18 家族との思い出と俺
「鑑定レンズだと『魔神アモニュスの闇夜の洋燈』と出てくるな」
名前からして嫌な予感しかない洋燈。のたうち回ってたアモニュスは、洋燈を見てコレはと慄いている。
「神の座から堕とされた時、悔しかったから宝物庫を食らったのだ。その時に紛れ込んだものぞ」
と言うことはこれ、神級の凄い洋燈なのでは。
いやでもアモニュスから出てきたし、そんな凄い雰囲気もない、普通のその辺で売ってそうな茶色い洋燈である。店長と共に首を傾げていると、アモニュスは洋燈を掲げて言った。
「コレは、神々が天地創造の為に創り上げた道具ぞ! 神が使えば昼と夜を入れ替えられるという代物なのだ!!!」
「そんなの伝説級の道具じゃねえか」
「でも我の洋燈だから、今の所この店内を明るく出来る程度なのだ」
「普通の洋燈じゃん」
この世界を創った神々は、様々な道具を持っていたそうだ。で、それらを使うには、神様的な力が必要なわけで。
アモニュスは魔神となってしまったから、そういった道具類は一切使えなかったそうだけど。
「ロータが我に供物を捧げてくれたおかげで、魔神からちょっぴり良い神様としての格があがったのだ! だから洋燈に灯りがともるようになったのだ〜! 神々の道具故、簡単には壊れぬぞ! それから燃料もいらぬ故、超便利なのだ。我に感謝せよ〜!!」
ドヤ顔しているアモニュスのほっぺを引っ張っておく。
「神々の道具といえど、部屋を照らす程度じゃ高く売れないか」
「売るのか!? 神のそれを売るのか!?」
「迷宮からドロップしたのなら売れるだろうが、そいつから出たとなると…なぁ。あと魔神アモニュスってのは昔話にですら名前が出てこねえから。一般的じゃないんだよな」
「魔神崇拝の邪教徒の村があるんじゃ…?」
「それこそ土着信仰とやらで、そこの村でのみ伝わってた魔神の名前ってやつだ。だからこの国の人間は、ストレイル兄弟の事は知ってても、彼らに力を与えた魔神の名前は知らないな」
「ピャッ!? 我の知名度低過ぎ」
もっと活躍せねばとアモニュスが意気込んでいるけど、活躍って何を仕出かす気なんだろう。アモニュスだからなあ。
ともかく、壊れちゃった洋燈の代わりは手に入れたけど。
「俺が足手纏いすぎるんだよなぁ」
「そうか? 君は戦闘に加わるわけじゃないんだから、気にする必要もないと思うんだがな。迷宮毛ガニ漁でも、俺はドロップ品回収のみで、戦闘には参加しないが、怪我をすれば回復してもらえるし、しっかりと護って貰えてるぞ。そうやってお互い役割分担して連携しなけりゃ、迷宮でちゃんと稼ぐのは難しい」
最近の若い連中はそれがわかってないんだよなあと、店長は腕を組みながらぼやいた。
「ロータがストレイル兄弟と迷宮に行く様になってから、アイツらは衛兵に担がれて帰って来ることがなくなったんだ。それだけで、それだけでどれだけの事か……!」
なんか店長が感慨極まって泣き出しちゃった。本当にこの人、苦労し過ぎてると思う。
「アイツらの生活を改めてくれた事、それがどんなに素晴らしい事か、君はそれをしっかりと自覚すべきだ。モンスターを討伐したといったって、作戦立案や準備もまた、討伐するという目標に対して必要な事だろう。その後のドロップ品の回収から売買の手続きまで、どれひとつ欠けたって、討伐したという功績に辿り着けない」
「……店長」
「長年冒険者をやってれば、誰だって理解している事だぞ」
アイツらがちゃんと自分の足で家に帰ってくる。それはとても素晴らしい事だと店長は褒めてくれた。
「あとなあ、毎日毎食、ちゃんと食事を作って、掃除や洗濯もしている。それだけで相当な労働量だぞ」
凄いと店長が笑い、俺の頭を撫でてくれた。それがなんとなく、おばあちゃんを思い出させて、ちょっと涙ぐんじゃった。
俺の両親や姉達は、毎日のご飯なんて食べれてカロリーが取れればそれでいいタイプだったから。あとそれぞれ仕事とか勉強で忙しくて、決まった食事の時間ってのがない。だから俺が、おばあちゃんから教わった料理を作り置いていても、食べてくれる事はあんまりなかった。
むしろ作り置きしておくと、食べなきゃいけないって気負っちゃうから、作るなら自分の分だけにしなさいと言われたっけ。
別に外食とかデリバリーとかが嫌いなわけじゃないんだよ。何がなんでも自炊最高とか、そういう考えがあるわけじゃない。
ただ俺は、家族と一緒に、一度くらいはご飯を食べて笑って話したかったなあって思っただけなんだよね。ただ俺の家族は、俺以外はそういったことに興味が薄かっただけなんだよ。
おばあちゃんが言ってた、相性の問題なのよねって。おじいちゃんもお父さんも、そういう性格だったし、お嫁さんであるお母さんも似たタイプでもって、孫にあたる姉二人もそうだったから、おばあちゃんは俺が遊びに来てくれて嬉しいと喜んでくれていた。
おばあちゃんと一緒に料理をして、一緒にご飯を食べるの、すごく楽しかったな。
「うう、おばあちゃんに会いたい」
「おお!!?? これがビゲルの言うホームシックってやつか!?」
