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23 お説教と俺

 いつもだったら二、三時間で迷宮から戻ってくるのだけど、今回は十層まで行った上に、ベビーアースドラゴンを倒していたので、時間は夜になっていた。

 そして毛ガニ漁から帰ってきた店長は、夜になっても帰ってこない俺たちに気付いて、ちょうど様子を見にきたビゲルさんに事の次第を報告。それでもって俺たちが、午前中に『月光の洞窟の迷宮』に入ってから、出てきてないことが判明した結果。


「俺は、お前たちが、迷宮で死んだんじゃないかって……グスッ、冒険者をしてたら、そりゃ、いつか……、いつかはそんなことがあるんじゃないかって、わかってる……。けど、ううううう、俺は、俺はああああ」


 ビゲルさんに怒鳴られた後、店に戻ってきてからずっと店長は泣いている。

 めちゃくちゃ気まずい。ビゲルさんは腕を組んで、厳しい表情のままだ。


「冒険者が迷宮に何時間も、何日も潜るのは普通のことだ。だがお前らはまだ、駆け出しのひよっこだ。迷宮で何日も過ごすには早すぎると思う。……まあそれは、本人が決めることだから、あまり俺がとやかく言う事じゃねえが。……長い時間出掛けるのなら、せめてジャスにはちゃんと言ってから行け」


 これは心の底から心配されてたんだってわかった。なので素直に謝るしかない。店長の心労をどうにかしたかったのに、余計な心配を掛けちゃった。

「それで、どうやって迷宮から出てきたんだ? 衛兵は出てきたのは見なかったって言ってた……、おい、何やらかした」

 やらかしたこと前提で聞かないでほしい。

 ビゲルさんに睨まれると、めちゃくちゃ怖いんだけど。チラリと二人を見ると、すでに目を逸らして下を向いている。逃げないで。俺が説明するの、これ。

「えっと、そのー」


「この大馬鹿がああああ!!!!!」

「何をやってるんだ、お前たちは!!!!!」


 店長とビゲルさんに、めちゃくちゃ怒られた。

「魔物除けのアイテムを使ってるからといって、不用意に階層を下るだなんて! 命知らずにも程がある!!!」

「ましてや情報がそんなにない迷宮を!! いいか、迷宮にはモンスター以外にも、罠も存在するんだぞ!!!」

 その通りだと思います。本当にごめんなさい。

「しかも十層にはアースドラゴンがいた!!?? 未踏の階層ボスの存在だと!!!???」

「帰ってこれたのは偶々拾った魔法陣で!!!?? 完全に遭難して死亡しててもおかしくないじゃないか!!!!!!」

 もっと考えて行動しなさいと、散々お説教された。そして迷宮探索の心構えを散々に説かれる。

「なあ、リオ、ルカ。そしてロータ」

 店長は深いため息を吐いてから、心配したんだよと言った。


「頼む。次行くときは、ちゃんとどれくらいで帰ってこれるか、教えてほしい。そうすれば俺もな、覚悟ってものができるから」


 あんまりにも優しい声色だった。店長は困ったように笑っている。何か言わなくちゃいけないのに、謝る言葉も出てこない。

「ああもう、お前らもう飯食って寝ろ。それから明日はギルドの方に来い。いいな」

 そう言ってビゲルさんも帰ってしまった。

 店長が作っておいてくれた夕飯を、ほぼ無言で食べ終えて、俺たちはそれぞれの部屋に戻った。つもりだったんだけど、自分の部屋に行こうとしたら、ルカの手とリオの手が俺の服を引っ張って、そのまま二人の部屋へ直行した。

「えっと」

「どどどどどうしましょう、叔父さんに大変悪いことをしてしまいました」

「叔父さんにあんな顔をさせたかったんじゃないんだ」

 ものすごい落ち込んでる。うん、その気持ちすごくわかるよ、俺も同じだからね。ただね、もう謝るしかないんだと思うよ。それから、素直にどうしてそういうことをしたのか、話すしかないっていうのもある。

「お金が欲しかったことですか?」

「その理由かなぁ。店長はもっと怒ったり悲しんだりするかもだけど」

「事態が悪化する」

「ううん、でもお金を手に入れて厨房を修理したかったのはさ、いつまでも店長さんのお世話になっていたくないってのも理由じゃん。一人前としてみてもらいたいって気持ちもあるでしょ」

