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01 異世界転移した俺

 どうやら異世界召喚されたらしい。


 この俺、御神楽(みかぐら)朗太(ろうた)ではなく、俺のおばあちゃんが、だ。


 何を言ってるんだと思われるかもだけど、俺だって混乱してる。いやだって、おばあちゃんだよ。何で俺のおばあちゃんがってなるよね。

 俺は大のおばあちゃんっ子で、高校を卒業してフリーターになってからも、暇を見つけては田舎のおばあちゃん家に遊びに行っていた。

 おばあちゃんと一緒に料理作ったり、畑仕事したり、山に山菜採りに行ったりして過ごしてた。若者が少ないからか、子供の頃からおばあちゃん家に入り浸る俺を、近所のじいちゃんばあちゃん方も可愛がってくれた。

 いっそこっちに住んじゃえばと言われて、それも良いかもなんて話してた矢先の出来事だ。


 いつもの様におばあちゃんと山で山菜採りをしてて、お昼だから一休みしようとなった。滝の見える開けた河原で、お弁当を食べようとした時だった。

 おばあちゃんの足元が突然光ったかと思うと、ゲームとかそういうので見る魔法陣っぽいものが浮かんで、おばあちゃんの姿が消えたのだ。

 突然の事に驚いたんだけど、すぐにおばあちゃんのいた場所に手を伸ばした。途端、何かに引っ張られるような感覚に、思わず目を閉じてしまう。



「うわっ!?」



 目の前には石壁がある。そしてすぐに迫ってくる地面も見えて、来るであろう衝撃に目を閉じてしまった。

「ギャンッ!」

 これは俺の声じゃない。犬とかそういう動物の鳴き声で、すっごく痛そうな声じゃないかと思い、そこで地面に当たった衝撃が思ったよりない事に気が付いた。あれこれってもしかしなくても、もしかして。

 そっと目を開ければ、俺と地面との間に茶色い犬みたいな生き物が潰れている。

 うわあ、誰かの飼い犬だったらどうしようごめんなさいと青褪めるが、俺に潰された犬(?)は光の粒となって消えてしまった。

「えっ、えっ、えっ?」

 そして地面に残されたのは、数枚のコインみたいなものと薄らとした光の膜に覆われている一切れの肉だった。

 スーパーでよく売ってるステーキ肉一枚分程度のそれ。

 何がなんだかわからないと混乱していると、すぐ近くで呻き声がした。

 もしや消えてしまった犬の飼い主かと周りを見渡せば、そこにあったのは血の海だった。


「ひいいいいっ!?」


 どんな惨殺現場なのこれ。

 血の海の中心に倒れている人から呻き声が聞こえてくる。怖いけど助けた方が良いよね。

「…あの、大丈夫ですか?」

「……どこのどなたか知りませんが、…ありがとう…ございます」

 血に染まったローブを着ている如何にもファンタジーな格好をしている男の人だった。コスプレかと思ったけど、先ほどからありえないことが起きてるので、もしかしてここは俺の知ってる世界じゃないかもしれない。というか確実にそうだ。だっておばあちゃん魔法陣に吸い込まれて消えたし。異世界転移だこれ、間違いない。


 それでもって、なんとなーくだけどファンタジー的な世界なんだろうと予測してしまったわけで。


 何せ目の前の男の人は、染めたのではなさそうな綺麗な水色の髪をしていたのだ。クルクルとした癖っ毛で、睫毛も同じ色である。眼鏡を掛けていて、魔法使いっぽいなあと見てしまった。

 ただ物凄く顔色が悪く、青白いを通り越して土色である。

「ご親切ついでに、…その、弟も助けてもらえないでしょうか」

 どこに居るのか聞いてみると、すぐ目の前の曲がり角の先にいるという。とりあえず水色の人に肩を貸して歩くと、すぐに壁にもたれかかって座り込んでいる男の人を発見した。

 こっちは黒いストレートの髪に全身黒っぽい鎧のようなものを着込んでいる。こっちの人、なんだか顔面偏差値高くないですかね。

 それにしてもこちらも何やらピンチのようだ。

「え、怪我してるの?」

「…いえ、…弟は空腹で動けなくなっただけです…」

 御恥ずかしいと顔を俯ける水色の髪の人。それを肯定するかのように、黒い髪の人から凄まじい腹の音が鳴っている。

 取り敢えず水色の髪の人を座らせよう。背負ったままのリュックを覗けば、おばあちゃんと一緒に食べようと思って作ったお弁当がそのまま入っている。

 なんか色々あって中身ぐちゃぐちゃになってるかもしれないけど、まあ味は変わらない筈。


「あのう、もし良かったらですけど、食べます?」


 今日のお弁当は、おばあちゃん特製高菜入りおにぎりと、自家製味噌のおにぎり、それから定番の梅干しのおにぎりだ。タッパーの中には卵焼きとウィンナー、それから漬物がはいっていた。

 梅干しもおばあちゃんが漬けたもので、俺好みに蜂蜜をたっぷり入れてある。おばあちゃんの作ったものはどれも美味しいから、つい色々とおにぎりの種類握っちゃうんだよね。

 黒い髪の人はカッと目を見開くと、差し出したおにぎりを凝視していた。

 もしや見慣れない食べ物だったかな。いまさら引っ込めるのもあれだし、俺が食べれば良いか。

「………良いのか?」

「えっ、うん。お腹空いてるんでしょ、どーぞ」

 言った瞬間、黒い髪の人はおにぎりにがぶりついた。一瞬動きが止まったので、口に合わなかったかなと思ったけれど、すぐに猛烈な勢いで食べ進めている。

 凄い食いっぷりだなと見ながら、リュックに入ってた水筒からお茶を注ぐ。ちょっと大きめな水筒なので、コップも二つ付いてる優れ物だ。まあおばあちゃん家の戸棚にあったものだから、古い水筒なんだけどね。