「お腹すいたのでは? 腹が減ると悲しくなるのだ。……我のポテト分けてあげても良いぞ?」
アモニュスの心だけで充分。齧り掛けのポテトはいらないや。でもまあありがとうとお礼を言うと、もっとポテトを献上するのだと言われてしまった。うーん、見直した途端コレ。さすがアモニュス。
「すみません、店長。開店準備手伝いますね」
「お、おお。無理しなくても良いんだぞ? アイツらまだ昼寝してるし…。手伝ってくれるのなら、すごく助かるけど」
「今日の料理は何なのだ!? 肉か!? 肉なのか!!??」
「肉は有り余ってるからな、肉煮込みだが。いつも来る連中から、飽きたっていわれてるんだよなぁ」
「ならキノコはどうなのだ? 我、キノコのバター焼きとか食べたい」
どこからともなく、キノコが何本か出てきた。もしかしなくとも、洞窟岩ガメを倒してドロップしたキノコだ。
「紫色キノコは、回復薬の材料になるから、焼いて食べるより売った方が良いんじゃないか? 薬屋に直接売りに行けば、回復薬を多少割り引いてもらえるぞ」
「直接売買してもいいんだ?」
「信頼の出来る薬屋じゃなけりゃ、お勧めできないがな。パン屋の隣の薬屋は、アイツらがガキの頃から診てもらってるから、大丈夫だと思う」
なら後でリオとルカと一緒に行ってみようかな。回復薬への支出が減るのは、良い事だと思うし。じゃあ紫色のキノコは避けて。
「赤キノコが2、青キノコが1、黄キノコが2か。割とドロップ運が良いのか? 黄色いのは他のよりちょっと高値で取引されてるんだ」
「おおー」
「我の加護のおかげぞ!」
そういえば眷属に幸運を授けるとかなんとかあったような。
「食っても一番美味いのは黄キノコだな。まあ煮込みに入れるのなら、赤キノコが良いだろう。良いアクセントになる」
使って良いかと言われたので、どうぞと頷いた。元々、食べる為にとってきたものだし。
残りはどうしようかと考えて、少量だけどキノコの炊き込みご飯にする事にした。最初に考えた通りにね。おばあちゃんを思い出して、懐かしの味が食べたくなったというのもある。
調味料はファンタジーな世界観をまるっきり無視して普通に揃っているので、問題はない。
生の状態だと気付かなかったけど、調理すると黄色いキノコは凄く良い匂いがした。これ、もしかしなくとも、まつた……いや、考えるのはやめておこう、うん。
「……良い匂いがする」
店内に充満した頃、二階からルカが降りてきた。量があまりないので、一人一個のおにぎりをつくったんだけど。それを説明してどうぞと渡せば、それは瞬時に消えた。
え、一口。一口でいったの。喉詰まらないかな、ルカ。
しかも動きが止まってる。やっぱり詰まったのかなと、飲み物を渡そうとしたら、ガシリと手を握りしめられた。
「このままずっと俺達に毎日食事をつくってくれ!!!」
「今現在、毎日作ってるよ?」
「…そういえば、そうか」
なら良いと、ルカはあっさり引き下がった。相変わらず、何を考えてるんだかいまいちわからないなぁ。
リオ用にはキノコスープを作っておいた。ちゃんと野菜も細切れにしていれたんだけど、夕食をとりにやってきたリオに食べさせると、器用にキノコと人参を避けてた。うん、キノコも嫌いか。
「芋は食べましたよ?」
「残り少ない芋を細切れにしたやつね」
「野菜ですから」
本当になぁ。
「うう、あのリオネストが野菜をこんなに食べるなんて…」
店長は感激して泣いてるし。どれだけ食べなかったんだろう、リオは。もう少し食べて体に肉をつけてほしいな、うん。動く死体から瀕死の人くらいにはランクアップしたけど、まだまだだし。
「先は長そー」
「……?」
リオが健康体になるのが先か、お金が貯まるのが先か、はたまたおばあちゃんと再会出来るのが先か。
色々と時間が掛かりそうな事ばかりだけど。
今のところ、こうして、自分の作った料理を美味しいと言って食べてもらって、それから一緒に笑い合えるのだから、すごく良いなあと思えた。
そんなわけで次の日。
再び『月光の迷宮』に来たのだけど。
アモニュスが生み出しちゃった『魔神アモニュスの闇夜の洋燈』を灯してみたら、とんでもない大問題が発生してしまった。
いやアモニュスだし、仕方ないんだけど。考えようによっては凄い使えるものだけどさぁ。
「灯りをつけると、モンスター除けの効果がある……と。便利な代物ですが、ですがね」
「ピャアアッ!!!?? 我を見詰める目が怖いいいっ!! わ、我も、こんな効果があるなんて知らなかったのだあああああっ!!!」
休憩するとき使えばいいか、うん。
きっとこんな事が起きるだろうと、午前中にギルドで予備の洋燈を買っておいてよかった。本当に良かった。
よくおばあちゃんが、何事ももう一つ多めに持っておいたほうが、いざという時に役に立つわなんて言ってたけど。
備えあれば憂いなしだよね、おばあちゃああああんん。
「……まあこれがあれば、もしかしたら。…ルカ、ロータ、一つ私の作戦を聞いてもらえませんか?」
おお、なんか閃いちゃったのかな。リオが眼鏡を指先でくいと持ち上げながら、口を開いた。




