表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

イベント・冬

つなぐ想いのバトンパス

掲載日:2024/01/08




『ゲーヘッヘッヘ!オイラはきつねや川の中にいるエキノコックス!』

 熱やめまい、おなかが痛くなる寄生虫だと紙芝居の読み手は話す。

『俺はとらに住むトキソプラズマ!お母さんの中の赤ちゃんを病気にするぞ!』

 猫科の動物や生肉から感染すると、紙芝居は進んでいく。

『そして共通するのは猫ひっかき病!腕や足をパンパンにするぞ!』

 紙芝居のキツネが勢いよく説明する。

 その姿はまさに虎の威を借る狐といえよう。

『さあて俺たちにかかかって病気になりたいのは――』

『そこまでだ!』

 紙芝居は読み進められ、抗生物質と抗菌剤が姿を見せる。

 三つの病原体と二つの薬は戦いをはじめ、薬側が勝利した。


『ありがとうお薬さ――あれ?なんか様子が!』

 病原体をやっつけたのもつかの間、薬たちは豹変(ひょうへん)し暴れだす。

 紙芝居が次に進むと白衣の人たちが姿を見せ、二つの薬を落ち着かせていく。


『僕たちは薬剤師。お薬は副作用もあるから注意しようね』

 先生の話や使用上の注意、一度の服用量を守ろうと言って紙芝居は終わる。


 ☆ ☆ ☆


「こんなんでよかったんですか?もっと臨場感や具体的にもできましたよ?」

 紙芝居が終わり、幼稚園の先生に読み手だった学生は声をかけた。

「十分よ。子どもは心が豊かだから、想像しすぎちゃうのよね」

「あーだから散々やり直し食らったんですね……」

「そうよ。勉強になったでしょ?」

「悪夢の中にいた気分でしたよ」

「こっちも心を鬼にしていたから」

 幼稚園の先生はにっこりとほほ笑み、言葉を返す。

「ほらおしゃべりはここまでにして後かたづけ後かたづけ」

 あやされるように話しかけられ、学生はあとかたづけに身を乗り出した。


 ☆ ☆ ★


「紙芝居、か」

 幼稚園からの帰り道に学生はひとり呟く。

 日本で生まれた紙芝居の存続が危ぶまれている、とニュースを聞いた。

(図書委員として何ができるかをみんなで考えたんだっけ)

 読み聞かせを紙芝居に変えようとなり、初めての試みは上々と学生は思う。


「時代の移ろい、か」

 (うつ)ろな気分の中、学生は幼稚園に通っていたころを思い出す。


 ☆ ★ ★


――お薬を作る人って魔法使いみたいだね!

――ははは、そうだね。するとお薬は魔法かな?

――うん!病気をやっつけてくれる便利な魔法のお薬!


 紙芝居のあと、読み手に感想を聞かれ素直な気持ちを口にした。

(読んでくれた人は満足そうに微笑んで頭をなでてくれたんだっけ)


 ★ ★ ★


 あの時の自分が感じた想いは伝わったのかと、幼稚園児たちに視線を送る。

 園児たちの魔法がどうこうと話す声を風が運んできてくれた。


(発達した科学はなんとやら、か)

 時間は流れる。

 学生は成長し、いくつもの夢を持ち、敗れていった記憶が(よみがえ)ってきた。

 折り重なる浮世と夢の中、園児たちの姿が在りし日の自分と重なる。


(昨日から今日、今日から明日。過去から現在へ、現在から未来へ)

 学生は今回のイベントのキャッチコピーを頭に思い浮かべた。

 自分が受け取った感動を、大きくなって次へ手渡す。

 感動を届けることが循環をなし、時間という永遠の円環の中をめぐっていく。


(ここでの僕の番は終わりかな。次は誰が受け継いでくれるかな)

 受け継いでほしいものがある。

 そんな未来を夢に見て、夢がかなうように学生は歩き始めた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 昭和の街角にはなくてはならない存在だった紙芝居ですが、戦後にテレビが普及してからは衰退の一途を辿っているのが何とも寂しい所ですね。 通常の読み聞かせから紙芝居に変更した学生の気持ちを考えま…
[一言] 受け継ぎたいもの。 たしかにありますよね! 読ませていただきありがとうございます。
2024/01/08 21:20 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