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10. 双つの怪物

世界一のかっこよさを目指す男、鳴紫恋なるしれん


今日も誰かを救うために走り、

倉庫の闇を光で切り裂いていく。


だが、様々な刺客が次々と彼を襲う。


果たして、ほのかの涙を止め、

助け出すことができるのか!!



倉庫の至る所で、爆音が連続して鳴り響いている。


まるで巨大な爆竹を倉庫中にばら撒いたかのように、タカシの部下たちが次々と弾け飛ぶ。


ドガァッ!バキッ!ズドンッ!!


五人。十人。二十人。三十人。五十人――。


さっきまで人で埋め尽くされていた視界が、

あっという間に晴れていく。


その中心を、

一筋の光が縦横無尽に駆け抜けていた。


鳴紫恋なるしれんは走るというより、

“跳ねる”“跳ぶ”“消える”を繰り返すような

異常な速度。


残像だけが線となって倉庫内を走り回り、

触れた瞬間に敵が吹き飛んでいく。


「ほらほらどうした!

 止めるんじゃねぇーのかよ!この俺を!」


挑発の声が聞こえた瞬間、恋はもう別の場所にいる。


タカシの部下たちが三人同時に襲いかかるが、

恋は振り向きもせずただ床を蹴った。


ドンッ!!


その一歩だけで衝撃波が走り、

三人まとめて宙に浮いて倒れた。


「ぐわぁぁー」


三人同時に悲痛な声を上げる。


「急いでんだ、連れを待たせてる」


恋は走りながら、倉庫の奥――

ほのかのいる部屋へ一直線に向かっていく。


次から次に向かってくる障害物を跳ね除け、

ひたすら走る。

ただ一心に奥の部屋を目指して。


「チッ…まずったなぁ、

 あいつに居場所がバレるとは。

 あいつらか、あの無能どもが教えやがったんだ!

 やっぱり痛い目に遭わせておくべきだった…

 目を覚ますのも想定より早すぎる。

 化け物が!見張りもあっさり負けやがって!」


タカシは苛立ちを隠せず、

部屋の中を落ち着きなく歩き回る。


その姿は、さっきまでの余裕など微塵もない。


――鳴紫くんが来てくれた。


ほのかの胸には、

じんわりと温かいものが広がっていた。

でも、表情には出さない。


今はタカシを刺激しない方がいい。

そう頭では分かっていた。


だが、タカシの焦りが増すほどに、

ほのかの中で別の感情が芽を出す。


(……今なら、動けるかもしれない)


現状、手錠も拘束もされていない。

タカシは怒りに気を取られ、

ほのかをほとんど見ていない。


そして――恋が来てくれたという事実が、

ほのかの背中をそっと押す。


大人しくしていた方が得策だと分かっている。

恋を信じていないわけでもない。

むしろここまで助けに来てくれた、

その事実が何よりも信頼に値する。


だけど――


“自分も動かなきゃ”

そんな思いが、ほのかの中に芽生えた。


ほのかは、そっと息を吸った。

胸の奥がきゅっと縮み、手のひらがじんわり汗ばむ。


(……行くなら今しかない)


タカシは怒りに任せて部屋の中を歩き回り、

机を蹴り、壁を殴り、

ぶつぶつと文句を吐き続けている。


ほのかは、そっと体の向きを変えた。


ほんの数センチだけ足を引き、重心を後ろへ移す。


ギシ……と床がわずかに鳴る。


タカシは気づかない。ほのかの心臓が跳ねる。


扉までは数歩。決して近くはない。

けれど、

遠すぎる距離でもない。


ほのかは呼吸を殺し、

足音をできるだけ小さくして、

一歩、また一歩と扉へ向かって歩き出した。


(大丈夫……まだ気づかれてない……)


タカシの背中がこちらに向いた瞬間、

ほのかは一気に距離を詰め、

扉の外へ足を踏み出した。


冷たい空気が頬を撫でる。


(……逃げられる!)


