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16 キノコ狩りと俺

 市場で食材を買ってからお店に戻り、お昼ご飯を作って食べた。なんというか、まださっき食べたような気がするのに、ルカもアモニュスもめちゃくちゃ食べている。

 朝届けられた大量のパンに、焼いた肉を挟んだ物凄く肉肉しいサンドウィッチだけどもね。リオにはぐずぐずに煮た野菜入りスープとパンを渡してあるけど。

 朝は固形のにんじん残されちゃったから、昼はそれを潰してわからないように出してあるんだよねぇ。

 アモニュスからフードプロセッサーを貰ったし、ひき肉作ったらハンバーグに野菜混ぜ込もうかな。とにかく細かくすればきっとバレない。

「ハンバーグ作るのか? ならば我はハンバーガーを所望するぞ! さっき市場でテリヤキのタレが安く売ってたのを見たのだ!」

「いやほんと世界観よ」

 アモニュスを横に引っ張ってもどうにもならないけどさぁ。やっぱり憤りはぶつけたいもんね。こう、理不尽な世界に対する嘆き的な。

 アモニュスが言ってるのは、市場の露店で売ってた四角い小さな固形物類の事だ。醤油味やらテリヤキ味やら焼き肉のタレ味やら。うん、思い出しただけで煤けそう。全部アモニュスが悪いんだけど。

「我ハンバーガーには、フライドポテトの付け合わせ必須派なのだ。ロータ、作る時はポテトも付けて…」

「芋はこの前食い尽くしたからないよ」

 肉は山程あれど、大食らいの勢いを見る限り一週間持つかどうか。肉は確保されても、アモニュスが増えたからパンとか米とか野菜とか、買わなきゃいけないもの増えてるし。

「こ、こうなったら、岩ガメとやらを刈りまくって、芋を手に入れねば…!」

 アモニュスが意気込んでるけど、ルカの剣は折れる可能性大だって言われたばっかりだし。折れちゃったら修理したり買い替える余裕もないとか。うーん、詰んでる。

「剣で斬らなければ良いのだろう!」

「そうは言っても。魔物図鑑で調べましたが、岩ガメは甲羅で覆われた箇所の下に、急所があるそうです。そこを破壊出来れば良いのでしょうが…」

 ハンマーを買うお金もないし。リオが魔法連発できるかといえば、そうでもないし。

「調べてもらった結果を見ると、僕が火と氷の魔法を使うとなると、三体が限界ですよ」

 それでも甲羅を破る手段がないってわけで。

「先程から聞いておれば! それは普通の冒険者の正攻法とやらにしか過ぎぬのだろ!! お前達は我の眷属ぞ。虚弱と暴食の呪いによって齎される恩恵は、正攻法など必要ないのだ!!」

 例えばと、アモニュスが短い手足でルカをビシッと差した。


「こやつが全力で石を投げれば良いだろう。投擲で距離をとりつつ、甲羅を打ち砕くのだ!!」


 そしてお前はと、リオを差した。


「投げる石に魔力を込め強化するのだ! その辺の石でも強化すれば、それなりの強度になる!!」

「え、そうなの?」

「うむ! 魔力を通しやすい性質のものでなくとも、通そうと思えば出来るのだ!! 滅茶苦茶効率が悪いから普通の戦いではオススメしないが、今回は別なのだ! 芋の為に身を粉にして働くのだ! 我にフライドポテトを献上せよおおおお!!!!!」

 理由を聞くと素直に誉めれないけど。

 アモニュス、お前本当に一応神様だったんだな。なんか色々と知識があって感動したよ、俺。

「しかし投げる石はどうするの?」

「ふふん、我こそはこの世の全てを喰らい尽くしたと言われる程の魔獣ぞ。七つの胃袋のうちの一つは、島とか大陸とかがミッチミチに詰まっておるのだ。いくらでも石を吐き出してやるぞ!!」