「……はい」

「じゃあ話さなきゃだよ」

 俺のおばあちゃんはいつも、どうしてそうしたのか理由を聞いてくれた。ダメなことも良いことも、いつもちゃんと俺の話を聞いてくれたんだよ。おばあちゃんは、それが保護者の役割だものって笑ってくれた。話してくれない方が悲しいって。

「……リオ、明日叔父さんと話そう」

「そうだね、ルカ」

 じゃあ俺は部屋に帰ろうと思ってたんだけど、結局そのまま三人並んで寝ることになってしまった。あれ、あんまり自分の部屋使ってないよね。まあ、いい、のかなぁ。


 暗い部屋の中で、誰かの寝息が聞こえる。

 一人じゃない安心感に目を閉じているけど、なかなか眠気はこなかった。

「……眠れませんか?」

 小さな声で、リオが話しかけてきた。どうやらまだ起きてるらしい。

「今日は色々あり過ぎて……」

「ですね、本当に。十層で階段が消えた時、死ぬんだって思いました」

 リオも思ったんだ。でもその割には、落ち着いていたような。

「いつも血反吐を吐いて死にかけてますから」

 落ち着いている理由がひどい。普通の人はそんなに血反吐も吐かないし、死にかけもしないよ。

「でも本当に死というものに直面したのは、今日が初めてかもしれません。でもパニックにならなかったのは、ルカとロータがいたからかもしれませんね」

 リオの静かな声色が闇の中に溶けていく。

「私が守らなきゃって思ったら、冷静になれました。不思議ですね」

 リオはお兄ちゃん体質なのか。そういえばルカの将来のことも気にしてたのを思い出す。あれはリオの勘違いもあったけど、根っこは同じだ。

「何があっても、私が守りますから、絶対に」

 思いのほか、リオの声が近かった。だからなのか、少しドキッとしてしまう。

 何かあると血反吐を吐いてぶっ倒れるけど、中身は俺なんかよりよっぽどしっかりしてて、男前なんだよな。そんなことを思ってるうちに、だんだんと眠くなってきた。なんだか、安心して寝れそうだ。



 そうして、朝になって。


 もう一度三人で店長にごめんなさいと謝った。

 そうしたら店長が、もう大丈夫だと笑って許してくれた。それから、子供だと思ってたのに、いつの間にか大人になってるんだなって涙ぐんでたよ。

「お前たちは俺が育てるって思ってるからな、金のことを気にさせるわけにはいかねえって……。でも、そうだな、お前たちはお前たちなりの意地ってもんがあるんだよな」

 ベビーアースドラゴンを倒したことを話すと、驚いてたけど強くなったんだなと頷いてた。ジャス店長、わかる大人過ぎる。


 そんな感じで朝ごはんを食べた後、三人で冒険者ギルドに向かった。

「南瓜を売りましょう。厨房の修理代の足しになるはずです」

「肉も売ろうよ、きっとあれ高いよ」

「南瓜だ、南瓜を売ろう」

 まさかこの兄弟、南瓜も嫌いなのか。アモニュスは南瓜好きみたいだけど。

「おう、来たなお前ら」

 ギルドではお馴染みのビゲルさんが腕を組んで待ち構えてた。そして流れるように、奥の部屋に連れて行かれた。


「説教の方はジャスがやっただろうから省略するぞ。で、お前らは十層まで降りて行ったんだってな。何があった」


 十層に降りた途端に階段が消えたことを話したら、顔がピクピクとしてたけど。怒らずに話の続きを聞いてくれたよ。ビゲルさんも大人だ。それで、階層ボスらしい超巨大なドラゴンタートルの話をすると、唸り声を上げた。

「ドラゴンタートルでそんなデカいのは、聞いたことがねえな。しかしそれが本当なら、月光の迷宮を探索する冒険者が増えるな」

 リオが言ってた通り、アースドラゴンが倒せる冒険者にとっては、うじゃうじゃいた十層はおいしい場所だそう。

「ただ一度、調査しないとな。九層までは魔法陣があったってことは、みんな十層で死んでるってわけか。新人が十層まで入り込むことはないとは思うが、お前らみたいな不用意な事をしでかす奴らもいるしな。よし、ギルド長権限で一時封鎖しよう」

