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02 呪われし兄弟と俺

 さあ行きましょうとリオに促され、出口に向かって歩く。色々な事を呑み込みつつ、すぐに扉にたどり着いた。

 出た先には鎧を着込んだ兵士っぽい人が二人いた。なんでも迷宮に入る人をチェックしているそうだ。


「ストレイル兄弟じゃないか。めずらしく担がれずに出てきたか」


 ストレイルとはと首を傾げていると、リオが家名だと教えてくれた。

「元貴族なんで、家名持ちなんです。本来なら貴族じゃなくなった時点で家名を名乗っちゃいけないんですけどね。ストレイル家は特例で、絶対に名乗らなきゃいけないんです」

 どういう事だろうかと疑問に思ったけども、兵士っぽい人達の興味が俺に向いたので考えるのは一旦やめた。

 リオが俺の事を迷い人だというと、片方は初めて見たなと興味津々で、もう片方は今度は俺らと見た目が変わらないなあと言っている。

「偶にだがいるからな。俺が最近見たのは、なんかこう全身がツルッとしてて銀色で、やたらと頭と目がデカくてさあ。発見した奴らが両脇で手を抱えて連れて歩いてたっけなぁ」


 それは地球以外から来ちゃった系の方なんではなかろうか。


「取り敢えずストレイル兄弟が第一発見者って事で良いか。大変かもしれないが、二人と一緒に冒険者ギルドに行ってくれ」

 兵士の人は手早くなんらかの書類を書き込むと、それを俺に渡してきた。それをギルドの受付で見せれば良いとの事。

「じゃあ案内しますね」

 リオの言葉に促され、二人の後についていこうとすると、その背中に兵士の人達から声が掛けられた。

「途中で倒れるなよ、ストレイル兄弟」

「暴走するんじゃないぞ、ストレイル兄弟」

 その声に近くを歩いている人達からの視線を受けた。え、なんでこれ見世物みたいになっちゃってるの。もしかしてこの二人虐げられてるとか、そういうのだろうか。

 少しばかり不安になっていると、リオがこれは気遣いなのでと笑った。


「弟は空腹の限度が超えると、自我を失って暴れるんですよ」


 何その危険人物。


「あと私はちょっとでも体に負荷がかかると、血反吐を吐いて倒れます」


 何その危険人物。初めて見たとき血の海に居たのは、吐血したからなのか。


「その、薄々気付いているかとは思うんですけど。実は私、ちょっと病弱でして」

「ごめん、俺の考えてるちょっとのレベルの限度超えてるんだけど」

「そして弟もちょっと食いしん坊なんです」

「まって、話を続けないで。ねえ、おかしいよね。明らかにおかしいよね」

「あ、ここが冒険者ギルドですよ。国営なんで迷い人のサポートもここが請け負ってるんですよ」

 俺の訴えを無視して、リオは笑顔で建物を指差した。煉瓦造りの建物で、剣とか槍とか武器を持った人とかがひっきりなしに出入りしている。

 中に入るとすぐにカウンターがあり、厳ついおじさんが立っていた。可愛い女の子が受付じゃないの、常識的に。


「…迷宮を探索する荒くれ者が出入りしてんだぞ。そいつらを相手するのに、可愛い女の子なんざ出したら大変だろうが」


 俺の考えを見透かしたのか、厳ついおじさんがため息混じりで言った。リオ曰く、他の街の冒険者ギルドは可愛い女の子が受付だから、初めてきた人は皆驚くのだそうだ。


 なんだやっぱりそうなのか。


 まあ取り敢えず先程貰った紙を見せると、厳ついおじさんはふむとちょっと考えた様子だった。

「少し奥で話すとしようぜ。ストレイル兄弟、お前らも来い」

 おお、別室に移動とはなんかVIPっぽい扱いだな。案内された奥の部屋は、偉い人が使ってそうな重厚な机があり、その手前に応接用のソファがあった。


「まあ座れ。紹介が遅れたな、俺はここのギルド長でビゲルという。よろしくな」


 一番のお偉いさんが受付やってるのか。率先して現場に出るタイプなのかな、このおじさん。

「偶々手が空いてただけだ。まあいい、取り敢えずロータとかいったか、この水晶に触れてみろ」

 言われるがまま手を置けば、白く光った。けどもそれだけである。迷宮に放り出される前の事を話せと言われたので、おばあちゃんの事を話すと、ビゲルさんはメモらしきものを取っていた。

「書類やら手続きやらで必要なんだよ、悪いな」

 役所手続きは大変。よくわかります。簡単な質問を幾つかされ終了した。


「ここに来るまでに、ストレイル兄弟から聞いたと思うが、迷い人はこのメール王国から12万メルもらえる訳なんだが。通常はここから滞在先の宿泊費とか引かれるんだ」


「ええー、世知辛い」

「そこで一つ提案がある。ストレイル兄弟が下宿してる叔父の店で、住み込みで働くというのなら、この俺が下宿代立て替えてやろう」

「え、マジで」

 わあラッキー。で済まされない話のうまさに、ちょっと胡乱な目でビゲルさんを見てしまう。ギルド長ってくらいだから、流石に騙すとかはないよねぇ。その叔父さんの店が超ブラックな職場とかなのだろうか。

「こいつらの叔父の店は、普通の食堂兼酒場だ。この前、ちょっとした給仕の仕事を手伝ってくれる奴を探してたから、ちょうど良い。迷い人の就職先を斡旋するのも、ギルドの仕事でもあるからな」

