兄弟の話
変に思われなかったかな。
ユウキが立ち去った後に、心臓がバクバクと動いているのを感じる。
はぁ、小さくため息をついた。
兄弟のことを聞ければ攻略できる策を練れるのに。
前世でゆき氏が言っていたことを思い出す。
前にやっていた乙女ゲームの時、イベントがあるって言ってた。攻略キャラとの恋のイベントだったり、悪役令嬢に対しての婚約破棄イベント。
定期的にあるイベントは、この世界に影響してくるのか?
いつ起こるのか、時期が分かればいいんだけどな。
セレーナは確か6歳の時にユウキと婚約をしている。だから、もう婚約していることになる。
婚約破棄を止めるのが理想だが、俺はセレーナと結婚したい。彼女はユウキが好きなのに、心が痛む。
コンコン
「アイラ。用事済んだから話をしよう」
ドア越しに聞こえるユウキの声。
「はい!お入りください。」
敬語が使えているか緊張する。具体的に聞くことが決まっていないが、とりあえず、メモをするために書けるものとペンがとこにあるのか聞くことにした。
「ユウキさん、書けるものとペンってどこにありますか?」
「えっ、アイラは持ってないのか?」
ユウキさんは驚いた顔をして、近くにある家具の引き出しを開けた。全部何も入ってない。
最近、引き取られたと俺は思っていたが目を見開いて必死に探す姿に、少し心が痛む。
ずっと前に引き取られたのに、何もないということは昔の服やものはないということ。
この体は覚えているのに俺は分からないのが気持ち悪い。
記憶も入れてもらいたかった。
「ユウキさん、書けるものとペン。貰ってもよろしいですか?」
「ああ、少し待ってて」
「はい」
静かな時間が流れる。俺は1人でこの孤独感がひたすらにしんどい。
「はぁ、はぁ、はぁ、ゲホッゲホッ」
病弱と言う設定はありがちだけど、実際その人になると辛く苦しい。
こんな設定、いらない。
「アイラ、取ってきたぞ。はい」
「ありがとうございます。」
白い紙とペンを受け取り、ゆっくりと深呼吸をしてお礼を言った。
「あの、兄弟についてなんですが。まず、ユウキさんのことをもっと知りたいです。ユイキさんはセレーナさんのことどう思っているんですか?」
問いの答えがなかなか返ってこない。心配して紙からユウキさんの顔に視線を移すと眉にシワを寄せ明らかに嫌悪感を出している。
「あの……」
ビクビクと、怯えながら声をかけてみる。
相手からの反応はないので今度は肩を軽く叩いてみる。
トントン
「やめろ!」
怒声と共に俺の手は叩き落とされた。
「痛っ。」
ユウキさんは俺の顔を見ると慌てて叩いてしまった手を取り、優しく優しく撫でた。
「アイラ。ごめん。」
「いえ、俺が何か気に触ることを言ってしまったのが悪いので」
空気が重い。
ユウキさんにはセレーナさんの話は禁句。しっかり覚えておこう。でも、ここまで嫌がる理由ってなんだ。
「ナミキさんはどんな人ですか?」
「そうだな。あんまり喋らない寡黙な子かな?喋っても声が小さいから俺らじゃないと分からない。自己中心的なところもあるから、気に触ることをしないように気をつけることが大事だよ。」
「キサラギさんは?」
「うーん。いちばん真面目な子。勉強とか運動ってめんどくさいって思うことがあるんだけどキサラギは文句ひとつ言わない。それに、授業中、メガネをかけるんだ。」
「兄弟のことしっかり、わかっているんですね。」
「ああ、もちろん。アイラのことも分かるぞ。でも、今日は今までと違うから合ってるのか分からない。」
「言ってください!」
「わかった。アイラはいつも自分を責めていて、もっと明るくなって欲しいって思ったけど、気配りが出来てほんとにいい子。本人を目の前に言うのは恥ずかしいね。」
「……はい」
お互い顔を少し赤くしながら笑いあった。
他にも色々な情報を教えていただき、ユウキさんは帰って行った。