 魔獣マジ凄過ぎ。というか本当にアモニュス、封印されてた方が良かったのではって思っちゃったのは、仕方ないよね。


「取り敢えず、迷宮に行ってみましょう。入り口付近で一匹だけ相手して、どうにもならなかったら戻って考えてみるという事で」

 入り口付近なら、衛兵が助けてくれる可能性が高いんだって。あと走って逃げれるというのもあるとか。

「灯りはどうしよう?」

「探索用の洋燈が確か物置にあった筈です」

 人によっては魔法でつくった光で照らすのもありだとか。

 さすがファンタジー。まあリオも出来なくはないけど、やったら一分で血反吐だそうなので、うん。やってはいけない。封印すべき方法だ。

 便利な道具があるのなら、素直に使おう、そうしよう。

「店長はまだ起きないのかな」

「夕方前には起きると思いますけど」

 肉肉しいサンドと野菜スープを置いておこう。肉と野菜で多分バランス取れてる筈だし。

 ルカとアモニュスの視線が痛いけど、これは店長の分。もし勝手に食べたら肉抜きと言っておこう。


 そんなこんなで、準備を整えて『月光の洞窟の迷宮』へ向かう事にした。店から徒歩十分。めちゃくちゃに近い。冒険者ギルドよりも近い。えっ、本当に近過ぎない、ここ。

「迷宮の入り口はわかりやすいものから街に溶け込んでるものまで、さまざまなんです」

 食材がドロップする迷宮のまわりは、飲食店が多いんだって。ドロップ品をギルド通さないで買い取る事もあるとか。

「ただそういう場合、トラブルが多いって聞きます。飲食店と専属契約している冒険者もいますが、基本的にギルドを通してますね」

 やっぱ異世界でも、そういうトラブルあるんだ。

 午前中にギルド行った時、この迷宮でのドロップ品であるキノコは、常時買取って出てたし。

 ルカとアモニュスが喰らい尽くす前に、ちょっと売ろうかな。うん、お金を少しずつ貯めなければ。


「お、ストレイル兄弟じゃないか。今日はこっちにきたのか?」

「ここは奥までは中々見回りに行けないから、倒れるなら見える範囲で頼むぞ」

 迷宮の門番のおじさん達に声を掛けられながら中へと踏み入れると、薄暗い洞窟内へと景色が変貌した。うーん、ファンタジー。

 しかしながら、洋燈で照らしても、あんまり先まで見えない。

「こういう場所は、灯りが生命線であり、モンスターからの的でもあるそうです」

「人間は暗闇じゃ目が利かないとは、不便ぞ。プークス案件なのだ」

 アモニュスの魔獣ブーム腹立つな。ルカも同感だったのか、頭を掴んで捻り上げている。

 そして何故か持ってきた長い棒の先に、ひもで縛り付けちゃった。

「視界の問題は、最大の懸念状況です。なので一生懸命考えて、このアモニュスを使う事を思い付いたんです!」

 思い付いちゃったかぁ。

 暗闇でも見通せるという事を、洋燈を準備するルカとリオの前で散々自慢してたらしい。迷宮探索用のご飯作ってたから気付かなかった。

「そういうわけで、アモニュスがモンスターの位置を把握、私が魔力を石に込め、ルカが投げるという方法で行きます」

「はい」

「我の扱い〜!?」

「さっさと洞窟岩ガメを見つけろ。決して呼び寄せるなよ」

「ピャアアアアッ! 振るでないぞ!?」

 アモニュスが叫びつつ、前方に一匹発見と声を上げた。うーん、薄暗くってわからないや。

「ルカ」

「ああ」

 拳くらいの石に淡い光が宿る。何回も見たけど、やっぱ魔法って不思議で凄いな。

「そこか!」

 石を投げた途端、ズドムっていう有り得ない音がしたけど。うん、こっちもチートだったよ。

「ドロップ品を回収しろ。盗み食いしたら、どうなるかわかってるな」

「我、神ぞ!? もっと敬えええ〜!!??」

 棒を引き寄せると、アモニュスが手にキノコを持ってた。見た事のない種類だけど、果たして食べられるのかな、これ。

「赤いキノコはちょっとピリ辛で、青いキノコはあっさり味、黄色いキノコは芳醇な香りだそうですよ」

「創造神の怒りで、食物が変化しちゃったのだ。だから食べてみれば知ってる味でも、見た目が変わってたりするぞ」

 アモニュスが持ってるのは黄色いキノコ。嗅いでみてもよくわかんないや。まあ食べられるキノコなら、炊き込みご飯にすれば美味しいかもしれない。

「それにしても一発で倒せたね」

「思ったより魔力消費はないです」

「この腹の減り具合だと、十回投げたら食事だな」

 背負ってきたリュックに注がれる熱い視線。うん、肉サンドが食べたいのか、ルカは。

「我も食べたいのだ」

「じゃ、あと九回投げてカメ倒したら、休憩しようよ」

「わかった」

 俄然やる気になったルカが、アモニュスを振り回して投げまくった結果、色とりどりのキノコの他に、黄金色の芋が一個手に入った。

 おお、これが稀にドロップされるというお芋さん。

「フライドポテトオオオオオオ!!!!!」

「これ一個じゃちょっと」

「ふぬううう、眷属よ! もっともっと頑張るのだ!!! 我のフライドポテトの為に!」

 棒の先に括られているアモニュスは、振ったら静かになりました。うん、迷宮内で騒いじゃいけないもんね。危ない危ない。

「だってフライドポテト食べたいのだ。そろそろ油が恋しいのだ」

「でも市場で売ってた食用油、それなりのお値段だったよ」

「うううううううぅぅぅ、世知辛過ぎるううう」

 お店屋さんなので、調味料等は揃っているけれど。揚げ物に使ったら、油は買い足ししなきゃだろうし。そういうお金あるのかな。

「多分ないです。油や調味料各種は、月に一度まとめて購入していて、なくなったらそれまでですから」

「最終的に塩から食材の味を楽しむ事になる。肉は塩が振ってあった方が良い」

 そりゃそうだよ。

 ああでもそれだと、結構好き勝手に調味料使っちゃってるけど大丈夫かな。

「大丈夫じゃないですか? 最終的には食材の味を堪能すれば良いんですから」

「何も大丈夫じゃない」

「大量の肉を手に入れているので、それで浮いた食費分を調味料費に回せてますよ。いつも帳簿を見て唸ってるけど、留守の間の食費があまり掛かって無いことに、感激してましたから。ロータは食事を摂らないのかななんて心配するほどに」

 俺が居なかった時、ストレイル兄弟ってどんだけ食費が掛かってたんだろう。なるべく動かないようにしてるとか言ってたけど、それも限界があったんだろうなぁ。

「ここでドロップされるキノコで、紫色のは体に良いって聞きます」

「それ店長に食べさせてあげよ」

 店長の苦労が偲ばれるよ、まじで。

「頑張るぞ、リオ」

 おお、ルカがやる気だ。リオもそれに応えて頷いている。二人とも叔父さん思いなんだよなぁ。本当に良い子だよ、うん。

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