 なるほどと納得したいけど。

「そんなわけだ、ストレイル兄弟。お前らは先に行って叔父に伝えて部屋用意させとけよ」

 支度金だと行って、ビゲルさんが一万メルほど渡している。リオが驚いているが、割と強引に二人を外へと出した。呼んどいてこの扱いとは。


「…さて、だ。ちょっと話をしようか」

「は、はあ」

「その水晶でわかるのは、お前さんの犯罪歴等だ。メール王国では殺人等は犯罪となるし、人の物を盗んだり金を払わなかったりするのも駄目だ。俺達の言葉が通じているみたいだし、常識的なところはだいたい同じだろ?」

 細かい所はどうかわからないけど、まあ大体同じと考えて間違いないだろうと思う。多分。

「まあ迷い人の常識がこっちの非常識ってのは良くある事だから、最初の一年くらいは大目に見てもらえる。一年以上経っても馴染まねえ場合は、…まあ大変だとは思うがどうしようもない。こちらとしては頑張れよってしか言えないからな」

 ビゲルさんが言うには、そういった常識のすり合わせをする為に、ギルドの紹介で誰かを俺につけるのだそうだけど。

「ストレイル兄弟でも良いか?」

 ちょっとしか一緒にいないけれど、顔見知りの方が安心といえば安心なので、俺は頷いた。けどもさっきのお店で働く件といい、なんだかあの二人と俺を一緒にいさせたいように思えるんだけど。

「あー、まあこうあからさまなら、何かおかしいって思うよな。……あの二人だがな、ギルド始まって以来の…」

 ビゲルさんは深刻な顔をして言った。


「とんでもねえポンコツなんだ」


 予想通りの言葉でびっくり。やっぱそうだよね、なんかおかしいよねあの二人。


「…まあそのポンコツ具合には理由があるんだが。迷宮に潜って稼ぐ事も出来なくてな、面倒を見てる叔父の負担が増えまくって大変そうなんだよ。だから咎められない範囲で融通してるんだわ」


 二人の叔父さんは、嵩張る食費と医療費と日夜戦っているとか。そして街の人達もそれを知っているので、何とか少しでも助けようとしているらしい。

 あれめちゃくちゃいい人達なのか、これ。

「ちなみにストレイル家には借金があって、ギルドが立て替えてる」

「え、いかほど」

「25億メル」

 思わず吹き出したのは仕方ない。何だってそんな借金がと聞くと、ストレイル家が代々少しずつ借金をし塵も積もった結果だそうだけど。塵じゃないよね、かなり大きいよね。

「ちなみに少しずついまだに増えているからな」

「ヒエエエエ」

 浪費家に見えないけど一体どうして。いやルカがめちゃくちゃ食べるっていうから、それが原因か。

「街の人間、いやメール王国の奴らなら誰でも知ってる話だから教えといてやる。ストレイル家にはな、代々呪いが受け継がれてるんだ」

 唐突に何、怖い話は勘弁して欲しいのだけど。


「メール王国が出来た頃、この地に魔神が現れて滅ぼされかかったんだ。そいつに立ち向かう為に、ストレイル家のご先祖様が、別の魔神と取引したんだよ。魔神を倒す力を得る代わりに、子々孫々に呪いを受けるってのを」


 結果、ストレイル家の尽力により魔神を退け、メール王国に平和が訪れたそうだ。


「ストレイル家に受け継がれる呪いは二つ。属性や適性関係なくどんな魔法も使える呪文使い(スペルマスター)となるが、簡単な魔法一発で血反吐を吐いてぶっ倒れる『虚弱』の呪い。いかなる武具を使いこなす屈強な戦士(ウェポンマスター)となるが、少しの動きで極度の空腹に陥る『暴食』の呪いだ。『暴食』の呪いはしかも、空腹に陥り限度を超えると理性を失って、敵味方関係なく暴れまくるっていうオプション付きだ」


 普通に生活する上でも中々の困難らしい。まあ少し歩いただけで動けなくなってるのなら、確かにそうだろう。

「ストレイル家のご先祖は、魔神を倒した功績で広大な領地を持つ大貴族となったそうだが。その二つの呪いのせいで、落ちぶれて爵位すらなくなっちまったんだよ。…身代を食いつぶすほどの食費と、大量の高級な回復薬の代金でな、借金が増えに増えて…な」

 魔法を使うのには魔力が必要で。繰り返し発動させて修練しなければ、魔力量が増えない。一時的に薬で魔力量を上げる事は出来ても、やっぱり必要なのは熟練度だそうだ。武器も同じで、剣を振ったり槍でついたり、それこそ弓矢だって使って熟練度を上げなければ、強くはなれない。

 つまりそれって、レベル1で最強呪文を覚えて唱えても『MPが足りない!』ってなる訳か。武器も同じで最強装備つけれても、一振りで体力ゲージがゴリゴリ削られると。


 何そのデバフ状態。


「唯一の望みはホルルカ公国の聖なる乙女に呪いを解いて貰う事なんだが…」

 金がなとビゲルさんは遠い目をした。借金があるからメール王国から出る事も出来ないそうだ。


「冒険者ってのは一発当てればでかいからな。ストレイル兄弟も頑張ろうとしてるんだが…」


 連日迷宮入り口付近で倒れて、担ぎ出されているそうな。回復薬とか諸々かかるから、いっつもマイナスだとかなんとか。

 ゴールは遠そうだなぁ。

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