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20 お金がない兄弟と俺

「キノコは全部こっちで引き取っていいんだな?」

 ビゲルさんが本当にいいのかときいてくる。やっぱそうなるよね。キノコをギルドに売らないで、薬屋で引き取ってもらった方が良いのは、よくわかってるんだよね。

 だってそっちの方が、リオの回復薬の代金割引してもらえるもの。

 でも今現在、俺たちにはどうしても現金が必要なんです、ビゲルさん。

「色々差し引いて、合計1万5000メルだ。そっちの大量の芋はどうする?」

「芋も売りたいけど」

「ビエエエッ!!! 芋は、芋だけは勘弁するのだああああ!!! やっと手に入れた芋ぞ!! 我の供物ぞ!!!」

 アモニュスがこれなんで、売るのは諦めた。

 冒険者ギルドにある、卓上コンロみたいなのが付いてる、お試し野営セットの値段が1万4850メル。取り敢えず買える。本当に良かった。

「……すまない」

 ルカがめちゃくちゃ落ち込んでる。いやうん、卓上コンロを買うことになった原因は、ルカが空腹で暴れたせいなんだけどね。こうも落ち込んでるのを見ると、なんかこっちが悪いことしたような、胸が痛くなるっていうか。

 ちなみにリオは、ベッドの上の住人になってる。そして店長は、修理代を稼ぎに迷宮毛ガニ漁に行った。後で俺の生活費から、店長に栄養ドリンク的なもの差し入れしよう。

 破壊された厨房をなるべく見ないようにしながら、店のテーブルの上に卓上コンロを置いた。

「フライドポテトぞ!? フライドポテトぞ!??」

 アモニュスがぴょんぴょん跳ねて興奮しているけど、残念ながらフライドじゃないんだな、これが。油がね、そんなにこの店にはなかったんだよ。

「くぁwせdrftgyふじこlp!!!????」

「アモニュス、俺にもわかる言語でしゃべって」

 ドロップ品で10個で5メルで売ってたラードがあった。スーパーとかで無料でもらえるやつ、そっくりなの。多分この世界、肉が全部ドロップ品だから、ラードも個別でドロップするんだろうな。

 

 ドロップ品で10個まとめて1メルで売ってたラード買ってきたから。揚油には足りないけど、なんとかなるから。


「さすがロータ、うまい芋の料理ができるんだな」

 ルカがソワソワしてるように見える。うん、楽しみなんだな。もったいぶらずに作るよ、フライドポテト、もどきを!

 なんてことはない、芋を茹でてから切って、少ない油で焼くだけなんだけどねぇ。

「ううう、これはこれでうまいのだ! 我は満足なのだ!! もうファーストフード店に行けないから恋しくて恋しくて……!!」

 泣きながらフライドしてないポテトを食べてるよ。ケチャップかソースが欲しいって言ってるけど、塩があるだけマシだって。ケチャップは売ってたけど高級品。うちの懐事情を考えると無理です。

 アモニュス、お前はこの世界を創った神に本気で土下座した方がいいと思う。というか、どうしてアモニュスを選んじゃったんだろ、創造神さま。

「芋はうまい」

「よかったね」

「芋うまい」

「うん」

「芋うま」

「言葉喋ろうね」

 アモニュスに負けないくらい、ルカが芋を口に入れてるんだけど。リスみたいにパンパンになってる。

 そんなに気に入ったんだ、フライドしてないポテト。

 この二人、いや一人と一匹(?)かな。見てると、あるだけ全部食べちゃいそうだ。そして見ているだけで、胃に溜まってくる気がする。

 自分の分として取り分けたお皿のポテト。うん、ちょっと食べれる気がしなくなっちゃった。

「ルカ、俺の分食べる?」

「……! 良いのか!?」

「いいよぅ」

  手に持ってたポテトをルカの口元に持ってくと、一気に吸い込まれた。え、消えた。ヒュボッて音がしたかと思ったら、一瞬で消えた。ポテトは飲み物じゃないよ。

 自分のお皿にあるポテトとルカを見比べて、もう一度ポテトを口元に持って行ってみる。

 あ、また消えた。消える。消えちゃう。消え……。

「あっ」

 ポテトがなくなったのを見てたら、パクリと、ルカの口に俺の指が。え、このまま吸い込まれるの。

 ちょっとこの子、今度は俺の指吸い始めたんですけど!?

