1 恋する気持ち
よろしくお願いします!
「エレフィア様、ありがとうございます。エレフィア様のおかげでまた一人の兵士が救われました」
「私にできることは本当に小さなことです。私の力は女神様のおかげです」
この国は女神を信仰している。
女神は信仰の対象として昔から大切に扱われてきた。信仰され続ける理由は、女神像光るときに人々の傷を癒す力を持つ人間が現れるからだ。
他国はその力を欲し、争いを仕掛けてくるのだ。
エレフィア・レウスター侯爵令嬢も癒しの力が使える一人だ。彼女は強い癒しの力を持つわけではないが、貴族令嬢だということを鼻に掛けず、自ら進んで傷ついた人々の治療に当たっていた。
「エレフィア様、カインディル王太子殿下との結婚も控えております。そろそろここへ来るのも控えた方がよろしいかと思います」
「神官様、お心遣いありがとうございます。ですが、傷ついた人々を一人でも治療したいと思ってしまうのです。みんなの笑顔が嬉しくて。笑顔に私はいつも支えられているんです。王太子妃になれば忙しく、治療する機会も減りますから」
「そうですね。エレフィア様が王太子妃になれば国にますます安寧が訪れます。隣国との外交も活発になり、争いも減るでしょう」
「そうなれば嬉しいですね。そうなるように私も頑張らねばなりませんね」
扉がノックされ、従者が私に声を掛けた。
「エレフィアお嬢様、王宮からの迎えが来ました」
「神官様、では私はこれで」
「エレフィア様、あまり無理はなさらぬように」
「はい」
私は一礼し、教会を後にした。
「エレフィア様、いつものように遠回りをしますか?」
「カインディル様が待っているから遠回りはしないわ」
私は馬車から見える巨大な女神像を眺めるのが好きでよく遠回りをしているのだが、今日はカインディル様とお会いする日なの。
私は心弾ませながら王宮へと向かった。
教会から王宮までの通りには様々な店が立ち並んでおり、人々は活気に満ちている。
賑やかな街並みを見ていると自然と笑顔になる。
「エレフィア・レウスター侯爵令嬢様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
従者に連れられ、王宮の客人をもてなすサロンへと通された。ここのサロンは趣向が凝らされていて、天井までの大きなガラスが張られ、部屋の中から森が眺められるよになっている。
私は席に着き、従者の淹れるお茶の香りを楽しみながら外の景色を見ていると、扉が勢いよく開かれた。
「エレフィア! 待ったかな?」
私は立ち上がり、礼を執る。
「カインディル様。今来たばかりです。カインディル様こそ執務はもうよろしかったのですか?」
「ああ、ひと段落ついたし、大丈夫だ。それよりも君に会いたくて仕方がなかった」
カインディル様は私の傍へ来て、ぎゅっと抱きしめた。
「ようやくエレフィアに会えた」
「……私も。カインディル様にお会いしたかったです」
カインディル様から伝わってくる温もりに安堵と、待ちわびた嬉しさに涙が溢れてきそうになる。
「エレフィア、座ろうか」
「……はい」
私たちは一秒でも離れたくない思いから手を繋いだまま用意された席に腰を下ろした。
お互い、隣同士で見つめ合う。
恥ずかしいけれど、嬉しくてどきどきしてしまう。
この気持ち、カインディル様に伝わっているかもしれない。
「エレフィアは今日も教会へ行っていたのか?」
「はい」
「神父たちは君を随分と高く評価していた。君が王妃になったら国は平和になるとみんな言っており、私も鼻が高かった。エレフィアならきっと素晴らしい王妃になる。早く君と結婚したい」
「嬉しいです。私も早くカインディル様と結婚したいです。三か月後の式が待ち遠しい。カインディル様、私、とっても幸せです。こうしてカインディル様と過ごすことが嬉しいんです」
「私もだ。エレフィアに毎日会いたくてしかたがない。この気持ち、どうすれば君に伝わるか。君のことを好きでしかたがない」
「カインディル様、お慕いしております」
「エレフィア、私もだ。エレフィア、君だけを愛している」
緑に囲まれたこのサロンで多忙な私たちは少しの間、二人の距離をじれったく思いながら過ごしていた。
そこに一報が入ってきた。
「カインディル王太子殿下、歓談中申し訳ありません。陛下がお呼びです。至急陛下の執務室へお越しください」
「……わかった。エレフィア、すまない」
「私のことは大丈夫ですから、どうぞお仕事を優先してください」
「エレフィア、愛している」
彼はそう言って私の額にキスを落とし、部屋を後にした。
少し寂しいけれど、わずかな時間でも彼に会えた。それだけでもよしとしよう。
私は自分の気持ちを抑えながら立ち上がり、家へと戻った。
陛下が呼び出すような理由とは一体何かしら。




