つなぐ想いのバトンパス
『ゲーヘッヘッヘ!オイラはきつねや川の中にいるエキノコックス!』
熱やめまい、おなかが痛くなる寄生虫だと紙芝居の読み手は話す。
『俺はとらに住むトキソプラズマ!お母さんの中の赤ちゃんを病気にするぞ!』
猫科の動物や生肉から感染すると、紙芝居は進んでいく。
『そして共通するのは猫ひっかき病!腕や足をパンパンにするぞ!』
紙芝居のキツネが勢いよく説明する。
その姿はまさに虎の威を借る狐といえよう。
『さあて俺たちにかかかって病気になりたいのは――』
『そこまでだ!』
紙芝居は読み進められ、抗生物質と抗菌剤が姿を見せる。
三つの病原体と二つの薬は戦いをはじめ、薬側が勝利した。
『ありがとうお薬さ――あれ?なんか様子が!』
病原体をやっつけたのもつかの間、薬たちは豹変し暴れだす。
紙芝居が次に進むと白衣の人たちが姿を見せ、二つの薬を落ち着かせていく。
『僕たちは薬剤師。お薬は副作用もあるから注意しようね』
先生の話や使用上の注意、一度の服用量を守ろうと言って紙芝居は終わる。
☆ ☆ ☆
「こんなんでよかったんですか?もっと臨場感や具体的にもできましたよ?」
紙芝居が終わり、幼稚園の先生に読み手だった学生は声をかけた。
「十分よ。子どもは心が豊かだから、想像しすぎちゃうのよね」
「あーだから散々やり直し食らったんですね……」
「そうよ。勉強になったでしょ?」
「悪夢の中にいた気分でしたよ」
「こっちも心を鬼にしていたから」
幼稚園の先生はにっこりとほほ笑み、言葉を返す。
「ほらおしゃべりはここまでにして後かたづけ後かたづけ」
あやされるように話しかけられ、学生はあとかたづけに身を乗り出した。
☆ ☆ ★
「紙芝居、か」
幼稚園からの帰り道に学生はひとり呟く。
日本で生まれた紙芝居の存続が危ぶまれている、とニュースを聞いた。
(図書委員として何ができるかをみんなで考えたんだっけ)
読み聞かせを紙芝居に変えようとなり、初めての試みは上々と学生は思う。
「時代の移ろい、か」
虚ろな気分の中、学生は幼稚園に通っていたころを思い出す。
☆ ★ ★
――お薬を作る人って魔法使いみたいだね!
――ははは、そうだね。するとお薬は魔法かな?
――うん!病気をやっつけてくれる便利な魔法のお薬!
紙芝居のあと、読み手に感想を聞かれ素直な気持ちを口にした。
(読んでくれた人は満足そうに微笑んで頭をなでてくれたんだっけ)
★ ★ ★
あの時の自分が感じた想いは伝わったのかと、幼稚園児たちに視線を送る。
園児たちの魔法がどうこうと話す声を風が運んできてくれた。
(発達した科学はなんとやら、か)
時間は流れる。
学生は成長し、いくつもの夢を持ち、敗れていった記憶が蘇ってきた。
折り重なる浮世と夢の中、園児たちの姿が在りし日の自分と重なる。
(昨日から今日、今日から明日。過去から現在へ、現在から未来へ)
学生は今回のイベントのキャッチコピーを頭に思い浮かべた。
自分が受け取った感動を、大きくなって次へ手渡す。
感動を届けることが循環をなし、時間という永遠の円環の中をめぐっていく。
(ここでの僕の番は終わりかな。次は誰が受け継いでくれるかな)
受け継いでほしいものがある。
そんな未来を夢に見て、夢がかなうように学生は歩き始めた。