確信が胸に灯った、その瞬間。


ドンッ。


「……え?」


何か硬いものにぶつかった。

まるで鉄柱に正面からぶつかったような衝撃。


「ん?あれ?なんか当たった?」


低くのんびりした声が降ってくる。


ほのかは反射的に顔を上げる。


そこには、岩のように巨大な男が立っていた。


胸板は壁のように分厚く、肩幅は扉いっぱい。

ほのかがぶつかったのは、この男の胸だった。


その横で、細身の男がため息をつく。


「……だから言っただろう。前を見て歩けと。

 まったく…

 これじゃあ壁と変わらないじゃないか、ガンマ」


「えー?酷いなードグマァ。

 だって急に来たんだもん」


「言い訳はいい。仕事をするぞ」


この二人から、今までの部下とは明らかに違う

“何か”をほのかは感じ取っていた。


ガンマと呼ばれている男は岩のように巨大で、

肩幅は扉いっぱい。

腕は丸太のように太く、

呼吸するたびに胸板が盛り上がる。


そして、ドグマと呼ばれている男は細身だが、

獣のような鋭い目をしていた。

動きは静かで、気配が薄い。


二人とも、ほのかを見下ろしながら微動だにしない。


ほのかの背筋が凍りつく。


「ボス、俺たちならあいつを止めてみせますが

 どうなさいますか?もちろん、

 その分の報酬はきっちりと貰いますが……」


ドグマが目の前のほのかを無視し、

タカシに問いかける。


その瞬間――

タカシの声が、すっと落ち着きを取り戻した。


「……仕方ないか。

 お前たちへの出費は高いから

 “温存しておくつもり”だったんだが……

 なにせ、伝説の“双牙そうが”だからな。

 本来なら、こんな場面で使うべきじゃない」


タカシはゆっくりと二人を見やる。


そして、さっきまでの焦りが嘘のように、

ゆっくりと笑みを浮かべた。


「金ならある!報酬はニ倍にしてやる!

 絶対やつを獲られろ!

 今朝の恨みもあるからなぁ…

 なんなら殺してしまっても構わない。

 僕が隠蔽する!そう何度も邪魔されて溜まるか!」


興奮で声が震えていた。

落ち着いているように見えて、

その実、感情は暴走している。


もはや善悪の判断すらも揺らいでしまっていた。


「人殺しは勘弁してくださいよ、ボス。

 俺たち年齢的には一応まだ学生なんでね。

 ただ、報酬が倍となれば、

 確実にここに連れて来るくらいの仕事は

 必ず果たしてみせますよ。行くぞ、ガンマ」


「あれ?話は済んだの?」


「あぁ、今日の仕事は報酬二倍だ」


「やったー!報酬二倍だー!

 …ん?

 二倍って二回仕事しないといけないってこと?」


「ガンマ、それだと今までと変わらないぞ。

 まぁ、要するにいつもより頑張ればいいって話だ」


「おおー、頑張るぞー」


二人はそんな調子で部屋を出ていき、

その巨体と気配はすぐに廊下の闇へと消えた。


ほのかは、思わず息を呑む。


「……あの人たちは一体……」


その呟きに応えるように、

タカシがゆっくりと口を開いた。


「双牙――そう呼ばれている。

 ある時には、

 暴走族三百人を二人だけで壊滅させた。

 ある組織の幹部を護衛した時は、

 襲撃者五十人を無傷で返り討ちにした。

 依頼料が高すぎて、誰も雇えない

 ――そう噂されるほどの怪物だ」


タカシは口元を歪め、ほのかを見下ろす。


「僕の望みは全て叶う!望めばなんでも手に入る!

 さぁ双牙!僕に勝利をもたらせ!」


そして――

狂気じみた笑いが部屋に響き渡った。


「くっ……は、ははは、ははははははは!!」


ほのかは逃げる気力を失い、

完全に足が止まってしまった。


--


恋はひたすら走る。


「……泣き止ませてみせる、必ず俺が」


ほのかの声が耳に焼きついて離れない。


泣いていた。


あの震えは、助けを求めるために

必死で絞り出した声だった。


胸の奥が、ぎゅっと掴まれる。


(絶対に助ける、泣かせたままなんかにさせない)


その一念だけが、恋の足をさらに速くした。


「おいおい、床で昼寝か?風邪引くぞ」


倒れた男たちを飛び越え、奥へ奥へと進む。


だが――

途端、ふと足を止める。


(……静かすぎる)