「塩の味がする」

「そりゃあね!? 塩味のポテトだからね!?」

「美味しい」

「食べないでね!?」

「同族喰いはやめるのだぞ! 基本的に人間から嫌われるのだ」

 アモニュスがルカに体当たりしている。コレって一応、少しは助けようとしてくれてるのかな。ありゃ、ルカに頭ごと掴まれた。

「鬱陶しい」

「ピィィィッ! 我、神ぞ! 敬えええ!!??」

 アモニュスがポイっと投げ捨てられた。アモニュスの扱い。まあわからなくはないけど。

 いや今はアモニュスの心配より、俺の心配だ。

 だってルカが、さっきから俺の手首掴んで離さないんだよね。え、ほんと、まじで食べるのやめてね。

「……ちょっ」

 ルカの舌が、指の間に絡みつくように舐めてくる。

 なんだかよくわかんないけど、ゾクゾクする。これはまずい、本当にまずい。

「これ以上はダメだって、まじで!」

 バタバタ手を動かしたら、離された。よかった、指はかけてない。

「…………」

「…………」

 ちょ、気まずいんですけど。なんか言ってくれないかな。

「……塩味だった」

「それ以外の味がしたら怖いからね!?」

 ルカがそうかなと首を捻っているけど、なんでそこで疑問を感じちゃうんだろう。そこ疑問を感じるとこじゃないと思う。


「あのう、すごい音がしたんですけど、大丈夫ですか?」


 フラフラになったリオが、階段を降りてきた。文字通り、這いつくばって。

「ベッドで寝てなきゃダメだよ」

「ですが、二階が揺れて……。ルカが暴れて家が破壊されるのかと」

「まだやってない」

「じゃあ一体どうして」

「あ、アモニュスかな?」

 さっき思いっきり投げ捨てられてたし。

 壁の方を見ると、いじけてるアモニュスを発見した。でももそもそとポテト食べてるし。

「……我の眷属ども、我の扱い酷すぎぃ。我を敬うと良いことが起こるのに」

 今のところ災厄しかよんでないもんね。

「加護を授けたではないか!」

「もっとお金稼げるようなのが良いなぁ」

 破壊された厨房の修理費用とか、欲しいよねぇ。何かあったときに、店長が毛ガニ漁行かなくて済むくらいのお金があればいいと思っちゃうよね。

「ふぬぬ、金よりも美味しいゴハンが良いのだ」

「ゴハンを食べるのも、お金が掛かるから」

「世知辛い世界! 誰だこんな世界作ったのはああああ!!!」

 アモニュスを神に据えた創造神さまだよね。ジタバタと手足を動かしていたアモニュスは、少しすると起き上がった。

「我、金を稼ぐぞ。……黄金や宝石を生み出す能力はないのだ。……うぬぬぬ」

 アモニュスの胃袋収納は、アモニュスがきちんと認識したものじゃないと、個別で取り出せないんだって。迷宮でのドロップ品は、アモニュスがきちんと肉だの芋だのキノコだのってわかってるから、ちゃんと取り出せている訳で。

「……そうだ、我の眷属ちょっと来るのだ! いつも血反吐はいてる方! あ、ごめんなさい、やめてやめて我死なないけど頭潰されるの結構つらいのぉぉぉぉぉ、リオ様ルカ様あああああ」

 リオを指差して血反吐って言った瞬間、ルカがアモニュスの頭を両手で潰し始めた。もう神様の尊厳ってなんだろうって思う。

「……それで、なんですか? 変なことしたら、擦り潰しますよ、ルカが」

「ピィッ!? 怖い、怖いよぉ! うう、リオは呪文使いぞ。それこそ、攻撃魔法以外も余裕で使えるのだ」

「それは知ってますけど、魔法の研究はお金が掛かるんですよ。魔導書を買うのだって、結構な値段がしますし。私が使っている魔法は、冒険者ギルドで5000メルで教えてもらえる、初級中の初級ですから」

