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全てが終わっていやがった

 リカエルはドラゴネシアの双子のうかつさを呪った。

 彼らがドラゴネシアの重鎮以外には隠すべき重要情報までも妻に晒していないことは信じたいが、妻達と何でも話すという約束と妻達の安全を考えてリカエル達がしている見張り行為を教えた事で混乱が起きたのだ。


 ドラゴネシアの双子の女神達は無邪気すぎるのに、とリカエルは溜息を吐く。


 彼女達には悪意など無い。

 世界は善意だけで出来ているとしか信じない無邪気な少女のまま大人になった人達で、だからこそルーファスとレンフォードの心を捕らえて離さないのだ。


 ドラゴネシア伯爵家は王都から動かないが、彼らは王都でドラゴネシアの為のドラゴネシア亭を営んでいるだけの非戦闘員などでは無い。

 彼等こそ王都から遠いドラゴネシアがクラヴィスの悪意に飲まれないように、情報戦あるいは害毒になりそうな者への粛清などを実行し、ドラゴネシアの前哨基地の役割を果たしているのだ。


 最近は殺しなど物騒な事から縁遠く、社交界や政界での権謀術策に対応する方が多いらしい。物騒な殺しで済む方を二人こそしたいだろうな、とリカエルは彼らを思いやる。

 だからこそ双子があの二人に恋をして妻にしたのはよくわかる、と。


「癒されたいよな。でもってあの二人が爺達に悪意で漏らしたわけではないけれど、結果が絶対にやばいことになっている。それをセシリアが知ったら、あああ」


 リカエルこそジェニファー達から、二人の話を聞いたラルフ達が出掛けてしまった、という話を聞いた事でラルフ達を追いかけている。全方向に平等に事情を漏らしてくれる二人に感謝するべきなのか、リカエルは複雑だと足を早める。


「知らなかったで済ませたい気持ちだよ。さあ頑張れ俺」


 リカエルがカラマフ男爵家に辿り着いた時、現状は彼の想像以上だった。

 全てが終わり、リカエルがセシリアに差し出すものなど何も無くなっていた。


 屋敷から立ち去ろうとする五人に対し、彼らが発する威圧感に、リカエルは声をかけることが出来なかった。ラルフを先頭にリュートが後に続く。キリアンにボーネス、そしてギャランは、不幸を示す黒い布の大袋を担いでいる。


「ドラゴネシアの戦死者を入れる袋にそいつらじゃ、袋が可哀想だ」


 彼らは何も返さず、リカエルを押しのけて歩き去ろうとする。

 しかし引き止められないようになのか、リュートだけは通り過ぎざまに息子であるリカエルへと身を寄せ、リカエルの耳にドラゴネシアの真実を落としたのだ。


「こいつらは盗みと逃亡のためだけに、ほとんど赤ん坊な俺の甥を箱詰めにして殺したんだよ。ガムランが生き残ったのは奇跡だ」


 リカエルはそれでカラマフ男爵と名乗っていた小悪党達の末路が分かった。

 憐れな幼児と同じ方法で処分されるのだ。

 黒い袋の中身が全く動かないのは、既に無力な幼児ぐらいに彼らの体が壊されているからに違いない。


 カラマフ男爵の屋敷を向いて立つリカエルの横を遺体袋を担いだ男達が通り過ぎていく。彼が向かうのは遺体袋の中身に地獄以上の地獄を与える場所へだ。



 リカエルはリュート達の気配が完全に消えた後、既に空っぽになっているはずのカラマフ男爵家の扉に手を掛けた。

 彼はきっとここにやって来る人の思いを受け止めねばならない。

 そして明りも無い建物の中に入ったそこで、リカエルは悪夢の中にいるような感覚となった。


「親父達の本気は怖えよ。数時間前まで人が住んでいたはずの家なのに、この俺でさえ人が住んでいた痕跡を感じない空き家に変えやがった」


 リカエルはしんと静まり返った建物の中を足音も立てずに歩くが、彼の足取りがしっかりしているのは彼が向かう先が決まっているからだ。


 セシリアに全てを終わらせるには、セシリアが奴らに再び侮辱され宝物を奪われた場所でなければいけない。


 リカエルは応接間の扉を開ける。

 ソファにも棚にも、白い布が被されている。

 リュート達は全ての部屋から奴らの生きていた痕跡を消し、全ての部屋をこのような単なる空き家の状態にしてしまったのだろう。


 空き家となった証拠の白い布が葬式みたいだとリカエルは感じた。


 リカエルは室内に入って行き、応接間の床に胡坐をかいて座る。

 それから、自分の不甲斐なさを噛みしめながら目を瞑った。

 ドラゴネシアの先代達、ラルフはまだ現役だが、あの五人は当時当事者であったはずのリカエル世代には抱かせなかった恐怖や喪失感、そして復讐心を、子供達の親である己達だけで抱えて肥大させていたという訳だ。


 リカエル達にはダーレンの弟は肺炎で亡くなったとだけ伝えられていた。

 それだけでも悲劇だが、宝探しの如くドラゴネシアの領地のどこぞに埋められて死を待つだけだったとは、どれほど幼い子供は恐ろしかったことか。


「くそ。ドラゴネシアがグリンダとロビィに窃盗と逃亡を許してしまったことを考えりゃ、ありえないことが起きたって考えなくても分かるだろうに」


 男達は大わらわで埋められた子供達を探し、グリンダは嘆く女性達を一か所に集めて何食わぬ顔で慰め、ロビィは留守となった家々で盗みを働く。

 そして二人は頃合いを見て、ドラゴネシアから消えたのだろう。


「そうだよな。あの日はドラゴネシアの子供は一か所に集められていたのに、ダーレンの弟がそこにいないってあるはずは無いんだ。まだ三歳だった。リュシエンヌさんが壊れてしまうわけだよ」


 リカエルは五爺達に連れ去られた罪人達の身にこれから起きる事について、全く憐憫の情など湧かなかった。自分こそ参加したい気持ちである。


「だっけど、私刑にセシリアを立ち会わせたく無いんだよな。あいつこそ裁く権利があるっていうのに」


 キィ。


 玄関扉の蝶番が屋敷に響き、誰かが屋敷に入って来たことをリカエルに教える。

 リカエルはポケットから蝋燭を取り出すとそれに火をつけ床に置いた。

 明りなどどこにもない建物の中で唯一灯った蝋燭の火は、小さいながらも応接間を照らし、ドアの隙間に明りがあることを知らせた。


 本当の意味で全てを奪われてしまった愛する人の怒りや悲しみを自分が全部受け取ろうと、彼が待つ応接間に呼びこもうとしているのだ。


 応接間に近づいてくる足音は、玄関の扉に鍵がかかっていなかった事や、自分が招かれた時とは違う屋内の様子など気が付いてもいないようだった。

 真っ暗な屋敷の中でリカエルがいる部屋の扉から光が漏れている、それだけでそこに復讐相手がいると思って向かってくるのだ。


 リカエルは応接間の扉から目を背ける。

 足音は止まり、部屋のドアは開いた。

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