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後悔と決断

 左手が温かい。誰かに握られているのかな?ボーっとする頭で考える。


 次第に意識がはっきりとしてきて、ゆっくりと目を開く。かすれる視界は左目のみで、右目は暗く何も見えない。それに、ごわごわしてる。何かされてる?


 ここは……見覚えのない白い天井と消毒液のにおい。



「……病院?」




 って、右目はどうなってるの!触って確かめようにも右手は動かないし、反対の左手を動かそうとしたけど握られてるから動かせない。


 どうにか今の状況を確認しようと体を動かし辺りを見回したら、全身にビリビリと稲妻が走った。


「痛っ」


「……幸?」


 私の左側にいる誰かが私の名前を呼ぶ。それにこの声って……


「お母さん?」


 そう呼んだ瞬間。反応するかのように握られていた左手がさらに強く握られた。


「よかった……もし、目を覚まさなかったらどうしようって、ほんとによかった。」


 その優しさに愛を感じる。


「幸、意識を失う前って覚えてる?」


 真剣に私に問いかける。私は記憶を巡らせた。


「学校にいて、みーちゃんと乙女ゲームの話してたなー。」

 放課後の教室でいつものように話に付き合ってくれるみーちゃん。でも、倒れる前の記憶を少しずつ思い出していくうちに胸が苦しくなってきた。血まみれになって、自分で体を支えられなくなったみーちゃん。


「それで、みーちゃんと喧嘩になって……はぁ、はぁ、はぁ、それで、……交差点で……あ"ぁーーーー」


 思い出した。みーちゃんと一緒に轢かれたんだ。なんで、こんなこと忘れてたの。どうしようどうしよう。お母さんの手を振り払い頭を抱え、髪の毛が抜けるほど強くつかんだ。手が震えて呼吸が荒くなる。


「はぁ、はぁ、はぁ……みーちゃん、みーちゃんは!!」


 頭に置いていた手を、お母さんの肩にもっていく。その手に自然と力が入る。


 お母さんは肩に乗った私の手に、手を重ねて瞳を潤ませる。その表情に私は嫌な予感を感じた。唇を噛み締めてブチブチと音がなった。血がゆっくりと顎を伝い流れ落ちる。それぐらい、お母さんが言う次の言葉が不安で聞きたくなかった。


 お母さんは深呼吸をして、私を真っ直ぐ捉える。


 そして、


「みーちゃんは病院に来る前に、亡くなったの。」


 私はすぐにその言葉を受け入れられなっかった。受け入れられるほうがおかしいけど、声にならない叫びが心の中に響く。


「うそっ、……私は信じない。だって、あんなに……」


 元気だったのに。事故を起こす前の記憶が強くて、とても信じられない。


「あなたのせいじゃないから、絶対に自分を責めないで」


 お母さんは優しい。でも、私が悪いことは変わらない。だって、事故の原因はみーちゃんを怒らせてしまった私だから。


 感情はもうとっくになくなってる。


「うん。」


作り笑いで、大丈夫なことを伝えようとしてもうまく笑えない。


「幸っ。そんな顔しないで、あなたのせいじゃないの!トラック運転手が気を失って起きた事故なの。誰も悪くない。」


「そんな!みーちゃんは死んじゃったんだよ!みーちゃんは、みーちゃんは……」私も行くから待っててね。みーちゃん。」


 私はお母さんの手をまた振り払った。そして、痛む体を無理やり起こし、カーテンを開けて喚起のために開いていた窓に近づく。


「……私も行くから待っててね。みーちゃん。」


 体を乗り出しそのまま傾いていく。これでいけるその思いとは逆に死にたくないと思ってしまう。

 みーちゃんに謝らないとだから、生きてちゃだめだから。込み上げてくる涙を必死にこらえる。


「幸っ!」


 お父さんの焦った声がした。お父さんも来ていたんだ。

 私の左手がグイっと引っ張られた。全身が包まれる。少し汗のにおいがする。


「幸、何やってんだ!俺がどれだけ心配したと思ってるんだ。お母さんだってな、幸が目覚めるまであまり寝ていないんだ。ほんとにもうこんなこと……」


 鼻をすする音が聞こえる。めったに泣かないお父さんが私のために……


「だって私が……」


「ゆき氏、なにやってるの。ゆき氏は生きて!俺はどんなことがあってもゆき氏の親友だから、自分を責めないで」


 空から聞こえた声は間違いなくみーちゃんの声で。私に生きていくことを願った。

 私がみーちゃんの願いをかなえないわけないじゃん。


「ありがとう。」


 これは親に対して言った。


「ありがとな。」


 これはみーちゃんに対して……
























 その夜、私は決断した。


「次は絶対に守ってみせる!」


 静かな病院の中に私の声が轟いた。


 


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