表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/21

20. ステップ14

 要は朝早く目覚めたため、早くに実験室に向かった。実験室には八時半に着いたが教授秘書の菅谷が鍵を開けていてくれていた。要は先ず、昨日カラム精製したN-Boc-O-Bn-L-セリン-OMeの収量を計り、NMR測定をし、解析を行った。解析の結果、問題なくベンジル化が行われていた。今度はN-Boc-O-Bn-L-セリン-OMeの加水分解を行うことにした。ベンジル体三百ミリグラム(300mg)をメタノール十ミリリットル(10ml)と水五ミリリットル(5ml)に溶解し、水酸化ナトリウムを一点一当量(1.1eq.)を加え加水分解を開始した。加水分解反応を行っている間、昨日午前中にBoc化を仕込んで抽出、濃縮まで終えたBoc体のカラム精製を始めた。

「おはよう要君」

九時半になって新庄が実験室に入ってきた。

「おはよう、梨香子さん」

「やっと研究室でも名前呼びしてくれるようになったのね」

「まぁ、一昨日デートした仲ですしね」

「なにー、デートしただとー」

いきなり川本が実験室に入り大声で叫んだ。

「そうよ、デートしてきたのよ。要君と昨日」

新庄が切り返した。

「山野よ、お前にもようやく春が訪れたか」

「おかげさまで」

と言いながら要は試験管の交換を行っていった。

 加水分解反応の追跡をTLCで行ったところ、一時間ほどで原料が消失していた。まだカラムが終了していないため、加水分解反応はそのままにしておきカラム精製を行った。量が量だけにカラム精製には時間がかかり昼頃までかかってしまった。

「要君、そろそろお昼行くよ」

新庄が要に声をかけた。要はようやくカラムを終えたところで、

「すみません、今行きまーす」

と返事をした。

 昼食を終え研究室に戻ると、初めに加水分解の処理から始めた。エバポレーターでメタノールを留去したのちpHを酸性にして酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾別した後、酢酸エチル層をエバポレーターで減圧濃縮し、酢酸エチルを留去した。次いで昨日夜に仕込んだBoc化反応の後処理を始めた。Boc体の粗体を得たところで一旦後処理をやめて、午前中カラム精製した精製液の濃縮を始めた。そうこうしていると夕方になってしまった。濃縮中は使用した実験器具を洗ったりしていたらあっという間に時間が経っていた。精製液の濃縮を終えると得られたN-Boc-L-セリン-OMeをデシケーターに入れ真空ポンプで真空にして乾燥を始めた。それから、加水分解を行って得られたN-Boc-O-Bn-L-セリンの粗体のカラム精製の準備を始めた。準備を終えたところで時計の針は午後六時前だった。

「要君、ゼミの準備出来ている?」

「はい、今行きます」

吉井研は不斉反応研と合同でゼミを行っており、毎週火曜日と木曜日の午後六時から始まり、二時間ほど行う。火曜日は色々な大学院の受験問題を解いたり、NMRやIR (赤外吸収分光法)、UV(紫外分光法)、MS(質量分析法)の解析図から、物質を同定する問題を解いたりして、木曜日は文献の輪読会が行われる。今日は今年度初めてのゼミが始まる。要にとっては初めてのことで、難解なまま終わってしまった。

 ゼミが終わった時間は、午後八時半になっており、お腹もペコペコになっていた。

「梨香子さん、お腹空きましたね」

「お腹空いたね。さっき朱美に連絡したのだけど、今日はもう帰宅して夕食用意して待ってるようだし、マンションに帰りますか?」

「はい、よろしくお願いします」

要は新庄のクルマの助手席に乗り、新庄のマンションまで行った。


 新庄のマンションへ行くと、玄関で菅谷が待ち構えていた。

「要君、日曜日、梨香子ちゃんとデートしたんだって」

「あ、はい、しました」

「で、どうだった?」

「いや、楽しかったですよ」

「なにして過ごしたの?」

「映画を見に行きました」

「アニメ映画でしょ」

「なんでそれを」

「分かるに決まっているでしょう。もう四年も一緒に過ごしているんだから」

「それもそうですね」

「なに要君のこと問い詰めてるの」

と、ここでクルマを止めていた新庄が部屋に戻ってきて割って入った。

「あ、いや、だって気になるじゃない。母親としては」

「誰が私の母親ですって」

「いや、もののたとえだよ」

「それより教授とのデートはどうだったのよ、全然教えてくれないじゃない」

「それは教授のプライベートにかかわることなので、研究室の学生には教えられないっていうか・・・」

「じゃあ、私たちのことも教えてあげられないわね」

「そんな~」

などと言いながら膝をおとし新庄にしがみつく菅谷の様子を見せられ、要はぽかんとすることしか出来なかった。

 三人はおしゃべりしながら夕食を食べていたが、要と新庄はこれから実験室に戻らないといけないので、おしゃべりをしながらではあったが、早めに食事を終えた。要はまた新庄のクルマの助手席に乗って大学へと戻った。

「さて始めるか」

要はそう声に出して、N-Boc-O-Bn-L-セリンのカラム精製を始めた。メチルエステルを加水分解して、化合物が中性から酸性になったことで、カラム精製の時間がかかるようになる。なので、カラムが終わるころには午後十時くらいになっていた。それから精製液をエバポレーターで減圧濃縮し溶媒を留去し、デシケーターで乾燥を始めた頃には十二時を回っていた。新庄も同じころに実験が終わり二人で戸締りをして帰宅することになった。

「要君、明日遅刻しないようにね」

「梨香子さんもね。気を付けて帰ってね」

「要君も」

そう言った後、二人は短いキスをして別れて帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