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12 封印されし力と俺

「ストレイル家は財産を食い潰しますが、相応に素晴らしい発明品を王国に齎しました。その利を逃さんが為に、契約解除の方法を失わせた可能性があります。そう、つまりストレイルの名が受け継がれ続けているのは、王家の陰謀だったんですよ!」

「な、なんだってー!?」

 とりあえずお約束的な返しをしておいたけども。言われてみればそうかもしれないけど。本当にそうなのかな。

 ルカはアモニュスを捕まえたまま、おにぎり食べてるだけだし。アモニュスは涎垂らしてるだけだし。そもそも迷い人の俺はメール王国がどうなのかすら知らないし。

「契約した連中の自由だから、我からはどうもできんぞ。それよりなんか食べたいのだ。お腹すいたのだ。もうずっと食べてないよぅ。あ、食べ物くれたらお礼くらいするぞ。我は善行を積まねばならぬのだからな」

「善行って、なんで」

「そもそも魔神というのはな、この世界を創りし神々の、悪い部分を切り落とした欠片なのだ。我は食を司る神が堕とされて砕かれた一部である。堕とされた怒りと悲しみによって、魔神になってちょっとやらかしてしまったが、迷宮に封印されて頭が冷えたのだ。善行を積んでもう一度天上の神になるように頑張る所存なのである!」

「そんなことできるの?」

「できる!! と思う。…というかなんでもするから食べ物恵んで欲しいのだ! お腹空いたよぅぅ!! 我だっておにぎりとかラーメンとか炒飯とか餃子とか食べたいようぅぅぅぅ!!! 天上の神にならないと、異世界の食べ物手に入らないのだ!! 今更品種改良されてもない原初の野菜なんて食べたくないから、美味しいもの持って来ただけなのにぃぃぃ!!!」

「この世界が異世界ファンタジー(笑)気味なのは、お前が犯人か」

「ピャアアアア!!!?? だってお米美味しいぞ!? パンがなければ米を食べたい! 我はコンビニとファミレスいう楽園に入り浸っていたいだけなの!!!」

 これ、アモニュスを指名した創造神の失敗ではなかろうか。いやでも、創造神は怒って当然ではあるか。ファンタジー世界を作ろうとして、カレーのルーがそのまま出てきたら、誰だって怒る。


「とりあえず、冒険者ギルドで調べてもらいましょう。力がないというのは本当だろうし」


 その前に何か食べ物をと喚くので、余ってた塩むすびをあげたら、泣きながら食べてた。そのままリュックに入れたら、顔だけ出しておにぎりを食べ続けてるし。

「うううう、お前は良い奴なのだな。眷属なんかよりよっぽど優しいし。うううう、美味しいよぅ。美味しいよぅ」

 魔法陣で帰ろうとしたんだけど、それをアモニュスが止めた。

「おにぎりを貰い受けたのだ。お礼をするのだ! ちょっと迷宮のモンスターと戦え、眷属達よ」

「は?」

「た、戦っていただけないでしょうか」

 ルカが剣を片手に凄むと、速攻でアモニュスが言い直した。自身が食べようと思っていた分の食料を取られたルカは、ものすごく機嫌が悪いようだ。


 一匹か二匹くらいならと、祭壇からちょっと離れるとすぐに、迷宮ミニボアが現れた。あっさり一太刀で倒されると、さっきまで全然出なかったちょっと高級なお肉がドロップした。お肉が出ない時は木の実くらいしか落ちなかったのに。

 すぐにまた、迷宮ミニボアが現れて襲ってくる。再び倒すと、やっぱり高級なお肉がドロップした。


「ふふん、これが我の力の一端なのだ! 迷宮のモンスターを呼び寄せる代わりに、ドロップ品が良くなるように出来るのだ、凄いだろう!!!」


 偉そうにふんぞり返ってるんだけど、その前にだ。

 モンスターを呼び寄せる代わりにて、言わなかったっけ、この魔神。

 ドドドっていう、地響きとは違う音に顔を引き攣らせたけど、仕方ないよね。土煙みたいなものをあげて、通路を埋め尽くす勢いで迷宮ミニボアが突進してくるんだもの。

「うええええええっ!!! どうするのこれ!?」

「仕方ありません、ロータ退がって!」

 せいぜい三発くらいしか放てないということで、魔法を温存していたリオが杖を掲げた。


「全力全開の……【炎よ焼き払え】!!」


 呪文言語を唱えた途端、目の前が炎の海になった。熱風に目を開けていられないし、アモニュスも悲鳴をあげている。いやお前のせいだからね、犯人はお前。

 殆どが焼き尽くされたのだけれど、それでも後列にいたのが残っていて、突進してきた。それを剣を構えていたルカが、一閃した。文字通り一閃。え、マジで一閃した。

 剣を振るった瞬間、横一文字の衝撃波が迷宮ミニボアを襲ったのが見えちゃった。

「……ファンタジーでよく見るやつだけど、素振りしてただけの人が使えるものじゃない必殺技じゃん」

「それこそが魔神と契約した力なのだ!」

 いわゆるチートね。はいはい、知ってた。知ってたけど目の当たりにすると、もはや声もないんだけど。


 そこら中にちょっと高級なお肉がドロップされてる。むしろ積み上がってるし。どうしろっていうの、これ。


 そして戦闘が終わったのに、立ち尽くしている二人。次の展開は読めた。


「おい大丈夫か!?」

「何があった、ストレイル兄弟!!!」


 衛兵のおじさん達が駆けつけてくれた瞬間、リオは血反吐を吐いてその場に倒れ、ルカは四つん這いになってその場で暴れ出した。腹ペコ地団駄アタックとでも名付けるべきかな。生肉に手をつけないのは、食べても美味しくないとわかってるからだろうか。

