ここは……
目が覚めると知らない白い空間にいた。
体の痛みはなく。服に血や汚れがついていない、新品同様。
俺はその事実に驚いた。そして、壁をグーで叩きまくる。
「助けて!ここから出して!ゆき氏、ゆき氏!ゆき氏!」
「うるさいのぅ」
白い服に白い髪。白い眉や髭は長く、そのあごひげを撫でるように触ってる老人が目の前に現れた。
「うわっ!化け物!」
「誰が化け物じゃ!お主、口が悪いのぅ。そんなことを言うと転生させんぞ。」
「いやいやいや、この状況で口が悪くなるのは当たり前じゃないか!」
「なんだと、ワシに喧嘩を売るつもりか!」
「いやいや、冷静に慣れてないだけだから!理解ができないんだよ!事故にあったと思ったら突然この真っ白い変な部屋にいるわ。白いじいさんが現れるわでパニックなんだよ!」
「ほう、お主の言いたいことはよーくよぉーくわかった。じゃあ、説明するぞ。ワシは神じゃ。そして、この空間は転生部屋と言ってな。人口の数だけあってる。亡くなった人が来る場所なんじゃ。」
「はっ、はっ?神様?転生部屋?普通、天国か地獄じゃないですか?」
「まぁ、そうじゃのう。でも、人間は新しい動物や人間に転生するじゃろ?それが繰り返されるんじゃ。もちろん、天国と地獄はある。悪いことをしたものは地獄へ。いい事をしたものは天国へ。でも、天国は行きたいか選択ができる。行かないと言った場合。転生になるぞ。」
右手を広げ地獄に、左手を広げ天国にたとえわかりやすく説明をしてくれる。
「そうなのか。うん……うん。」
ここはもう、なにもかも信じることにした。だから、とりあえずゆき氏の居場所を聞いた。
「ゆき氏はどうなったんですか?」
「ああ、神野幸は今こうなっとる。」
神様が左にずれると、目の前の壁にゆき氏が映し出された。
「ゆき氏!」
ベッドから立ち上がり、開いている窓に向かっていく。
「え、何してるのゆき氏……神様このままじゃゆき氏が……」
「……私も行くから待っててね。みーちゃん。」
窓から乗り出し、体が傾いていく。途端に涙目になったが、零れないようにこらえている。
「幸っ!」
ゆき氏のお父さんが、ゆき氏の左手をつかみ病室に引っ張った。
それを見て一安心する。
でも、ゆき氏は暗い顔でいる。
「神様。俺の声はゆき氏には届きますか?」
「本当は駄目じゃが、今回限りだぞ。speak」
そこは英語なんだと思いつつ、俺はゆき氏への思いをすべて込めた言葉を伝えた。
「ゆき氏、なにやってるの。ゆき氏は生きて!俺はどんなことがあってもゆき氏の親友だから、自分を責めないで」
ゆき氏はその言葉を聞くと、暗かった表情が少し明るくなった。
そして、両親へ「ありがとう。」と言い、空に向かって「ありがとな。」と言った。
俺に言ったんだろうな。
ホッとして、胸を撫で下ろすと神様に顔を向けた。
「俺はこれからどうなるんですか?」
神様はまた髭を撫でながら言った。
「最後の理由が影響するんじゃ。だから、お主には乙女ゲームの世界に転生してもらう。」
「もしかして、ゆき氏が言っていたあの?」
「そうじゃ、お主が幸せになるためには前世では出来なかったことをするといい。思いっきり恋愛をしてくるのじゃ!」
「はい!」
俺の返事を聞くと、神様は両手を合わせ集中する。先程、ゆき氏が映し出されていた壁に、ゲーム画面が出る。
学校の背景にピンク色のタイトル。
『救われた恋』
ゆき氏との喧嘩の理由になっちゃったけど、俺は幸せになる。
壁に近づき歩いていく。
「あとは、STARTを押すだけじゃ。幸せになるんじゃぞ!」
「はい!」
俺はSTARTボタンを押した。