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12. ステップ7

 今朝もいつも通り川本以外のメンバーは揃っていた。要は昨日作ったチオアミド体のNMR測定を一人で行い、解析も一人で行った。流石にもう一人でできるだろうと新庄が判断したからである。収率は八十八パーセント(88%)と新庄の結果と変わらず、安定した実験結果であった。今日の反応は、チオアミド体とブロモピルビン酸エチルとの縮合によるチアゾール化だ。要はブロモピルビン酸エチルを冷蔵庫から出し室温に戻す間に、チオアミド体をエタノールに溶解させ実験装置を組み上げて行った。ブロモピルビン酸エチルのエタノール溶解液を滴下後、リフラックス(加熱環流)し始めたところで新庄から声をかけられた。

「今日の予定は?」

「今日はチアゾール化反応を今仕込んだところで、これからBoc体の再結晶の検討をするところです」

「そう、それなら溶媒のチョィスはBoc体をある程度溶かし、溶かしすぎないようなものを選ぶことね。アルコールを使って溶けすぎの時は、水を足して溶解度を下げるのも一つの手よ」

「分かりました」

「あ、そうだ。今日ちょっと時間取ってもらえるか聞こうとしてたんだ。時間空きそう?」

「今からでも大丈夫ですよ」

「じゃあ、私の実験を仕込んだらでいいかな。買い物に付き合って欲しいのだけど」

「いいですよ」

要は教授室でコーヒーを飲みながら、新庄を待っていた。

「じゃあ行こうか」

白衣を脱いでジャケットを着た新庄が現れた。

「どこに行くんですか?」

「スーパーマーケットよ」

「食材の買い出しですか?」

「違うわよ、私的なことを頼むわけがないでしょう。教授室で飲むコーヒーや紅茶、あと実験室で使うトイレットペーパーよ」

「トイレットペーパーですか?」

「実験室で使うやつって、実験台を拭いたりするのに使っているやつですか?」

「そうよ、実験台が薬品で汚れていて雑巾なんかで拭いたら、薬品でヤケドしてしまうおそれがあるから、トイレットペーパーを使ってるわけ」

「備品を使っていたんじゃないんですね」

「当たり前でしょ、備品使ってたら窃盗よ。だから毎月五百円お茶代を集めて、それでやり繰りしているのよ」

と言う理由で要は、新庄に消耗品の買い出しのレクチャーを受けていた。


「二人で出かけて来たんだ」

新庄に菅谷がそう突っ込んできた。

「べ、別に研究室の消耗品を買ってきただけよ」

「だったら川本君も誘うべきでは?」

そう言われたら何も返せなくなり、顔を赤らめるだけだった。

 要は様々な溶媒を使ってN-Boc-L-イソロイシンの溶解度を測定し、一つの溶媒に絞っていった。

「新庄先輩、溶媒は検討ついたのですが、この後はどうすればいいですか?」

要がそう質問すると、新庄は四つ口フラスコとオーバーヘッドモーター、攪拌棒と攪拌羽それと温度計と温度計差しを用意した。

「結晶化する時は、攪拌子を使うとフラスコに当たる衝撃で変な結晶が出やすいから、今回はオーバーヘッドモーターで攪拌するわ。量が多ければ溶液の溶解温度、接種温度、晶析温度を計ってもらいたいのだけど、今回は量が少ないから大体でいいわ。濾過は室温でね」

そう指示されて、要はドラフトチャンバーの中で器具を組み立てみたが、装置の大きさに対して実験に使うN-Boc-L-イソロイシンの量が少ないことを認識し、L-イソロイシンの大量Boc化の優先順位を上げ、折角新庄に器具を準備してもらったので、それを利用し大量Boc化を始めることにした。N-Boc-L-イソロイシンチオアミドとブロモピルビン酸エチルとの縮合によるチアゾール環化反応は、TLCで確認したところ終了していたのでリフラックスさせるのを止め室温に戻していった。ある程度冷ましてから攪拌子を取り出し、エタノールを減圧留去してから、pHを弱アルカリ性にしてから酢酸エチルで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。酢酸エチル層を減圧濃縮してからシリカゲルカラムで精製を行い、精製液を減圧濃縮していった。


 「そろそろ夕食行かない?」

今日は珍しく新庄から誘われた。

「ねえ要くん、研究室慣れてきた?」

注文を終えて菅谷が質問してきた。

「はい、だいぶ慣れてきました」

「実験時間とかも大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

「梨香ちゃんの指導は?」

「的確でいいと思います」

「梨香ちゃん、まだまだ鍛え甲斐ありそうでよかったね」

「そうねぇ、まだまだ鍛え甲斐あるわね」

新庄は微笑みながらそう答えた。



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