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側妃の愛  作者: まるねこ


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2 異世界から来た女性

 私は疑問に思っていたが、一週間後にその理由を知ることになった。


「エレフィア、聖女様が現れたそうだ」


 父が珍しく私を執務室に呼んだと思ったら、開口一番にそう告げた。


「えっ?」

「エレフィア、落ち着いて聞いて欲しい。お前が先日王宮へ行っただろう?どうやらあの時、女神像の足元に女性が倒れていたそうだ。神父が声をかけると女性は目を覚ましたらしいんだが、どうやらこことは異なる世界からやってきたという話だ」


「それは、大変ですね。女性が一人で違う世界に来るということは心細いのではないでしょうか」

「ああ、そうだろうな。目覚めた女性はこの国には見られない黒髪に黒目で幼い容姿をしていたそうだ。彼女はどうやら女神に気に入られているようで強い癒しの力を持っているらしい」


「強い癒しの力……。多くの怪我人を治すことができるのですね。それはとても凄いですね」

「ああ、だからエレフィア、これからはお前が教会で怪我人を治療しなくてもいいそうだ」


「そう、なんですね。私では傷を治しきれない人たちも多くいました。より力の強いかたの治療の方が皆さまは助かりますから」

「婚姻までの期間、お前はゆっくりと家で過ごしなさい」

「わかりました」


 父の言葉を聞いて私は自室に戻った。


 異なる世界から来た女性が強い癒しの力を持っている。


 それはとても喜ばしいことで、素晴らしいことだ。


 ……けれど、私の心がつきりと痛んだ。私の代わりに彼女が怪我人の治療してくれる。


 私はもう、治療しなくてもいいということ。


 開けていた窓からはふわりと優しい風が頬を撫でていく。


 女神様がそう望んだのならそれが答えなのだろう。


 私はゆっくりと薫り高いお茶を味わった。




 そうして、一週間、二週間、ひと月が経ち、私は結婚式の前の忙しさで大変になるはずだった。


 女神像が呼び寄せた黒髪の女性は瞬く間に噂となり、今や彼女の話題が出ないのが不思議なほどの人気だった。


 私が治せるのは怪我人だけだったが、彼女は病人も治療ができるようだ。


 教会は先日彼女を聖女と認め、公式に発表された。


 日に日に高まる聖女の名声。


 それは私の存在をかき消してしまうほどで、国民からは聖女様を王太子妃に、と望む声があがっていく。


 当初、国王陛下は断っていたようだが、ついに聖女様が王太子妃になることを認めた。


 その発表に歓喜に湧き上がる人々。


 聖女と王太子の美男美女と謡われる二人の結婚。


 人々はその慶事に心を躍らせている。




「……お嬢様、外は騒がしいですから窓を閉めますね」

「アーシャ、ありがとう」


 私は苦しかった。お慕いしているカインディル様との結婚が目前でなくなってしまったのだ。


 きっと、聖女様なら私よりももっと国を良くしてくれるだろう。


 それはとても素晴らしいことで、誰もが望むことだから。


 私のわがままは許されないことだとも理解している。


 でも、それでも、涙は止まらない。


「……エレフィア、入るよ」


 低い父の声が聞こえ、父は部屋に入ってきた。


「お父様」


 父は少し申し訳なさそうな表情で私を見る。


「すまない。だが、聖女様ならこの国に平和をもたらしてくれるに違いない」

「お父様、聖女様がこの世界に現れたのは祝うことなのです。私一人が黙っていればみんなが幸せなのですから。それで、どうしてここに?」


 父は言葉に迷いながらも、ゆっくりと話を始めた。


「エレフィア、来月お前とカインディル王太子との結婚式だっただろう? そのまま聖女様がお前の代わりに結婚式を挙げるそうだ。そしてその二か月後にお前が側妃として王宮に上がることになった」


 父の言っている言葉が理解できなかった。いや、理解したくなかったのかもしれない。


 鼓動が早くなり、心臓が軋むような音を立て痛みが広がっていく。


「な、んて……」

「異世界から来た聖女様は言葉を話せても文字が読めない。当然執務も出来ない。周りは今まで王太子妃教育を終わらせたエレフィアに執務をさせろと言ってきた。


『女神に選ばれた聖女を不幸にさせるな』と。教会からの進言もあり、断り切れず引き受けた」

「……そう、ですか。わかりました」


「聖女様の邪魔にならぬよう、我が家から王家へ直接条件を出した。エレフィアは執務以外しないと。これはエレフィア、お前のためでもある。カインディル王太子にも会わなくていい」

「お父様……」


 私は父の言葉に涙が出た。


 自分の気持ちを押し殺せばみんな上手くいく。でも、まだ心が苦しさに悲鳴をあげている。


「我が家も聖女様の後ろ盾になるだろう」


 父はそう言い残し、部屋を出て行った。


 心が無くなればどんなに幸せだろう。

 こんなにも辛くて、苦しくて叫びたいのに。

 壊してしまいたくなる。

 全ての人が敵に見えてしまう。


 嫌だ。こんなに愛しているのに。

 彼の相手は私じゃない。

 私はこんなにも彼を愛しているのに。


 愛する気持ちを諦められたらどんなに楽だろう。


 私の心は悲鳴を上げ、臥せる日が多くなった。


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