4. ステップ2
吉井研の朝は十時スタートとスロースタートだが、実働時間は最低十時間と割とハードである。要は朝に強い方だから九時半に実験室に着いたが、もう新庄は実験を開始していた。
「おはようございます」
「おはよう」
互いに挨拶を済ませると要は新庄に今日の予定を尋ねた。
「今日は昨日の続きで濃縮した粗体をシリカゲルカラムで精製してもらって、午後からは私の発表練習に付き合ってもらおうかな」
シリカゲルカラム精製は先ず、カラム管と呼ばれるガラスの管に脱脂綿を詰め海砂を少量のせ、n-ヘキサンに精製しようとする粗体の二十倍から三十倍の量の微細なシリカゲルを入れスラリー状にし、二十センチメートル(20cm)から三十センチメートル(30cm)の高さになるように空気が入らないように積み、カラム管の内径より少し小さめに切った濾紙をシリカゲルの上に水平になるようにのせる、という準備から始まる。n-ヘキサンが濾紙の高さまで減ったら粗体をチャージして、n-ヘキサンと酢酸エチルを任意に混合した展開溶媒で、粗体中のシリカゲルに対する極性の違いなどを利用しながら分離精製していく。
「チャージして展開溶媒で精製し始めたら、シリカゲルと化合物が反応して少し熱をもつから、カラム管の下の方まできたら試験管に取り分けていってね」
新庄は説明をしながら、カラム管を選んで要に渡した。カラム管の太さの違いでシリカゲルの高さが変わるので、そこはちょっと経験が必要になる。要は試験管立てに試験管五十本を用意してから、シリカゲルカラムの準備を始めた。新庄からポイントポイントでアドバイスを受けながら準備を進め、粗体をチャージし展開溶媒を流し始めた。そうしたらいきなり新庄から金魚などを飼うときに使う空気を送るポンプ(吉井研では通称:金魚ポンプ)を渡された。「これで圧力をかけると早く終わるわよ」の一言とともに。精製されているかどうかはTLCで確認していき、全てのスポットがで終えたら酢酸エチルを流し、精製を終了した。同じスポットの溶液をナスフラスコに集め、エバポレーターで減圧濃縮し、小さなナスフララスに移し替えさらに減圧濃縮をしていくと、粉末状になってきた。「濃縮が終わったこれに入れて乾燥ね」と五酸化二燐をシャーレに入れたデシケーターを手渡された。要は金魚ポンプの時もそうだったが、ちょっとイタズラっぽい渡された方だったのは気になったが、とりあえずデシケーターにナスフラスコをいれ、真空ポンプで減圧しコックを閉じた。