 魔導書を読めば、魔法の効力と理論を大体理解できて、一回放てば完全に使いこなせる、らしい。リオの精神力が足りなくて、そこまでいっていないそうだけど。

「初級魔法は使えば使うほど、練度が上がって、派生の魔法が使えるようになるんです。今のところ、それ以外で魔法を新たに覚えられる環境じゃないです」

「いつも家で読んでる魔法の本は?」

「あれは、こういう魔法もあるよっていう紹介だけで、実際の理論とか構造とかが詳しく書いてあるわけじゃないですから」

「なるほど」

 アモニュスがそれだと言って跳ねた。

「それなのだ! 呪文使いはそこからインスピレーションを感じて、魔法を作れるのだ!!」

「そんな無茶な」

「無茶でもなんでもないぞ! 無料で公開されている魔法の本から、こうビビビッと感じるのだ! お宝を発見する魔法とか、お金を発見する魔法とか!!」

 そんな都合の良い魔法ってあるのかな。

 リオがなんか悩んでるけど。

「迷宮探索で、ドロップ率が良くなる魔法薬やアイテムは、幸運値を上げる魔法の応用だと聞きます。おまじない程度の魔法の効力を上げて……。おまじない程度の魔法は一般的に誰でも知ってますが、効力を上げる方法は秘匿されているというし」

 あ、なんかスイッチ入った。

「魔法で宝があるところを探せるようにするのだ!」

「そういう魔法はありますけど、あんまり使われてませんね」

「なんで? 需要ありそうだけど」

「基本的に、迷宮の一番奥に一番良い物があるので」

 魔法の反応は迷宮の奥を指してるのだそうだ。

「うーん、それじゃ、隠し通路を発見するとかは? よく迷宮とかだと、隠し通路や隠し部屋って、良いものが出てくるイメージだけど」

「我も封印されていたぞ」

「ごめん訂正する」

「いえ、でもその方向性は良いかもしれませんね。特に『月光の洞窟の迷宮』は攻略もされておらず、全貌が明らかになってないですから。幸運値をあげて、ルカの能力をあげれば、それから……」

 ブツブツと言いながら考え込み始めたリオが、これだと言って拳を握りしめた。

「思いつきました! ちょっ、ちょっと部屋で考えをまとめてきます!!!!」

 また這いつくばりながら階段を登ろうとしてたのを、ルカが担いで持ち上げてった。これは、今日寝ないパターンだ。そして明日、血反吐を吐くパターンだ。

 とりあえず俺は、リオ用に残しておいた芋でスープを作った。多分、徹夜したら、ポトフとか胃が受け付けないだろうな。油で揚げた芋なんて、絶対無理だ。


 そんな予想通り、リオは徹夜して動けなくなってた。


 というか、せっかく最近肉がついてきて、ちょっと人間らしい顔色になってたのに。

 ガリガリになって顔が土色になっちゃった。

 3歩進んで5歩下がっちゃったよ。


「で、できましたよ、できたんですよ!!」

「魔法、できちゃったの?」

「はい! 一から作るのは難しいですが、既存の魔法をカスタマイズしました! 幸運値を上げる魔法、それに身体能力を上げる魔法を合わせたもの、それをルカに掛けます。ルカは元々、勘が鋭いので、この魔法でさらに勘が鋭くなる筈です」

 最後は野生の勘なんだ。

 ルカを見たら無言で頷いた後、任せろとか言ってる。え、自信満々。

「リオが言うなら信じるだけだ」

 兄弟の絆をここで発揮するんだ。

「早速試してみましょう!」

「それはやめて」

 血反吐は吐いてないけど、確定された未来が見えるもん。お金ないから、これ以上借金して回復薬買うわけにもいかないから。

 店長にこれ以上負担をかけるわけにもいかない。

 徹夜明けで変なテンションのリオを宥めすかして、ベッドに連れて行った。最後まで抵抗してたので、ルカと一緒に抱きついて寝かしてたら、そのうち気絶したけど。本当に無理しちゃダメだよね。

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