 ほうじ茶を水色の髪の人にも勧めてみれば、お礼を言ってから飲んだ。おお律儀な人だな。

「……! これは…美味しいですね。なんだか体に力が漲って来るというか…」

「そんな大袈裟な。ただのほうじ茶なんだけど」

「そうなんですか? 街で飲んだ事ありますけど、こんなに美味しいとは思わなかったんですが」

 あ、普通にほうじ茶あるのね、この世界。異世界だと思ってるんだけど、実は違うとかそういう事なんだろうか。


 お茶を飲みつつ話をしていると、水色の髪の人はリオネスト、黒い髪の人はルカセティと名乗ってくれた。


 言い難いだろうからリオとルカで良いとの事。


 リオは見た目の通り魔術師で、ルカの方は剣士だそう。二人で迷宮に挑んだのだけれど、結果はご覧の通りだったのだそうだ。

「ロータが突然現れたように見えたんですが」

「あ、そうそう。そうなんだよね。俺も突然、宙に放り出されてびっくりしたんだよ」

 おばあちゃんの足元に魔法陣みたいなのが現れた話をすると、リオは眉を寄せてそれは大変でしたねと言ってくれた。

「そうなるとロータは、迷い人なんですね」

「マヨイビト?」

「時折、この迷宮の中ではこの世界と別の世界とか偶然に重なる事があると言われてます。その重なった場所に居ると、どちらかの世界に引き込まれてしまうそうです」

 迷宮内はそういった事が起こりやすく、例えこっちに異世界の何かが来ちゃってもすぐに元の世界に戻るらしい。あれでも俺、戻ってないよね。

「本当に、さらに稀にこちらの世界に来たまま、戻れなくなる事もあるそうです。…まあその、ロータは、そうなんでしょうね…」

 リオの話を聞いて、思わず声をあげてしまった。それじゃあ俺、どうすれば良いんだろう。というかおばあちゃんはどうなったんだろうか。

「ロータとは別の迷宮内に飛ばされたか、もしくは意図的にこちらに呼び出されたかだろう」

「そんな事あるの?」

「心当たりがある」

 今まで無心で食べていたルカが、唐突に話に入ってきた。貪り食べてるだけかと思ったけど、ちゃんと話聞いてたのか。

「ホルルカ公国には、異世界人を召喚する秘法があるそうだ。星詠みが予言すると、召喚の儀式を執り行うと聞く」

「それじゃあ、もしかしておばあちゃんはそこに居るのかな」

 行き方を聞いてみると、二人はなんとも言えない微妙な顔をした。

「…そのですね、ロータがいるここはメール王国にある迷宮都市ナンシェルです。ここからホルルカ公国までは、馬車を使っても一月以上かかる上に、とんでもない金額の入国料が必要とされまして…」

「お、おばあちゃんがいるかもって話だけじゃ、…むりだよね」

「…その、残念ですが…」

 ちなみに幾らくらいか聞いてみたら、300万メルだそうだ。予想も付かないなと思ったら、おにぎり一個150メルくらいと言われた。


 円をメルに置き換えただけかよ、おいファンタジー仕事しろ。まあ分かりやすいから良いけど。というかおにぎり売ってるのか、この世界。


「入国出来たとしても、観光客が召喚された者に会うのは難しいですね。彼らは迷い人と同じ、いや公国だと最重要人物として国に保護される存在ですし」


 お布施やら伝手にお金を使いまくって最低でも一億メルくらいで、多分会えるんじゃなかろうかとルカが言った。

 さっきから気になっていたけれど、ルカはまったくの無表情である。ほぼ真顔で喋ってるのだ。


「……別に怒ってるわけじゃない。表情を動かすとその分腹が減るから、無表情にしているだけだ」


 どういう理屈なんだそれ。そんな事あるのかと胡散臭いなという視線を送っておこう。


「ともかく一度迷宮を出ましょうか。迷い人は保護してもらえますから」


 職業訓練とか住む場所の案内だとか、あと少しのお金がもらえるらしい。意外に至れり尽くせりだ。

「ちなみにもらえるお金ってどれくらい?」

「一月12万メルで半年支給ですね。ちゃんと職業訓練や講習等を受けてる証明がないと貰えませんけど」

 もらえるだけ有難いと思っておこう、うん。

 でもここ迷宮だっていうけど、出口まで行けるのか不安になった。いやだってリオは血の海の中に倒れてたし、動けなくなるほどの空腹に襲われてたなんて、一体どれほど迷宮の奥深くなんだろう。

 戦えない俺がいても大丈夫なのかなと思いつつ、博識であろうリオにどれくらい歩くのか聞いてみた。すると少し先の扉を指差して笑顔で言った。


「あそこが出入り口です」

「わずか5mにも満たない!?」


 待って、ちょっと待って。RPGのダンジョンで例えたら入ってすぐ死にかけてたってそういう事なわけ。


「え、ここ実力者しか入れない危険な迷宮だとか?」

「ここは誰でも入れる、一階層しかない迷宮ですが」


 じゃあなんでこの二人は、入り口で瀕死になっているんだろうか。

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