プロローグ 6話 シド、手記を読み我に還る
初投稿作品です。よろしくお願いします。
浜辺でイアックの悩み相談を聞く少し前に戻る。
シドは書斎で手記を読み耽っていた。
⭐︎シド視点
「神の園はとんでもない場所ね」
それがシドが二日間書斎に篭って持った感想だった。
17年前の漂流者たちの記録によればサイクロプスやトロールなどの危険なモンスターが多数生息し、さらに奥地には悪魔族やドラゴンまでいるらしい。そんやつらに出会ったらすぐに殺されてしまうだろう。
手記の他にも周辺地図なんていう便利なものもあったが、立ち入れそうな範囲は探索され尽くしていた。
「その上で帰る手掛かりなし…ね。そんな気はしていたけど…」
手記には他にもかず多くの情報が記録されていた。その中には驚愕の事実が多々あった。
「まさか何十年も昔にあった人魔対戦の英雄ケイトがここに転移させられてきた異世界人だったとはね…。それに散策で見つけたオリハルコンの壁に開いた大穴は英雄ケイトが空けたものだったのね」
手記によれば魔物の大発生によって滅びるはずだった世界を救うために女神レイラが異世界人を連れてきてここで修行をさせたらしい。
異世界の蠱毒という修行方法?をオリハルコンの壁に囲まれたこの場所で実践し、最後の1人になるまで戦わせた。
生き残った最後の1人は元の世界に戻すことを条件にして。
「閉鎖空間で殺し合いって酷すぎる…」
女神レイラってこんなに酷いやつだったのしら?あるいはそこまでなりふり構わないことしないといけないほどの危機だったのか。
真相はあたしにはわからないがこの手記を残した人、異世界人シゲルと異世界人ウメコは女神レイラを、そしてこの世界を恨んでいたことは文章からよく伝わってくる。
最後の1人になる前に英雄ケイトがオリハルコンの壁を壊せるほどに強くなり、壁に大穴を開けて出て行った。シゲルとウメコは空を飛べるケイトと違って出て行く術はなかったため、神の園に残されてしまったようだ。
「そして数十年が経ち、イアック君の両親達が漂着したのね」
シゲルとウメコはイアック君をとても可愛がっていたようだ。手記は途中からイアック君のことばかりになっていたし。天寿を全うする前に最後は幸せだったと書いてあったのは心にくるものがあった。
そして手記は書き手が変わりイアック君の父親になった。途中からシゲルとウメコもそうだったがほぼイアック君日記になっていたわね。
「イアック君か…まず間違いなくいい子よね。見ず知らずのあたしを治療してくれたどころかその後の面倒まで見てくれているし、書斎に案内してくれたりとこちらの要望をしっかり聞いてくれている」
………いや待って。冷静に考えるとあたしってばかなり迷惑なやつなのでは?
これまでの行動を思い返す。
帰りたいと言って無理に歩き回ったり質問攻めにしたり怒鳴り散らしたり。ぶっちゃけ相当自己中なのではないだろうか。飯食って好き勝手やって寝るだけ。間違いなく穀潰しの所業だ。
お礼はする気でいる。しかしそういう問題ではない。お礼はするからその他のことは知らん。そういう態度でいることがそもそも自己中だ。
「……よし、謝りましょう。そしてちゃんと感謝を伝えるのよ」
自分で気づけてよかった。大いに反省し、今からでも態度を改めるしかないわ。
とりあえず最後まで手記を読みましょう。あと30ページほどで読み終わる。
ここまでの内容では英雄ケイトのように長時間空を飛ぶという人間技じゃない脱出方法しかない。絶望が深くなったがまずは全部読み終わってから考えるべきね。
続きのページを読むとある日から様子がおかしくなっていた。第二の漂流者が現れたあたりからだ。
漂流者の名はキラーガイン。
「キラーガインですって!?」
キラーガインと言えば快楽殺人犯じゃない。しかもとんでもなく強くて騎士団を1人で壊滅させたこともあるぶっ飛んだやつだわ。何でそんなやつを助けたりしたのよ。
「そうか。神の園にずっといたならキラーガインのことも知らないのね。そもそも同一人物かわからないけど…」
キラーガインは穏やかで優しい性格をしていたと書いてある。
イアック君が甲斐甲斐しく世話してたみたいだけど。父親の方は何か不穏なものを感じていたらしい。時折見せる鋭い視線などがその根拠だが、それだけで追い出すわけにもいかったようね。
そしてそこで手記が途絶えていた。最後の日付は10日前だ。
「つい最近ね。でも親父さんなんて見てないわね。イアック君も今は1人だって言ってたし」
後でイアック君にまた話をしてみようかしら。
そしてこの後親父さんとイアックに起こった事を知り、さらに罪悪感が深まったシドであった。
毎朝6時更新目指して頑張ります。