さっきまでの喧騒が嘘のように、

倉庫の奥は異様なほど静まり返っていた。


その時だった。


「……たすけて……鳴紫くん……」


ほのかの声が、薄暗い通路の奥から聞こえた。


恋の心臓が跳ねる。


「白石!無事か?助けに来た!」


声のする方へ駆け寄る。

だが、ほのかの姿はどこにもない。


代わりに――

通路の奥から、また声が響いた。


「こわいよ……鳴紫くん……どこ……?」


恋の足が止まる。

声は確かにほのかだ。

震えていて、泣いていて、助けを求めている。


だが――

何かがおかしい。


(……なんだ、この違和感)


声が途切れた瞬間、

微かなノイズが混じった。


「……鳴紫くん……はやく……」


今度は別方向から聞こえる。


恋は眉をひそめる。


(……移動してる? いや……)


通路の壁に取り付けられた古いスピーカーが、

赤いランプを点滅させていた。


その瞬間、恋は悟る。


(……録音か)


異常なほどほのかの声に似ている。

いや、ほとんど本物だ。

部下に毎日観察させていたタカシなら、

合成音声で再現することなど容易い。


恋の表情が冷たく沈む。


「こんなものまで……」


バンッ!


拳を握りしめ、壁に叩き込む。

スピーカーを壁ごと一撃で粉砕した。


「…待ってろ……」


冷たい静かな声が暗闇に響いた。


恋は再び走り出す。


だが、その先の通路に差し掛かった瞬間――

五つの影が、音もなく恋の前に立ち塞がった。


「おい、小僧」


薄暗い照明の下、五人の男たちが横一列に並ぶ。


一人が口元を歪める。


「俺たちは“特異班”。

 さっきまでのゴミと一緒にすんなよ!

 覚悟しやがれ!」


そう言いながら五人は同時に襲いかかってきた。


一人が指を鳴らす。

瞬間、空気がビリッと震えた。


「吹っ飛べ、“衝撃波”!」


目に見えない衝撃が一直線に恋へ走る。


その隣の男が拳と拳を合わせ、

金属のような音を響かせ、

皮膚を黒鉄のように光らせ殴りかかってくる。


「硬ぇぞ、俺はよ」


それを待っていたかのように別の男が目を見開き、

恋の視界を一瞬揺らす。

周囲の景色が歪み、音が遠のくのを感じた。


「迷子になんなよ、“幻惑”だ」


その横を、影が一閃。

風を裂く音とともに、男が恋の背後へ回り込む。


「遅ぇな、“加速”だぜ!」


そして最後の一人が、手を広げ、

指先から毒のような黒い糸を伸ばす。


「触れたら終わりだ、“拘束”」


息のつく暇のない怒涛の攻撃。

見事なコンビネーションだった。


しかし――


恋は動じない。

それどころか、衝撃波を軽々踏み砕いた後、

硬化の拳を素手で弾き、幻惑を一瞬で見破る。


さらに、加速の背後取りの背後を

逆に背後を取り返しぶっ飛ばす。


最後に拘束の糸を触れる前に断ち切り毒を無力化し、

その糸で相手を拘束。


そのまま五人の身体をほぼ同時に壁へ叩きつける。


その間わずか三秒。


恋は一歩も動いていないようにすら見えた。


ただ、拳を軽く握り直す。


「悪い、お前らの言うさっきまでのゴミとの違いが

 俺には分からなかった。収集の日が違うとかか?

 テメェらもあいつらと同じ燃えないゴミだったよ」


泡を吹いて倒れている五人にそう言い残し、

その場を後にする。


しばらく進むと、奥の方に扉が見えてくる。


まだ距離はあるが、おそらくあそこに"白石はいる"。


「あそこか……ゴールの場所!」


恋が一気に駆け出そうとした――

その瞬間、扉へ続く一本道の途中に、

二つの影が立っているのが目に入った。


空気が沈む。

温度が下がる。

さっきまでの連中とは比べ物にならない“圧”が、

通路全体を押し潰すように満ちていく。


恋の背筋に、久しぶりの緊張が走る。


「……ようやく燃えそうなゴミのお出ましか」


そこには――

双牙が立っていた。



お読みいただきありがとうございます!


読んでくださったあなたはヒーローです!


気軽に感想、コメントお待ちしております♪


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