 ええ、封鎖しちゃうの。大丈夫なのそれ。

「人気のある場所でもねえ。ドロップ品は他の場所でも手に入るって言ったろ。あそこを訪れるのは、不人気な迷宮を攻略しようとしてる物好きくらいだ。あと、お前らみたいなのとかな」

 はい本当にすみませんでした。

「というわけで、俺は忙しい。ドロップ品を売るなら買取口へ持っていけ。あと本当に心配したんだぞ、……迷宮の外で俺たちが待ってるってのを、忘れんなよ」

 うう、心にすごく来る事を言われちゃったよ。ジャス店長といい、ビゲルさんといい、良い人たちだなって本当に思う。

 そんな余韻に浸る暇もなく、それじゃ出てけと部屋を追い出された俺たちは、言われた通り買取口へ向かった。

「はいはい、買取ね。ベビーアースドラゴンからのドロップ品なら、常時買取依頼が出てるんで、そっちで計算するよ」

 職員さんが慣れた様子で作業してくれてる。

「鱗が1万5000メル、牙が5万メル、尻尾の切れ端が25万メルだね」

 待って、最後なんかすごいの言われなかったかな。尻尾の切れ端ってなに。

「この三角のこれが尻尾の切れ端。レアドロップだよ。一つ5万メルで買取」

「何に使うんですか?」

「土系魔法の強化触媒になるんだ。武器とか防具とかに使われることが多いかな」

 魔導書の精製にも使われたりするんだって。へえ、ドロップ品て奥が深い。

「それと迷宮黄金南瓜は一つ1万5000メルで買取。いくつ売るんだい?」

「全部」

「いえ、3つでお願いします」

 うわああめちゃくちゃ不満そうな視線が来た。でも俺は南瓜は食べたいんだから、絶対に譲れない。

「こっちの分厚いお肉は一枚8000メル。……はい、二枚買取ね」

 絶対に渡さないという圧を感じて、二枚だけ売ることにした。そうしてかなりの大金を手に入れた。

「うわああ、すっごいお金が手に入っちゃったよ。やっぱり冒険者って夢があるんだね」

「初めて、初めてまともに稼げました……!」

 リオとルカが頷いて噛み締めてる。うんうん、良かったよねぇ、本当に。


「それでこのお金の使い道なんですけど、厨房の修理費に当てたいんです」

「いいと思うよ」

「あと斧の講習を受けたい」

「それはもちろん」

「……その他の管理は、ロータにお願いしたいんですけど、良いですか?」

 え、俺が管理するの。それで大丈夫なのかな。

「お恥ずかしい話、私たちはそんなに現金を持っていなかったので、お金の使い所が分かってなくて」

「あと回復薬や修理費は基本的に叔父さん任せだ。借金がどれくらいあるか把握すらできてない」

 そういえばそうだった。ギルドが立て替えてるんだもんね。その辺のことは後でビゲルさんに相談しよう。

「食事の管理はロータがしてくれてます。これ以上の負担をかけるのは、申し訳ないのですが……」

 でもなぁ、戦闘では俺全く役に立ってないし。こういうサポートをするのは、うん、悪くないかも。

「いいよー。俺、頑張るよ」

「ありがとうございます!」

「ありがとう、ロータ」

 二人からお礼を言われたけど、お礼を言いたいのは俺の方だ。俺ってあんまり、家族から頼られることってなかったからなぁ。一緒に暮らしてる二人から頼られるのは、ちょっと嬉しい。


「というわけで、さっそく斧の講習に申し込みましょう。ルカが講習を受けている間、私は調べ物をしてきます」

「何を調べるの?」

「月光の迷宮に入れないなら、他に行けるところを探さないと……」

「あ、それもそーだね」

「厨房の修理費用を考えると、防具類は今のままで行けそうなところが良いので」

「武器は強くなったけど、防具は高いもんね」

 迷宮内で運良く見つけられる事って、なかなかないらしいし。

「じゃあ行ってきます。ルカが講習中に暴走しないよう見張っててください」

 俺はリオが血反吐を吐かないかも心配だよ。

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