10. 定食屋2
要は新庄と菅谷と共に定食屋にきた。注文をすますと、菅谷は要に新庄の高校時代のことを聞いてきた。
「新庄先輩ほど「高嶺の華」と言う言葉が似合う人はいなかったと思いますよ。制服姿では凛として、周りに清々しい空間をもたらして、部活の時は明るく弾け飛ぶかんじで後輩達を引っ張っていました」
「なるほどなるほど。それでモテてた?」
「ちょっと朱美」
「ねぇどうだった」
新庄が注意するも、菅谷は続けてきた。
「新庄先輩モテていたとは思いますけど、誰かと付き合っていたとかいう話は聞いた事ないですよ。他の部活のエース格はお断りされた人が多かったみたいなので、それ以上にアタックしようという勇者はいなかったですよ。それよりも女子にモテてて、新庄先輩の周り女子ばかりでしたよ」
「やっぱりそうか。サークルでもバイトでも、梨香子の周りは女子ばかりだったからなぁ」
「先輩達ってサークルとバイト同じなんですか?」
「そうだよ」
「一体何時間一緒に過ごしているんですか!」
「二十四時間」
「違う!違うからね。寝る部屋は別だから!」
慌てて新庄がつっこんできた。
要は二人の生活について興味が出てきたが、これは流石にマズイヤツだよなぁと聞き出すことはやめた。
食事を済ませて実験室に戻ると、定食屋に行く前に済ませたカラムの処理と、もう一本L-イソロイシンのBoc化反応のカラム精製を始めた。カルボン酸のカラムは中性の物と違い、スッキリと分離されてこないのでやたら時間がかかる。三時間くらいしてようやく終わった。
「あとは濃縮か」
要は思わず溢してしまった。
このタイミングを菅谷は聞き逃しはしなかった。
「おやおや、要くん、お疲れかい。濃縮は後日にして今日は飲まないかい。私話し足りないんだよね。ねぇ梨香ちゃんいいでしょう」
「しょうがないなぁ、もう朱美は」
「よーし飲むぞー」
「僕の意見は〜」
そんなものは聞き入られることもなく、宴会場たる要のアパートに行くことになった。
「この間も僕の部屋じゃありませんでしたか?」
「あら、そんなに女の子の部屋の方がよかった?いまから変える?」
確かに女性とお付き合いしたことのない要からすれば、女性の部屋ほどハードルが高いものはなく、美女二人の部屋ともなると・・・
「いえ、僕の部屋で結構です」
「でしょう」
早速三人はビールを開けた。
「そうだ、先輩達に聞きたかったんですけど、バイトってどうしてました?四年生になったらバイトする余裕ないですよね。僕は後期試験前に辞めましたけど」
そう、卒研でいそがしいこの一年間バイトをしている時間は殆どない。要はそれまでレンタルショップで三年間バイトして来ていたが、泣く泣くやめた。
「私と梨香ちゃんは同じ本屋さんでバイトしながら、マンションのお隣さんの中学生の家庭教師してたよ。
やっぱり三年生の後期試験前までだったね」
「そうね。看護学生なんかは実習が始まったらバイト禁止って言ってたね」
「まあ、私達短期のバイトあったけどね」
「それ内緒!」
突然新庄が話を止めた。
「恥ずかしいから」
顔を赤面し伏せた。それ以上聞き出すのは忍びないと思いやめた。
菅谷が要に別の話題を振った。
「そういや、要くん彼女いないの?」
「いないですよ」
「サークルとかでいい娘いなかったの?」
「バイト忙しくてサークル入っている暇なんか無かったですよ。ちなみに菅谷さんは何のサークル入っていたんですか?」
「ツーリング同好会だよ」
「ってことは、新庄先輩もバイク乗っているんですか?」
「私は千二百シーシー(1,200cc)のバイクに乗っているよ。朱美は四百五十シーシー(450cc)のバイク」
「同好会でモテたんじゃないですか?」
「私はモテないわよ。朱美はモテてたけど」
「そんなことないよ。梨香ちゃんファンは多かったぞ」
「それで二人とも彼氏居たんですか?」
「何故過去形?まあ、二人とも彼氏いないけど」
菅谷はそう答えた。
「朱美はいないんじゃなくて、作らないんでしょう。吉井先生一筋で」
「てへへへ、アタックしまくって、卒業したら付き合ってもいいといわれました」
「そういう梨香ちゃんは、高校生の時の一個下に気になる子いるって言ってたじゃない」
「ストップ、ストップ。それ以上は駄目だからね」
新庄が顔を赤くして、無理矢理話を止めた。
「ごめん、なんか飲み過ぎたみたい。今日は帰るね」
今日も要が新庄らをマンションまで送り届けた。
「梨香ちゃんの気になる子って要君のことでしょ。良かったね彼女いないって」
「それとこれとは違うでしょう」
「認めたな」
「認める」
「頑張りなよ」
「頑張る」
新庄はクッションに顔を埋めながらそう答えた。