「我の眷属だから、我に似て美食家なのだろう!」

 その後、ビゲルさんがすっ飛んできたのは、言うまでもないよね。



 全部の事情をビゲルさんに説明し、アモニュスを見せたのだけど。何人ものギルド職員が頭を抱えていた。

「これが、ストレイル家と契約した魔神だと?」

「自称だけどね、どうしよ」

「……それが本当だとして、これを封印したり倒したり出来る奴なんていねえぞ」

 唸り声をあげて、ビゲルさんが言った。

「信仰がなくなれば天に召されるんじゃないの」

 アモニュス曰く、天上の神に戻るのと召されるのは違うらしい。召されるとは消滅を意味するそうだ。

「信仰は自由だから、少なくなっても無くなることはねえだろ。ストレイル兄弟がいた村だって、消滅はしてねえし」

「え、そうなの?」

「国が厳しく見張りをしてるけどな。昔はどうだか知らねえが、村人連中がやった事で発覚したのは、幼いストレイル兄弟を追い回しただけだからな。火炙りにしようとてたのは、元ストレイル兄弟の証言のみだし。村長が叱られて終わりだ」

「うわぁ」

 やるせないなあ。

 それはともかく、アモニュスは魔神である事は伏せられて、迷宮の奥で発見された未確認生物って事で報告するそうだ。

「下手に野放し出来ねえし、なんかお前に懐いてるし、世話を頼めるか。駄賃くらいはやるから」

「それは別に良いけど」

「うわああい、迷い人のとこなら美味しいものが食べれるぞ!!」

 小躍りしているアモニュスだけど、本当に害はないのかな。無自覚にやらかすので、心配になるんだけど。

「世の中、全ての事象に対価は必要なのだぞ。そもそも我は魔神となったのだから、良い事だけは起こせんのだ!」

「それはドヤ顔でいう事じゃない」

 あと背中の紋様が見られたら、気付く人は気付くだろうからと、ナキアさんがアモニュス用の羽織を作ってくれた。ミニポンチョをつけたアモニュスは、供物を捧げるとは我の妻にしてやろうかなんて機嫌良く言っているけど、止めておいた。

 ナキアさんは、ぬいぐるみとか好きだけどこれはちょっとねと苦笑してる。アモニュス、お前速攻で振られてるよ。

「それから、王家の陰謀論だったか。百代目で名前を継がなきゃ終わるってのは、王家も知らねえと思うぞ。ロータは知らないだろうが、大昔に迷い人がやらかして巨大な湖を作った事があったんだが、その時に王家の人間の殆どが…」

「え、殺されちゃったの?」

「いや、殺されるかもって思って、大半が亡命したんだ。で、国として機能不全に陥りかけたんだが、残された王家の庶子が頑張って、メール王国を盛り立てたんだ。ストレイル家からも亡命した王族についてった人間が大量にいたそうだから、そういう話は全部伝わってないんじゃねえか」


 なんでも迷い人に嘘を教えた奴がいて。迷い人はその嘘を信じて、この世界に転移した時に手に入れたチートな力を使って、王族と貴族と、あとこの国の人達を消し去ろうとしたんだって。

 冗談じゃ済まされないレベルのやらかし具合。

 ただ迷い人が強大な力をぶっ放すその瞬間に、あれ嘘つかれてるかもって気付いて、何にもない土地に放ったから、湖が出来ただけで死人は出なかったとかなんとか。

「迷い人に嘘を教えた人の罪、ヤバすぎない?」

「だからこその迷い人の保護に関しての法律が、ちゃんとあるんだよ」

 ちなみに迷い人に嘘を教えたのは、逃げ出した王家の人間だそうな。何それ、笑えない事実。

 そういう事もあって、メール王国は逃げ出さずに残って頑張った庶子が礎となった現王家に対して、国民は割と敬意を向けてるとか。


 アモニュスを連れて帰宅しようとしたところで、衛兵さん達に呼び止められた。

「おーい、ドロップ品をかき集めておいたぞ」

「本当は自分で回収しなけりゃならないが、今回は特別だ」

「ありがとうございます」

 優しい衛兵さんのおかげで、大量のお肉が手に入った。何かお礼をと思ったけども、こっちから何か渡したら賄賂と思われかねないので、気にしなくても良いと言われた。うう、本当に優しい。


 そんなわけで初の迷宮探索は終わり、アモニュスとかいう魔神が来ちゃったのだけど。これ、店長さんになんて言えば良いのやら。

「飲食店で動物飼うのはまずいかな」

「我をペット扱いするな!?」

「うーん、まあビゲルさんから頼まれたってなれば、店長も許してくれるよね、きっと」

 それより大量のお肉の使い道だ。

 手取り早いのは焼くだけだけど、大きな鉄板があるわけでもないので、面倒くさい。ひたすら焼いてる横で、ルカが食べ続ける姿が簡単に思い描ける。

 大きな鍋があるし、そこに野菜と一緒にぶち込んで煮よう。そうしよう。煮ればなんでも美味しいんだよ、うん。

 と言ってもルカもリオも野菜食べないからなぁ。カレーが良いかな。でも塩おむすびがようやく食べれるようになったリオに、カレーという刺激物を与えて大丈夫なのかな。うーん、そんなに食べないしリオ用に小鍋でポトフ的なものを作ろう。本格的なの作り方知らないけど。

「アモニュス、皮剥き手伝ってね」

「我に労働しろと言うのか!? うううう、でも美味しいものは食べたいし、手伝うのだ」

 その代わり大盛りが食べたいと言ってきたので、頷いておいた。

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