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09 迷宮探索準備と俺

「ストレイル兄弟はな。呪いを受け継いだ事情を知ってる人間や、王国に昔から住んでる連中は割と好意的なんだ。だがやっぱりよく思わねえ奴らもいる。新しく王国に流れてきた連中だったり、魔神との戦いなんて御伽噺だとか思ってる若い奴らだったり」


 唐突なお誘いの理由を聞いてみたら、やっぱりストレイル兄弟が関係しているみたい。それで持ってストレイル兄弟の扱いは当然だよなぁと思ってしまった。そりゃあ至る所で血反吐を撒き散らし、空腹で暴れまくってれば、仕方ないよね。


「そんなんでな、同年代の友達ってのがいねえんだわ。友達とはいえなくとも、仲間に入れて一緒に迷宮探索してくれるのもな、あの呪いの所為で皆無だ」


「モンスターを倒さなきゃいけないんだもんね。やっぱ命懸けの仕事になるんでしょ?」

「そうだ。だからこそ仲間選びは慎重になるってもんさ。まあ初心者が探索する迷宮が多い南地区じゃ、そこまで重々しい事態にはなっちゃねえが、それでもストレイル兄弟はないって話になるわけよ。で、あいつらはそれを知ってるから二人で迷宮探索に行って、担ぎ出されてる。そこでロータ、お前だ」

「俺?」

「ジャスや俺とか、年上の連中が言っても、そういう年頃だからか、反発しちまうが。同年代のお前の言う事は、あいつら比較的聞いてやがる。『はじまりの迷宮』だけで良いから、探索に付き合ってやってくれないか?」

 『はじまりの迷宮』に出てくるモンスターは、子供でも倒せる程度だそうだ。でもやっぱり万が一を考えて、冒険者ギルドに登録されているか、初心者向けの講習を受けた一般人というちょっとした制限を設けているんだって。ほぼ誰でも入れるに等しい。

 ともかくそういうわけで、かなり難易度は緩め。だからモンスターを倒して得られる魔素とやらも、とっても微量だけれども。

「その微々たるものでも、何もねえよりマシだ。ルカが空腹で暴走しそうになったり、リオが血反吐を吐きそうになる前に、今日みたいに食い物を与えてやってくれないか?」

 一時間くらいで良いからと言われて、まあ別に良いかと引き受けた。だってあの二人、本当に一日部屋に引きこもってるだけだもの。出掛けて騒ぎを起こさないように自粛しているのだろうけどさ。

「よし、それなら早速明日、冒険者ギルドに来てくれ! それと服装は汚れても構わない、動きやすい格好がいいぞ。なんならそういう服を売ってる店を紹介するぜ」

「お願いします!」


 ビゲルさんは非番らしく、そのまま一緒に買い物に出かけた。連れていってもらったのは、まさにファンタジーと言わんばかりの、鎧とか盾とかが置いてある防具屋さん。のお隣の店だった。

「鎧とか盾は熟練者じゃねえとな。初心者はまず、大してダメージを受けない迷宮で、体の動き方を学び体力をつけるべきだ。ってなわけで、この辺だな」

 鎧の下に着るインナーや動きやすい服、いわゆるスポーツ用品的なものを売ってる店のようだ。普通の服より丈夫っぽいからか、値段はこの前リオ達に連れていってもらった店より倍くらい違う。

「割とどれもフードついてるのはどうして?」

「迷宮だと何があるかわからねえからな。頭をガードするのに良いんだよ。たかが布一枚、されど布一枚の差ってやつだ。あとは特殊な加工がされて効果が付与されてたりとかな。それとただ単純にこの店の商品がこういうの多いだけだ」

 似たようなデザインの色違いが並んでるので、そういうことなんだろうな。

「まあ初心者なお前は、普通にこのあたりが良いんじゃないか。今の服より防御力はあるだろうよ」

「おおー」

「あと靴はあっちだな」


 なんだかんだで一式揃えたんだけど、ビゲルさんが全部買ってくれた。お願いしたのは自分だからだそうだ。なんというか知り合ってからというもの、ビゲルさんにはだいぶ奢られまくっている。後で何かお礼しなきゃな。

「冒険者としての登録はこっちでしとくからよ。ちなみに冒険者として稼いでも給付金は半年もらえるから安心しな。一応、半年分の72万メルを一月で稼いじまったら、給付はされなくなるが」

「そんなことってある?」

「迷い人の中にはとんでもねえ奴がいるから、偶にあるらしいぞ。俺は噂でしか知らないが。…まあお前は違うだろうが」

「なんか期待されてない」

「荒事には向き不向きがあるんだよ」

 気にするなと言われてしまった。まあ喧嘩とかもできないし、そういうものかもしれないけどさあ。


 それでもって、ビゲルさんとついでに食材の買い出しをした。ストレイル兄弟には荷物持ち、不可能だもんね。

 そこで驚いたというか、最初に迷宮に転移した時に見た肉の謎がわかった。いやモンスターを倒してドロップするのは知ってたんだけど、あれって地面へと直に落ちるんだよね。今更ながら衛生的にやばいと思ったんだけど。食材として使おうとするその時まで、迷宮を管理する神様の加護により汚れたり腐ったり消失したりする事がないんだそうだ。


 まあ牛乳が瓶ごとドロップする世界だもの。そんなご都合主義は有り得る事態だ。


 だからジャス店長のお店には、業務用の冷蔵庫がなかったのか。冷たい料理を作るためには必要だけども、作らなければ買う必要もないね。うーん、でも作り置きおかずとかどうするのかなと考えて、ルカのことを思い出した。うん、ルカがいる限り、作り置きおかずとかいうものは、存在する事は許されない。

