6. 卒論発表会
三月十日、生命科学部生命理学科の卒論発表会の日である。生命理学科は四十二人が所属し、二会場に分け所属研究室順で発表が進んで行く。吉井研の順番はラストの十一時からの発表出会った。新庄は他の学生の発表を聞くため九時から発表会場にいた。要は有機研の発表だけ聞けばいいかと、十時に会場入りした。新庄は要旨にメモを取りながら熱心に傾聴していた。その姿を見て要は声をかけるのをやめた。皆慣れない発表のせいか、今日まで練習してきたことを緊張した面持ちで発表していたため、時間も少しおしていた。十一時半になりようやく新庄の順番が回ってきた。今日はパンツスーツにパンプスの出立ちだ。
「では始めさせてもらいます」
新庄はスクリーンに映し出された構造式や反応式をポインターで差しながら、滑らかに発表をしていた。要の目からみた新庄の表情には、緊張感は感じられず、生き生きとしているように見えた。研究室での練習の時、吉井教授が「秋の学会発表で自信がついたようだね」と言っていて、なるほどなぁと思った。それと同時に自分に同じことを一年後に出来るのかという不安を覚えていた。
「これで発表を終えさせていただきます。ご清聴ありがとうございました」
十分間の発表時間丁度で終えて質疑応答の時間に移っていた。生化学系の教授から質問されたが、受け答えもしっかりしていた。質疑応答をおえ次の発表者の順番となったが、新庄の表情は緩むことなく発表を聞き続けていた。
発表が全員終えると昼食を挟んでから、教授達による卒論発表の評論会が開かれた。卒論の内容と発表をもってして成績をつける会議である。と言ってもここで不可と判定される学生はいないのだけれども。吉井研の実験室では、所属している学生が集まっていた。池谷康二と菅谷朱美は卒業式を待つばかりの身になり解放感が溢れていた。今日はこれから吉井教授を含め、卒業生おめでとう&新入生歓迎会が行われる予定である。場所は駅前の居酒屋の予定で、スーツ姿の三人は一度帰宅して着替えてから参加することになる。今日は要も実験を免除された。吉井教授が会議から戻ると一度解散となった。