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出会った天使は告死天使

 セシリアの絶体絶命。

 それは、ぽーんと飛んできた植木鉢によって終了した。

 その代わりとして、セシリアの目の前では、セシリアに無体な事をしようとした男達四人こそ絶体絶命の危機にある。


 植木鉢に頭を直撃された男は、そのまま地面に横たわった。

 すぐに闖入者である焦げ茶色の髪をした美貌の男性に向かって行った男は、彼の肘が男に入るどころか足を蹴られて大きく転んだ。


 ぐしゃ。

「ぎゃあ」


「受け身ぐらい取れよ、ばあか。あと頭鍛えとけよ。庭石に負けて割れちまったじゃないか」


 セシリアは、救い手の天使、という認識を変えるべきか、迷った。

 焦げ茶色の髪をした美貌の男性は、自分がたった今大怪我させた相手に対して酷い台詞を吐いた後すぐに、自分に殴り掛かって来たもう一人を宙に放り投げてしまったのである。

 ふわっと、まるで顔の近くで煩くする羽虫を払うようにして。


 けれど地面に落ちた男は羽虫では無かった。

 唸り声も上げずに全身を痙攣させているだけである。


「こんなものは運動にもなりはしないな。もうちょっと頑張ってくれたら即死で返してやれんのに、手加減してやらにゃあならん。めんど」


「貴様は、何をしたのかわかっているのか?私を何者だと――ぐふ」


 セシリアは、美貌の男が天使では無かったと確信した。

 否、頭が考えるよりも早く体の方が脅え切り、地面を這いずるトカゲみたいして温室の壁際にまで逃げたのだ。


「あれは、あれは、人間じゃないわ」


「旨いか?お前が言う通りに俺がした事が大ごとなんだったらな、なんかあった証拠こそ消しとかなきゃなんだわ。動くのも動かないのも、なあ?」

「ぐふ、ふふふ」


 デ二スピエルは美貌の男に捕まえられるや、地面に落ちていたセシリアから破り取られた布をその口に押し込められたのだ。

 そして今、美貌の男の左手によって首だけ掴まれてぶら下げられているが、美貌の男はデ二スピエルの喉仏を親指で押している。

 ここが砕ければお前は死ぬぞ、と、わかるように押しているのだ。


「さあ、まずはお前がしでかした証拠の隠滅からだな。喰えよ。お前が破いちまったその布っ切れを飲みこんでしまおうか?」


「ぐぐ、ぐほお」


 長身の男性に首を掴まれているデ二スピエルはつま先立ちせざるをえず、しかし、普通ならば抗える両腕は男の殺気によって抵抗する気も無いほど萎えている。

 そんな脅え切っているデ二スピエルに対し、美貌の男はさらにぎゅぎゅうと彼の右手でもってぼろ布をデ二スピエルの喉奥へとどんどんと押し込んでいくのだ。


 セシリアは、デ二スピエルにざまあと思うよりも、人が殺されそうな行為を目の当たりにしてしまった脅えばかりである。


「ぐぐ、ぐぐぐぐ」


 呼吸が満足にできない状態に、デ二スピエルの体はびくりびくりと痙攣する。

 終いにはデ二スピエルの全身からアンモニア臭が立ち昇る。


「おい。あと一分もすりゃ本気で死ぬが、お前が止めを刺したいなら代わるぞ」


 セシリアは小さく悲鳴をあげていた。

 それでも自分に声をかけて来た救い手でもある美貌の男を見返せば、男は物凄く嫌なものを見た、という様子で口元を歪めた。


 セシリアは両手で隠している胸をさらに男の視線から隠すように身をよじり、しかし、視線は男の顔から動かせなかった。

 彼は声を出していないが、痛いか?、とセシリアに尋ねたようなのである。

 とりあえず彼女は首を横に振る。

 それから、美貌の男が彼女の助け手だったからこそ、彼が殺しかかっている男が何者か伝えねばいけないと彼女は考えた。


「そ、その男は、デ二スピエル商会で有名なアロンゾ・デ二スピエル伯爵よ。あ、あなた、た、助けて頂いて感謝してます。だ、だから、今すぐにお逃げなさいな」


「お前、綺麗な青い瞳だな」


「はい?」


「サファイヤブルーの瞳っていいな」


「はい?」


「綺麗なねえちゃんに汚いものを見せるのは酷か」


「あ、あなたは、なにを!!」


 美貌の男はセシリアに自分こそに脅えられてしまったとわかっているはずなのに、さらにセシリアが脅える行動をしてみせたのである。


 己の小便で濡れそぼって気絶しかけているデ二スピエルを、単なる壊れた邪魔な玩具のようにして、温室内にある池の中に投げ捨てたのだ。


 セシリアは自分こそ殺したかったデ二スピエルがぶくぶくと沈んでいく姿を眺め、ざまあみろもすっきりもしないものだと思った。

 可哀想とも思わなかった。

 ただ、思い切った行動をしすぎる男に恐怖を覚えただけである。

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