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第18話 二人の戦い

 振り下ろされた剣を受け止める。


「ちぃっ!」

 

 コイツ会話中に突然殺しにかかるとか攻撃するのにためらいがないのか…!?

 

 「くっ……!」


 だが、大丈夫だ。

 体をでかくしたおかげで何とか受け止められる!


「グダグダうるさいから先手を打ったんだけど、すぐ死んでくれないんだ残念」


「はぁっ!」

 

 剣を横にし、何とか振り払う。……まともに受けたら剣がはじき飛ばされる……!

 今度は横薙ぎに襲い掛かってくる。

 それをいなす様に受け止めるが衝撃を殺しきれない。腕がきしむ。

 後ろにのけぞった私を見て、すかさず追撃をしてくるアルファス。

 

「ほら、早く死んでよ! アハハ!!」

「ぐっ……」

 

 私は大きく飛びのき、距離を取る。

 

「ああ、その目だ! あたしを見て怯えるような目! 恐怖にきしみ震えるその眼!たまらない! 本当にぞくぞくする!」

「……随分と楽しそうじゃないか」

「アハハ、あたしにこの体をくれたのはあなたでしょ? だからあなたが責任を取ってくれよ!」

 

 そんな理不尽な事を言う。お前が入れ替えたんだろうが。

 もう話し合いをする気はないか。

 いや、しても無駄だろう。アイツに人の言葉なんて届かないのだから。

 ならやる事は一つ。

 私は大きく息を吐き……集中して手に力を籠める。


「【炎】よ……!」

「ついさっきまで何の魔法も使ったこともない無能が! ただ火が出るだけじゃない!」

 

 私の手のひらから火炎玉が出てくる。

 それは真っすぐと、アルファス・トーレの方に向かっていく――が。その巨躯はゆうゆうとその炎の中を潜り抜けてきた。

 避けた炎は壁に着弾し、燃える。

 

「あら、あなたの大事な屋敷が燃えるみたいだけれども――いいの?」

 

 問題ない。

 それが目的なのだから。

 

「すぐに燃え移る」

 

 私は火がつくのを見届けることなく、走り出す。火の弾を撃ちながら。

 

 「は、そんな攻撃があたしに効くとでも?」


 アルファスは剣でその炎を切り裂いていく。

 私はその間にも距離を詰める。

 そして、剣を横凪に振る!

 

「はぁ!」

「おっと」

 

 アルファスはそれを受け止める。

 振れる。剣を振ることが出来る。成長したこの体なら……戦うことが出来る。

 

「でも、力じゃあたしにはかなわないけど?」

「それは分かってんだよ……!」

 

 そのままつば競り合いになる。

 だが、私の力では押し切ることができない。

 ……なら! 私は剣から片手を離し。


 顔面に向けて”拳”を繰り出した。

 

「なっ!?」

 

 アルファスは驚いた顔で避けた。

 そのまま”蹴り”を彼女の体にたたき込んだ。

 

「……ぐっ」

 

 少し体をよろめかすアルファス。だがすぐさま態勢を立て直すと私たちの間に距離が生まれた。ダメージはあるようだ……!

 

「あんた剣聖とか言われてなかったっけ!?」

「知ったこっちゃない……! もう一つの呼び名を教えてやろうか?「卑怯者」だよ!」

 

 俺が鍛えたのは剣技だけではない。時には槍を、弓を、格闘技を、あらゆる技を鍛えた。それは一人で生きていくのには必要なことだったから。

 その中で、一番才能があったのが剣、それだけだ。

 

「【炎】……!」

「またその手か……!」

 

 火炎玉がアルファスを襲う。それを回避する。

 

「【風】よ……!」

 

 そこだ……! 私は、勢いよく風を起こす。

 炎が煽られ、火があいつの体にかかる。

 

「っ! その程度で……!」

 

 私が今使える最大火力の一撃を放つ! それがアルファスを包んだ。炎が燃え移り、瞬く間に体が炎に包まれる。

 

「ぐ、うううう」

 

