俺はこの道を進み続ける。

 誰かに分かってもらわなくていい、

 誰かに否定されても構わない!

 俺は俺を、自分自身を全力で肯定する!」


恋は胸を張って叫んだ。


「それが、俺の"ナルシズム"だ!!」


同じだった。

恋も“憧れ”があったからここにいる。

剛を否定できるわけがない。


「……悪いが、師匠にはなってやれない。

 だが、お前にその覚悟があるというのなら、

 ――ダチくらいにはなってやれる!

 お前の力を貸してくれ!」


剛の目に、一筋の光が宿った。


「……いいのか?」


「助けるために来たんだろ? 剛!」


もう剛の表情に迷いはなかった。


「あぁ。任せろ、恋」


双牙は同時に吐き捨てる。


「お前ら、キモいんだぞ」


「友情ごっこか…反吐が出るな」


恋はゆっくりと前に出る。


その背中には、

さっきまでとは違う“二人分”の気迫が宿っていた。


「――見せてやるよ」


恋が指を鳴らす。


「ナルシストの恐ろしさってやつを」


通路に強い風が吹いた。

まるで二人を後押しするかのように。



お読みいただきありがとうございます!


読んでくださったあなたはヒーローです!


気軽に感想、コメントお待ちしております♪


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