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22 月光の迷宮脱出と俺

 ぶっ倒れたリオに回復薬を飲ませて、ルカの口には大急ぎで肉巻きおにぎりを放り込んだ。さっきは出さなかったけど、残しておいて本当に良かった。

「とりあえずリオを運んで、奥に行こーよ」

「わかった」

 坂を登り切った先には、色々な物が積み上がっている瓦礫の山があった。

 なんか石の他に、鎧とか武器みたいなのが見えるんだけど。

「死んだ冒険者の装備品は、時間が経つと迷宮に吸い込まれて消える。どこに行くかは不明だ」

「じゃあこれ、その消える筈の装備品?」

「わからない」

 わからないんじゃ仕方ないか。

 とりあえず使えそうなものはないか見てみるけど、剣とか鎧とかは壊れてて使えそうにない。

「持って帰っても売れないか」

「逆に処分費用を請求される」

「世知辛いなぁ」

 ルカがおにぎりを食べながら見ていた。けどぴたりと足を止めて、これなら使えそうだと言った。

「埋まってて、柄の部分しか見えないけど。アモニュス、ここら辺だけ胃袋に収納できる?」

「良いのだ、我に任せよ!」

 どういう原理かわからないけど、アモニュスが口を開いた途端、その周囲の瓦礫が消えた。そして反対の場所に出してもらうと、幾つもの石と岩、それから壊れた鎧と、大きな斧が出てきた。

 ファンタジーとかでよく見る、装飾の施された凄い業物っぽい武器だ。

「強そーだね」

「今の剣より良いものだ」

「じゃあそれ使うの」

「ああ」

 さっそく装備してる。どんな武器でも使いこなせるっていうし、斧も使えるんだ。

「いや、斧は使ったことがない。だからギルドで斧の戦い方の基本を教えてもらう」

 あ、ちゃんと基本を覚えようとするんだ。偉い。

「講習費用15000メルだ」

「お金取られるんだね」

 講習費用を賄えるような物があればいいけど。その前にここから出らればいいんだけど。

 アモニュスの胃袋に収納したあたりの瓦礫を見ていると、特に壊れていない荷物袋を発見した。中にはボロボロの本と、丸められた紙。

「その辺はリオに見せた方がいい」

「そうだね、目が覚めるまでここで休憩しよ」

 地面に寝かせておいたリオが唸ってるので、ちょっとかわいそうだから頭を膝に乗せてあげよう。

 固い地面よりはマシだろうし。

「実はさっきの戦闘で、剣にヒビが入った」

「うわぁ、だから代わりの斧か」

 ルカがこくりと頷く。

 石礫で勝てるようなモンスターがいない現状、ここにあるもので何か役に立つ物があることを祈ろう。ルカの第六感に賭けるしかないよね。


「……はっ、……えっええ?」

 唸っていたリオの目が開いたと思ったら、ものすごく戸惑ってる。

「……えっ?」

「地面よりはマシかなぁって思って」

 目が覚めたら男に膝枕されてたら驚くか、やっぱり。ごめんねと謝ると、そんなことありませんと勢いよく体を起こされた。急に起きて大丈夫かな。

「ヴエエエッ、ゲホッ」

 めっちゃくちゃむせてる。リオの背中をさすってあげると、ゼイゼイ言いながらなんとか落ち着いたみたいだ。

「て、天国と地獄が同時に……」

 あの世に召されそうになってる。本当に大丈夫かな、この子。

 リオが気絶している間に沸かしたお湯で、お茶を入れてあげた。それを飲んでるリオを見てると、なんだか介護をしているような気持ちになる。いや実際、介護と変わらない気もする。

 とりあえず、さっき見つけた荷物をリオに見せてみた。

「この巻物は、緊急脱出用の転移魔法陣です! これで迷宮から脱出できますよ!! 一枚10万メルの高級品!!!」

「お値段!!!」

 でもいざという時の為のものにしては、お安いかも。詰んでた俺たちにとっては、天の助けだもんね。

「荷物袋の中身は、……これは戦闘用の魔導書ですね」

 魔導書に戦闘用とそうでないものがあったりするのかと、不思議に思ったら、リオが教えてくれた。

 一般的に魔導書は呪文言語や魔法に関して解析したものを記してあるんだって。それでもって戦闘用というのは、それを装備すると覚えていない魔法も使えるようになるっていう、便利なシロモノなんだそうだ。

