14. 卒業式
三月二十五日、要がいつも通りの時間に実験室へ行くと、今日は珍しく川本弘明しかいなかった。
「おはよう。大西さんは?あと、新庄先輩と菅谷さんも」
「まだ来てないよ。新庄さんと菅谷さんは卒業式だよ」
そうだったかと思い直すと要は実験に取り掛かった。
先日まで行っていた、N-Boc-L-イソロイシンの精製は回収率七十パーセント(70%)くらいで回収出来た。母液からも再回収し、今日は回収しきれなかったものをシリカゲルカラムで精製を行おうと準備を進めた。
十時半頃に大西和哉が大きな花束を三つ抱えてやってきた。
「悪い悪い遅くなって。花屋さんが混んでいて」
と言いながら、要と川本に花束を一つずつ渡してきた。二人ともきょとんとしていると、
「ほれ、大講堂の前に行くぞ。そろそろ卒業式も終わるし、そのあと学科ごとに分かれて学位授与式があるからその間に花束を渡さなきゃ。花代は俺が持つから安心しろ」
と太っ腹な発言をすると、大西が池谷に、川本が菅谷に、要が新庄に贈ることになった。
大講堂前に行くとまだ卒業生は僅かしか出てきておらず、とりあえず新庄たちはまだ出てきていない様子だった。それから五分程すると、白に絞り桜の着物と紺に手まり刺繍が入った袴に足元はブーツの新庄と赤に花小桜の着物とからし色に花柄刺繍が入った袴に足元は草履の菅谷が並んで出てきた。要は花束がつぶされないように抱えて新庄の方に歩み寄った。
「ご卒業、おめでとうございます。新庄先輩めっちゃ綺麗ですね」
「ありがとう。でも綺麗なのは今日だけかな?」
「いやいや普段も綺麗ですけど、今日は一段と増して」
「まあね、早起きして美容室で着付けに髪のセットしてもらったからね。まあ、今日は卒業式で一区切りついたけど、明日からまたビシバシ行くわよ」
「はい、よろしくお願いします」
要は新庄が輝いて見えるのと同時に、これからの一年間で自分は笑顔で卒業式を迎えられるだけの卒論の結果を残せるだろうかという心配も出てきた。
昼過ぎに学位記の授与と昼食会が終わり、新庄と菅谷、池谷が研究室に戻ってきた。記念写真を撮るためである。教授を囲んで卒業生で写真を撮ったり、研究室の全員で撮ったりしていたが、新庄が要にお願いをしていた。二人で写りたいと。要はそのお願いに応えツーショット写真に納まった。
「じゃあメッセージに添付して送るからアドレス交換しよ?」
新庄がそう願ってきたので、要はそれに応じた。
そのやり取りを見ていた菅谷は、
「まだアドレス交換とかしてなかったの?約一ヶ月もあって」
新庄は照れ隠しをしながら「うん」と答えた。
「じゃあ、あたしともついでにアドレス交換しとく?」
と菅谷が要とアドレス交換をしていたら、新庄は頬を膨らせていた。