 ドロップ品の野菜類も同じだとか。ある意味便利っていえば便利かなぁ。

「野菜類は迷宮産が美味いが、持ち運び出来る量が量だからな。農耕で手に入らないようなの以外は、市場ので充分だしな」

 大体の人は市場で主食のパンとかを買うのだとか。米はおにぎり屋さんがあったけど、ただの白米が食べたい時は自分でやるしかないみたい。炊飯器とかは流石になかったので、ちょっと大きめの土鍋を買ってビゲルさんに持ってもらった。

 店長はお粥にしてかさましさせてただけだからか、お店には普通の鍋しかなかったんだよね。

「お前のところは米が主食なんだったか」

「パンも麺類も食べるけどね」

「麺類なら乾燥させたものが売ってるぞ。南地区じゃあんまり見かけないが、西地区の方に行けば市場で売ってる筈だ」

 仕事で近々行くから買ってきてやろうと言ってくれたので、是非にお願いしますと頼んでおいた。ビゲルさん曰く、地区ごとに市場の品物は特色があるとかなんとか。東地区は魚介類が多いそうだ。水系の迷宮が多いかららしいけど。一つの王国なのに世界旅行気分が味わえる国だな。


 そんなわけで準備を整えた次の日、ストレイル兄弟にお願いして冒険者ギルドまで連れて行ってもらった。ビゲルさんから一人では来るなよと釘を刺されたので、野菜が見えないくらい細かく、そして溶けるまで煮込んだスープを二人に飲ませてから来た。もちろん、水筒にも常備してある。

 講習を受けてる間用のおやつもちゃんと準備してあるので、暴走等はしない。…筈。おやつと言っても、昨日買った土鍋で大量に作ったおにぎりだけどね。

 野菜嫌いとか言ってたけど、おにぎりは食べてたからルカは大丈夫だと思う。リオは固形物食べたら吐くとか言ってたからなぁ。水筒のスープ飲んでてねとお願いしておいた。二人とも、冒険者ギルドで騒ぎは起こしたくはないらしく、素直に頷いてくれたけど。

「今度はスープに肉を入れてくれ」

「リオが固形物食べれるようになったらね」


 受付にはやっぱりビゲルさんが居た。うーん、迫力が違う。

「おう、来たなお前ら。講習は奥でやるから、ストレイル兄弟もついてって、隅っこで見学してろ。特別に飲み食いしてて良いから」

 その前にこれをと首から掛けるタイプの身分証明証を渡された。昨日の今日で作り直しだったけども、そんな手間じゃないらしい。

「術式とかそういうのは、何代か前のストレイル家の呪文使いが作り上げたんだよ。空気中に広がる魔素を元に、持ち主の状態を読み取るんだ。それを数値化して可視化する機能付きだぜ。パーティ登録すると、お互いの状態もわかるようになる優れものだ」

 ゲームっぽい機能だ。というかそういうの作っちゃえるほどすごいのに、どうして没落しちゃったかな。

「ギルド証の開発にかかった金が莫大過ぎて、特許を譲り渡さなきゃならねえほど困窮したんだ」

「うわぁ」

 見込んでいた費用の十倍以上掛かったとか。依頼したのが国だったので、国庫が傾いたとか。そりゃあうん、もう何も言えない。

「この国にはそういうストレイル家の残したものが大量に存在するんだ。だからまあ、年寄りほどストレイル兄弟に対して寛容なんだよ」

「なるほど」

「んじゃ奥にギルド職員の講師がいるから、行ってこい」

「はーい」

 カウンターの横を通り抜けて奥に行くと、鍛錬場と言われる部屋があった。そこで講習らしいけども、受けるのはどうやら俺だけみたいだった。

「よろしくお願いします」

「よろしく、私は講師のナキアよ。先生って呼んでくれて良いわ。迷宮探索の注意点等を説明するわね。武器の扱い方を習いたい場合は、受付で再度、その武器の講習に申し込んで頂戴」

 右目に眼帯をしているポニーテールのお姉さんだった。胸当てとかつけてて、如何にも冒険者という格好だ。

「ロータは迷い人と聞いているわ。それじゃあまず…って、ヒィッ!!?? ストレイル兄弟!!??」

 隅っこに立ってた二人を見て、ナキア先生が悲鳴を上げた。そしてその場で頭を抱えて、血が血がとかぶつぶつ言っている。

「と、と、とととと突然血を吐かれて、わた、私、私いいいい」

 とんでもなくトラウマになってらっしゃる。

「自己紹介をお願いしたら、血が、血が、血がああああ。と、と、途中で暴れ出すし…っ!!??」

「あの、ナキア先生」

 大丈夫ですかと声をかけたら、震えがピタッとおさまって顔を上げてくれた。

「……私のことを、先生と呼んでくれるの?」

「え、そう呼んでって言ったよね」

「言っても呼んでくれる生徒なんていなかった…! 王立学園の子供はみんな、プライドが高くってそんな事も知らないのに講師やってるんですかとか、プークスクスって笑ってきて、注意したら親からクレームが来るし。学校の先生辞めてギルドの非常勤講師になったら、血反吐を吐くか暴れる生徒にあたっちゃうしでぇぇぇ」

 うわあ、ついに座り込んで泣き出しちゃったよ。学級崩壊とかは世界を選ばないようだ。どこでも先生って大変だな。

 リュックに入れて持ってきたお茶(近くの露店で買った)をあげたら、迷い人は天使なのかしらとまた泣かれた。先生という職業の人は、お疲れのようだ。

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