14 割と便利な魔神と俺
誤解は解けそうにない、成人男性ですけども。成人男性がそもそも寂しくて泣いて寝落ちはないかと思い直し、もう子供扱いでいいんじゃないかなて思い始めた負け組ですすみません助けておばあちゃん。
とりあえず真実が明らかになった時には素直に謝ろうと心に決めた。
「ところで、なんで俺、ここで寝てるの?」
「ああ、それはですね」
リオの説明によると、俺が泣きながらリオの服を掴んで寝落ちしてどうしようと困ってたところ、食事を食い尽くしたルカが様子を見に来たそうだ。でもって寂しいと呟いていた俺を見て、ルカは任せろと言わんばかりに俺とリオを抱えると、そのまま部屋に入ってベッドに降ろしたとか。
いつもなら離れているお互いのベッドをくっつけると、寝ているジャス店長を連れてきて四人で寝るぞと言って、俺の右手を掴むとそのまま寝入ったそうだ。どうしよう、説明されてもルカの行動の意味がわからない。
「ルカは本能と直感で生きてるようなものですから。あと、空腹にならないように黙ってる事が多いので、話し出すと予想外な事が多くて…」
双子の兄ですら理解不能ってそんな。
リオと話をしていると、ルカが起き上がった。とりあえず昨日のことを謝ろうとしたら、いきなり抱きしめられた上に頭を撫でられた。あれこれ、なんだかさっきと既視感が…。
「ロータは俺達の弟って事にしよう」
「俺の方が年上だよ?」
「わかってる、わかってる」
だめだ話が通じない。全て身から出た錆だけどさぁ、でもね、本当にね。リオからの温かな見守る視線もやめてほしい。口から乾い笑いが出たところで、アモニュスが目を覚ました。
「はれ? なぜ我は床で寝てるのだ?? …あ、お腹すいたのだ。朝ご飯を所望するぞ」
ベッドに上がってきたアモニュスの腹から、グルルルという獣の呻き声が聞こえてくる。なんだろう、腹に猛獣を飼ってる奴多くないかな。
ジャス店長を見ると、息をしてるのか怪しいほど静かに寝入ってる。
「叔父さんは一度寝るとこんな感じで目を覚ましませんよ。迷宮毛カニ漁で疲れてるから、昼近くまでは寝てます」
「じゃあ昨日のお詫びも込めて、美味しいご飯作るよ」
「期待している」
これ以上この空間にいるのは気恥ずかしいので、逃げることにした。洗面台で顔を洗ってから階下に行くと、アモニュスがついてきた。
「我が手伝ってやるぞ! だからちょっぴりお手伝い分上乗せして盛ってほしいのだ!!」
下心満載だけれども、まあいいか。
裏庭の鶏小屋から卵取ってきてといえば、いそいそと出て行った。のだけど、戻ってきたアモニュスは手ぶらだった。
「あれ、卵は?」
「持ってきたぞ、ほら」
アモニュスは何もない空中から、卵を五個ほど取り出した。
「えええええっ!? 何これマジックバッグ?」
「なんだそれは? 我の胃袋から取り出しただけだぞ」
言われた言葉に思考が停止しかけたんだけど。いや停止させちゃいけない。
「い、胃袋?」
「そうだぞ! 我こそは魔神アモニュスなり!! 神々の食糧庫を食い尽くしてもなお満たされることなき、七つの胃を持っておるのだ!!」
「いや、食べるなよ。汚いじゃん」
「汚くなどないわ! 胃袋といってもお前達人間のように消化機能がない、いわば倉庫みたいな扱いなのだからな」
そもそも消化機能はないとの事。じゃあ食べたものはそのまま胃袋に積み上がってるのかと聞いたら、違うそうだ。
「エナジードレインといってな、食べ物は全て分解され我に吸収されているのだ」
何が違うかいまいちわからんけど、わかったような。なんとなくふんわり理解した。
「それじゃあ、迷宮でのドロップ品て、アモニュスの胃袋にしまえるの?」
「うむ、出来るぞ!」
「食べたりしない?」
「我はグルメなのだ! 少し我慢すれば美味しい料理が食べれるのに、何が悲しくて生肉を食わねばならぬのだ!」
迷宮での荷物問題、一気に解決。さすが魔神。
卵五個分のミートオムレツチーズ入りを、アモニュスに献上しておこう。固形物が食べれるようになったとはいえ、油断大敵なのでリオには昨日の鍋の材料の残りでおじやを作って。ルカはアモニュスと同じオムレツでいいか。
「パンとご飯、どっちがいいの」
「どっちも食べるのだ!」
食欲旺盛だ。物凄く旺盛だ。
昨日はアモニュスのお祈りで山盛り肉が手に入ったから良かったけど、ルカもいっぱい食べるから、食費というか食材を手に入れるために迷宮通いはした方がいいなあ。ビゲルさんが言うには、迷宮によって取れる食材が変わるっていうし。
出来るなら美味しい野菜、キノコとか欲しいなあ。あとは山菜とか。
おばあちゃんと一緒に山菜採りしてたから、余計に欲しい。山菜の炊き込みご飯とか、煮浸しとか、おばあちゃん特製の美味しかったんだよな。作り方は教えてもらったけど、おばあちゃんの場合、全部目分量だから真似が難しいんだけどね。