「凄い便利じゃん」

「デメリットもありますよ。この魔導書を装備して使うと、この魔導書に記されている魔法以外は、一切使用できなくなりますから」

 今回手に入れた魔導書は『火焔殺の魔導書』というものだって。普段リオが使ってる火の魔法よりも強力なものが幾つも使えるようになるようだ。

 魔法を覚えちゃえば装備する必要もないらしいけど、魔導書を装備してると魔力消費が半分くらいになるっていう恩恵があるんだって。それから、魔導書専用の強力魔法が使用可能だとか。凄い格好良いな。

「ただ今の私だと、この魔導書の専用魔法は、発動する前に血反吐を吐きます。あと多分、目と耳と鼻からも、血が吹き出るかと」

「装備する意味」

「普段使ってる火魔法の威力が強くなりますから」

 でもそうすると、ルカの身体能力を強化する魔法が使えなくなっちゃうんじゃないのかな。

「戦闘に入る前に、杖を持って魔法をかけて、それから本を持てば、なんとか?」

「そんなにモンスターって待ってくれなくない?」

 何か良い方法はないかなと考えてみて、ふと思いついたことを言ってみる。

「こう、体の周りに本と杖を浮かせて、使うときに手に取るとか?」

「まず常時、物を浮かせる魔法という極めて魔力を消費し続けることをしたら、私は戦闘前に血反吐を吐いて終わりますね」

 ファンタジーな世界なのに、そういうところ厳しいな。

「あ、アモニュスを頭に乗せて、杖と魔導書を使うときに応じて出してもらうとか、………………ごめん、無しだね」

 めちゃくちゃ渋い顔をしてるよ。そんなに嫌なのか、アモニュスが。気持ちはわかるけど。


「リオ、これを」

 さっきからルカが、瓦礫の山をゴソゴソと漁っていたんだけど、何かを発見したらしい。

 手に持っていたのは、壊れかけたバッグだ。中身は魔力回復薬だって。え、飲めるのこれ。

「こういうものは古くなると効果が薄まるそうです。色とか見る限り、大丈夫そう、だと、思います」

 この中で魔力回復薬を飲むのは、リオだもんね。顔引き攣ってるけど、必要に迫られたら飲むんだろうな。バッグの中には五本入ってたけど、三本は割れちゃってる。

「使えそうな剣があれば、欲しい。けど、なかなかないな」

 そっか、斧は講習受けないと使えないもんね。でも転移魔法陣で戻ればいいんじゃないのかなって思って聞いてみると、ルカはもう少しここにいたいと言い出した。

「ベビーアースドラゴンなら倒せる。あと一匹か二匹倒したい」

「えええ、危なくない?」

「……いえ、それは良い考えかもしれません」

 この二人ってたまに無茶をするよね。本当に大丈夫なのか聞いてみたら、モンスターを倒したときに吸収する魔素の量が桁違いだったのだそうだ。あ、大量レベルアップってやつ。

「ドロップ品が良い肉だった」

「そっちかー」

 黄金に輝く南瓜っぽいのもあったよ、野菜のことも忘れないであげて。

「あとモンスターを倒すと、微々たる金額ですがお金も手に入りますから。斧の講習費用は稼ぎましょう」

 1万5000メルか。確かさっきは肉と南瓜に気を取られて、いくら手に入ったかみてないや。アモニュスに聞いてみたら、これぞと言って胃袋から出してくれた。

「5000メルか。これって稼げてるの?」

「さあ、ドロップ品の食材か素材を売る方が稼げるので、なんとも」

 そういえば食材以外もドロップするんだっけ。いつも食べ物狙いだから忘れてた。うん、そうだよね、食費をどうにかするために、生活のために迷宮に来てるんだから、仕方ない。