 うめき声を上げながら後ずさりするアルファスに向かい私は蹴りを入れる――

 アルファスの手。剣を持っているその手に向かって。


「っ!? 剣が!」


 剣が男の手を離れ、高く宙へ舞う。


 ぐさり、地面へ突き刺さる。


 そして私は、その剣を手に取った。



「いくら「俺」でも……剣が無きゃ戦えないってこたないよな?」

「……!」


 ああ。なるほど。


「あんた……弱いな」


「……! 何を!」

「戦術がない。速度がない。機転がない。考えが遅い。

 いくら剣を振るえる力を持っていようと、剣の振り方を、戦い方を知らないお前は……弱いんだよ。

 それこそ、魔法も剣もまともに使えない少女に負けるくらいな」


 まあ、こちらも最低限の力を得るためズルはしたが。

 その程度で負けるようじゃ、話にならない。


 炎が、広がっていく。

 屋敷に火が回っていく。


「さてと……ピースはそろった。作戦は成功したみたいだな」

「作戦……剣を手に入れたからって状況は何も変わらない! この燃え盛る屋敷の中……どうするつもり!?」


 私は、アルファスから奪い取った剣を握る。

 使いつくした、「俺」の手にあった、相棒だ。

 がらり、と壁が崩れる。その先には、暗い真っ黒な靄がかかっている。結界だ。


「結界をかけるには――媒介がいる。魔法陣を地面に書いたり、ダンジョンの一室を利用することで結界を強固にする」

「は? 学園でも習う基礎の基礎でしょう?」

「だから、媒介の方を破壊すれば結界も弱くなる」

「……!」


 そう、結界を破壊する一番の近道が、屋敷を破壊することであり――燃やす事だった。


「……は!? ……あんた、わざと屋敷を燃やしたの? 昨日まで住んでたこの家を!? この家にどれだけ貴重なものがあるのか知ってるの? 明日からどこに住むの?」


「んなもんどうにでもなるだろ。それより大事なのは今この一瞬を乗り切る事だ。可能性があるならやるさ。んなことよりあんた……まだこの家に未練があったのか?」


「……!」


 咄嗟に出た言葉に、舌打ちをする。


「んなもの無いに決まってんでしょうが……! 別に燃えてもどうでもいい。むしろ好都合よ。ただ……あんたの正気を疑っただけだ!」

「正気で人と殺し合いできっかよ。正気が残ってるから……あんたは負けたんだ」


 言葉が出ず、一歩後ろにたじろぐ。


「ははは……! だけど、屋敷が燃え尽き完全に破壊されるまでは時間がかかる! その前に火に焼かれ、皆燃え死ぬわ!」


 そう、だから。

 これは、賭けだ。

 今の体では使えないかもしれない。

 技術だけでは、足りないかもしれない。アルファスの体であることが大事だったのかもしれない。虚無の魔法か何かだったのかもしれない。

 だが、「俺」の極めた剣術を信じるのなら――

 


 私は結界に向かって――剣を、振った。



「――!?」


 その剣は、結界を真っ二つに()()した。

 屋敷ごと。


 壁が割れ、廊下が割れ、飾られている時計が真っ二つになる。

 建物の原型を残したまま、下へ落ちていく――

 ばきり、と空気から音がする。

 その瞬間結界は粉々に崩れ去っていく。

 屋敷も、崩れ去っていく。


「真に俺が剣を極めたと呼ばれる理由。それは、この剣と技が合わされば――あらゆる魔法を切り裂くことが出来る」

「――」

 

 じっと、黙りこくった。

 ――かと思うと。


「勝った気になるんじゃないよ……」


 その手には、黒い靄がかかっている。


「おかしくないと思った? その結界、どうやってかけたと思う?」


 誰かに手伝ってもらったかと思ったが……違うのか。

 

「ねえ、あんたは自分に魔法が使えないと思っていたけど……それは違う。この世には7属性以外に、「虚」という魔法がある……それはあまりにも強すぎるあまり、全てを拒絶するが故に、他の魔法が使えなくなるのよ。その魔法の源泉は――激しい、この世の全てへの――憎しみ」


 そっか。

 でもそれは、私に使えない訳だ。

 この体質に苦しんだことはあっても、人を、世界を、憎しむほどではなかった私には――程遠いものだ。

 私が憎んだのは、自分だけだったから。


 屋敷が崩れ去り、燃え盛っていく。

 炎は空まで上がり、天井が崩れ始めている。

 結界が破壊されたことには気づいたかな。そろそろ、お姉ちゃんは逃げたかな。

 ならいい。それならば、私がやるべきことは――

 

 「今の憎しみは貴様に向かっている……あんただけはここで殺す……!」

 「そうか。なら――私もお前を殺すよ」

 「出来るもんならやってみなよ! この燃え盛るような、憎悪を前に!」


 そういって、手を掲げる。

 

「さて、剣の次は魔法だ……虚無に焼かれろ……!」

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