でも一緒に料理作るのは楽しかった。おばあちゃんは良く褒めてくれたから尚更。
若向きな料理は苦手だから、朗太ちゃんに作ってもらえると嬉しいわとか、言ってくれたんだよなぁ。
そういえばリオもルカも、野菜が苦手とか言いながらも、美味しいって言って食べてくれるし。それはやっぱり嬉しい事だなって思ってると、いつの間にか階下に降りてきたリオが声を掛けてきた。
あれ待ちきれなかったかな。
「ルカが良い匂いがする、我慢出来ないと言って…」
「あ、ごめんね。ちょっと昨日の残った材料とか使ってたら、色々とできちゃって」
いつの間にかルカは席についていた。え、さっきまでいなかったよね。アモニュスもその隣に陣取っている。
山盛りのオムレツと、残り物のシチューもどきと、ニンニクがあったのでガーリックトーストと、さらには余り物野菜をぶち込んだ炒飯と。アモニュスが横で食べたいと言ってたものをそこそこ作り上げて並べれば、ルカの表情は変わらないけど、物凄く喜んでいるように見えた。
アモニュスはわかりやすく小躍りしてるけども。
「いただくのだ! 食べるのだ!!」
リオとルカは手を組んで何やら祈った後で食べ始めた。この世界にも宗教ってあるんだよね、邪教徒の村があるくらいだし。アモニュスはまあ置いとこう。
すごい勢いで料理が消えていくのを見ながら、リオとのんびりと朝食をとりつつ、今後のことを相談した。
「見てわかると思うけど、アモニュスもすっごく食べるんだよね」
「ですね」
「ルカとアモニュスは肉があれば良いって感じだけど、米とかパンとかの消費が増えそうだから、その辺手に入る迷宮ってないかな?」
「穀物ですか? 黄金の迷宮小麦とか最高級品が手に入る迷宮は、高ランク向けなので、即死級の罠とかモンスターとかが出るから、今の私達じゃ無理ですねぇ」
いきなり最高級品はちょっと。
穀物とかは市場で購入するのが一番安価なわけで、なら他の野菜とかちょっとお金になるような物がドロップする、簡単な迷宮とかそういう都合の良い場所ないかな。
「都合が良いかはわかりませんけど、『はじまりの迷宮』の後は、初心者は基本的に『凪いだ草原の迷宮』に行きますよ。出てくるモンスターは、ミニボアとミニウルフの他に、その二体が成体になったものが徒党を組んで襲ってくるとか」
詳しくは冒険者ギルドに行けば調べられると、リオが眼鏡を指先で持ち上げながら言った。
「ご飯食べ終わったら行ってみましょう。これだけ食べれば、しばらく大丈夫でしょうし」
言いながらさりげなく、シチューの中のにんじんを器用によけている。固形物が食べれるようになって来たから、そこそこ形を残して作ってみたんだけど。芋は食べてるんだよね、芋は。
「おかわり欲しいのだ!」
「あ、アモニュス、私はもうお腹いっぱいなので食べ…」
「鍋に残ってるの全部食べていいよ、アモニュス」
「俺も欲しい」
「大丈夫、鍋二つ分あるから」
ルカとアモニュスが鍋へと突進するのを見届けてから、リオに視線を向ける。
「にんじん」
「いやもうお腹がいっぱい…」
「にんじんも美味しいよ」
「お腹…」
「はい、あーん」
スプーンにすくって口元にもっていくと、なんともいえない顔をしてからようやく口を開けた。
「最後まで残すから…」
「うぅ…、でも苦手なんです」
項垂れてるリオを見ながら、面倒でもやっぱりみじん切りで対処かなと思った。こっそり入れておくしかない。
みじん切り、できないわけじゃないけど面倒臭い。フードプロセッサーとかみじん切り用の調理道具欲しいなあ。
「市場に行って見てこようかな」
「何か欲しいものがあるのか?」
鍋を抱えて、いやむしろ鍋の中に入って(それで良いのか)シチューを食べてたアモニュスが聞いてきた。ので素直に調理道具が欲しいと言うと、どういうのが欲しいのだと更に聞かれた。
「え、買ってくれるの?」
「我は金や宝石など持っておらぬ! 胃袋に溜め込んだ食料は、封印されている間に食べ尽くしたのでない! でもそれ以外は胃袋に残っておるぞ」
これなんてどうだと言って出て来たのは、どこからどう見てもお高い感じのするフードプロセッサーだった。
「これでさらに美味しいものが食べれるのだろう! ロータには飯の恩義があるからな! 我から授けてやるぞ!!」
「…呪いとかかかってないよね?」
「失礼な! 我が物事に干渉する事象でない限り、呪いは発動せん! そもそもこれは、食糧庫に置いてあった調理道具で、価値ある神々の業物でもなんでもないからな」
「あ、そうなんだ」
じゃあありがたくもらっておこう。あとはオーブンとか冷蔵庫とか欲しいんだけどなぁ。
「そんなのはないぞ。それこそ金を貯めて買えば良いのだ」
ごもっともです、はい。




