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側妃の愛  作者: まるねこ


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3 聖女様の結婚

 カインディル王太子殿下と聖女様の結婚式の日がついにやってきた。


 一日中ぼーっと過ごす日が多かった私も、この日ばかりはドレスを着せられ、教会へとやってきた。


 いつもは参拝者でにぎわう会場は国中の貴族が集まり、誰もが笑顔を浮かべている。


 ファンファーレと共にカインディル王太子殿下と聖女様が入場してきた。皆が拍手を送っている中、私はただ立っているしかできなかった。


 聖女様は人生で一番幸せだと言わんばかりの笑顔を浮かべている。

 拍手をして彼の幸せを願うべきだとわかっているの。


 でも、上手く手が動かない。


 私を見て。

 私の手を取って欲しい。

 口には出せない思い。


 彼は一瞬だけ、私を見た。その表情からは何も読み取ることができない。


 ああ、きっと彼は私のことなんか忘れてしまったのだろう。


 こんなにも恋焦がれてしまう気持ちを持て余しているのは私だけなのね。


「お父様、先に戻っていていいでしょうか?」

「ああ、もちろんだ。無理はするな」


 私は苦しさのあまり、式の途中でそっと会場を後にした。これから王宮で晩餐会が開かれ、カインディル王太子と聖女様の初夜が持たれる。


 ……私も忘れなきゃいけない。

 彼は聖女様を選んだのよ。


 私はそう思うようにして一人静かに部屋で過ごしている。すると、侍女が小さな手紙を持ってきた。


「エレフィア様、これを渡してほしいと言われました」


 渡された手紙には何の印もない。ただ封をしてあるだけの手紙だった。


 私はゆっくりとペーパーナイフで手紙を開くと、そこには懐かしい文字が現れた。


 ― エレフィア、君の誤解を解きたい。邪魔が入り、君に会うことも叶わない。決して望んだ婚姻ではない。愛しているのは君だけだ。メグミにも「私がエレフィアを愛している」ということを伝えてあり、彼女は理解してくれている。君に会いたい。 ―


 短い手紙だった。


 ……聖女様の名前はメグミというのね。


 この手紙、私は信じてもいいのだろうか。

 私は手紙をぎゅっと抱きしめた。




 カインディル王太子と聖女様の結婚式の翌日から私は執務のために王宮へ入った。


 本当なら王太子妃として一週間は仕事がないのだが、カインディル王太子と聖女様が休んでいる間に陛下からの指示で私は彼らの仕事を引き受けることになった。


 今は側妃として部屋が与えられるわけでもなく、客室を宛がわれるようだ。


 客室ならせめて希望の部屋にしたいと申し出たところ、それは叶えられることになった。


 私が望んだのは王宮の王族の区画から一番遠い客室だ。


 そして隣の客室も自分の執務室に変えてそこで執務を行うことになった。


 極力二人に会わないようにするための陛下の配慮だろう。


 持ち込まれた書類を黙々とこなしていく。最初は不慣れながらも文官たちに教わりながら進め、朝早くから深夜遅くまで執務に追われた。仕事に追われていた方が自分の気持ちをごまかせたから。


 私が縋れるのは仕事しかない。


 黙々と仕事に取組み、一日、また一日と日は過ぎていった。




 ある日の夜遅く、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。


 私の「どうぞ」という返事と共に入ってきたのはカインディル王太子だった。


「こんな夜遅くにすまない」


 彼はそう言いながら私に駆け寄りぎゅっと抱きしめてきた。


「エレフィア、会いたかった」


 久々に感じる彼の温もりに涙が出そうになる。


「……どう、して」

「文官から君の居場所を聞き出した。ずっと君に会いたかった」


 私はその言葉に心がふわりと軽くなるのが分かる。

 涙が出そう。

 でも、もう彼は……。


 私はぐっと心を押し殺した。


「ここへ、きてはなりません……。どう、か、聖女様の下へお戻りください」

「私はエレフィア、君のことを愛している。メグミは、メグミとは閨を共にしていない」


 ……え?


 私は驚いて彼を見た。彼は更に強い力で私を抱きしめた。


「エレフィア、ようやく君に会えた。もう離れたくない。ずっと君とこうしていたい。愛しているのは君だけだ」

「……私は、その言葉を信じて、よいのですか?」

「信じて欲しい。私はずっとエレフィア、君だけを愛しているんだ」


「ですが、聖女様と結婚されたのであれば世継ぎをみな待っているのではないですか?」

「彼女はしなくてもいいと言っているし、エレフィアとの子供ができれば問題ない」


 彼は真剣な表情で私にそう言った。


 彼を信じていいのだろうか。

 でも、周りはみんな聖女様を一番に、と考えている。


 私は邪魔者でしかない。


 カインディル王太子を忘れようとする自分とまだ彼のことが好きで好きで仕方がない自分が心でせめぎ合い、涙が溢れてくる。


「でも、だって……。みんなが彼女を望んでいて、私は執務をするだけの邪魔者でしかないのです。私が、望んではいけない」


 私がそう言うと彼はそれ以上言わせないように私に口づけをする。


 彼の唇が触れ、優しさが伝わってくる。


「エレフィア、そんなことはない。周りがなんと言おうと、私は君だけを愛している。どんなことがあっても愛し続けることを誓う」

「……嬉しい」


 彼の気持ちを知り、ようやく私の涙も止まった。


 それから少しの間、離れていた時の話をした。


 私がショックで寝込んでいたことも結婚に横やりを入れきた人たちのことも。


 離れていた時間をお互い確認するように、ずっと手を繋ぎながら苦しかった思いも、悲しい記憶も全てを言葉にして伝えた。


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