「我、カボチャ料理も好みぞ」

 この前までフライドポテトってうるさかったのに、今度は南瓜料理か、アモニュス。

「芋は芋で、南瓜は南瓜でよさがあるのだ!」

「そりゃそうだね」

 おばあちゃんが作ってくれた南瓜の煮物、美味しかったな。なんだかほっこりした気持ちになって、あったかくて。あ、なんだか泣いちゃいそう。迷宮から出たら、南瓜の煮物作ろう。


 何本か、少しの間なら使えそうな剣を発見したルカと、新しく手に入れた魔導書を使ってみたいリオとで、ベビーアースドラゴンを倒した。

 この二人って、調子に乗ると止まらなくなる。なので俺は、彼らが五匹目のベビーアースドラゴンを倒したところで、アモニュスを投げてあげた。

「行け、アモニュス!」

「我の扱いいいいいい!!!」

 俺の腕力じゃたいして飛ばないから、アモニュスに自力で飛んでもらって、二人に体当たりしてもらったのだった。


「すみません、つい夢中になってしまって……」

「すまない」

 帰る前に一旦休憩。そのときに二人に謝られた。

 きっと強くなってく実感があるから、モンスターを倒したいんだろうけど。気持ちはわからなくもない。

 でもね、ここ、ベビーアースドラゴンだけじゃないんだもの。普通にアースドラゴンがいるんだよ。しかもあのお月様の目が時折開いて、咆哮をあげるから、めちゃくちゃ怖い。

「そういえば、この階層のことをギルドに報告すれば、ちょっとお金がもらえるかもしれません」

「え、そうなの?」

「階層ボスは一回しか出現しないので、ギルドは情報提供を呼びかけてるんです。倒せるなら倒して進んで良いのですけど、今回みたいに明らかに雰囲気が変わって強いモンスターの場合は特に注意が必要ですから」

「一応ここ、岩ガメしか出ないって話だったもんねぇ」

 キノコと芋を求めるだけの冒険者っていないだろうしね。確か他の迷宮でも手に入るドロップ品ともなれば、誰もこなさそうだけど。

「アースドラゴンがいるなら、変わってくると思いますよ。私たちはまだ無理ですが、高ランクの冒険者ともなれば、稼げるおいしいモンスターだって聞きます」

 なるほど、やっぱりそういうのあるんだなって思った。

「帰ったら肉を焼いてくれ」

「南瓜は?」

「売ろう」

「売りましょう」

 即答しないで。野菜も食べて。

「我はカボチャ料理食べたいのだ! 供物、供物うう!」

 今回アモニュスは大人しくしてたし、俺も南瓜煮たの食べたいから、一個は残しておこう。肉は売ったらルカが暴れそうだから、売れないけど。

 あとはベビーアースドラゴンの牙とか、鱗とかいうものがドロップしてた。少しはお金になると良いんだけどと話しながら、転移魔法陣の巻物を開く。


 バチっという音と、ちょっとの浮遊感。


 そして一瞬で、俺たち三人は迷宮の入り口に戻ってきたのだった。


「離せ、離してくれ!! 俺を行かせてくれ、ビゲル!!」

「待て、落ち着け! まだ死んだって決まったわけじゃねえ!!」

「でも、こんな時間になっても帰ってこないんだぞ! きっとどこかで動けなくなってるに違いない!!!」


 なんか入り口で騒いでる人がいるなあと思ってみてたら、店長だった。あとビゲルさん。

 店長が泣き叫んでるし、何事かと人も集まってきてる。声をかけるべきか迷っていると、地面に手をつきながら店長が泣いていた。

「俺は、あいつらに申し訳ないことを……!!!」

「とにかく、一旦落ち着け……ん?」

 あ、ビゲルさんが俺たちに気付いた。ん、一旦目を逸らされて店長を見てる。それからまたこっちを見て。


「お前らあああああ!!! どこほっつき歩いてやがった!!!!???」


 めちゃくちゃものすごい勢いで怒鳴られた。

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