顔の化け物と不気味な寺院①
どうしてこうなったんだろう?
少女が周囲を見渡すと、とんでもない光景が広がっていた。
「ひいっ、、、な、なんですか!?怖い怖い!化け物!」
必死で体を動かしてこの場から逃げようとする。
しかし体はうまく動かない。それが恐怖心をさらに助長した。
体が動かない原因を探るとどうやら体が縄で縛られている様だった。
「なんでこんな奇妙な縛り方されてるんですか!?」
そんな疑問が口をついて出たが、状況は変わらない。
少女が怖がっている要因は目の前の”ソレ”だった。
”ソレ”とは姿形は小面に似ているが首から下はなく、巨大な顔だけの化け物だった。
その化け物が前方5m先に佇んでおり、生気がない眼差しでこちらを見つめている。
恐怖で体は引き攣る。
しかしその巨大な顔はいつになっても微動だにしなかった。
「えっと、、この化け物は生きてない感じ?置物とかインテリア的な感じでしょうか?」
「あ...あの〜こんにちは〜僕は...僕は...あ、あれ!?」
「僕は誰...?」
「いや、ちょっと待ってください!自分の名前が思い出せない!どうして!?」
「ここはどこ?僕は誰?状態ですよ!」
数秒、もしくは数分だろうか。
時間感覚がわからなかったが、困惑しながらその化け物を見つめるというこう着状態を続けていると、その間に恐怖で固まっていた体の緊張が少しずつ柔らいだ。心臓の鼓動が次第に落ち着いてくる。あたりをじっくりと見渡してみると、自分がいる場所の異様さが少しずつ浮かび上がってくる。
右は崖になっており、見渡すと一面に真っ青な空が広がり、所々に宙に浮かぶ、何かの残骸のような金属片が浮遊していて時折日の光に反射されて煌めいている。
そして崖の下にはやわらかな雲が優雅に漂っている。
思わず体がぶるっと震えてしまう。
どうやらこの遺跡は宙に浮いているらしい。
左には、白い建物のようなものがそびえ立っていた。その内部には金属の支柱が木の板で支えられた椅子や机が、整然と並んでいるのが見える。建物の外観からは、その内部がどのような使われ方をしているのかわからなかった。
正面の化け物越しに赤く鮮やかな寺院のような建造物がそびえ立っていた。その赤く輝く寺院は、空の青に映え、まるで神々の居城のように荘厳な雰囲気を放っていた。
だが、その前に佇む”ソレ”の異質さが、まるでその神聖さを嘲笑うかのように感じられる。その一方で、周囲の景色は静寂と神秘に包まれ、まるで時間が止まったかのような感覚に陥りそうになる。
『ぐ〜』
「こんな時でもお腹は空くんですね...」
「…いや、こんな状況でお腹を空かしている場合ですか!」
そんな文言を一人で口に出していると、今まで微動だにしなかった巨大な顔の口角がゆっくりと吊り上がり、ぞっとするほど不気味な笑みが浮かべた。